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過激かつ美しい描写が際立つ新作映画3本 【次に観るなら、この映画】8月14日編

 毎週土曜日にオススメ映画3本をレビュー。

①警察とやくざの攻防戦を過激に描いた“傑作”の続編「孤狼の血 LEVEL2」(8月20日から映画館で公開)

②実在の画家ジュゼップ・バルトリの人生を描いた長編アニメーション「ジュゼップ 戦場の画家」(8月13日から映画館で公開)

③盲目の最狂老人による恐怖を描き全米でスマッシュヒットを記録したホラーの続編「ドント・ブリーズ2」(8月13日から映画館で公開)

 劇場へ足を運ぶ際は、体調管理・感染予防を万全にしたうえでご鑑賞ください!

◇白石和彌監督版「仁義なき戦い 広島死闘篇」に見る敗者の美学(文:映画.com副編集長 大塚史貴)

「孤狼の血 LEVEL2」(8月20日から映画館で公開)

 壮絶なクライマックスを見届けた直後に感じたのは、「孤狼の血 LEVEL2」は白石和彌監督版「仁義なき戦い 広島死闘篇」という位置づけになるということ。それも当然といえば当然の話で、柚月裕子が手がけた原作小説が「仁義なき戦い」シリーズと「県警対組織暴力」にオマージュを捧げながら執筆されているのだから、むしろ必然とすらいえる。

 熱狂的なファンを生んだ前作では、広島の架空の都市・呉原を舞台に暴力団と警察組織を手玉に取り違法捜査をいとわないマル暴の刑事・大上(役所広司)が、シリーズの進むべき道筋を作っている。その大上がある事件を捜査中に水死体で発見されたことで、相棒だった新人刑事・日岡(松坂桃李)が大上の遺志を継ぎ、暴力団同士の抗争を終結させるまでの刑事へと成長するまでを描いた。

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(C)2021「孤狼の血 LEVEL2」製作委員会

 原作では日岡が地方の派出所へ左遷させられるが、映画第1弾では異なるエンディングで締め括ったため、続編となる今作はオリジナル作品として紡がれている。舞台は前作から3年後、大上のやり方を踏襲するどころかアップデートして広島の治安を守り、裏社会でも顔が利く存在となった日岡の前に刑務所から出所したばかりの上林成浩(鈴木亮平)が現れる。

 この上林が、刹那的な悪役として際立った存在感を放ち、日岡がまとめてきた広島の暴力団の危うい均衡をいとも簡単にぶち壊していく。上林が心酔する五十子会会長・五十子正吉(石橋蓮司)は前作で刺殺されているが、この死に疑問を抱き、真相を突き止めようとするなかで、黒幕が日岡であることを知る……。

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 己が信じる道を突き進むのは、日岡も上林も同じ。ただ今作での勢いは上林に多少の分があるか……。というのも、圧倒的な暴力でしか生き抜く術を持たない上林の生き方では長生きできそうにないというのは誰の目にも明らか。

 一方で、日岡は「抗争なき広島を実現したのは自分」という自負があるだけに、裏社会のパワーバランスが崩れることをこれ幸いと、今まで黙認していた警察上層部からも問題視され孤立を深めていく。ましてや詳述は避けるが、刺され、撃たれ、落下するなど満身創痍の状態で焦燥感を募らせていく日岡を体現してみせた松坂の表現力は秀逸である。

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 上林とのガチンコ対決は、どういう結末になったとしても日岡にとっては言わば「負け戦」。だがしかし、この「負け戦」にどう落とし前をつけるかにハードボイルド作品の極意が詰まっている。

 松坂と鈴木が奏でる極限の表情とともに、作品世界を飄々と生きる中村梅雀、日岡と深い関係にあるスナックのママに息吹を注いだ西野七瀬の存在が、今作に意義深い彩りを添えたことも加筆しておく。そして最後になるが、エンディングで見せる日岡の眼差しは、まだ終わりを告げていない。

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◇“描く”という生き様と真摯に向き合ったアニメーション手法が胸を打つ(文:映画ライター 牛津厚信)

「ジュゼップ 戦場の画家」(8月13日から映画館で公開)

 なんと独創的な語り口を持った作品なのだろう。“描くこと”をよすがに惨憺たる状況を生き抜いた画家の話───そんなあらすじを聞くと、頭の中は苦しみと悲しみと慟哭のイメージでいっぱいになる。

 しかし本作はそれを芯としつつも、さらに羽ばたき、アニメーション技法を駆使して74分間を様々な色と感情とで満たしていく。これぞ表現の力。観る前と後でこんなに印象が変わるものかと、大いに驚かされる自分がいた。

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(C)Les Films d'Ici Mediterranee - France 3 Cinema - Imagic Telecom - Les Films du Poisson Rouge - Lunanime - Promenons nous-dans les bois - Tchack - Les Fees Speciales - In Efecto - Le Mémorial du Camp de Rivesaltes - Les Films d'Ici - Upside Films 2020

