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(17)〝デジ力〟の前に〝読書の筋力〟―「よく読む子」に育つ5歳頃からの本好き大作戦 ~読書は能動編~


 つづきです。
 子ども時代に「本との縁」を結ぶことは、人生全体に影響をおよぼす…という考えを書きました。
 読む人になるか、あまり読まない人になるか…は、子ども時代の過ごし方に影響を受けると思います。
 
 ―そこでふと思うのは、「幼少期って、大抵の子どもが絵本好きなんだよなぁ」という事実。
 

〈「絵本好き」が必ず「児童書好き」になるわけではない〉


 子育てを一緒に頑張ってきたママ友さん達の話や、遊びに伺った家の様子を思い浮かべると、ほとんどの人が絵本をたくさん用意していましたし、読み聞かせを習慣にしているパパ、ママさんも多くいました。
 
 幼稚園や保育園からも「この絵本、おすすめです」「この絵本、読みました!」という情報が頻繁に届きましたし、子ども本人からも「今日こんな絵本読んだんだよ」という話を聞いたりもしました。
 
 そう、小さな子どもが大人の膝の上で絵本を見て笑顔になっている様子は、大抵の人が簡単にイメージできると思います。
 
 ところが、です。
 
 その後を追うと、「大抵の小学生は児童書が大好き」でもなければ、「多くの中高生は日常的に小説を読んでいる」わけでもありません
 
 ―なぜなのでしょう?
(もちろん、絵本好きから読書好きへ進んだ子もいると思いますが、その多くはパパかママがもともと本好きか、家に本棚か、たくさん本がある…という場合が多いのではないでしょうか)。
 
 実際にパパ、ママ達からは「前はあんなに絵本を読んであげたのに、最近はゲームや動画ばかりで・・・」という声も聞きます。
 
 もちろん、単純に「忙しい」ということもあると思います。
 でも、どんな子どもにも一人でのんびりしたり、気分転換をしたり、好きなことをする時間があるはずで、今はそれをゲームや動画、スマホを見ることにあてている子が多い…というのも事実だと思います。
 
 なぜ、読書はそれらと同列の「楽しみ」ではいられないのでしょう? 
 
 「おもしろいもの」「ワクワクするもの」の選択肢から、外れやすくなるのでしょうか? 
 
 私はそれをとてもとても…寂しく感じています。
 

〈本好きになる可能性のある子も、その機会を逃している?〉


  本を一生読み続けると仮定して、絵本から児童書、児童書から小説・・・とスムーズに流れていかないとしたら、その理由のひとつがゲームやネットであろうことは想像できます。
(あるいは漫画ですが、漫画は読めば終わる、という完結された物としての本という特徴があるので、ゲームやネットとはまた別の観点で考える必要があります)
 
 この「大作戦」の(2)でもお話しましたが、ネットの影響といえば我が家もそうで、長女が5歳の頃に動画を見せたらあっという間にハマってしまい、危機感を覚えたことが「読書」へ方向転換をした理由です
 
 もちろん、デジタルがない時代でも「本が好きじゃない子」はたくさんいたわけなので、ゲームやネットがすべての理由じゃないことも確か
 塾や習い事や部活やスポーツや音楽…と子どもの興味は多彩で、毎日忙しいですから、本だけ読んでいればいいとは私も思いません。
 
 ただ、もしかしたら本好きになる可能性のある子も、そのキッカケを逃したまま成長する…ということは大いにあるのではないか、と思うのです。
 
 私はこれは、「受動か能動か」の違いが、ひとつの理由として考えられるのではないかと感じています。
 
 

〈読み聞かせは受動、読書は能動…この違いは大きいのでは?〉

 
 ちょっと想像してみてください。
 幼児期にとっての絵本は、保育士さんや幼稚園の先生が読んでくれたり、パパ、ママと触れ合いながら声を出して楽しんだり・・・という「体験」がベース
 「好きな大人」との触れ合いが前提ですし、感じたり、味わったりしているものだと思います。これってどちらかというと「受け身」の体験ですよね。
 
 ところがそこから児童書の類に移行する場合は、他者の介在はなく自分自身が「本を選び、読む」という能動的な行為になる…のではないでしょうか。
 
 とりわけ「文章を読んで理解する」のは、絵本を楽しむのとは似て非なる行為だと思うのです。
 
 ―つながっているようで、つながっていない。
 
 保育士さんや親の膝から離れ、「今日はこれを読もうね」という声かけもなく、自分から「文章を(メインに)読むために本を手に取る」こと。このハードルはなかなか高いですし、主体的に、能動的に文章を読まなければ、おもしろいという気持ちも湧きません。
 
 アニメや動画は視覚からの情報が大半を占めますし、映像は「ながら見」「流し見」「かかっているものをなんとなく見る」…ことができますが、本は違います
 
 本を読むことだけに時間を割いて、しっかり読まないと「おもしろい」と思えませんし、いつしか絵がなくなり、文章だけになればなおさら、集中して読む必要があります。
 
 これは今の時代、意識的にトライしなければなかなか難しいシチュエーションではないでしょうか?
 
