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東京に住む龍 第七話 女神原宿に遊びに行く④

<原宿女子トークまだまだ続きます。女神・鬼・人間の3人の話は尽きません>

「それと曼珠沙華君に聞いたのですが、胡蝶さんは、世にも珍しい『天然系女神』だそうですが」

「曼珠はそんなことまで小手毬さんに話したの」

鬼百合が呆れて言った。

「結婚を二人で決めた時、一番初めに天照大神様に報告に行ったの、そうしたら、私に女神になれ、地獄の住人の守り神になれと言われたの。

 私は只の天人で、野守は鬼神で参議ですので格が違います。それで神になる修行をお命じになられたのでしょう。

 小手毬もご存知でしょうが、日本のあの世は多神教で八百万の神がいるのが強みです。神になる研修所があって、講習を受けて検定試験に合格すれば、神になれるのよ」

「神様の研修所は難しいのですか」

「どうなのかしら、

 検定試験より婚約中受けた院試の方が大変だったわ。私は天国の官吏養成大学を出ただけで、あの世で一番難しい地獄大学の物理学の修士課程を受験したのよ。半年くらいで大学四年分の勉強を詰め込んだわ。

 天国の神研修所へは鬼火を背負って講習を受けたわ、受講生が結構多くて八百万神というのは本当なのか実感したわ。

 そういえば私は高天原高校の出身で、担任の先生が崇徳上皇でしたのよ、先生はのんびりしたかったのに、現生の人間達が祀るので、検定試験を受けたって、ぼやいていたわ。優しい先生で頼まれると断れない人なんですのよ」

「崇徳上皇って、『遊びをせんとや産まれけむ』の方のお子さんですよね。天狗になった伝説もある、保元の乱平治の乱の頃の天皇でしたっけ」

「あの方はご兄弟だったかしら。崇徳上皇陛下のお陰で楽しい高校生活だったわ。

 女神になっても研究と学生の指導に育児で、神様らしいことは全然できてないの。

 この前ラテン地獄のサタン様に、成就できましたってお礼を言われてのだけれど、私何かしたかしら、お話を聞いただけなのに」

「お母さん、そこが天然と云われる所以。ご親族の結婚のことね、外交部にレポートが上がっていたわ。

 悪魔は悪魔族以外と婚姻したがるので、だいぶ血が薄くなっきて、お父さんの話だと、あと五百年も経てば普通の妖怪になるんだって」

 前を歩くヤンキーのカップルが「女神」という言葉に反応し振り向いたが、不思議とそれ切りになった。小手毬は胡蝶さんと、天然女優と云われる若くて愛嬌のある女優さんが重なって見えてきたのだった。

 三人は女子トークをしながら、原宿から青山方向へ向かい表参道ヒルズの裏側のエリアにある、お昼前なのに行列が出来ているパンケーキ屋に到着。地獄の女子トークが聞かれるのではと、心配そうに尋ねたら、鬼百合さんが

「大丈夫、鬼を甘く見ないで、会話を完全に聞き取れない結界を張っているわ」

 それでも列の前後にわせにカップルがいるのに少しどぎまぎした。

 二十分程並んでハワイ風な内装の店内に入り、壁際の席についた。店内では山盛りの生クリームがデコレーションされたパンケーキをインスタグラムにあげるため、スマートフォンで写真を撮っている客が多くいた。

「ねえこれを見て」

 胡蝶さんが色紙型のあの世のスマホを見せた。そこにはインスタグラム、ピントレックスにある、着物姿の胡蝶さんの写真が集められていた。小手毬はスクロールすると、ギリシャのアテネ神殿とか、ニューヨークの五番街とか、カンボジアのアンコールワットなど海外の有名観光地で、胡蝶さんが和服姿でいるところを、ほぼ無断に写真に撮られ、勝手にSNSにアップされていた。

