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【2022年中間選挙】民主党と共和党 それぞれの“勝利戦略”

 こんにちは。雪だるま@選挙です。この記事では、中間選挙の争点を整理し、さらには中間選挙での勝利に向けて民主党と共和党が取るべき戦略について考察していきます。

 中間選挙の情勢は、下院では共和党が過半数を奪還する勢い、上院では民主党優位の状況で激しい攻防が続いていると分析しています。詳しい情勢分析は、次の記事をご覧ください。

中間選挙の争点

 まず、中間選挙の争点を整理していきます。争点を考える際に重要なのは激戦州の情勢を特に重視するということです。

例えば、全米規模の調査ではカリフォルニア州やニューヨーク州など人口の大きい地域で重視する人が多い環境問題が上位に来ますが、これらの州では民主党が強いため、(仮に環境問題が全く無視されたとしても)民主党が勝利することができます。
しかし、人口が少ない州でも激戦州であれば、人口が多い州よりも過半数争いでは重要になってきます。そのため、激戦州で重視されている争点のほうが重要になってきます。

 このことに注意したうえで、世論調査を見ていきます。全米規模で行われた世論調査の結果は、次のようになっています。

インフレ・物価       24%
就業率・経済        11%
健康保険(ヘルスケア)   10%
中絶問題          9%
気候変動・環境問題     8%
国の安全          6%
移民問題          6%

YouGov / Economist October 1-4, 2022 

 インフレや就業率など、経済関連の問題を意識する人が最も多いことがわかります。ヘルスケア、中絶問題、国の安全、移民問題といった問題については民主党・共和党それぞれの立場からこの後分析していきます。
 気候変動や環境問題は高い数値になっていますが、激戦州の世論調査に限ってみればそこまで重視されていません。気候変動や環境問題を重視する人は、民主党が強い西海岸や北東部の都市化された地域に居住している場合が多く、勝敗を分ける激戦州では重視する人が少ないと推測されます。
 したがって、民主党・共和党ともに環境問題を前面に押し出した選挙戦を展開することは考えにくい状況です。

 前置きが長くなりましたが、ここからは民主・共和両党の“勝ち戦略”を分析していきます。

民主党の戦略

中絶問題が“突破口”に

 最大の争点となっている経済問題は、民主党にとって好ましい争点ではありません。今年に入ってからアメリカでは記録的なインフレが続いていることの不満が、政権与党である民主党に向かうと想定されるからです。
 また、一般的な世論として民主党よりも共和党のほうが経済問題にうまく対処できるとみなされる傾向があるため、経済が争点化することは民主党に不利な材料であるといえます。

 民主党にとって争点化したいテーマは中絶問題です。6月末に米最高裁が全米での中絶権を保障した「ロー対ウェイド判決」を覆したことで、中絶問題は一気に争点として浮上しました。
 これまでの記事でも繰り返し述べてきましたが、中絶問題によって情勢は大きく動き、民主党は支持率を伸ばしました。中絶問題は特に無党派層の女性に大きな求心力を持っているため、民主党としては争点化を図りたいテーマです。
 激戦州の中では、中絶禁止法が施行されたジョージア州で大きな影響を与える可能性があります。

 民主党は、他にもバイデン政権の「実績」を強調したいところです。記録的インフレがピークを迎えたとされる8月にはインフレ抑制法を成立させ、奨学金返済を大規模に免除することを発表しました。共和党が廃止を強く主張するオバマケアも存続させています。いずれも民主党支持層向けの政策ですが、支持率が低迷した中で支持基盤を固めるには十分な役割を果たしました。
 中絶問題を突破口として、これらの「実績」を強調することが民主党の戦略になるといえます。

バイデンvs.トランプ 2020年を再現せよ

 バイデン政権の支持率は高くないため、中間選挙がバイデン政権の2年間に対する「審判」となってしまうと、民主党には不利になります。そこで民主党は、バイデンvs.トランプの構図に持ち込んで2020年大統領選での勝利を再現することを目指し、トランプ前大統領への批判を強めています。
 バイデンvs.トランプの選択を再現するためには、議会襲撃事件などを有権者に想起させることが民主党にとって重要になります。トランプ氏が予備選の段階で積極的に候補者を推薦し、選挙活動に加わっていることは民主党にとって好都合であるといえます。トランプ氏の推薦を受けた候補を、民主党は集中的に攻撃していく見通しです。

共和党の戦略

経済と“治安対策”を前面に

 共和党の選挙戦略としては、経済に再び関心を引き戻すことが重要です。依然として経済は重要な争点であり続けていますが、一時期に比べて関心は低下しています。
 ヘルスケア、中絶、環境といった課題が前面に出てくると、共和党のパフォーマンスは悪くなってしまいます。記録的なインフレが続いているからこそ、「経済に強い」共和党のイメージを生かすことが共和党の戦略においては非常に重要です。

 その上で重要なのは、治安対策を前面に出すことです。この背景には、不法移民だけでなく、ヒスパニック系住民を巡る複雑な問題があります。

 不法移民対策は、トランプ前大統領が掲げたように共和党支持層に対して強い求心力を持ちます。「国の安全」を重視する共和党支持層は、国境管理を厳格にし不法移民対策を強化することを望んでいるため、治安対策を掲げることはこの点において重要です。
 ヒスパニック系住民を巡る問題は、より複雑です。民主党は、白人警官が過度な取り締まりにより黒人を死亡させる事件が相次いでいることなどを受け、警官の活動をより制限しようとしています。
 しかし、このような対策の結果として治安が悪化するという印象が存在していて、治安悪化の影響を最も受けやすい都市部の貧困層に多く含まれるヒスパニック系の労働者は民主党から離れる傾向を見せています。

 ネバダ州などの激戦州では、この動きが選挙の勝敗を決定づける可能性があり、共和党が治安対策を前面に出すことは戦略的に極めて重要です。
 共和党は中間選挙の公約「アメリカへの約束」(Commitment to America)で経済や治安対策を重視する方向性を示しており、この動きは妥当だといえます。

重要なのは「過去ではなく未来」

 この言葉を述べたのは、ペンス前副大統領です。2020年の選挙が不正だったと主張するトランプ前大統領に対して、中間選挙で重要なのは未来に向けての政策を語ることだと暗に示したと受け止められています。

 これは24年の大統領選も見据えた共和党の選挙戦略において、軸とすべき考え方です。共和党員の多くは2020年の大統領選を不正だったと考えていますが、同時にそのことは投票意欲や投票先の決定に大きな役割を果たしていません。
 共和党に投票するのは共和党員だけではなく、無党派層を取り込まなければ選挙で勝つことはできません。選挙を不正だったと考える人がより少ない無党派層にアピールするためには、不正という主張を抑えざるを得ません。

 2020年大統領選という「過去」にこだわるのではなく、経済や治安対策など目下の課題に対する解決策を提示し「未来」に目を向けることが、今の共和党には何より求められる戦略であるといえます。

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