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[書評]仕事への意識にも通ずる、校正との向き合い方
こんにちは。エディマートの森永です。
私は編集という仕事に携わるまで、記事や出版物などができる過程を知りませんでした。実際に働いて分かったことは、企画を立てるところから印刷されて読者に届くまで、想像よりも多く、さまざまな職業の人が携わっていたことです。
今回の『エディマート読書部』のブックレビューは、編集の仕事のなかでも原稿の誤りや不備を正す「校正」に注目した本をご紹介。2017年に石原さとみさん主演のドラマ『地味にスゴイ!校閲ガール・河野悦子』(日本テレビ系)で校正者という仕事にスポットが当たり、聞いたことはあるという方も少なくないでしょう。
エディマートに入社して、私が最初に任された仕事はWeb記事の校正でした。本を読むことは好きだったので、文章を読む仕事なら自分でもできると思っていたのですが、これが意外と難しい!ゆっくりじっくり読んだはずが、誤字脱字や漢字の揺らぎなど基本的な誤りを見落としていました。
1つの誤植でも、文章の意味を大きく変えてしまったり、読者やクライアントからの信頼を失ってしまったりすることがあります。編集の仕事をするなかで、私自身も冷や汗をかく場面を何度か経験しました。
今回は、編集の黒子のような存在でありながら大きな役割を担う、校正の仕事に関する本をご紹介します。
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書籍情報
『文にあたる』
著者:牟田都子
出版社:亜紀書房
発行:2022年8月
この本を手に取ったきっかけ
私は編集の基礎となる校正作業に対して苦手意識をもっていました。読んでいるはずが見逃してしまう、何度読んでも見逃しているのではないかと不安に思うからです。
しかし、苦手だからといってやらないわけにはいきません。「できるだけ不安をなくして向き合い方を知りたい」と思い、校正に関する本や資料を探していました。
いくつか本があるなかで、本書の帯にある「本を愛するすべての人へ」というコピーが目に留まり、「これは読まなくては!」と直感的に選んだ覚えがあります。
どんな本?
フリーランスの校正者である著者の牟田都子さんが、校正の仕事について想いを綴ったエッセイです。「本を読む仕事」を10年以上続ける著者の、書物への止まらない想いや言葉との向き合い方、仕事に取り組む意識について書かれています。
本書には著者が校正に携わった実際の文章が掲載されており、校正指摘の内容やそれに対する著者の考えが紹介されています。校正のポイントが分かるだけでなく、校正者としての葛藤や解釈が添えられているので、似た経験がある人は共感することが多いかもしれません。
またトピックスごとに短いタイトルが付けられており、「あの日の空は」「気持ちはわかる」など、内容が気になるタイトルの付け方からも、書物に関わる人ならではの面白さが感じられます。
わたしの感想
この本は校正の仕事をしている人だけでなく、編集やライターなど文章に関わる人にとっても新たな発見や気づきがある一冊だと思います。
校正への向き合い方はもちろん、著者が新人の頃に教わった上司の言葉や本に携わる人々の働きぶりが垣間見える部分もあり、仕事への取り組み方についても考えさせられる内容でした。
今の私にとって印象的だったのが、「大きな箇所ほど」に書かれた一節。
校正の技術とは、突き詰めていくと思い込みや先入観をいかに排するかというところに収斂するのではないでしょうか。(中略)よりによってこんなところに誤植があるはずがない。その「決まっている」「よりによって」「はずがない」が油断を招き、見落としを生む。
本の表紙やタイトルなど、大きな箇所ほど「ほかの人も見ているだろう」という思い込みから思わぬ誤植を生んでしまうことがあるそう。本に限らず、私たちが手がけている新聞記事や雑誌、Webサイトなどあらゆる制作物の校正に対しても言えるでしょう。
著者曰く、長年校正に携わっている人ほど大きな文字は指先で筆順通りになぞったり、目から離して俯瞰する時間を設けたりするなど、工夫を凝らしているのだとか。
校正作業は熟練者ほど効率的に、自信をもって行っているものだと思っていましたが、本書を読んでみるとそうではないことが分かります。
自信は経験の蓄積で、拾えた経験が自信につながる。しかしこの自信とは、裏を返せば慢心です。
校正者として長く活躍されている方でも、校正を「自信の持ちにくい仕事」と表現していることが印象に残っています。それと同時に、私が校正作業に対して感じている自信のなさや不安感は、必ずしも悪いことではないように思えました。
校正への向き合い方だけでなく、仕事への向き合い方としても参考にしたいことばかり。興味があれば、ぜひ本書を手にとってみてくださいね!
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