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武装勢力に拉致・監禁された写真家の地獄の人質生活を描く オススメ良作3本を紹介【次に見るなら、この映画】2月13日編

 毎週土曜日にオススメ映画をレビュー。

 今週は、映画館で鑑賞できる新作から、見れば絶対に心に響くあまりに過酷な人質生活を描く“衝撃の実話”業界内で話題が巻き起こりつつある中国映画ある絵画をめぐる“まさかの大騒動”を追ったドキュメンタリーの3本を選んでみました。

①2013年に398日もの間、IS(イスラム国)の人質となりながら、奇跡的に生還した写真家の実話を映画化したある人質 生還までの398日(2月19日公開)

②大河・富春江が流れる街・富陽の美しい自然を背景に、変わりゆく中国社会の中で懸命に生きる大家族の四季を描いた人間ドラマ春江水暖 しゅんこうすいだん(公開中)

③オランダ黄金時代に活躍した巨匠レンブラントの絵画をめぐり、アートに魅せられた人々の愛と欲が交錯する様子をドラマティックに描いたドキュメンタリーレンブラントは誰の手に(2月26日公開)

 劇場へ足を運ぶ際は、体調管理・感染予防を万全にしたうえでご鑑賞ください!


ある人質 生還までの398日」(2月19日公開)

忘れてはならない現実を、エンターテイメントとして巧みに思い起こさせる(文:映画.com DanKnighton)

 デンマーク映画の「ある人質 生還までの398日」は、身に染みる本物のヒューマン・ドラマだ。気力に満ちた24歳の体操選手ダニエル・リュー(エスベン・スメド)は、試合で怪我をして引退を余儀なくされる。

 その後、趣味の写真を活かし戦場カメラマンのアシスタントの職を得た彼は、ソマリアでの取材で新しい生きがいを見つける。心配する恋人や家族を説得し、内戦が激化するシリアへ戦場カメラマンとして自費で取材に向かう。

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 ダニエルの興味は戦地における一般市民の平穏な生活で、「プライベート・ウォー」で描かれた地獄のようなアレッポではなく、トルコ境界に近い落ち着いた街に向かう。だが取材が終わる寸前に近所の過激派に見つかり、誘拐されてしまう。外国人を誘拐し身代金を要求する「誘拐ビジネス」は、過激派組織IS(イスラム国)一部派閥の賃金調達の手段になっていた。

 ダニエルは拷問され、同様に誘拐された人質たちと共に監禁される。テロリストと交渉しない方針を貫くデンマーク政府の助けは得られず、元軍人で交渉のプロフェッショナル、アートゥア(アナス・W・ベアテルセン)がダニエルの家族と共に高額な身代金を支払うための計画を練る。

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 内戦中のシリアで実際に起こった事件を基にした本作には、終始重苦しい雰囲気が漂っている。本物のダニエルがTED(カンファレンス)で語っている通り、残酷な状況を生き抜く唯一の方法は、ポジティブなことに感謝することだ。ISの子供の兵士が苦しむダニエルに共感し手枷を切ってやる、そんな瞬間だけは安心して息がつける。

 だがシリアにいるダニエルだけでなく、故郷でも家族はまるで戦場のような苦境に陥る。このような重苦しい雰囲気にも関わらず、ニールス・アルデン・オプレブ監督(ミレニアム ドラゴン・タトゥーの女)はスリラー映画のようなテンポの良さで、エンターテイメントとして消化しやすい作品に仕上げている。

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 有名なアメリカ人記者ジェームズ・フォーリー(トビー・ケベル)が登場すると、囚人と過激派の間の緊張が高まる。彼は専門家としてテロリストの窮状に詳しく、人質たちに希望を与えるが、ISの第一敵国のアメリカ人である彼にはほとんどチャンスがない。

 「誰かが、今何が起きているのかを世界に示す必要がある」とダニエルはフォーリーに語りかける。この激動の時代、シリア内戦とイスラム国の台頭は忘れられかねないが、本作はその現実を巧みに思い起こさせる。

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春江水暖 しゅんこうすいだん」(公開中)

10分の長回しの水泳シーンは映画史に残るほど素晴らしく、衝撃的!(文:映画プロデューサー・映画ライター 徐昊辰)

 「『春江水暖 しゅんこうすいだん』は今まで見たことのない中国映画です。エドワード・ヤン監督の『クー嶺街少年殺人事件』を見た時の衝撃を、再び体験しました」カンヌ国際映画祭批評家週間のディレクター、チャールズ・テッソン氏は、2019年同国際映画祭批評家週間のクロージング上映時にこう話した。

 中国の新世代監督グー・シャオガンは中国山水画の傑作絵巻「富春山居図」からインスピレーションを得て、景色と人物、人物と感情、映画をまるで山水絵巻のように、四季を通して変わってゆく時代に生きる市井の人々を見事に描いた。しかも、これはまだ三部作の第一作である。