 この物語は5つの時代の移ろいで構成される。中でもメインとなるのは、ベッドに横たわる老人が孫に聞かせる昔話。彼は一枚の絵を糸口として、1939年2月の出来事を語りだす。当時、スペイン内戦を逃れた大量の難民たちは、亡命先のフランスの強制収容所で過酷な暮らしを強いられた。そこの憲兵だった若き日の老人が、あらゆる場所に絵を描き続ける一人の男に紙と鉛筆を手渡したことから、両者の間には思いがけない友情が生まれていく。

 ジュゼップ・バルトリという画家を知る者は日本にどれほどいるだろう。彼の絵に感銘を受けたオーレル監督は、当初、その波乱万丈な人生を網羅的に描く伝記映画を構想していたらしい。でも結果的に焦点を絞り、どんなに過酷な状況でも“描くこと”を忘れなかった主人公の生き様こそをグッと際立たせる構成へ。

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 そうやって実を結んだ映像は目を見張るものがある。ジュゼップが実際に収容所内で描いたイラストやスケッチの質感をアニメーション内に取り入れ、感情も枯れ果てるほどの現実をかぼそい輪郭線と荒凉たる色調で描いたかと思えば、後半は一転。この抑圧された世界から飛び出し、目の覚めるような赤と青の原色をダイナミックにほとばしらせていく。あのフリーダ・カーロまで登場させ、まるで生命の躍動を視覚的に表現するかのように紡がれる映像は格別である。

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 言うなれば、本作は構造そのものが絵画的なのだ。先ほど5つの時代と書いたが、それは同時に5つの筆遣い、はたまた5つの色彩でもあり、オーレル監督はそれらを一つの作品中で大胆に織り込み、最後には現代や未来を照らす眩い光をも差し込ませてみせた。その穏やかで心地よい余韻を受けながら、我々はこのアニメーション映画が“描くこと”、すなわち“生きること”への限りない讃歌であったと知るのである。

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◇盲目の最狂老人は“人間”として息を吹き返せるのか R15+指定で殺人&拷問描写は威力倍増(文:映画.com 岡田寛司)

「ドント・ブリーズ2」(8月13日から映画館で公開)

 若者たちが盲目の最狂老人によって狩られていく傑作ホラー「ドント・ブリーズ」。続編の誕生に心躍るも「一体、どう描くのか?」という疑問が生じたことは否めない。鑑賞後、盲目の老人を演じたスティーブン・ラングの言葉を思い出した。「前作と大いに親族関係にあるが、多くの意味で独自の代物だ」。なるほど、納得。シフトチェンジが行われているのだ。

 物語の背景は、前作から8年後。主人公の視点は、盲目の老人へと移されている。驚きを禁じ得ないのが「少女を育てている」ということ。第1作の“ヤバすぎる過去”もあってか、老人が親心のようなものを見せようとも、ストーリーを覆う不気味さを拭い去ることはできない。やがて謎めいた武装集団が参戦したことで、老人の狂気が未だに息づいていることが発覚。少女の周囲には、死体の山が築かれていく……。

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 今回、盲目の老人が対峙するのは、脇の甘い若者たちではなく、明確な殺意を放った武装集団。となると、手加減は一切必要なし。レーティングも「R15+指定」に格上げ(第1作は「PG12指定」)となり、老人も“殺人&拷問テク”を遺憾なく発揮することができている。

 ナタによる人体切断、鈍器での頭部破壊、ワンショット・キル……そして強力接着剤も有効活用! ところが、敵も一筋縄ではいかない相手。一手で終了とはならないのだ。だからこそ「静寂の恐怖」も踏襲しつつ、近接格闘が冴えるアクション面が強化されている。

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 印象深いのは、タイトルの意味を反転させた要素。つまり「息をしろ」ということだ。セリフとしての引用だけでなく「ある行為」によって息を吹き返そうとする者も。このポイントは、老人の生きざま自体にも当てはまるだろう。

 深い悲しみにとらわれたまま、他者の命を食い荒らしてきた老人。孤独は、かつて彼を獣へと変えてしまった。そんな深い闇の中で見つけた光――それが共に暮らす少女・フェニックスの存在だ。彼女との日々によって、再び“人間”として息を吹き返せるかどうかが問われているように思える。

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 ホラーからホラー・アクションへの移行。そこに「犬映画」としてのアップデートが加わっていることも忘れてはならない。本作には、2匹の犬が登場。前作に続き“ワンちゃん大活躍”である。

 さて、ここで考えてほしい。犬を愚弄する者に訪れるのは、何か? 犬を愛する者に訪れるのは、何か? 答えは明白だ。前者には天罰、後者には祝福がもたらされるのである。

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