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2023年度の活動報告(概要)

みなさんこんばんは。
ため池のある暮らしのみらいをつくる研究者,柴崎です。2023年度のため池みらい研究所の活動(概要)をまとめてみようと思います。


1 はじめに(2023年度頑張ったこと)

研究所の運営や地域活動を発展させていくために,若手人材の確保および市町との連携を強化しました。

(1)若手人材の確保・育成

具体的には,地域課題の解決に向けた,大学生と地域の半年間の協働プログラム「ため池アクション」の企画・実施があります。

本プログラムでは,大学生と地域の交流活動をベースに,研究プロジェクトの立案・実施を通して,地域に継続して関わり続ける関係性の構築を目的に実施しました。その結果,参加した11名の学生(神戸大学,京都大学,兵庫県立大学の学生)のうち,8名は継続して関わり続けており,プロジェクトを継続・発展させています。思っていたよりも,継続的に関わってくれる学生がいて,我々も地域住民も大変嬉しく思っています。

2023年度のアーカイブは以下の通りです。

(2)市町との連携強化

各種プロジェクトを促進させるために,市町との連携を深めました。具体的には,兵庫県の事業「地域×大学×企業のひょうご絆プロジェクト」に申請・採択していただきました。

本事業を実施するにあたって,加古川市と稲美町との連携を強化してきました。さらには,稲美町と包括連携協定を締結することができました(2024年4月28日)。


2 実践・研究事業

大きく分けて2つの領域,7つプロジェクト, 19のサブプロジェクトを実施しました。これらのプロジェクトにはのべ24人がコアメンバーとしては関わっています。

2つの領域
(1)ため池サービスの維持・向上
ため池を適切に管理できうる体制を構築し、ため池が地域社会にもたらしているサービスを維持するとともに,新たなサービスの向上に向けた研究を実施しています。
① 次世代のため池管理人材の育成プロジェクト
②草刈りの継続実施に向けた仕組みづくりプロジェクト
③農業・地域資源管理のスマート化プロジェクト
④親水空間の創造プロジェクト
⑤ため池を活用したエコビジネス創出プロジェクト


(2)農業・農村資源の管理
ため池を含む農村資源は有機的に絡みあっており、独立して存在している訳ではありません。そこで、ため池と関連する農業・農村資源の管理・活用に向けた研究を実施しています。
⑥水を育む里山再生プロジェクト
⑦農業・農村の振興および担い手確保プロジェクト

具体的なテーマは以下の通りです(各プロジェクトの具体の内容については別途まとめます)。

(1)ため池サービスの維持・向上

次世代のため池管理人材の育成プロジェクト
社会を取り巻く環境が大きく変化するなかで,ため池を管理する人材を育成していくシステムも修正していく必要があります。ため池管理など「地域の誰かがおこなわないといけない作業」は,今後誰がどのように担っていくべきなのでしょうか。優良事例を収集するとともに,定量的なデータの収集・分析,実践活動をおこなってきました。

②草刈りの継続実施に向けた仕組みづくりプロジェクト
畦やため池の堤体の雑草の管理が大きな地域課題となっています。現状、個人や営農組織といった地域レベルの草刈り、シルバー人材センターなどにみられる広域レベルにおける草刈りサービスがみられますが、それらを補完するようなコミュニティ(「畔師」グループ)が生まれやすい環境づくりをおこなってきました。これまで,播磨畦師などのグループが生まれています。
 
③農業・地域資源管理のスマート化プロジェクト
人口・農家が減少していくなかで,農業・農村資源の新たな管理の方法を作っていくことも必要だと考えます。IoTなど新たな技術を駆使し,管理の効率化に資する技術の開発をおこなっています(ため池の監視システムや水田向け自動給水装置など)。また,開発するだけでなく,開発〜普及プロセスへの市民参加のあり方を探求してきました。
 
④親水空間の創造プロジェクト
ため池を地域の魅力として位置づけるためには,ため池を含む集落景観を親水空間としてより活用していくことが望まれます。活用するためには,どのような課題があるのでしょうか。また,活用していくための仕組みとして,どういった可能性があるのかを探求してきました。
 
⑤ため池を活用したエコビジネス創出プロジェクト
ため池の新たな活用方法としてのエコビジネスの可能性を探求しています。現状,ため池のビジネス的利用していくにあたって,どのような問題や課題があるのかを整理するとともに,価値観の異なる主体の間に入り、バランサーとしての役割を担っています。また,新たなビジネスモデルの創造に向けた取り組みに着手しています。