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 本作は夏から翌年の春まで、浙江省富陽市にある大家族に焦点を当てた物語でありながら、古い家屋の取り壊し、地下鉄の建設、不動産の高騰など、急速に経済発展している富陽市の激変も描かれている。新人監督のデビュー作のため資金が足りない状況の中で、出演した役者はほとんどグー・シャオガン監督の親戚や友達だが、絵巻である本作では、登場人物は絵の中の一部分であり、逆に演技を勉強したことがない人々だからこそ日常の息遣いをリアルに表現できている。

 伝統風習の春節や中秋節、家族内のジェネレーションギャップ、一人っ子政策による子供への過保護。変わるものと変わらぬもの。グー・シャオガン監督は絵巻をどんどん広げていく。

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 そして、この絵巻に最もふさわしい表現技法は長回しであろう。その中でも、10分の長回しの水泳シーンは映画史に残るほど素晴らしく、衝撃的である! カメラは人物の移動を追いかけ、人が消えたら高層ビルなどの風景が徐々に画面の中に入り、最終的に全てのシーンが続いているように見える。

 映像でこれほど山水画のように描くとは、グー・シャオガン監督の才能に脱帽! グー監督は、台湾ニューウエーブのホウ・シャオシャン監督やエドワード・ヤン監督、更に日本の小津安二郎監督や是枝裕和監督などに大きく影響されたと話しているが、確かに、冒頭の母の誕生日宴会シーンはホウ・シャオシェン映画を彷彿させ、後半のお墓参りのシーンもまるで是枝裕和監督の「歩いても、歩いても」のような雰囲気である。

 また、家族物語の視点から見ると「ヤンヤン 夏の想い出」や「東京物語」なども連想できる。ただの真似というより、グー監督は先輩たちの偉業を継承し、自分なりに世の中にメッセージを送っている。

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 昨年1月、「春江水暖 しゅんこうすいだん」はフランスで上映され、14万人を動員した。更に世界的に有名な映画批評誌「カイエ・デュ・シネマ」で、2020年の年間ベスト10に選ばれた。三部作の続きを含め、グー・シャオガン監督の更なる飛躍を期待したい!

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レンブラントは誰の手に」(2月26日公開)

「レンブラントのお引っ越し」+「レンブラントは本物か?」+「レンブラントは誰の手に」(文:映画.com編集長 駒井尚文)

 この映画の原題(英語題)は「My Rembrandt」です。 つまり「私のレンブラント」。レンブラント所有者が何人かと、レンブラントの取引を仲介する画商らが主要な登場人物です。

 最初に登場するのは、スコットランドの古城に住む伯爵です。数多くの絵画を各部屋に飾っていますが、お気に入りのレンブラントを掛けている場所が、今ひとつしっくり来ていない。彼は、城の中で、よりレンブラントに相応しい場所を探そうとします。題するなら「レンブラントのお引っ越し」という感じ。

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 次に登場するのは、ヤン・シックス11世という若き画商。彼は、オークションで格安で落札した無署名の絵画が、レンブラントの作品だと踏んでいます。なんと彼の祖先は、レンブラント本人に肖像画を発注した歴史があり、彼はその絵とともに暮らしてきました。だから、鼻が効く。しかし、絵をちゃんと鑑定し、本物のお墨付きを得ないことには価値が上がりません。各方面の権威が集まって、鑑定が始まります。題して「レンブラントは本物か?」

 そして、自宅の寝室に2枚のレンブラントを飾り、毎日愛でていた大富豪も登場します。彼は、遺産相続にあたって、莫大な相続税を支払わなくてはならなくなり、泣く泣くこの2枚のレンブラントを売却することにしました。

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 その金額たるや、200億円。ルーブル美術館とアムステルダム国立美術館が争奪戦を繰り広げます。しかし、両者ともに予算オーバー。さあどうする? これが「レンブラントは誰の手に」。この映画の邦題は、このストーリーに由来するものでしょう。

 もうひとつ「レンブラントにキスした男」の話もありますが、そこはあんまり記憶に残りません。

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 以上、レンブラントを所有する者に関するオムニバス映画のような、実に贅沢な作品です。レンブラントの創作の特徴や秘密、レンブラント絵画の市場での価値、オランダにおけるレンブラント作品の意義。

 私はこの映画を見て、レンブラント作品に関する認識が激変しました。次にレンブラントを鑑賞する機会が、楽しみで仕方ありません。

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【お知らせ】劇場公開(2月26日)に先がけ、本作の映画.com特別オンライン上映会を開催! 12日(金)17:00~視聴できます!詳しくはこちら


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