「なんでかわからない」のが一番怖い。
「最初から勉強。じゃなくていいんです。
話し相手になってくださったら。」
家庭教師として行ったご家庭からの言葉。
受け持つ彼は不登校。
僕はコミュニケーションが苦手だ。
翌日から、授業を始めた。
「なんでかわからないんです。」
どこかマイナスの気を帯びていた。
けれども人間不信という感じでもない。
きっと、彼はゆでガエル。
ゆっくりと、しかし、着実に
心を蝕ばまれていく。
自信喪失。
直接的な原因はわからない。
けれど、彼を元気にするために
僕ができることは
勉強を教えることだけ。
「正の数、負の数」が始まった。
中1の途中から学校に行っていない彼は
勉強がわからない。
文字や口だけでは伝わらないから
図を描いた。
ずいぶんと下手くそなそれが
役に立ったかはわからないけれど、
1つだけ大切にしたことがある。
「毎日1つは『できた!』を
持って帰ってもらうこと」
「小さな積み重ねが大事」とは
よく言ったもの。
自信喪失は、小さな積み重ね。
ある日突然できなくなる。
ということではなくて。
できない。
うまくいかない。
わからない。
積もり積もったマイナスが
一気に心から引き落とされる。
何の気なしに買っていたスイーツが
家計を脅かすのと同じように、
些細なネガティブの決算が
彼をドン底に沈めていった。
ならば、地道に、確実に。
正直、受験には間に合わないと思った。
教科書をほんの数ページ進むだけ。
彼はもう2年生。
そんな彼の母から来た
Facebookのメッセージ。
先生! 高校、合格しました!!
涙が出た。
彼は、勝ったんだ。
勝つまで自分で頑張ったんだ。
3回しか会わなかった僕に、
ネットで検索してまで連絡をくれた。
「先生。僕、友だちと一緒に
塾に行こうと思うんです。」
そう言われたあの日以来の衝撃。
本当に良かった。
自分の足で一歩踏み出す。
そこに関われたことは、僕にとっても
大きな、大切な一歩。
キッカケは数奇。だから、毎日を大切に。
彼と母には感謝しかない。
🍀気づきと、希望と、キッカケと。🍀 2年間、教師ののちテストを作る編集部 学童、パソコン教室を経て、 ゲーム関係のカスタマーサポート。 「生まれたての感情を孵してゆく」 https://mobile.twitter.com/EGG_TODAY