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サンレモ音楽祭2021で優勝したマネスキンの「いい子で黙ってろ」:Zitti e Buoni/Måneskin

サンレモでMåneskinが優勝した?!
お祭り騒ぎじゃん!!

 イタリアの年中行事といった趣きのあるイタリアン・ポップスの祭典サンレモ音楽祭(Festival della canzone italiana)が、めでたく2021年も開催されました。
 国中のお茶の間がテレビにくぎ付けになるところは、日本の紅白歌合戦を彷彿とさせるのですが、サンレモ音楽祭はアーティストたちが優勝を狙って競い合う形式になっています。
 そして今年優勝したのが、Måneskin(マネスキン)というロックバンド。なんだかイタリアのグループっぽくないですよね。バンド名はデンマーク語で「月の光」という意味だそうです。楽曲もあんまりイタリアっぽくないので、彼らの優勝はめちゃくちゃ大きなニュースになりました。

Zitti e Buoni って
どういう意味のタイトルなの?

 まずはタイトルなのですが、この Zitti e Buoni(ツィッティエブオーニ)というのは、子どもをおとなしくさせるときに使われるフレーズです。
 目の前にいる人に号令するとき、たとえば「(Va’) Avanti!/前へ(進め)!」のように動詞部分を言わないことがあり、このタイトルをフルで表記すると「(State) zitti e buoni!/(皆さん)黙っていい子に(していなさい)!」という風になります。

 こちらはサンレモ音楽祭でのライブ映像になります。いやホントにイタリアっぽくないですね。でもポップスの祭典で歌われたロックに、さらっとオーケストラが合流してくるあたりな、なんかすごく分かる~って感じです。
 では、歌詞をチェックしていきます。

Zitti e Buoni の歌詞を
和訳してみる

Loro non sanno di che parlo
Voi siete sporchi, fra’ di fango
Giallo di siga’ fra le dita
Lo con la siga’ camminando
Scusami, ma ci credo tanto
Che posso fare questo salto
Anche se la strada è in salita
Per questo ora mi sto allenando

アイツらはオレなにを言ってるのか分からない
アンタらは汚い、泥の仲間だ
指の間にタバコのヤニ
オレはタバコと歩いてるところ
すまんな、でもオレはマジで信じてるんだ
オレはこの飛躍ができるって
たとえ道が上り坂でも
今、そのために鍛えてんだよ

 乱暴な口ぶりの歌は略語スラングが出てくるので、教科書と辞書で語学を習得する非現地暮らし勢はちょっと戸惑いますよね。
 ここで出てくる単語だと《fra’》や《siga’》は、辞書に載ってないと思います。どちらも略語で、fra’ は「fratello/兄弟」の意味。これは英語の bro に当たります。次の siga’ は「sigaretta/タバコ」のことなのだそうです。
 同じような略語だと、SNSでよく使われる raga というのは、たぶん「ragazzi/若者たち」の略で、日本語でいう「みんな〜!」みたいなニュアンスなんじゃないかと思います。若者言葉って難しい。

 訳で「タバコのヤニ」とした giallo di siga’ は、直訳すると「タバコの黄色」になります。そういえばイタリアって、巻きタバコの愛用者さんが多いんですよね。一回だけ作らせてもらったことがあるのですが、なかなかおもしろかったです。もらいタバコするときは、混ぜ物にご注意を。

E buonasera, signore e signori
Fuori gli attori
Vi conviene toccarvi i coglioni
Vi conviene stare zitti e buoni
Qui la gente è strana tipo spacciatori
Troppe notti stavo chiuso fuori
Mo’ li prendo a calci ‘sti portoni
Sguardo in alto tipo scalatori
Quindi scusa mamma
Se sto sempre fuori, ma

こんばんは、紳士淑女の皆さま
役者は外に出な
アンタらタマでも触ってろよ
アンタらは黙ってお利口にしてればいい
ここじゃヒトってのは密売人じみてうさんくさい
オレは夜を外に締め出されて過ごし過ぎたな
今、オレはこの扉を蹴り始める
眼差しは登山家みたいに高く
だからゴメンなママ
もしオレがいつも外にいてばかりなら、でも