「野守が国際会議や外交で国外に出るとき、家族も付いて行って、よく現世観光をするの」

「この間、ドラゴンがうちの幽世に泊って秋葉原に連れて行ったりしたけれど、大昔から神妖は世界中旅行をしているのですね。現世に妖怪が一杯いるのかと思うと、びっくりです」

「大丈夫よ、私達は人口が人間に比べるとずーと少ないもの。現世は人間のものよ」

「胡蝶さん、このインスタの着物の写真は、どうしたんですか。沢山あるんですけど」

 いくらスクロールしても終わりがないくらい胡蝶さんの写真が続く、中には俳優かと思える妖しい美貌の野守さんも一緒に写っていた。野守さんは和装洋装が半々くらいだ。スーツ姿もニットのセータを羽織り仔細いに見ると現世になさそうな素材のパンツを穿いている姿もある。

「盗撮だよねーこれ!」

 小手毬は鬼をも恐れぬ人間の所業に、怖れたのであった。

 胡蝶さんに着物でなくて人間に紛れるように、洋服にしないのか聞いてみた。洋服が嫌いだそうだ。

 鬼百合さんの話では、鬼は亡者の探索やら、鬼の女性が多い十王庁の調査官は現世によく来るのだ。最近は便利なので鬼の男性職員の多くが、スーツを着て現世に来るようになっているそうだ。女性は着物のまま来ることが多い。姿を隠す術は妖一般が出来る初級技なので。特に鬼が得意とする、印象を残さない術も使えるので、地獄からそのまま直行することも多いそうだ。

 ざっくりとしたニットにデニムパンツのシンプルコーデが憎いほど似合う鬼百合さんが話すには、

「正直、洋服は嫌い。着心地が駄目ね。何万年何千年生きている人達ばかりだもの、昔の服がしっくり来るわ、天国の学校とかお役所は水干が制服です。高天原政庁に行くと、天帝様以下柿色の水干を着ているわ、あれは便利、袖をたくし上げたり、肩抜きできたり紐で絞ったりと好きに着れるし、きちんと着れば外国の大使にお会いすることもできる。地獄でも水干はお仕事で着るわ」

「子供の水干は便利で経済的ですのよ」

 胡蝶さんが子供の水干が、いかに良いのか話し出した。

「現世も同じだと聞いたのだけれど、束帯や直衣の装束は、大人物は生地幅一杯に縫われてだぶっとした、ワンサイズで縫われているわね」

「今の日本では水干は今様を舞う白拍子しか着ないみたいです。今様も雅楽の一種何だけど、マイナーでやる人は少ないのです」

「あらー勿体無いわ。大人物も子供物も男女共用で体型も関係ないわ、着方も色々あってお洒落が出来ていいわよ。

 子供用は特に化繊のものが既製品で売られていて、汚れたら洗濯機にぽぃ。サイズもスリーサイズしかなくって、現世の人間達は子供服がすぐ着られなくなると、困っているようだけれど、水干なら丈が余ったら腰帯でたくし上げることもできるし、本当に助かったわ」

 今度地獄に行ったら、水干を着た子供達をよく見てみようと小手毬は思った。

 ようやく来たパンケーキは、ふわふわのパンケーキに、ベリーが載ってこれでもかというくらい多量の生クリームとチョコソースが添えられている。他の客がするように、三人はスマホで写真を撮った。

 三人の着物談義は続いた。胡蝶さんに、

「やっぱりお振袖が一番。この近くに着物のお店はないの」
 

前話 第七話 女神原宿に遊びに行く③
https://note.com/edomurasaki/n/nbe380969806c

つづき 第七話 女神原宿に遊びに行く⑤
https://note.com/edomurasaki/n/nf39b9a899ab9

東京に住む龍 マガジン
https://note.com/edomurasaki/m/m093f79cabba5

あとがき

女子会は続きます。あなたの並んでいる人気のカフェの行列、前に並んでいる美人3人組、もしかして鬼だったりして?


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