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桂離宮 《3》

桂離宮に数ある建築のうち、白眉とも呼べる松琴亭(しょうきんてい )。

外腰掛をあとにして、林の中の小径を歩き、かすかに音を立てながら流れる小川を越えた辺りで、右手にちらりと姿を現す。
そして、すぐにまた、枝の陰に隠れる。

その、ほんの一瞬。
松琴亭と訪問者のあいだに、庭と建物がもっとも秀麗に映る距離と位置関係が形作られるように思えて、さらには覗き穴のような効果も加味されるものだから、ああ、とても心憎い仕掛けだな、と感心した。

やがて、道は池の端に出る。
遮るもののなくなった視界の先に、州浜・石組・松の植え込みを従えて、均整の取れた茅葺き屋根の一軒家が客人を迎える。

障子を開け放った装いが、いかにも涼し気。
いや、あかあかと差し込む西日が暑苦しそう?
実際、この日は、10月というのに、シャツ一枚で歩いても背中に汗の滲む、残暑めいた日和だった。
今日はだいぶ歩いた。足にも腰にも疲労が溜まっている。
靴を脱いで座敷に上がり、奥の薄暗い畳に寝転んで、そのまま昼寝したら気持ちよいだろうな。絶対に不可能だけど……。

白と藍の市松模様に彩られた襖は有名だ。
事前に橋本治氏の著作で予習して行ったのだが、氏の見立てによれば、縁側に置かれた青い石は、色といい形といい、市松模様の藍と平仄を合わせたのではなかろうか、と。
なるほど。読んでいなければ気がつけなかった。
桂離宮は「わかる人にはわかる」の積み重ねだ。これって究極の「京都人のいけず」なのかも?!

(訪問日:2022年10月2日)


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