(2)農業・農村資源の管理

 水を育む里山再生プロジェクト
ライフスタイルの変化に伴い、管理されなくなった里山も多くみられます。しかし、里山の中には、価値のある資源も多く存在します。そういった資源を活用するための活動を展開・サポートしています。具体的には、山採りした木々を、お店などの植栽として活用するなどの仕組みづくりをおこなっています。*山採り:自生している幼木を掘り起こし、他の土地に活着させること
 
⑦農業・農村の振興および担い手確保プロジェクト
東播磨エリアは,都市と農村が近く,それらの連携には大きな可能性があります。都市と農村の交流を促し,地域に定着する人材の確保に向けた取り組みをおこなっています。また,農業振興に向けた基礎的な調査や実践活動を実施・サポートしています。

3. 場づくり

(1)交流活動事業

ため池みらい研究所の取り組みの理解を深めるフォーラムやセミナーを5つ開催しました(のべ39回・628人が参加)。大きくは以下の4点があります。

ため池みらい交流会
活動を発展させていくムードづくりのために,年に1度開催している交流会です。研究員の日頃の活動・成果を共有するとともに,新たな連携の糸口となるような交流会です。昨年度よりも参加者が多様化・多くみられ,活動が徐々に認知されていることを実感しました。

集合写真。2022度の交流会よりも参加者が多様化・多くみられました。
研究内容をまとめたポスターをもとに交流。

ため池アクション
先述の「ため池アクション」の実施および終了後の継続支援をおこない,プロジェクトを生み出してきました。

草刈りネットワーキング
草刈りに関わる人材の確保に向けたネットワークを構築するために,「播磨畦師」と連携し,草刈りを楽しむ「草刈りフェス」を加古川市志方町にて開催しました。また,草刈りに関心を寄せる人々の交流会を定期的(5回)に開催しました。

農村みらいスクール
各種プロジェクトに新たに参画する新たなメンバー確保に向けて,老若男女が集いやすい場づくりを東播磨フィールドステーションにて実施しました(計10回)。

(2)相談・窓口事業

地域課題等に関する住民からの相談に対応し、必要に応じてアドバイスや対応先の紹介を行ないました。相談件数はのべ96件となります。過去の相談件数と比較しても同等程度の件数でした。視察・講演数は8件(大学や企業など)で,相談者や相談内容の概要は以下の通りです。
【相談者】地域住民,企業,行政,大学・研究機関など
【内容】水や緑に関する地域資源の適切な管理やビジネス・レジャーなどへの活用,地域づくり,場づくり,計画策定,資源(ヒト・モノ・カネ・情報)の紹介など


4. 広報事業


東播磨フィールドステーションとため池みらい研究所に関する情報共有を図るため、紙や電子媒体(sns)等を利用し広報をおこないました。主要メディアへの掲載は,これまでで最も多く掲載いただきました(計11件)。また,snsのフォロワー・アクセス数も微増傾向にあります。

メディアの掲載実績(主要なもの)
1  ため池みらい研究所の紹介/加古川市 広報 / 2023.6.1
2 ため池アクションについて/yahooニュース / 2023.7.29
3 ため池アクションについて/神戸新聞/ 2023.8.1
4 草刈りフェス案内/神戸新聞/ 2023.10.17
5 ため池アクション(国産コットン生産と地域ブランド)/神戸新聞/2023.10.30
6 ため池アクション(地域めぐりのマップづくり)/神戸新聞/2023.11.23
7 草刈りフェスの実施について/農林水産省HP/2023.12.1
8 ため池アクション(地域めぐりのマップづくり)/神戸新聞/2024.3.5
9 ため池アクション(国産コットン生産と地域ブランド)/神戸新聞/2024.3.12
10 ため池アクション(地域めぐりのマップづくり)/神戸新聞/2024.3.25
11 稲美町との連携協定締結に関して/神戸新聞/2024.4.3


5. 施設管理事業

東播磨フィールドステーションの利用者が安全で安心して施設を使用できる施設空間を維持しました。具体的には,外観の魅力化としては山採り植物を活用した植栽(「⑥水を育む里山再生プロジェクト」の一環で,学生が植栽を実施),内観の魅力化としては,照明器具の改善やバックヤードの整理・リフォームなどをおこないました。

