祐里

物書きの端くれ中の端くれ。 今は短編メインでいろいろ書いています。

祐里

物書きの端くれ中の端くれ。 今は短編メインでいろいろ書いています。

記事一覧

神風に散る桜 ―チェリーブラッサム―

 互いの親が決めた縁談、そんなことはただの些事だ。僕はきみのことをすぐに好きになった。 「英男さん、私、いつかあなたと一緒にあの曲を踊りたいの」  きみは僕の名…

祐里
2週間前
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X(旧Twitter)で作ったお遊びミニミニストーリー

埋もれてしまうのも何なので、書き出しておきたいと思います。 #不気味な書き出し文藝 [1] 病院の待合室でテレビに目をやると、高校野球のバッターボックスで俺そっく…

祐里
3週間前
2

ラムレーズン

「生意気な女の子と話したい」  高校生の頃、私は土日だけネパールカレー店でバイトしていた。店長のネパール人の男性がとてもいい人で、金に近い茶色に髪を染めている私…

祐里
3週間前
3

神風に散る桜

「英男さん……、きっと……」  そう言うと、きみは口を噤んだ。その先は言っても詮無きことだと。よく気の付くきみらしい。 「笑って、もらえませんか。僕は志乃さんの…

祐里
3週間前
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神風に散る桜 ―チェリーブラッサム―

 互いの親が決めた縁談、そんなことはただの些事だ。僕はきみのことをすぐに好きになった。

「英男さん、私、いつかあなたと一緒にあの曲を踊りたいの」

 きみは僕の名を呼ぶ時、照れたように小首をかしげた。その仕草はとてもかわいらしかった。

「ああ、チェリーブラッ……、いや……、あの曲だね」

「ええ。……いつか、踊れる日が来るわよね」

「そうだね、いつか、きっと」

 気恥ずかしくて確認はできな

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X(旧Twitter)で作ったお遊びミニミニストーリー

埋もれてしまうのも何なので、書き出しておきたいと思います。
#不気味な書き出し文藝

[1]
病院の待合室でテレビに目をやると、高校野球のバッターボックスで俺そっくりの奴がバットを構えていた。『蔵中大附属 3年 荒川涼』……母校名と名前が……。その時、「荒川涼さん」と診察室から名前を呼ばれた。16歳で足を切断したせいで、俺は5年経つ今でも通院が必要なのだ。

[2]
あいつは、かんぜんにつながっ

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ラムレーズン

「生意気な女の子と話したい」

 高校生の頃、私は土日だけネパールカレー店でバイトしていた。店長のネパール人の男性がとてもいい人で、金に近い茶色に髪を染めている私でも働かせてくれた。お客さんはそれなりに多く、顔なじみになる人もいたりして楽しかった。楽しみながら、私は趣味のアイスを買うお金を稼ぐことができていた。

 趣味といっても、毎日三食のたびにアイスを食べていたわけではない。毎週日曜日、バイト

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神風に散る桜

「英男さん……、きっと……」

 そう言うと、きみは口を噤んだ。その先は言っても詮無きことだと。よく気の付くきみらしい。

「笑って、もらえませんか。僕は志乃さんの笑う顔を見たい」

「……はい」

 きみは頬を染めて僕を見上げ、微笑んだ。わずかに頬が持ち上がり、薄く涙が溜まった目が細められる、美しい微笑み。清らかで静かな強さが、きみにはある。

「ありがとう。どうか、お元気でいてください」

 

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