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私たちの暮らしと自然の生態系とのちょうど良い関係とは? J-ADRES「自然の恵みと災いからとらえる土地利用総合評価」(総合地球環境学研究所)のサイト制作を行いました

気候変動に伴い、年々強大化する災害被害にどのように対処すべきなのでしょうか。

昨今の土砂災害が発生しやすい背景には、自然の生態系の変化によって起きていることが指摘されています。また、浸水被害でも、浸水を受け止める土壌や森林が減少したことで、街なかに雨水が流れ出てきています。災害の被害規模が大きくなる背景には、豊かな自然の生態系を壊している土地の活用方法にあると言われています。

こうした、私たちの足元にある「土地」のあり方に着目しながら、生態系がもつ多様な機能を活用することで防災・減災に寄与する「Eco-DRR」(Ecosytem-based Disaster Risk Reduction)という概念に着目した取り組みが始まっています。

Eco-DRRとは、豊かな自然の恵みと防災・減災が両立するための地域社会実現のための研究で、国レベルでも現在議論が進んでいるものです。

そのEco-DRRの考えをもとに、私たちが暮らす地域の土地利用に関する総合評価した成果を示すサイト「J-ADRES」(「自然の恵みと災いからとらえる土地利用総合評価」を英訳した”Japan’s Assessment of land use based on Disaster Risks and Ecosystem Services”の略称)を、総合地球環境学研究所(地球研)が開設しており、サイト開発や制作に私も参画させていただきました。(2021年、2022年実績)

▼J-ADRESはこちら

J-ADRESのウェブサイト

Eco-DRRプロジェクト(リーダー:吉田丈人 地球研客員教授・東京大学教授)の研究グループは、2010年頃の土地利用のデータをもとに、様々なデータをもとに日本にあるすべての自治体の「災害からの安全度」と「自然の恵みの豊かさ」の2つの観点から総合的に評価するJ-ADRESを2022年に5月に公開しました。

「災害からの安全度」とは、今の土地がどの程度災害リスクから回避できているのかを、さまざまな指標をもとに算出しています。「自然の恵みの豊かさ」とは、生態系や自然の豊かさがどの程度あるのかを算出しています。

これらの二つの観点をもとに、将来起こるかもしれない災害からの安全度と生態系・生物多様性がもたらす自然の恵みの豊かさを総合的に評価し、土地利用のあり方を考えるための指針とするものを公開しています。

また、サイト内では、各自治体毎の土地利用における総合評価を行った図表の作成、レーダーチャートによる各指標の度合いを見ることができます。自分が住んでいる自治体や他の自治体がどのような状態にあるか、点検することができます。

各自治体の総合評価とレーダーチャートによる各指標の度合いを測定しています

さらに、2023年春にアップデートを図り、2050年の将来シナリオ分析を行いその結果を盛り込んだものを公開しています。

シナリオ分析では、現状のままで土地利用を行った場合と、災害をできるだけ避けるように土地利用を改善した場合の二つのシナリオを作成し、その違いを比較することができる仕様になっています。

将来シナリオにおける2つのシナリオ分析とその比較

特に、改善した将来では、災害リスクの軽減とともに、生態系サービスそのものが向上するといった結果がでています。ぜひ、J−ADRESSで自分の地域や関心のある地域のデータなどを見てみてはいかがでしょうか。

地球研のプレスリリースでもサイトの概要を知ることができます

▼私たちの身近にある「土地」の使い方が地域の未来を左右する
~自然の恵みと災いからとらえる土地利用総合評価(J-ADRES) 第2版~https://www.chikyu.ac.jp/rihn/news/detail/240/

災害に強くしなやかで自然の豊かさを享受できる地域社会は、いかにして実現できるのか。そうした課題を、土地利用のあり方から考えるきっかけとしてのJ-ADRESです。

ここで示されたデータから見える景色は、これからの土地利用の政策について議論する叩き台になるはずです。それは、個々人レベルではなかなか実感を持つことは難しいかもしれませんが、自治体の政策レベルにおいてはとても重要な考え方です。

すでに国・省庁レベルにおいて、本サイトの情報をもとに都市計画や防災対策の参考にしていると聞いています。行政関係者や都市開発などに携わる人にとっても見るべき価値のあるものではないでしょうか。

J−ADRESSは自治体単位での分析にはなっていますが、流域思考の説明の際に触れたように、一自治体だけで完結するものではなく、隣接した自治体や大きな自然の生態系で暮らす複数の自治体同士での横のつながりや連携が重要になってきます。

気候変動や温暖化といった大きなテーマだけでは、なかなかピンとこない人も、気候変動や温暖化によって脅かされる自然の生態系が私たちの生活にどう影響しているのかを体感しやすくなるはずです。

なお、Eco-DRRについてや生態系と防災・減災について深く知りたい人は、地球研の研究者らがまとめた『生態系減災 Eco-DRR:自然を賢く活かした防災・減災』を読んでみると、より深掘りした内容を理解することができますので、ぜひご覧ください。

本プロジェクトは、Think the Earthの上田 壮一さんにお声がけいただき、私は本ウェブサイトの各種データの解説、指標の説明、シナリオ分析の解説ページなど、サイト内のテキスト・コンテンツ部分の制作全般を担当しています。

ウェブサイトのデザインと制作はSurface & Architecture さん。岡村祐介 さんディレクションのもと、複雑なデータをわかりやすく、見やすい仕様にしていただいています。チーム全体で、データをどのように表現するか、色んな確度から議論できたのはとても良い経験でした。

パートナー:総合地球環境学研究所
ウェブデザイン・制作:Surface & Architecture
コンテンツ制作:SPACEPORT (上田 壮一 )/TOKYObeta (江口晋太朗)
期間:2021年10月〜2023年4月(第一版リリース:2022年5月、第二版リリース:2023年4月)

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