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#YA小説

拒絶反応を超えて

拒絶反応を超えて

佐藤まどか著『リジェクション 心臓と死体と時速200km』(講談社、2016年)

この本は心臓移植を題材にしている上に、副題に「死体」の文字も見えるので、読み始めるまでに時間を要してしまった。私は付き添いとはいえ2年にわたり自宅と病院を往復し、通算半年間も入院生活を送ったことがある。そのため医療もの全般に拒絶反応があり、移植なら尚更だった。

もう10年以上も前になるが、患者会の会報用に月1回の

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オオカミ神話を覆す物語

オオカミ神話を覆す物語

那須田淳 『ペーターという名のオオカミ』(小峰書店、2003年)

すごい本に出会ってしまった。随分前に出版されていたのに、今まで読まなかったのが悔やまれる。もう社会人になってしまった息子たちの若き日に、ぜひとも読んでもらいたかった。

『赤ずきんちゃん』はじめ「ピーターと狼」でも悪者のイメージが強い狼だが、これはペーター(ピーター=人間)とオオカミ(動物、自然)を本来あるべき位置に取り戻す物語だ

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ファンタジーへの誘い

ファンタジーへの誘い

斉藤洋 作・小澤摩純 絵 『ジーク』(偕成社、1992年)

あまりにも素敵な表紙だったので「自分にはハードルが高いかも」と長らく積ん読状態だった1冊。斉藤洋さんは大好きな作家さんだから、挫折したくなくて身構えすぎたんだと思う。

もっと早くに読むべきだった! 私でも読めたんだから、未読の方はぜひ!

たとえていうなら、「なん者ひなた丸シリーズ」の西洋版青少年部門(笑)ちょっとこわそうだけど安心し

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空を見上げるとき

空を見上げるとき

工藤純子著『セカイの空がみえるまち』(講談社、2016年)

異国の地に降り立つと言語や風習のみならず空気の匂いも違う気がして、ふと空を見上げたものだった。この空は同じはずなのに、と。

久しく東京を離れている私は、新大久保がコリアンタウンのある「明るい街」へと変貌を遂げたことを今回初めて知ったのだが、読み進めるにつれ「明るさ」とは裏腹に外国人にたいする差別や偏見のうごめく闇の深さをも思い知ること

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学校の問題に真っ向から挑む

学校の問題に真っ向から挑む

工藤純子著『あした、また学校で』(講談社、2019年)

クラス対抗リレーやなわ跳び大会がある度に「あいつがいるから勝てない」「おまえのせいだ」という声が飛び交い、運動苦手なこどもが肩身の狭い思いをするのは、学校あるあるの話。

でも、この本は、そんな弱い立場のこどもを教師が叱るところをしっかり描き、学校が抱える課題に真っ向から挑んでいる意欲作だ。

「こんなん書いて大丈夫なの?」「出版社どこ?」

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『風の陰陽師』シリーズに震えた

『風の陰陽師』シリーズに震えた

三田村信行『風の陰陽師』シリーズ(ポプラ文庫、2010~11年)

初版2007年刊行のこのシリーズは
マンガ化もされているため
ご存じの方が多いと思う

私は『ハリーポッター』でも
夢に出てきてしまうほど怖がりなので
この類いの物語は基本読まないのだが
同著者による『安寿姫草紙』で免疫ができて
今ごろになって初めて陰陽師シリーズに挑んだ

目の前にはっきり情景が浮かぶほどリアルで
もちろん恐ろし

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私にとっての『セイギのミカタ』

私にとっての『セイギのミカタ』

佐藤まどか作・イシヤマアズサ絵 『セイギのミカタ』(フレーベル館、2020年)

「みんながほんのちょっとずつ勇気をもてば、なにかが変わるかもしれない」――そんな著者の思いが詰まった1冊

赤面症でトマトマンと呼ばれる主人公の前に現れる
セイギのミカタ
直球ストレートできたかと思ったら変化球で
最後まで目が離せない展開だ

小学4年の時
私は2度目の転校で
1年の時と同じ小学校に戻った
すでに知っ

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ありのままの不思議

ありのままの不思議

三田村信行『オオカミの時間 今そこにある不思議集』(理論社、2020年)

三田村信行『おとうさんがいっぱい』以来
45年ぶりの佐々木マキとのコラボ『オオカミの時間 今そこにある不思議集』

※『おとうさんがいっぱい』は頭木弘樹編『絶望図書館』にも収録

世の中は理性で説明できることばかりではない
にもかかわらず
「子ども向け」にするために
大人は余計な脚色を加えてはいないだろうか

この2つの作

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病気の友だちと介助犬と『おいで、アラスカ』

病気の友だちと介助犬と『おいで、アラスカ』



てんかんの患者さんを支える介助犬が
飼い主と元飼い主の狭間でどんな選択をするのか

スリルある展開に心奪われつつ、一気に拝読

介助犬やてんかんの知識はもとより
SNSの怖さや
上手に使いこなした際の威力についても盛り込まれており
楽しみつつ学ぶことができる

が、それ以上に
病気や障がいを抱える友だちと
どう接したらよいか
深く考えさせてくれる本

また素敵な本に出会えた

芸術の秋にこの1冊『アドリブ』

芸術の秋にこの1冊『アドリブ』

イタリアの国立音楽院に通うユージは
進路に悩む15歳

10歳の夏にフィレンツェの大聖堂で
同音楽院の生徒たちの演奏を聴き
フルートの音色に魅せられて以来
フルートを学ぶことを決意したのだった

ユージにはきっと芸術的センスがあるのだろう
とりわけ音楽や美術の道には
生まれもった才能が不可欠だと信じる私は
主人公がとても遠い存在に思えた
 
ところが
音楽院の入学試験に
フルートすら持参せずに挑ん

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