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東京に住む龍 第七話 女神原宿に遊びに行く③

 三月も終わり近く、桜の話題が出る頃、思いがけない人から連絡が来た。辰麿のスマホに胡蝶さんから連絡が来たのだった。原宿に行きたいのだけど、小手毬に案内をしてくれないかというものであった。

 翌日龍御殿の玄関に、着物姿の胡蝶さんと、流行を外してないカジュアルなパンツ姿の、お嬢さんの鬼百合さんが現れた。

「今日は気晴らしに原宿に行きたいの。このところ、くさくさしていることが多くて、ぱーとお買い物がしたいわ。裏原宿で、鬼百合とアクセサリーでも買いたいと思って来たの」

 鬼百合さんは野守さんと胡蝶さんのお嬢さんで、結婚してあの世と繋がりが出来てから、辰麿が小手毬のお友達にさせたいと、ずーと言っていた女性だ。はじめて逢った鬼百合さんは、スタイリッシュで母親より大人で、年上に見えた。

 不老不死のあの世の住人は見た目が壮年で止まるのがだいたい二百歳位なのだそう。母親の胡蝶さんは五十代にも拘わらず、二十代前半の女子大生にも紛う見た目で、お目目ぱっちりのアイドルのような容姿、その上、良家のお嬢様の美しい立ち居振る舞いをしている。愛いらしいという言葉はこの人のためにあるのだろう。ベージュ系の紬に、贅沢にも梅や桜、菜の花など多くの春の花が手描き友禅を施された控えめながら華やかな着物に、細かい文様が織りだされた、古風な帯を羽が大きく出た角出で結んでいた。

 娘の鬼百合さんは、羨ましいと言いたいくらいの、パリコレモデルを彷彿とさせる、長身でスレンダー。地獄随一の美形鬼の評判を持つ野守によく似て、父親そっくりの色白細面に切れ長の目に長い黒髪。何よりも鬼なのに角が生えていなかった。一月に地獄に行った時に、弟の医学部生の鬼灯君が教えてくれたのだか、鬼と天人のカップルに角が生える子供が生まれる確率は五十パーセントなのだそう、角がなくても驚くには当たらない。年齢は三十歳とのこと。最新モードとまでは行かないが、細身のデニムパンツにざっくりと編まれたセータを着ていた。人間に紛れてもこれなら分からない姿をしていた。

 人も振り向くほどの美人母娘が女神と鬼となんて、人間が正体を知ったらびっくりだ。

 小手毬は、父親の野守さんに貰った社会の教科書で読んで、この母娘が日本冥界を揺るがす事件に、合っていたことを知っていた。

 人間には、お嬢様アイドル風の母とクールビューティーな娘。見た目も母娘の年齢が逆転していて、鬼百合さんがお姉さんに見えるようだ。小手毬は辰麿に身体を操作された為なのか、妖の能力が少し身について、母娘にしか見えなかった。これは何なんだろう。

 三人は地下鉄表参道駅で降りて、地上に出た。女同士で御喋りをし続けた。原宿に着くと洋服屋アクセサリー店を覗いたり、冷かしたりしたが、母娘は商品をなかなか手に取って買おうとしなかった。小手毬は簪の専門店があったと思い出して案内した。これなら着物ばかり着る彼女たちにも、身に付けるられるかな、と考えたのだけれど、現代浴衣向けにカジュアル過ぎたのか、

 「気に入ったら何でも買ってあげるわ」

 と娘さんに言っても、日本髪を結うこともあるあの世の女性には嫌われたようだった。お昼になったので、原宿で話題の行列のできるパンケーキ店に案内した。女三人は話し放っなしだ。通りすがりの外国人観光客が不躾にも着物姿の胡蝶さんにスマホを向けた。罰当たりな事をする人もいるものだなと小手毬は思った。

「胡蝶さんと野守さんは何処で知り合ったのですか」

「うふふ、仕事でよー。共同研究をしていたの。私が天照大神の研究所で、宇宙空間の観測をしていたとき発見したの。もう小手毬さんは知っていると思うけれど、空を飛ぶ龍は姿を消しているでしょう。でも見つけちゃったの、微量の電磁波を解析していたら解かったのよ」

 胡蝶さんは青龍との因縁を話出した。

「私が天空の電磁波の解析をはじめ出して数ヶ月したとき、都内から立ち昇る波長を観察したの、これは龍だと直感したわ。成層圏を抜けた龍は大きくなって、体を地球二周りさせた。

