smile adachi

ご訪問ありがとうございます。 原稿用紙2枚分ずつくらいで小説を連載していきます。 お…

smile adachi

ご訪問ありがとうございます。 原稿用紙2枚分ずつくらいで小説を連載していきます。 お務めの合間に少しずつ起こしていくので気長にお付き合い頂けたら嬉しいです。 オイリュトミーのノートなど面白いと思ったものも抜粋してお見せできたらいいなとも 考えています。

最近の記事

月響(エピローグ)

私はもう少しで月の裏側という所に立っていた。 あと200メートルほど歩くと月の裏側の縁に辿り着くかな といった地点だ。 まぁそれも目測だった。 もしかすると500メートル、いや1キロは歩かなきゃいけないかもなと ひとりごちて、私は一歩を踏み出した。 とにかく行けばいいだけのことだった。 月の表面は白く輝いていた。 しかしあたりは見事な暗黒に包まれていて、月から白い光が放たれると それは暗黒に吸収されてしまって光り輝くというほどには輝きは 保たれない。 私の頭の高

    • 月響(げっきょう)25

      ほんの少しして、ミサキがお盆に湯呑みをのせたのを慎重に抱えながら 部屋に入って来た。 「泣いてた?」 優しい声できく。       「卒業式だからね」 と私は答え、       「ナリタ君も泣いてたし」 と付け加える。 「あれ、不思議でしょ。まるで水の都」 とミツミは大きくうなずく。 「ほらチューリップがさっきよりずっと赤い。  部屋の温度もさっきより高くなってるし。  いつもそうなるの。  私のときとミツミのときが全く同じなのかは分からないけど。  あーで

      • 月響(げっきょう)24

        お兄さんの部屋からいちばん離れたトコに在るミサキの部屋には さっき感じたみたいな押し潰されそうな雰囲気はないのだけど、 こちらも前に来た時とはだいぶ様子が違っていた。 壁、ベッドまわりの壁にベネチアの観光名所の写真がペタペタと 貼りつけてある。 和室の砂壁に、ベネチアの仮面をつけて仮装した人々の写真が奇妙に マッチしていた。 ベッドの反対側のサイドボードの上にはナリタ君のラケットと使い込まれた テニスシューズが置かれていて、その隣には赤いチューリップが三本、 ガラスの一

        • 月響(げっきょう)23

          歩きながら、高校に入ってからのいろんなコトを思い出して次から 次へと競争みたく喋りまくった。 そこにはいつもナリタ君が居た。 三人きりの、堅苦しくない卒業証書も何もない卒業式。 シンプルイズビューティフォー。 想い出は全て美しい。 ミサキの家は最後に来た去年の冬休みとは少し様子が違っていた。 「やっぱりわかる?」 と私の顔色の変化を読み取ったミサキ、すばやい。 「お兄ちゃんの部屋のせいだと思う。  ……お兄ちゃんが閉じこもり出した頃は私もすっごくイライラしちゃ

        月響(エピローグ)

          月響(げっきょう)22

          私達は大学通りをゆっくり歩きだす。 会話もなく思い思いに空の飛行機雲を追いかけたり古道具屋のウインドウを覗いたりしながら。 さっきからずっと、ミサキに云われたコトについて考えてる。 「遠くなるって、そんなに悪いコトかな」 たとえば、私とマー坊が恋人同士だったら引っ越すって聞いたくらいで こんなに不安な気持ちにならないのかな。 ナリタ君が亡くなったという報せを受けて二人で泣き合い抱き合いして 以来、私達は顔を合わせてない。 もし彼女だったらこんなにほっておかれるはず

          月響(げっきょう)22

          月響(げっきょう)21

          今日のミサキはニットキャップをかぶって登場した。 ハットみたくアザが隠れないのでミサキの顔面は駅前の人だかりを 圧倒しまくっている。 自分がよけられてゆくのに気がついたミサキは大きな目をわざとらしく 見開いてピュウウと小さく口笛を鳴らした。 もっと混雑する花見の時期までそのアザ残ってるといいねと云うと、 そうだねと答えてニッコリ笑ってる。 とりあえず色々調達しようと近くのコンビニに入ったら、ミサキが甘酒を 発見した。 花見に甘酒は外せないねと二缶ずつ買う。 つまみ

          月響(げっきょう)21

          月響(げっきょう)20

          国立に行くのはナリタ君の亡くなった日、あの横田夫妻追い出しパーティ 以来だった。 あ・違った。 一週間くらい前、母が西国立のおそば屋さんにどうしても行くと言い張って気がすすまなかったけど車で国立を走り抜けた夜があった。 その時ちょうど生理で体調は最悪だったし、なんとなく避けてた車に 久し振りに乗ったせいもあって具合が悪くなっちゃって、親父さんが 練習してる時の腹に響くベースの不協和音の波みたいのが来ちゃって 大変だった。 せっかくのおいしいおそばも受けつけず、そば湯だ

          月響(げっきょう)20

          月響(げっきょう)19

          翌朝、卒業式当日。 目が覚めてまずメールチェックするとマー坊からメールが入っていない。 ガクッとするも留守電に気づいてホッ。 「中野です。今忙しくて会えないけど話したいので電話下さい。」 と妙にかしこまった声。 朝の七時半から電話するのは早すぎるかなと思ったけど思い切って 掛けちゃおう。 電話に出たマー坊はやっぱり寝起きで少しダルそうだったけど、久し振りの その声は私の大好きな世界でたったひとつの声。 「ミツミ?今日出ないの?マメちゃんも一緒?」       

