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トロッコ日記―プロローグ―

 私はトロッコ。記者(汽車)に及ばぬトロッコ。

 トロッコといっても令和時代の若者たちには通じないかもしれないので説明すると、手元の辞書では「トラック(truck)のなまり。土木工事用の運搬手押し車で、軽便レールの上を走る四輪台車。トロ。」と書いてある。
 文字で読むと、よけいに小難しくなるが、ビジュアル的に分かりやすいのは、あのジョージ・ルーカス製作、スティーブン・スピルバーグ監督、ハリソン・フォード主演の人気冒険映画シリーズの第2作「インディ・ジョーンズ魔宮の伝説」で、主人公らが邪教集団から逃げだそうと乗り込み、猛スピードでレールを駆け抜けるあれだ。まあ、インディ・ジョーンズを見たことがなくても、フジテレビのクイズ番組「ネプリーグ」で回答者たちが乗り込む「トロッコアドベンチャー」をイメージしてもらえればと思う。

 新聞業界では「トロッコ」というと、本物の記者にはまだほど遠い新人記者のことを指す。だから、汽車(記者)になれないトロッコというわけだ。え?汽車なんて見たことないから意味が分からないって?うーん、汽車というのは、辞書によると「蒸気機関車によって客車・貨車を牽引し、レール上を運転する車両。」のこと。もっと分かりやすくいうと、SLね。あのSLに引かれてレールを走る車両を思い浮かべてほしい。かの松本零士先生の名作コミック「銀河鉄道999」にも出てくるよね。何?読んだことない?しょうがないなあ。そういう人はGoogleで画像検索でもしてみてね。とにかくSLに引かれてレール上をひた走る汽車の勇姿に比べ、人力でまさにトロトロと進むトロッコのか細いイメージが新人記者の拙さにぴったりというわけで、この業界用語のネーミングセンスが伝わるだろうか。

 さて、前置きが長くなってしまったが、私もかつて、そのトロッコの一人だった。平成の幕開けである1989年春に某新聞社に入社。それから30年間勤務し、平成が終わりを告げた2019年春に退職した。華々しい特ダネなどで活躍することもあまりなく、どちらかというと「記者魂」などというものには程遠かった生活を振り返ると、30年間ずっと本物の記者になりきれないトロッコだったような気がする。そんなトロッコなりの回顧談を、これからつらつらと書き綴っていこうと思う。トロッコゆえに熱血報道ストーリーとはなりえないことと、あくまで実体験をベースにした物語であることを断ったうえで、お付き合いいただければ幸いである。 
 

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