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WEEKLY CINTERTOTTING NOTES : 3/9/2020

公開延期のお知らせが続々と発表されていますね。その公開しなくなった分、空いてしまった上映時間はどうなるのかが気になるところです。上映すらしない、つまり閉まった状態になってしまうのかな…

・3/4「黒い司法 0%からの奇跡」新宿ピカデリー (2020年20本目)
大好きなD.D.クレットン監督の新作。私が今いちばん好きな監督の一人です。「ショート・ターム」、「ガラスの城の約束」、そして今作。どの作品も人の心、感情、信念など決して目に見えないものがまるで見えてくるような体験ができます。だいだいだいすきです。監督の次回作はなんとマーベル作品とのこと。けどこの抜擢っぷり、超わかる〜と謎の目線で何度も頷く私です。

映画の原題はJust Mercyなのですが、映画を観るとmercyという言葉が持つ意味がまさに説明されるシーンがあり、感覚的にとても伝わってくると思います。邦題についてですが、原作本の翻訳版の題名が、そのまま映画のタイトルにもなっているようです。個人的にはなぜこのような邦題になっているのか不思議に思っています。

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舞台は黒人に対するひどい差別が横行している1980年代のアラバマ州。ハーバードロースクール卒の若き弁護士ブライアンが冤罪や、もはやなすりつけでしかない判決により死刑囚となってしまった人々の弁護をし、無罪を勝ち取るために奮闘するドラマです。ブライアンはマイケル・B・ジョーダンが演じます。(はあ、だいすきです)

マイケル・B・ジョーダンの魂レベルで高貴な感じというか…会ったこともない私でさえ何か困ったことがあったら頼ってしまいたくなるような気品が際立ちます。特に映画冒頭のインターン生だった彼と若き死刑囚の心の通い合いにはしょっぱなから泣かされました。

それぞれの役者の持ち場をガッチリと固めるような個性的で力強い演技はどれも本当に素晴らしいものでした。死刑囚の一人を演じる、お父さん激似でおなじみアイスキューブの息子オシェア・ジャクソンJrの、どんな逆境でも明るく振る舞うことが信念だったのだろうと伝わってくる表現は見事でしたし、なんといっても裁判における超重要人物を演じたティム・ブレイク・ネルソンの全てが圧巻でした。画面に現れた瞬間の、傷ついた人間であるという説得力がどうしてだかすごいものでした。

ブライアンが自分の依頼人が冤罪であることを伝えようとすると決まって「被害者や遺族の気持ちを考えたことがあるのか」とまさに本末転倒なことを返されます。何度もです。そこに対して理路整然と主張をするほどに「傷ついた人の気持ちがわからないなんてなんてひどいやつだ」という向かい風にさらされます。

しかし、人の心に寄り添うということは。傷ついた人の気持ちに共感するということは。その真の行いが表現される法廷でのシーンには頭がふっとぶほどに感動しました。そして映画はそれを目に見えるもので見せてくれる、と改めて感じることができました。監督曰くブライアンは「共感の天才」とのことです。それを表現しきった演出でした。

名前すらも知らされない脇役たちも物語をしっかりと支える生きた人間たちということもとてもよく伝わってきました。大好きな作品がまたひとつ増えました。

・3/4「スウィング・キッズ」新宿シネマート (21)
「サニー 永遠の仲間たち」のカン・ヒョンチョル監督最新作。最近では「神と共に」シリーズで軍隊に馴染めずにいたとても…気の毒な一等兵を演じたD.O.が主演、その驚くべき身体能力を余すことなく披露します。

ほうほう、朝鮮戦争下の捕虜たちがタップダンスね!とウキウキした気持ちで見始めるのですが、その期待とは全く別方向へ舵をきる様子は「サニー」を観た時に感じたように、こんなはずじゃなかったのにという報われない思いで胸が締め付けられます。韓国の映画はこれでもかと人々が歴史や政治に振り回されたという事実をしっかりと提示しますね。

D.O.演じる朝鮮人民軍ロ・ギスの、出会うべくものに出会ってしまった!という具合の胸の高鳴り具合がとっても可愛い。あらゆる生活音がタップダンスのステップに聞こえてしまうナンタのような演出にはこちらもドキドキしてしまい、同じ部屋で寝る人々の歯ぎしりまでそう聞こえてしまうのには笑ってしまいました。

四ヶ国語を話せるという通訳をつとめるパク・ヘス演じるヤン・パンネが「満州にいたから中国語、日本語も話せるの」と言っていた様子に私の祖父も同じ境遇だったのでとても胸に響くものがありました。また、コミカルなダンスが印象的だった中共軍捕虜のシャオパンを演じたキム・ミンホが実は「無双の鉄拳」の監督だったことを後から知り、わけがわからない気持ちになりました。

終盤のタップダンスシーンの心の解放っぷりはとんでもなく、心揺さぶられるものがありました。けれど私は、ジャクソンおかえりパーティーを開催したときに披露した等身大の彼らのダンスシーンも、何かが始まる合図のように感じ、とっても好きでした。

・3/6「ポップスター」DVD視聴 (22)
原題はVOX LUX、ラテン語で「光の声」という意味があるとのことです。監督は「シークレット・オブ・モンスター」のブラディ・コーベット。10代のときに同級生による乱射事件で大怪我を負った少女セレステが、その後姉と一緒に作った犠牲者への追悼曲で皮肉にもスーパースターになるというあらすじです。主演はナタリー・ポートマン、大人になったセレステを演じます。姉のエリーを演じるのはあまりの可愛らしさで世界中の注目を浴びるステイシー・マーティンです。セレステが歌う曲はSia提供によるもの。

仕事のため拝見したのですが、ナタリー・ポートマンのまさに挑戦的な役どころがとても見応えがあります。会心の演技です。後ろからずっと人物を追っていくショットやナタリーがあまりに精神的に疲弊している様子を見ているとやはり「ブラック・スワン」を思い出させるところがあります。

しかしなんといっても、このセレステという人物には、何かどうしようもない人間らしさがというものがあり、それが切実に伝わってきます。それは映画の仕組みとして、セレステが辿った運命を最初から見守っている私たちに芽生える妙な視点があるからだと思います。思い返せば、セレステの物語には、いつも…というかんじ…

不安な気持ちを観客に植え付けるのが非常に上手な演出の数々、ややじっくりと時間をかけたショットが多いのですがかなり興味深く見入ることができました。ナレーションの入りや、フィルムのざらつき、章にわけてタイトルを差し込むプレゼンテーションなど、いろんな工夫が活きています。

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