山採り植物を活用した植栽。
どんな樹種が植栽として活用できるか実験中。

開室日や訪問人数は,開設以来最も多く,176.5日,のべ1199人となりました。これは,研究所の運営やプロジェクトのコアに関わる人材が増えたためだと考えられます。

【参考】東播磨フィールドステーションへの年間のべ来場者数(開室日数)
2019年度 1,097人(171.5日)
2020年度 759人(159日)
2021年度 906人(188日)
2022年度 805人(135日)
2023年度 1,199人(176.5日)

6. その他

上記の活動を実施していくにあたって,関係者間の情報共有・相談・戦略策定の場として,大きく2つの会議の運営をおこなってきました。

(1)5者協議会(略称)の会議

5者協議会とは,5者(東播磨県民局,神戸大学,兵庫県立大学,京都大学,ため池みらい研究所)で締結した連携協定(2022(令和4)年4月1日)に基づく取り組みの円滑な運営を図るための協議会です。今年度は計8回,会議を開催しました。

具体的な活動・議題としては,5者協議会総会の開催,今後の運営方針,ため池みらい研究所通常総会議決内容報告,ため池アクションの内容,県民局の活動評価指標について,包括連携協定の内容,若手人材を確保する方法,ため池みらい交流会について,市町との包括連携協定の締結に向けて,ため池みらい研究所の運営体制などがありました。

(2)ため池みらい研究所理事会/検討会

ため池みらい研究所理事が参加する会議で,毎月1回ほどの頻度で開催してきました。主な議題は以下の通りです。

2023.7.14:市町との連携協定締結に向けて,組織運営について(ビジョン再設定,研究所の人材について,パンフレットと会員募集チラシ,視察料)
2023.8.18 :市町との連携協定とプロジェクトの内容,組織運営について(ビジョン再設定,研究所の人材とお金(予算),賛助会員の増やし方),来年度のため池アクションについて 
2023.9.8,2022年度総会議案の内容,組織運営について(理事会の進め方,ため池みらい研究所への関わり方,事務局の仕事と役割,新たな人材(有償),研究所のビジョン再設定(定款の修正),プロジェクトについて(草刈り問題の解決に向けて)
2023.10.13 :組織運営について(稲美町との連携協定締結,研究所の若手人材,定款見直し),各市町と連携していくプロジェクトについて
2023.11.10:組織運営について(理事へのヒアリング結果共有,稲美町の連携協定の進捗状況報告,理事会の開催頻度・内容,定款見直し)
2023.12.22 :検討委員会の位置づけ,意思決定の方法
2024.1.12:農業・地域資源管理のスマート化プロジェクトについて2024.1.26 :「ため池みらい交流会」について
2024.3.8 :組織運営(稲美町の連携協定および締結式,来年度の体制,総会に向けて,「ため池みらい交流会」について   

7. さいごに


ここ数年間にわたって日本企業における人材育成の手法として,「越境学習」という言葉が注目を集めています。越境学習とは、所属する組織の枠を越え(“越境”して)学ぶことであり、イノベーションや、自己の価値観や想いを再確認する内省の効果が期待されています。

我々が進めている大学・地域連携活動は,組織間の連携が不可欠であるため,越境は様々なシーンでみられます。

所属する組織が異なれば,これまで各人が思っていた「当たり前」も大きく異なります。例えば,「組織運営のあたり前」,「プロジェクトの進め方の当たり前」,「研究の当たり前」,「会議の準備・進行の当たり前」,「イベントの準備・実施の当たり前」,「大学・大学生の当たり前」,「行政マン・機関の当たり前」,「地域組織の当たり前」,,,

互いが互いを理解しようと耳を傾け,各人が思う「当たり前」を共有・修正し,主体間での新しい当たり前,言語を作りつつ,組織として成功体験を蓄積する。その過程が必要不可欠だと感じています(それには,結構な時間がかかり,会議をやっても決定事項がないなども多々あった)。徐々にではありますが,ため池みらい研究所を設立した当初(2021年)と比べると,我々の当たり前や共通言語ができつつあるように感じます。

何はともあれ,今年度も無事社員総会を開催することができました。2024年度は,新たな体制のもと,活動を発展させていきます。

今後とも何卒よろしくお願い申し上げます。

2023年度社員総会時の集合写真(2023.6.14)。社員は20代〜70代と幅広い。



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