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月響(げっきょう)11


国分寺のよいところは中央線の特別快速が停まったり新宿まで最短十七分で行けるところじゃないし、駅ビルの丸井のデパ地下がけっこう充実していて見て歩くだけでかなり楽しめるところでもない。

古着屋とか中古CD屋とかいろんな食べもの屋がごちゃっと集まってて探索しがいのある駅周辺カオス地帯でも勿論ない。

国分寺のよいところ、そのヒントは名前に隠されている。

っていうかモロそのまんま国分寺にある。


大昔、奈良時代。

たぶんなーんにもなかったこの地に誰かの命令で国分寺は建てられた。

なんでかわかんないけど、この地が選ばれたのだ。

国分寺の跡は今もちゃんとそこに在る。

人とモノであふれかえって収集つかない気味の駅南口を抜け、かなり急な坂をのんびり大股で下って行こう。

そろそろ静けさを取り戻してくねくね道の住宅地、タララランと鼻歌が出る頃には国分寺跡はもうすぐそこ。

跡といっても昔確かに存在した国分寺はかけらも残ってなくて、そこはなんとなくただダダッ広いだけの空地になっている。

柿の木が数本。

そこを抜けると七重の搭の跡が在って、土台となっていたのか大きな石がいくつかそれらしく残っている。

説明書きによると昔の国分寺の敷地は広大でこの空地はその一部でしかなくて、さっき通り抜けてきた住宅地もかつては国分寺の土地だったことが判りちょっとビックリだ。


ナリタ君の家に行った翌日、天気の良い今日はこの国分寺跡に来てみた。

ここは公園じゃないのだけど空地とは違ってて、きちっと管理されているみたいで雑草はあんまり生えていなくて地面は芝みたいのに覆われている。

何の為にあるのかよく分からない不思議な場所。

遺跡ということでとりあえず残されているんだろうけど、現在の国分寺はここから少し離れたところにひっそり在るので飛び地みたいでヘンなんだと思う。


たしか小二の時UFOがしょっちゅう来てるなんて噂が立ったなーとか、ふと思い出しながら私は七重の搭跡の石の上に座って空を見上げる。

勿論UFOなんて現れない。

でもここに居ると簡単に時間を超えちゃって千年前に飛んだりできる。

千年前にもここには人が居たんだ。

お坊さん達が毎日、庭の掃除をしたり鐘をついたりしてたんだ。

目をつむる。

簡単に空間すら超えちゃう。

奈良に飛ぶ。

二年の修学旅行、皆で行った奈良&京都。

六月の梅雨直前、クソ暑かったなぁ、京都。

でも奈良はなんだかすごく広々してて大好きになった。


ミサキとナリタ君とマー坊と四人で班行動。

明日香村を自転車借りて隅々まで見回ったのが超楽しかった。

飛鳥の緑の風、沢山の不思議な石達。

最後、高台にある飛鳥坐(あすかにいます)神社という千年以上続いてる神社に立ち寄った。

そこから飛鳥全体を見下ろして深呼吸したら、空気がそれまでの飛鳥の時間全てを含んだ味したの、忘れられない。

私はそのなんとも深い味に感動して泣きそうだったけど、他の三人はその神社の御神体である男性器に心を奪われて興奮してたんだった。

それで四人でお揃いの神様のカタチをしたお守りを買って帰ったんだった。

ビンビンの超イケてるヤツ。

今日もちゃあんと持ってきてる。


ここは東京の奈良だからあの時の空気とほぼ同じ味がするし、ポケットにしのばせた神様をギュッと握ったら男性ホルモンが全開になってきてヒゲがぼうぼう音を立てて生えてきそうで、そんな自分を想像して久し振りに声を上げて笑った。



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