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ラジオのイタリア人ラッパーさん、さっき「マジンガーZ」って歌ったよね?:Gli anni d'oro /Jake La Furia

イタリアのラジオに突如として登場
Mazinga Zeta(マジンガーゼータ)

ある日、ラジオを聴いてたんですよ。
ナポリのね、Radio Kiss Kiss っていう放送局の、イタリア語のオンリーの音楽番組が好きで、えぇ声のオラオラした男性ラッパーが、切ない感じで歌ってるのが耳に心地よくて「いいじゃん」って思ったんですよ。

Con mia madre sul divano a guardare Mazinga Zeta
オレは母さんとソファーでマジンガーZを見てた

え、今あなた「マジンガーZ」って言いました?
空にそびえる くろがねの城スーパーロボット マジンガーZ ですか?

なにせラジオなので、ちょっと止めて曲名を確認するなんていうこともできず、自分の耳を疑いながら「イタリアのラッパーがマジンガーZって歌ってた気がするんだけども?」って言ってみたところ、当時ランゲージエクスチェンジをしていたヴェネツィア在住の男の子が「よく聞き取れたね!」なんて褒めてくれたので、おおいに混乱しました。
まじでマジンガーZって歌ってたのかよ……

人生の底の柔らかいところから
懐かしい黄金時代を取り出してみる

それではまずは「マジンガーゼータ」を聞き取ってみましょう。

おとなしめの日本人感覚には、両腕のタトゥーがちょっとおっかないですが、なかなか優しい歌声ですよね。
では冒頭から。

Giù la pedivella
ペダルを踏んで
In due sopra la sella
サドルの上にふたりで
Lanciati per la strada
道を疾走して
Frá il cuore era una trivella
心臓は電動ドリルだった
Ricordo per chiamare
Non avevo il cellulare

呼び出し用のケータイも持ってなかったのを覚えてる
E la musica frà non era tutta uguale
それから音楽はどれもこれも同じじゃなかった

最後の trivella(トリヴェッラ) はピンときてないんですけど、スクリューをモーターで回転させて固いものに穴をあける機械のことを指すみたいです。よく工具を使う方なら分かるんですかね。あんまり手入れのされていなさそうな地域の道をチャリでかっ飛ばすシーンなので、幼い愛とスピードへのワクワク感で、心が震えてる表現なのかな~って、私は鑑賞してます。

ケータイのなかった時代を懐古したので、これがどのくらいの時期に子ども時代を過ごした年代の歌なのかが、なんとなく分かってきましたね。

Dovrei fare le somme
足し算をしてみるべきだろうな
E sembra che non so contare
でも数えることもできないみたいだ
Perfino alla mia famiglia
Non so più che raccontare

家族にさえも話すことが分からない
Da quando uso i contanti
Ho chiuso con tanti

金を使いだしてから、たくさんのやつと縁を切った
Mi credono diverso
Frá hanno chiuso i contatti

オレのことを誤解してたやつは、オレと縁を切った

ご出世なさったようで。
足し算をすることを〈fare una somma〉と言いますし、直後に〈contare/数える〉っていう語やお金に関する語が見えるので、とりあえず計算関連のワードを入れてみたんですけど、文系語彙で使うと〈somma/要約〉や〈contare/尊重する〉っていう意味もあるので、そっちのニュアンスが混ざっている気もします。その場合だと「家族に話してみたいことがあるんだけど、上手く言葉にできないや」って感じなんですかね。

イタリア文学といえばダンテの『神曲』に代表される韻文の伝統を有していますが、この曲もラップなので韻を踏んでます。
カタカナで書いて分かりやすいところだと、2行目の〈コンターレ(数える)〉と4行目の〈ラッコンターレ(語る)〉や、5行目の〈コンタンティ(現金)〉と6行目の〈コン タンティ(たくさんの人間と)〉と8行目の〈コンタッティ(連絡)〉は、慣れるまで同じ音に聞こえそうですね。

Pero io mi ricordo le partite
Per strada coi miei fratelli
Su un campo scassato che
ai nostri occhi sembrava Wembley

でもオレは試合のこと、覚えてるんだぜ
オレの兄弟たちとやったんだ、道端で
オレたちの眼にはウェンブリーみたいだった、掘り起こされた空き地で
Ricordo il Genio
Mentre scalvalca Zubizarreta
Con mia madre sul divano
A guardare Mazinga Z

あの天才のことも覚えてる、スビサレッタが頭越しのシュートを決めてるとき、オレは母さんとソファーでマジンガーZを見てた

サッカー選手の名前はディ・ナターレ(クリスマスの)さんとディアマンティ(ダイヤモンド)さんしか知らないので、ここはかなり自信がないのですが、ウェンブリーっていうのは有名なサッカー競技場があるロンドン近郊の都市で、スビサレッタさんというのはスペインの超有名サッカー選手なのだそうです。
スビザレッタさんが主語になっている動詞〈scavalcare〉は、飛び越えるだとか凌駕するっていう意味なのですが、どうもゴールキーパーの頭越しに決めた超ロングシュートがあるらしく、それのことかなって思ってこう訳しました。
サッカー好きのお知り合いがいたら話を聞けたかも知れないのですが、本の虫である私にはちょっとハードルが高いですね……ザッケローニ監督はかわいくて好きなんですけども。

