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月響(げっきょう)14



ジョナサンは駅からけっこう離れてるんだけど、土曜のティータイムだし
若者や家族連れでいっぱいだった。

でも窓際にちょうど良い席が空いていたので、私は持って来たメガネを
掛けるとぼんやり外を眺めながらミサキの到着を待った。

この店は私達のお気に入り、ナイスロケーションなのだ。

まずTSUTAYAの二階に在るのがよい。

受験生になる直前の去年の今頃なんかは、いつも必ず両方行って時間を
潰していたもんだ。

店内はほぼ半円形をしてて円周部分は全面大きな窓になっていてとても
明るい。

これから話すその内容を思うとこの明るさは救いだし、もっとニギヤカでも良いくらいだった。


窓の下はちょうど交差点で、人や車がいいカンジで流れていて見飽きることがない。

私から右斜め下にある横断歩道をミサキが歩いて来るのが見える。

広いつばのブルーのウェスタンハットを深めにかぶっているから顔が
見えないけど、ちっちゃい肩とか胸のあたりがミサキだった。

ミサキの姿はまもなく建物の死角に隠れてしまったけどそれから少しして
私の座るテーブルの横に現れた。


久し振りに会うミサキは私を仰天させた。

左目のまわりが青黒いアザに覆われ、こめかみや頬骨のあたりも点々と
シミみたいなアザが広がっていて、ブルーのハットの陰影を間違えて
描いてしまったキテレツな肖像画みたいだった。

じーっと見つめられてると、動悸までしてきた。

こりゃあ卒業式に出たくない訳だ。

ハァと自然にため息が出てくる。


「久し振り。注文まだ?」


とミサキが口を開いた。

その左目はちょっと引きつれてるし顔は一応美人だし、あまりに見応えが
ありすぎてボーッと見とれていた私は我に返ってとりあえずメニューを
開いた。

ミサキは向かいの椅子に座るとサッサとボタンを押し、店員を呼んだ。

二人してドリンクバーと白玉あんみつを頼む。

ミサキは、

「かぶったね」

と云ってニヤリと笑ったけど、その笑顔は残念ながらキモかった。

「あの、サ」

と私が勿論顔の青タンについて問い質そうとすると、

「まぁまぁ」

といなされて、

「とりあえず、ナリちゃんのお葬式の話とこの顔の話とどっちが先に
 ききたい?」

と云ってくるのでしばし考える。



「やっぱ時系列でお願い。あんたのコトも心配だけど、ナリタ君のコト
 あれからずっと気になっているから」

「アザは大丈夫。じゃあナリちゃんのコトから話すね。
 ナリちゃんコレと無関係じゃないし、あの日のコトから順ぐりに話すよ」


ミサキは帽子を取ってあらわになった青タンに手をやると、確かめるように
軽く撫でた。

そして一気に話し始めた。


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