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月響(げっきょう)12


国分寺跡のそばにもうひとつお気に入りの場所がある。

湧き水。

日本の名水百選というのに選ばれたそうで、毎日沢山の人が水をくみに来る。

実は私ちゃあんとペットボトルを持って来ている。

だってココの水でいれるコーヒーはなぜか二割増しうまくなる上に、口当たりだって全然違うのだ。


水は泉に湧き出ていて小川にあふれ出している。

水、超冷たい。

でもサラサラしてて超キレイ。

ペットボトルに少しくんで飲んでみると胃がキュウと音を立てて縮まった。

喉の奥からお腹までプルプルしてるけどイイ気持ち。

満杯にくんで歩き出す。


駅までの坂を上る途中かなたを見上げると、沢山の家々やマンションが駅ビルを頂点にニョキニョキとまるで生き物のよう。

茶色やグレイやシルバーの初めて見る生物。

すごい勢いで育ってゆくその成長音がうねりとなって目で見える。

少し怖くなって下を振り返るとそこには、国分寺跡周辺の緑が静かに力強く在った。

土の中の湧き出る前の水の存在も感じられる。


国分寺駅周辺にマンションが次々と建ち、人が年ごとに増えてゆくのがなぜなのかよく判った。

この坂の地中バイパスを通して吸い上げているのだ、源となる水や土の力を。

国分寺跡で私が感じるあの古代の風の力は土に蓄えられ水となって湧き、そんなのと一見無縁に暮らしているこの地の全てを潤す。

それはすごい大きな力の働きで、どうしようもなくただそういうことなんだ。

街が昔よりずっと騒々しくなったのが正直ウザったかったのだけど、それは素晴らしいコトなのかもしれない。

だってつたがそのつるをジワジワ広げてゆくみたいに、これは自然のコトだったのだから。


今日、この土地の磁力を感じた。

それはなんだかアレみたいだった。

全てを受け入れて包みこんでいる姿をまざまざと見せつけられたから、きっとそうなんだって思った。


次葉へ

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