 何でこんなことをするのだろう。私は疑問に思ったのよ。龍の電磁波を解明してまだ日が浅くて、データ不足だったけれど、地球を護るように体を巻きつける龍ははじめてだったわ」

「その龍は辰麿のこと」

「そうね。青龍=辰麿さんのこと、

 宇宙には高熱のレーザー光線が飛ぶことがあるの、あの世の科学者でもまだ解明出来ない事象です。青龍さんは自分の身を挺して地球を護ったのです。

 これを解析して龍だと確信が持てましたわ」

「胡蝶さんと野守さんが結婚したのは、うちの龍君?辰麿の青龍の所為だったのですか」

「そういうことに、なりますわよね。

 この件で天照大神様に呼ばれた野守は、翌日龍御殿に来て、男の子の体に戻った青龍さんが背中に火傷を負って、苦しんでいるのを目撃しているの。もう三十年以上も前の話ね。

 青龍さんは一人で地球の危機を救った。この事に付いて、何も話してくれないの、研究者としては、本人が話さないから、観察するしかないの」

「奴が偉そうにしているのは。そういうこともあるのか」

 辰磨のお公家様顔を思い出した。どんな時でも子供っぽい表情をするが、本心が見えない表情だ。

「あのう龍のやっていることは全部お見通し何ですか」

「地表近く成層圏から下は解析できないわ、それはプライバシー保護ということで。そうしないとへそ曲げちゃうでしょう。うふふ。実はまだ解析出来ないのよ。

 はじめて野守と会ったのは、辰麿さんの解析のレポートが出来た時よ。同じ龍の研究者として、天照大神様が、お父さんを呼んで引き合わせてくれたのよ、春に学校を出て働きはじめて、次の春にね。

 お父さんたら来ると、データに釘づけで、私の方を見ないの。ずーと下を向いていて、報告書を熱心に読んでいるの、そしたら、いきなり共同研究を申し込まれたの。それから私の顔を見て私が若いので驚ろいていたわ」

「野守さんのことは、その前から知っていたのですか」

「有名人ですから、テレビとか書籍で子供の頃から知っていました。あの人女顔でしょう、子供の頃は女性だと思っていたのよ。実物は上背もあるし、亡者の拷問では左に出る獄卒はいない鬼でしょう。実際に逢ったら凄みがあって驚いたわ。本当に鬼の中の鬼。

 私、その前に逢ったことがあるの、高天原の政庁は山の中腹に在るのだけれど、山の上の方には学校が沢山あって、私の通っていた高校もあったの。学生街なので古本屋も何軒もあるのよ。よく学校帰りに古本屋を梯子していたの。天女って知っています」

「知っています現世でも羽衣伝説で有名です」

「高天の原は天国の中心で、天帝様の威光で、天女が低空飛行をよくするの。低空飛行をしながら長い天人の羽衣の先を地面に引きずるのよ」

「まあ素敵」

「あれは素敵というものなのかしら」

「何か縁起良さそう」

「天の羽衣が頭の上をかすめるのは、事故だわ。

 古本屋の前で天人の羽衣が急に私の顔を撫ぜたの、後ろから飛んで来たので、視界が塞がれて、羽衣の先が脚に絡んで転んでしまったの、引きずられていた所を、古本屋巡りをしていた野守に助けられたことがあったわ。あの低い声で『大丈夫ですか』って声を掛けられた時はどきどきしたわ」

「お母さん、また惚気ている」

 鬼百合さんにからかわれても好きなんだな。何かで神妖の恋愛は冷めないと聞いた事があった。というか辰麿が言っていたか。冬の丸の内で野守さんからあわや交通事故のところ救われたことがあった。辰麿に術を掛けられて他の男性に魅了されない様にされていたが、長身の筋肉質の体に抱きとめられて、エロく思わない女性はいるのかと思った位だった。
 

前話 第七話 女神原宿に遊びに行く②
https://note.com/edomurasaki/n/n48b7b3c3fd33
つづき 
 第七話 女神原宿に遊びに行く④
https://note.com/edomurasaki/n/n22438601f2a5

東京に住む龍 マガジン
https://note.com/edomurasaki/m/m093f79cabba5

あとがき

あなたの隣を歩いている、女子3人組、女神と鬼と人間の3人組だったりして。着物姿の胡蝶さんを盗撮してネットに上げている人達が、地獄落ちにならないか心配です。


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