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社員の1割以上が抱えるアルコール問題。職場での対応はどうする?

アルコール依存症は、飲酒習慣のある人にとっては身近な問題かもしれませんし、お酒を飲まない人にとっては無関係だと思うかもしれません。

しかし、大手企業従業員のうち1割以上は重い飲酒問題を抱えているとのこと。思ったより、多いと感じませんか。

不知火塾 第7回目は、株式会社ジャパンEAPシステムズ 取締役・顧問医、
産業ダイアローグ研究所 所長 米沢 宏先生による「職場のアルコール問題の解決」がテーマでした。

意外と身近なアルコール問題を学びましょう。



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次回は9月26日(火)
「大阪からみた職域のメンタルヘルスの現状」
(井上 幸紀先生)
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1.職場のアルコール問題

厚生労働省「『21世紀における国民健康づくり運動(健康日本21)』最終評価について」を参考に作成

古くから産業衛生の場で問題とされているのが3Aであり、アルコール問題も含まれているとのこと。

職場の3Aとは
● Absenteeism(勤怠問題)
● Alcohol(アルコール問題)
● Accident(事故)

米沢先生は、職場のアルコール問題に生産性の低下(勤怠問題、業務遅延等)、交通事故、健康障害、顧客トラブル、ハラスメント、職場風紀の乱れ、医療費の増加などを挙げられました。

一般病棟の入院患者の7~8人に1人が、実はアルコール依存症レベルの方であると伺い、驚きました。

2.アルコールが精神に及ぼす影響

以下のいずれかに問題があれば"問題飲酒"
1.身体
2.精神
3.家庭
4.職場
5.社会生活

アルコール依存症患者は、上記のうち複数が当てはまるとのこと。

特に若い女性は依存症になるスピードが早いとも話されました。
個人差も大きく、認識が難しいこともあるそうです。

アルコールは全身の臓器にあらゆる影響を及ぼしますが、記憶や睡眠など精神にも、その影響が及ぶと話されます。

「飲まなきゃ眠れない」は睡眠障害の初期症状ともおっしゃいました。

2-1.ブラックアウト

ブラックアウトとは飲酒時の記憶の脱落とそれに伴う異常行動を指しますが、いろいろなパターンがあることを知りました。

● 飲酒時のブラックアウト
● 飲酒の間欠期のブラックアウト
● 長期ブラックアウト

依存症レベルになると、お酒を飲んでいないときでもブラックアウト状態になり、話がチグハグになることも。

長期にわたってブラックアウトになることもあるそうです。

記憶がないため言動の食い違いが多く、大事なことは書面で渡していると話されていました。

2-2.アルコール依存症とうつ病

アルコール依存症とうつ病の合併も非常に多く、以下の3パターンでみられるそうです。

1.うつ病の「自己治療」としてアルコールを飲用し続け依存症になる
2.アルコール連用による中枢神経抑制作用がはたらき、うつ状態が生じる
3.断酒後の気分障害

このように、アルコール依存症とうつ病は関連性が高いため、治療開始時に、"向精神薬服用中は禁酒"と伝えることが必要であるとおっしゃいました。

3.産業現場でのアルコール指導の実際

企業の保健指導では、従業員が抱える健康問題を希望を持てる方向に進めることが最も大切だと述べます。

そのため"怖がらせないこと"が前提であり、従業員の抵抗感を軽減することが重要だそう。

医療者の視点では正しい情報を提供しなければという思いがあるものの、まずは本人の認識と理解程度を把握するため、率直に話してもらうことが必要だと話されます。

本人に率直に話してもらうことで、初めて問題解決に向けた“同じ土俵”に立てるとのこと。

ポイントは事実を伝えたうえで、本人と実現可能な目標を設定することと述べられます。

事例では以下のようなコミュニケーション方法を用いて面談を実施していました。

● イエスセット (はいと答えられる質問を3つ続ける)
● ワンダウンポジション(本人より一段下位の立場をとる)
● 問題を設定せず、相手の意識を把握する
● 問題点を共有する
● 医療への不信・攻撃的な発言はスルー
● 本人の自虐的発言に便乗しない
● 個人差があると前置きをし抵抗感を下げる
● 無理な目標は設定しない
● いい変化を強調する    など

相手に「できない!」と思わせたら失敗であり、メッセージを工夫し実行できること(自己効力感)につなげることが重要だとおっしゃいます。

事例を通し、患者さんと関係性を構築するコミュニケーションの参考にもなりました。

3-1.困った状況への対処

返答に困る言動に対しては、相手の逃げ道を用意し、追い詰めないことが大事だとおっしゃいます。

実際の会話例も紹介いただき、相手に寄り添いながら対話していくことの大切さを実感しました。

信頼関係を損なわなければ、いつかチャンスが訪れるという言葉が印象的でした。

3-2.職場における対応

アルコール問題の発見・正しい認識
● 繰り返されるアルコール問題は依存症による問題と捉える
● 致命的な問題だと認識する
● 正しい治療をすれば回復可能だと信じる

飲酒問題が起こったら、その都度注意し記録を残すことが大切とのこと。

企業関係者が本人に伝えなければならないのは、職場は病気を治す場所ではなく働く場所であることだと強調されました。

問題が繰り返される場合はアルコール専門機関を紹介し、治療を拒否する場合、解雇を示唆することも時には必要だとも。

最後は、アルコール依存症治療の概要を紹介いただき、締めくくられました。


看護師として働いていると、患者さんの言動にどう答えたらいいのかと戸惑う場面や、あの時の返答は良かったのかと思い悩む場面が多々あります。

米沢先生の、さまざまな会話の引き出しは信頼関係構築の面でも非常に勉強になりました。

貴重なお話をありがとうございました。


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(井上 幸紀先生)
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