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あなたが去って、もう幸せの味が思い出せない:La felicità ft Peter Cincotti/ Simona Molinari

イタリア人のポップジャズで聴く
終わった恋に執着する夏の過ごし方

なんとなく英語のポップスを聴くが如く、ごく気軽にイタリア語を聴いてくださる同好の士を増やしたい。その一心からイタリア語からの歌詞和訳エッセイを、こつこつ連載しています。今日のターゲットは、もはや去った愛しいあの人に縋ってみたい気持ちがあるあなた。ぜひ心の傷を掻きむしっていってください。

今回ご紹介するのは、気怠い夏にぴったりのピリッとしたポップジャズ
女性シンガーソングライターのシモーナ・モリナーリ(Simona Molinari)さんは、日本でのコンサート経験もあるので、音楽業界の人も日本人の好みに合致する歌手だって判断してるんじゃないかな。張りのある歌声が魅力的なので、とにかく一度聴いてみてください。

シモーナ・モリナーリの
「ラ・フェリチタ」を和訳してみた

それでは例によって和訳していきますね。

曲のタイトルは「La felicità(幸せ)」っていう直球さ。
まぁシアワセにもいろんな面がありますよね。

Ho fatto tanti errori che ripensandoci non farei
するもんかって思いながら、たくさん間違いを犯したわ
Ma a questo mondo dimmelo tu chi non sbaglia mai
でもこの世界に間違わない人がいるものなら誰か教えてよ

すごく口ずさみたくなると思うので、ちょっと発音をカタカナにしてみると「オ ファット タンティエッローリ ケ リペンサンドチ ノンファレィ, マ アクエストモンド ディンメロ トゥ キ ノンズバリィアマイ」くらいになります。

ここの2文目の〈dimmelo〉はアナタに対する命令法で、分解すると〈dire/言う+mi/私に+lo/それを〉になっています。この中性の代名詞〈lo〉が示しているのは、関係代名詞〈chi/誰が〉以下の内容〈chi non sbaglia mai/間違うことのない人〉ですね。
基本的に主語を省略するイタリア語なのに〈tu/あなたが〉が、しかも倒置されてあの場所にあるとなると、ちょっと強意して「あんたが私に言ってみなさいよ」って絡まれてる感じがしますね。なんだか聴き手としては自分に語りかけられてるような気がしてドキッとしちゃいます。酷い恋をした女友だちと、ふたりでワインを一本空けようとしてるときのドキドキ感があって好きです。

Ah, tutta colpa di quest’attimo di gelosia
あぁ、ぜんぶこの嫉妬の瞬間のせいなのよ
Io quella notte no, non dovevo andare via
私、あの夜、ダメだった、立ち去っちゃダメだった
Ero convinta sarei riuscita a cambiarti un po'
あなたのこと少しは変えられたって、悦に入ってた
Ero sicura che non mi avresti detto di no
あなたがイヤなんて言うわけないって、信じ込んでた
Io ti volevo in una vita che non era tua
私はあなたにあなたのものじゃない人生を求めてた
Io dicevo ti amo, tu mi dicevi una bugia.
私はあなたに愛してるって言ってたけど、あなたは私に嘘を言っていた

すいませーん、ワイン同じのもう一本お願いしまーす。

ここで覚えておくといいなって思う表現をピックアップすると、まずは〈colpa di .../...のせい〉ですね。残念ながらよく使います。特に di.... の後ろに人間を入れると、責任の押し付け合いができて便利です。たとえば〈non è colpa di me〉と〈me/私〉を入れると「私のせいじゃない」だし、〈è colpa di Paolo〉と名前を入れると「それはパオロのせい」って具合に責任者を名指しできます。

Ah la felicità
あぁ、幸せ
(But I need you back)
(でも君に戻ってきて欲しいんだ)
Non ricordo più che sapore ha la felicità
もう覚えてない、幸せってどんな味なのか
(Oh I need you back)
(あぁ君に戻って欲しいんだ)

ここがサビですね。
英語は得意じゃないんですけど I need you back って、たまに映画とかでかつて袂を分かった盟友みたいなキャラを、新しく立ち上げるチームに勧誘したいキャラが言ってる気がします。知らんけど。

Parto in vacanza tutta l'estate senza di te
休暇に行って、あなたのいないのひと夏
Il sole, splende, mi guarda e ride
Ride di me
輝く太陽が私を見て笑ってる
私を笑ってる
Quello che non voglio
No non lo so neanche io poi cos'è,

私が望んでいないモノ
それが何なのかは私にも分かんない
Di fatto sono sola qui,
Sono qui senza di te

結局、私はここにひとり
私はここであなたはいない

でも、私がいるんだし、それでいいじゃん。この夏は私がずっと一緒にいるから、元気出して。じゃーん、ジェラートだよ。ピスタチオ・ミルク・イチゴをどれも2㍑ずつ。お日さまの高いうちは、家で映画でも見ながらこれ食べてようよ。夜になったら散歩に行こう。きっとお月様がキレイだよ。海も静かだよ。花火も買っちゃおうね。

