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東京に住む龍 第七話 女神原宿に遊びに行く②

  翌日もドラゴンのリクエストにより、中野ブロードウェイに行くことになった。妖初級者の鈴木さんと、妖の世界に足を踏み入れたとは云え、何の術も使えない小手毬では心許ないので、上級妖の龍馬さんも付いて来てもらった。ドラゴン達は電車が気に入って又電車で中野に行きたいと言ったが、東京メトロや中央線内で、ドラゴンになったら、目も当てられないので、龍馬さんに小型バスをレンタルして貰った。ただ不安定なドラゴンの事を考えると、別に小型トラックを用意した方無難だとも思えた。

 中野に着くと不安定で急にドラゴンになることを考え、龍馬さんと鈴木さんは人目に付かないところで広めな所を、用心深く探した。龍馬さんは野守さんや鬼が使う、人間と出会っても印象を薄くする術も使えて、空間そのものに結界を張って透明化する術も使えた。アニメショップやオタク向けのお店で、五人のドラゴン達はノリノリでお買い物をし、興奮して当然のようにドラゴンに成りそうになると、隣の公園や、空店舗の中、これは龍馬さんの術で忍び込んで、落ち着いて人間の姿になるまでやり過ごしたのだった。

 中野ブロードウェイでは、辰麿から潤沢なお小遣いを貰った小手毬も大いに買い物をしたのだった。

 お昼は近くの高円寺に住む龍馬さんが、カレーショップを店ごと術に掛けて貸切りにし、人間の店主やホール係が、不思議とも思わなくさせた。ドラゴン達は寸胴鍋のカレーを、店主が何回も業務用炊飯器で炊いたご飯で食べまくっていた。付き添いの三人は普通に皿に盛ったカレーで食事しながら、呆れながら見ているのだった。午後は高円寺のスチームパンクの雑貨店や、架空天文学者のお店や、古着屋を巡った。古着屋ではドラゴンそっちのけで小手毬はアンティーク・リサイクル着物を買いまくった。

 ドラゴン達も遠慮したのか、翌日から幽世の洋館に籠って、現世日本のネット配信で、アニメを見たり、辰麿や小手毬の持っているコンパクトディスクやブルーレイをあの世の電子機器でコピーしていた。それでも散歩がてら一日に一回はご近所の現世に行った。そしてコンビニに商店街に行き、小手毬も付き添いで通訳などした。コンビニや商店街のスーパーでは興味津々に見て歩く五人の青年は、人間と同じだなと思った。

 別の日は辰麿が夕方神社を閉めるとよく行く、駅近くのレトロ喫茶店に、辰麿が連れて行ったりした。コーヒーとケーキの他、サンドウィッチやピラフのフードメニューやら、パフェやサンデーの類を沢山注文した。不審がられないのかとカウンターのマスターに聞きに行ったら、

「外国の人はたくさん食べるんですねー」

 と全メニュー五品づつ喰いそうな勢いの異常なことなのに、売上が上がって嬉しい程度しか思ってないのを、小手毬は妖が術を使って、現世で不審がられずに活動できるのは、こういうこともあるのかと、思ったのである。

 地獄から飛行機に乗って帰る前日、辰麿の提案でカラオケに行くことになった。興奮してドラゴンに変わってしまう危険性があるので、大きな部屋で入り口から見渡せない部屋を、ネットや眷属達からの情報で探し。朝のオープン時から日が落ちて夜になるまでカラオケボックスに居続けたのだった。

 ドラゴンと辰麿はノリノリでアニソンを歌いまくっていた。「鉄腕アトム」とか「ガンダム」の初代とか、小手毬からすれば歴史の彼方のアニメから、今期スタートの最新アニソンまで、次から次へ歌い踊り続けている。カラオケボックスに着いて早々五人は、頭が天井に着きそうなドラゴンに姿を変えてしまった。

「小手毬達も何か歌えば」

 辰麿は鷹揚に言ってくれが、付き添いに来た三人は入り口に陣取り、注文を取りに来る従業員にドラゴンの姿を見せないように結界を張ったり、気をそらしてフードや飲み物の注文をした。カラオケボックスの従業員は、密室内で事件事故が起こらないように、頻繁に来るのだが、ドラゴンが熱唱しているという最高の事件を見せないように、龍馬さんと鈴木さんとで対応したのだった。

 小手毬は辰麿に、

「隠し子じゃないのか」

 と言ってやったが、辰麿の説明によると、龍で一番若い龍は自分青龍なのだ。ドラゴンは別系統の神だそうだ。ドラゴンが鎮めるのは天変地異、火山噴火やら河川の治水だの、災害を治める西洋の神獣だ。対して龍は地表の天変地異になにも関与していなかった。

 ドラゴンは人間のために活動をしている。人間側の宗教が代わり多神教でなくなり、多くの神が天国に引き上げても、地上に残った。

 不幸なことに人間に怪物として退治殺害され、多くの仲間を失った。火山を鎮めようとして、人間からドラゴンに姿を変えたところ、騎士に殺害された仲間もいて不運な神獣だ。それでも健気にもドラゴンは地表の生物のために活動しているのだった。辰麿は、

「ドラゴン可哀そうなんだ」

 深く同情しているのだ。

 ドラゴンが地獄経由で帰国して、小手毬は龍神社の巫女をやりながら、幽世の竜御殿と現世を行き来し春休みを過ごした。達磨の眷属との交流も多くなった。もう妖怪が人間の振りをして東京の街を闊歩しても、小手毬には何の妖怪か分かってしまうようになっている。

 目白の先生の元に稽古に行きながら、同級生の伝手で東京の雅楽団のコンサートの手伝いをするということで、コンサートを只で見たり。七緒と原宿に遊びに行き、文化学園大生に人気のブティックを冷やかして、青山の取って置きのカフェでまったりした。

 三月も終わり近く、桜の話題が出る頃、思いがけない人から連絡が来た。辰麿のスマホに胡蝶さんから連絡が来たのだった。原宿に行きたいのだけど、小手毬に案内をしてくれないかというものであった。

前話 第七話 女神原宿に遊びに行く①
https://note.com/edomurasaki/n/nb4d8bbd76db6

つづき 第七話 女神原宿に遊びに行く③
https://note.com/edomurasaki/n/nbe380969806c

東京に住む龍 マガジン
https://note.com/edomurasaki/m/m093f79cabba5


あとがき

ドラゴン面倒臭い!龍もっと面倒臭い!鈴木さん、りゅーばさん頼りになる。(水神小手毬)




 

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