          月響(げっきょう)19

          月響(げっきょう)18

          家に帰るとすぐモリモに電話した。       「先生、明日の卒業式出られません。        まだナリタ君のことで立ち直れてません」 って半分以上ウソ。 かなり心苦しい。 「そうか、無理しなくていいよ。  豆田も休むと連絡あったし」 コレは二人でサボるのとっくに見透かされてるなーと思ったけど、 モリモの声は優しかった。 「春休み、卒業証書渡すから絶対来いよ。  二人っきりで卒業式するのも悪くないと思うよ」 と云ってくれる。       「ありがとうございます

          月響(げっきょう)18

          月響(げっきょう)17

             とりあえず駅に向かって歩き出す。        「そんな顔になってもまだ活動は続けるんですか?」 とミサキの顔をのぞき込む。 ミサキは軽く笑ってる。 「ふふ、もうやめることにした。  ミツミ、信じないかもだけどナリちゃんが出て来て叱られたと  思ってるんだ、私。  なんかねースゴク大きくなってる気がするよ、ナリちゃん」         「大きい?」 大きいとはどういう意味なのか、私には全くわからない。 「大きすぎて不覚にもしばらく気がつかなかったんだけ

          月響(げっきょう)17

          月響(げっきょう)16

          新潟に二泊してお通夜とお葬式を終え国分寺に帰って来たミサキは、 自分の部屋のベッドに腰を下ろしてやっと本格的に泣けてきた。 新潟ではナリタ君の沢山の親せきと伝統の重みいっぱいのお葬式に緊張する ばかりだったから、顔がぐちゃぐちゃになるまで泣くなんてできない 相談だった。 でも、ナリタ君と血のつながりのある人々に囲まれている時には確かに あった安心感みたいのがなくなってしまって怖くもあった。 ナリタ君を中心点に広がっていって、一家のことや新潟のおじいさんや おじさん達を想

          月響(げっきょう)16

          月響(げっきょう)15

          ナリタ君が第一志望の大学に合格を決め、しかも私大ではかなりの難関で 現役合格はむづかしいとされている学科だったので、新潟のおじいさんは とても喜んだらしい。 一方で舞子ちゃんは三学期に入ってから不登校になっていたそうで、 ナリタ君のお祝いと舞子ちゃんの気分転換を兼ねてナリタ一家の里帰りは 計画された。 私は舞子ちゃんが不登校になってたのを知らなかったから、それを聞いて 胸がキッと痛んだ。 ナリタ君やお父さんお母さんも心配だったのだろう、それで春休みを待たずに新潟に行くこ

          月響(げっきょう)15

          月響(げっきょう)14

          ジョナサンは駅からけっこう離れてるんだけど、土曜のティータイムだし 若者や家族連れでいっぱいだった。 でも窓際にちょうど良い席が空いていたので、私は持って来たメガネを 掛けるとぼんやり外を眺めながらミサキの到着を待った。 この店は私達のお気に入り、ナイスロケーションなのだ。 まずTSUTAYAの二階に在るのがよい。 受験生になる直前の去年の今頃なんかは、いつも必ず両方行って時間を 潰していたもんだ。 店内はほぼ半円形をしてて円周部分は全面大きな窓になっていてとても

          月響(げっきょう)14

          月響(げっきょう)13

          卒業式の前日、ついにミサキから携帯に連絡が入った。 「ミツミ?」           「うん」 「ずっと連絡しなくてゴメンね」           「ずっと待ってたよ」 「うん。ゴメン」 ミサキは言葉に詰まり、そのまま黙ってしまった。 私はミサキの伊東美咲顔が困り顔になるのを思い浮かべる。 でもそれは本物の伊東美咲の顔になってしまい、ミサキの顔がなぜだか 思い出せなかったので私も困ってしまって何も云わずに黙っていた。 「私ね、卒業式出ないから」      

          月響(げっきょう)13

          月響(げっきょう)12

          国分寺跡のそばにもうひとつお気に入りの場所がある。 湧き水。 日本の名水百選というのに選ばれたそうで、毎日沢山の人が水をくみに来る。 実は私ちゃあんとペットボトルを持って来ている。 だってココの水でいれるコーヒーはなぜか二割増しうまくなる上に、口当たりだって全然違うのだ。 水は泉に湧き出ていて小川にあふれ出している。 水、超冷たい。 でもサラサラしてて超キレイ。 ペットボトルに少しくんで飲んでみると胃がキュウと音を立てて縮まった。 喉の奥からお腹までプルプル

          月響(げっきょう)12

          月響(げっきょう)11

          国分寺のよいところは中央線の特別快速が停まったり新宿まで最短十七分で行けるところじゃないし、駅ビルの丸井のデパ地下がけっこう充実していて見て歩くだけでかなり楽しめるところでもない。 古着屋とか中古CD屋とかいろんな食べもの屋がごちゃっと集まってて探索しがいのある駅周辺カオス地帯でも勿論ない。 国分寺のよいところ、そのヒントは名前に隠されている。 っていうかモロそのまんま国分寺にある。 大昔、奈良時代。 たぶんなーんにもなかったこの地に誰かの命令で国分寺は建てられた。

          月響(げっきょう)11