Io la mattina mi sveglio stanca
Avvolta da una sorta di indolenza

朝に目覚めたらもうへとへとで
もの憂さの一種に包まれてる
Mi vesto, mi spoglio, mi rimetto a letto
服を着て、脱いで、ベッドに戻って
Io la mattina sono già a lutto
朝にはすでに私は喪中
Io senza te non sarò più la stessa
私、あなたなしじゃもう同じでいられない
Vorrei tornare indietro, amore, aspetta!
前に戻りたいの、好きなの、待って!
Lo so che ho sbagliato e ti chiedo scusa
私が間違ったって分かってる、あなたに謝る
Amore io per te farei di tutto.
好きなのよ、あなたのためなら何でもできる

出ましたね、日伊翻訳における難所アモーレの訳語問題。
日本人に「愛しい人!」なんて言ったことないから、なんて訳していいのかいつも分からなくなるんですが、ここだけアモーレで置いておいてもなんだか違う気がするし、困っちゃいますよね。
ここでは日本人が追いすがるときに使う表現ってなにかな~って検討したうえで、とりあえず「好きなの」にしておきました。別れ話がこじれたときに、よく「でも好きなんだもん……」って言いがちですし。

たぶん一番ぐっとくるのは「朝から疲れててどうしようもないから、服を服を脱いでベッドに戻っちゃう」てくだりですよね。ここも発音をカタカナにしておくと「イオ ラマッティーナ ミズヴェリオ スタンカ, アッヴォルタ ダ ウナソルタ ディ インドレンツァ, ミヴェスト ミスポリィオ ミリメット アレット」くらいになります。

Non ricordo più che sapore ha la felicità
もう覚えてない、幸せってどんな味なのか
Perché senza te non so più cos'è la felicità
だってあなたがいなきゃ、幸せってなんなのかもう分からない
Non ricordo più che sapore ha la felicità!
もう覚えてない、幸せってどんな味なのか!

いいなって思うのが、ぜんぶサビが現在形なところ。
なんとなく聴いてた時は、手癖で「幸せってどんな味だったのか」って過去形にしちゃってたんですが、ここは〈che sapore ha la felicità〉なので直訳すると「幸福がどんな味を持っているのか」なんですよね。ふつうに考えて一般論の話をしてるんだろうな~とは思うんですが、私は深読みするのが趣味なので、その前に「私はもう覚えてないの」が入っていることから、たぶん多感だけど悲しみを言語化できるほど理知的なシモーナは、今も周りに存在している幸せを受け取る機能が停止している自分を冷たく見つめて、ひとり孤独の海にいるんだろうなぁって、勝手に涙に暮れてしまいます。美しい幼なじみの失恋に寄り添う女友だちごっこが楽しいです。

シンガーソングライター
シモーナ・モリナーリ(Simona Molinari)

最後に歌手について。
公式ホームページのBIOのところをチェックしに行ったのですが、その書き出しが〈Simona Molinari è una cantautrice popjazz〉だったので、彼女はどうやら「ポップジャズ」というジャンルのシンガーソングライターに分類されるようです。

ナポリ生まれのラクイラ育ちなので、どちらかといえば南部っ子。8歳から歌い始めて、ジャズだけじゃなくクラシックなども学んだ、音大(Conservatorio Alfredo Casella)卒の才媛なのだとか。
よくイタリアTV界の紅白歌合戦ポジションと説明される、サンレモの音楽フェスティバルでも活躍しています。

この曲でもコラボレーションしている男性歌手は、アメリカ人シンガーソングライターのピーター・シンコッティ(Peter Cincotti)さん。
3歳でピアノを始める人って実在するんですね。すごいなぁ。

イタリア語くらい気軽に聴いてみようぜ!

外国語をやるってなると、世界共通語でございますって顔した某言語に関する苦行が思い出されてオェッてなる方が見受けられるのですが、その点につきましてはイタリア語なんて気楽なモノです。
イタリア語ができなくて困るのは、旅行の時くらいですもんね。
だから学習ノルマがない!
強迫観念フリーのお気楽言語!
単語がいくつか聞き取れるだけで凄い!
分かんなくても聴いてるだけでエキゾチシズムに酔える!
イタリア語は楽しいですよ……!!!!!!

こんな感じでイタリア語の使われているコンテンツをご紹介しているので、よろしければ気楽にイタリア音楽に手を出すきっかけとしてご活用いただければと思います。

あと、今回は失恋の曲だったので、悲しみの癒えない皆さまにはこっちもオススメしておきますね……。

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