祐里

物書きの端くれ中の端くれ。 今は短編メインでいろいろ書いています。

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最近の記事

神風に散る桜 ―チェリーブラッサム―

 互いの親が決めた縁談、そんなことはただの些事だ。僕はきみのことをすぐに好きになった。 「英男さん、私、いつかあなたと一緒にあの曲を踊りたいの」  きみは僕の名を呼ぶ時、照れたように小首をかしげた。その仕草はとてもかわいらしかった。 「ああ、チェリーブラッ……、いや……、あの曲だね」 「ええ。……いつか、踊れる日が来るわよね」 「そうだね、いつか、きっと」  気恥ずかしくて確認はできなかったが、きみも僕を好いていてくれると感じていた。だが、本格的に我が国が参戦した

    • X(旧Twitter)で作ったお遊びミニミニストーリー

      埋もれてしまうのも何なので、書き出しておきたいと思います。 #不気味な書き出し文藝 [1] 病院の待合室でテレビに目をやると、高校野球のバッターボックスで俺そっくりの奴がバットを構えていた。『蔵中大附属 3年 荒川涼』……母校名と名前が……。その時、「荒川涼さん」と診察室から名前を呼ばれた。16歳で足を切断したせいで、俺は5年経つ今でも通院が必要なのだ。 [2] あいつは、かんぜんにつながってるものがすきだっていった。とぎれなくつながってるものがあると大こうぶつの女の人

      • ラムレーズン

        「生意気な女の子と話したい」  高校生の頃、私は土日だけネパールカレー店でバイトしていた。店長のネパール人の男性がとてもいい人で、金に近い茶色に髪を染めている私でも働かせてくれた。お客さんはそれなりに多く、顔なじみになる人もいたりして楽しかった。楽しみながら、私は趣味のアイスを買うお金を稼ぐことができていた。  趣味といっても、毎日三食のたびにアイスを食べていたわけではない。毎週日曜日、バイトが終わったあとに駅ビルの中のアイスショップに寄り、香ばしいワッフルコーンに乗せら

        • 神風に散る桜

          「英男さん……、きっと……」  そう言うと、きみは口を噤んだ。その先は言っても詮無きことだと。よく気の付くきみらしい。 「笑って、もらえませんか。僕は志乃さんの笑う顔を見たい」 「……はい」  きみは頬を染めて僕を見上げ、微笑んだ。わずかに頬が持ち上がり、薄く涙が溜まった目が細められる、美しい微笑み。清らかで静かな強さが、きみにはある。 「ありがとう。どうか、お元気でいてください」  毎晩思い出すこの場面を、僕は最期の時にも思い出すのだろうか。  ◇◇  第七

        神風に散る桜 ―チェリーブラッサム―