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読書記録

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#読書

日日是好日

日日是好日

にちにちこれこうじつ = 毎日がよい日(晴れの日も雨の日も・・・)

学生時代に茶道にのめり込んだ友人がいたのだが、形式ばった作法の素晴らしさをどれだけ聞かされても、何がいいのか私には全く理解できなかった。和菓子には苦味のある抹茶が似合うとは思うけれど、足が痺れてでも茶室に通いたい人の気持ちが知れなかった。この本を読むと、そんな私でも茶道の世界の魅力がなんとなくわかるような気がしてきたから不思議だ

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カフカをともに

カフカをともに

GW中に100分de名著の再放送を視聴したのをきっかけに、フランツ・カフカの『変身』(中井正文訳 / 角川文庫、1952年)を読み直してみた。若い頃は、ある日突然虫になる風変わりな話としか思わなかったのに、今は冷徹なまでに現実を映し出した小説として胸に迫ってくるから不思議だ。

人生には急遽日常が変わることがある。不慮の事故であったり、大病を得たりして。一家の大黒柱が倒れて働けなくなった時の家族の

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ひきこもりの友

ひきこもりの友

この2年間、わが家は期せずしてライフスタイルを変えることになった。当初は少しの間だけだろうと高を括っていたのだが、やがて自身の心身にも影響が及ぶようになった。宅配を置き配に、対面販売を無人販売に切り換え、趣味やヘルスケアを断念しても、なんとか生きられる。運動不足で浮腫んだ顔も見慣れてしまえば気にならない。会いたい人とはオンラインで話せる。不便だと思っていた生活が、実は意外と便利なことに気がつく。あ

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山田太一『男たちの旅路』(里山社、2017年)

山田太一『男たちの旅路』(里山社、2017年)

「男たちの旅路」シリーズは、自分が中高生の頃の放映のため記憶が曖昧で後にDVDを買い求めたりもしたが、シリーズ全貌を確認できたのは里山社さんより脚本集が出てからだ。

まだ若かった私は、吉岡司令補のような上司がいたらいいとか、水谷豊演じるガードマンが面白いとかの反応がせいぜいだったと思う。おまけに、なぜ「男たちの旅路」で「男たち」に限定するのか、などと浅はかな見方しかできていなかった。でも今ならわ

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山田太一『想い出づくり』(里山社、2016年)

山田太一『想い出づくり』(里山社、2016年)

1981年このTBS TV金曜ドラマの放映を見逃した私は、多分に人生を損した思いで今ごろ脚本を手にした。若き日の柴田恭兵さんや古手川祐子さん、田中裕子さん、森昌子さんの面影を想像しながら読み進めるのは意外と楽しい作業だったが、老眼には上下2段組はややきつい。それでもあっという間に読み進めてしまったのは、脚本のもつ力の素晴らしさゆえと思う。

あらすじはドラマサイトに譲るとして、このドラマ放映当時の

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ありのままの不思議

ありのままの不思議

三田村信行『オオカミの時間 今そこにある不思議集』(理論社、2020年)

三田村信行『おとうさんがいっぱい』以来
45年ぶりの佐々木マキとのコラボ『オオカミの時間 今そこにある不思議集』

※『おとうさんがいっぱい』は頭木弘樹編『絶望図書館』にも収録

世の中は理性で説明できることばかりではない
にもかかわらず
「子ども向け」にするために
大人は余計な脚色を加えてはいないだろうか

この2つの作

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病気の友だちと介助犬と『おいで、アラスカ』

病気の友だちと介助犬と『おいで、アラスカ』



てんかんの患者さんを支える介助犬が
飼い主と元飼い主の狭間でどんな選択をするのか

スリルある展開に心奪われつつ、一気に拝読

介助犬やてんかんの知識はもとより
SNSの怖さや
上手に使いこなした際の威力についても盛り込まれており
楽しみつつ学ぶことができる

が、それ以上に
病気や障がいを抱える友だちと
どう接したらよいか
深く考えさせてくれる本

また素敵な本に出会えた

芸術の秋にこの1冊『アドリブ』

芸術の秋にこの1冊『アドリブ』

イタリアの国立音楽院に通うユージは
進路に悩む15歳

10歳の夏にフィレンツェの大聖堂で
同音楽院の生徒たちの演奏を聴き
フルートの音色に魅せられて以来
フルートを学ぶことを決意したのだった

ユージにはきっと芸術的センスがあるのだろう
とりわけ音楽や美術の道には
生まれもった才能が不可欠だと信じる私は
主人公がとても遠い存在に思えた
 
ところが
音楽院の入学試験に
フルートすら持参せずに挑ん

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