で、ここでマジンガーZです。
イタリア語だと〈マジンガーゼータ〉って発音するみたいですね。
海外でジャパニメーションが人気っていうのは、ある程度は本当のお話でして、マジンガーZとかセーラームーンとかベルばらとかスラムダンクとか、あとイタリアではなによりルパン三世。

Frá le bombole e i graffiti
人形と落書き
Le macchie sui vestiti
洋服についた染み
Io ti guardo e tu mi guardi
オレはキミを見てキミはオレを見る
E sembra ci abbiano investiti
オレたち、まるで衝突したみたいだった
Siamo un re ed una regina
オレたちは王と女王
Un bambino ed una bambina
男の子と女の子
Frá il trono era una panchina
玉座は公園にあるようなベンチだった
E vorrei tutto come prima
すべてが元通りになればいいのに
Come gli anni d' oro
黄金時代みたいに

やっとタイトルになった〈Gli anni d'oro/黄金時代〉っていうワードが登場しましたね!

そもそも黄金時代っていうのは、ギリシャ神話に現れる過ぎ去った幸福の時代のことを指します。宗教は違いますが、なんとなく雰囲気を理解するくらいなら、とりあえずエデンの園を思い浮かべればいいんじゃないですかね。神さまに守られて、働くことなく手に入る食べ物でお腹を満たして、あらゆる不幸から隔絶されていた、すでに終わった過去の時代のことです。

この曲の「黄金時代」は、子どもだった日々のこと。
サッカーをするグラウンドもなかったけど、兄弟や友だちがいて、お母さんとアニメを見て、好きな女の子と公園のベンチに座っていることができた、あの幸福な子ども時代。新鮮な気持ちで音楽を楽しんで、サッカーのスター選手に憧れていた、子ども時代の自分。
そんな自分と見つめ合っていた、きれいなあの子。
感傷的でいいですね。

Gli anni d' oro del Grande Milan
偉大なミランの黄金時代
Gli anni di Van Basten e Van Damme
ヴァン・バステンとヴァン・ダムの黄金時代
Gli anni delle immense compagnie
大企業の黄金時代
Gli anni con il booster sempre in due
いつもバイクに二人乗りだった黄金時代
Gli anni di che belli erano i film
映画が美しかった黄金時代
Gli anni degli spacchi
In fondo ai jeans

ジーンズの裾が割れていた黄金時代
Gli anni della techno nell'hi-fi
hi-fiテクノロジーの黄金時代
Gli anni del tranquillo siam qui noi
オレたちがここにいる、穏やかな黄金時代
Siamo qui noi
オレたちがここにいる

これがサビになります。
挙げられている具体的な言葉には、ちょっと年代的にピンとこないんですが、言いたいことはよく分かります。

ここから先なのですが、歌のなかの時間が経ちまして、大人になった主人公はかなり稼ぐようになります。かつての友だちを見捨てたり、友だちの死に直面したりして、孤立を深めることもあれば、自分が叔父さんになったり、さらにお父さんになったりと、家族が増えることもあり。
生きているといろいろな変化が起きますよね。
だからこそ、もう変わりようのない黄金時代が輝くのでしょうか。

ラップをして偉っていられるのは、まだ自分の中に飢えがあるからだって歌う主人公なんですが、その欲望の向かう先っていうと、本物の愛や本物の友だちが身の回りにいてくれた過去。
今、持っているものといえば、愛人とお金ともの思いくらい。学校をサボってギャングスタ気取りだったあの頃のことや、見たこともないほど大きな目をしていた彼女のことが、頭から離れないわけですね。
そして、彼女への愛のことをまだ歌っているわけです。

イタリアのオラオラ系ラッパー
Jake La Furia(ジェイク・ラ・フリア)さん

このセンチメンタルなラップを披露してくれているのは、イタリア人ラッパーJake La Furia(ジェイク・ラ・フリア)さんです。人物についてはよく知らないんですけど、どうも私の好みに一致するみたいで、ラジオを聴いていていいなって思うとジェイクさんの歌だったことが多々あります。

これなんか、また今度の機会にご紹介したいです。

登場するビデオに登場する女性がめちゃくちゃカワイイので、強そうな女性にグッとくる方はぜひ見てみてください。

オマージュ元は883の「Gli Anni」

この Gli anni d'oro には、元ネタといいますか、オマージュ元になった曲もあるので、そちらにもリンクを張っておこうと思います。

こちらのアーティストは 833(オット・オット・トレ)というグループなのだそうで、タイトルは「Gli anni(歳月)」。
歌詞も違っていて、分かりやすいところだと、ジェイク版だと「ミラン」になっているサッカーチームの名前が、833版だと「レアル」になっているみたいですね。

イタリア人もラップするんですよ!

イタリア音楽っていうと、まずイメージされるのは古雅なオペラだとか、教科書に載っていたようなカンツォーネだと思うのですが、イタリア人も私たちと同じく2020年を迎えているわけでして、当然ながらポップスだって歌いますし、当たり前にラップもします

気軽にイタリア語へ耳を傾けてくださる同好の士を募るべく、こつこつ書いているこの note ですので、ぜひ「ふ~ん」と読み飛ばしていただき、頼んだピッツァが焼き上がるまでのあいだにでも、BGMで流れているイタリア語に「イタリア語じゃん」って思っていただければ幸いです。





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