 時期的に単純に考えて「児童書」に触れ始めるのが小学1年生だとして、この時期は、現代の子ども達はもうフルスピードでデジタルに触れていきます。
 端末やゲーム機が与えられたり、自分で操作できる子はそれが「能動的行為」になり、すぐに刺激や楽しさを感じられて夢中になるでしょう。
 
 そこには「読書の筋力を鍛える」機会も時間も設けられていないのではないでしょうか。
 
 個人的にはこの「絵本を卒業する時期」に、読書の筋力を楽しく鍛えて児童書に繋げることができたら、「よく読む子」が増えて、読解力、語彙力の底上げにもつながるのではないか…と思っています。
 
 
 

〈学校の図書室に親近感を覚える子は本選びに強い〉

 
 …とはいえ、小学生になると大抵の学校では「はい、今から図書室に行って本を借りましょう」という時間が設けられると思います。
 これは素晴らしいことなのですが、この時に少し心配事があるのです。
 
 1年生は、決められた時間内に図書室で自分好みの本を選べるのか…ということ。
 幼児期から図書館通いをしていたり、すでに読書習慣のある子ならいいのですが、そうでない場合はあの膨大な本の中から「これ」という本を選べるでしょうか?
 先生や司書さんにうまく相談できればいいですが、そもそも読書習慣のない子には相談もなかなか難しいでしょう。
 
 「これでいいか」と適当に選んだ本が読んでみてイマイチだった場合、「やっぱり本ってつまんない」と気持ちが離れてしまうのではないでしょうか・・・。
 
 「選べない」のが悪いとか、「選べる」子は偉いとか、そういう話ではありません。
 「自分で選んだらおもしろくなかった」という体験が残念なのです。
 
 もしもこの時点で図書館通いの経験があれば、「ママ(パパ)と行ったからわかる!」「この辺にこんな本があるんじゃないかな」「この本知ってる!」
 ・・・という嗅覚のようなものが少しは備わっていると思います。
 
 入学した時点で図書室が大好き・・・までいかなくても、「この雰囲気に慣れている」という状態になっていたら、子どもにとってプラスにこそなれ、マイナスなことはひとつもないと思うのです。
  
 

〈気軽に動画…はネットジャングルへの入り口に〉

 
 読解力や、文脈に対する理解力、社会経験の乏しい子どもが「インターネットの動画」に触れることに私が危機感を感じているのは、何も「本好きになってほしいから」だけではありません。
 
 ゲームは(中毒にさえならなければ)家族や友達と一緒に遊べる楽しいコミュニケーションツールでもありますし、また、子ども向けの「楽しい動画」「ためになる動画」は何が悪いの? …と思う人もいるでしょう
 
 実は最近、友人とこの話をしていて、「素朴な疑問なんだけど、テレビのアニメや映画は良くて、ネットの動画はダメな理由って何?」という話が出ました。
 
 そうですよね。そう思いますよね。
 
 たしかにユーチューブには良質なチャンネルが多々ありますし、私も「それだけ見る」のならいいと思います。
 大切な人とつながったり、勉強やレクリエーションのために小さな子どもでも大人と一緒にネット環境を利用することはあるでしょう。
 
 それだけなら、いいのです。
 
 でも、今の時代スマホやパソコンで見る動画は、子どもにとって簡単にネット社会への入り口になります
 「こういう世界があるんだ」と知った時の子どもワクワク感、好奇心は大人が抑えきれるものではありません。
 
 一度自分で操作を覚えると、あっという間に大人の目の外へ飛び出してしまいますから、入り口を見せるのが早すぎることのデメリットは想定しておいたほうがいいと思います。

 小学生の子どもを持つ友人が、「気づいたら子どもが一晩中、家のパソコンでネットサーフィンをしていた…」と頭を抱えていたのも聞きました。
 
 インターネットはまだまだ整備されていない、未完成なメディアだと私は思います。
 言い方を変えればメディアとして確立されている素晴らしいツールやコミュニティも数え切れないほどありますが、同じくらい子どもが足を踏み入れてはいけない未開の地や沼がある
 
  好奇心旺盛な子どもをジャングルの入り口まで連れて行き、最初は整備された公園だけで遊ばせても、大人が目を離した隙に「あっちのほうがおもしろそう!」とどんどん奥地へ進んでしまいます。まだ道順も危険の存在も知らないのに・・・です。

 私は、子どもとネットの世界をつなげるのは、まだ怖いなと思っています。
  それなら、おもしろい本をたくさん読んでほしいです。

 つづきます。

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