ここもちょっと口が悪いですね。
とくに「i coglioni/キンタマ」は伏せ字になっているのもよく見かけます。
 密売人としておいた spacciatore は、とくに麻薬の密売人を指していることが多いので、スパッチャなんちゃら…と聞こえたら、あまりそこに長居しない方が無難かも知れませんね。

Sono fuori di testa, ma diverso da loro
E tu sei fuori di testa, ma diversa da loro
Siamo fuori di testa, ma diversi da loro
Siamo fuori di testa, ma diversi da loro

オレは頭がおかしいんだ、でもアイツらとは違う
それにアンタも頭がおかしいぞ、でもアイツらとは違う
オレらは頭がおかしいんだ、でもアイツらとは違う
オレらは頭がおかしいが、でもアイツらとは違う

 ここがサビになります。
 fuori di testa というのは、英語でいう out of mind に当たります。testaは身体のパーツとしての「頭部」として使うことが多いですが、知性を司る「頭脳」や「分別」を意味することもあり、日本語に寄せると「思案の他」になっちゃってる状態といえるかも知れません。
 あとは、形容詞diversoがずらっと並んでいるので、主語の性数に合わせた活用を観察しやすいところなど、初級学習者さん向けにおもしろいのではないでしょうか。こういうところで、この歌の「tu/アンタ」が女性だっていうことが分かりますね。

Io
Ho scritto pagine e pagine
Ho visto sale poi lacrime
Questi uomini in macchina
Non scalare le rapide
Scritto sopra una lapide
In casa mia non c’è Dio
Ma se trovi il senso del tempo
Risalirai dal tuo oblio
E non c’è vento che fermi
La naturale potenza
Dal punto giusto di vista
Del vento senti l’ebbrezza
Con ali in cera alla schiena
Ricercherò quell’altezza
Se vuoi fermarmi ritenta
Prova a tagliarmi la testa
Perché

オレは
ページからページに書いた
オレは塩を見た、それから涙を
この車の中の人間たち
急流を昇るのは止めろよ
オレは墓標に書いた
オレの家には神がいないって
でももし時の意味を見つけたら
アンタは忘却を遡れるよ
そんでアンタを止める風はない
自然な支配力だな
正しい視点から
アンタは風に酔いを感じる
蝋でできた翼を背に
あの高さをオレはまた見つける
オレを止めたいならもう一度やってみな
オレの首を斬ってみろよ
だって

 日常生活や教科書であんまり見かけない単語に出会えるというのも、自分であれこれ読んでみることの喜びですね。まさか《rapide/早瀬》と《lapide/墓》が韻を踏むなんて、今日という日まで知りませんでした。

 このくだりに登場する「蝋でできた翼」は、たぶんギリシャ神話に登場するイカロスのことでしょう。幽閉されていた迷宮から、人工の翼で飛び立って逃げ出したものの、太陽に近づき過ぎて材料にしていた蝋が溶けてしまい、墜落死したという男の伝説です。
 これはアポロン(太陽神)へ到達しようとした傲慢さへの罰が当たって死んだのだということになっているのですが、ここでは「またあの高みへ戻る」という風に歌っているのが、失敗しても叩かれても挫けない意地を感じさせて、最高だなって思います。首を斬るくらいしないと、オレらは止まらないぜって、苛烈ですねぇ。若い。

続きはサビを挟んで次のとおり。

Parla, la gente purtroppo parla
Non sa di che cosa parla
Tu portami dove sto a galla
Che qui mi manca l’aria

話すよ、残念だがヒトってのは話すんだ
なにを話してるのか分かってないけど
アンタはオレをオレが水に浮いてるところまで連れて行け
そこには空気が足りてない

 最初の「parla」は、活用形がまったく同じなので、命令法二人称の「アンタ、話せよ」なのか、直接法現在三人称の「ヒトってのは話すんだわ」なのか、ちょっと判然としませんが、ここは後者を採りました。
 ちなみに「ヒト」って訳した《gente》なんですが、これは「人々」という意味の名詞で、英語では《people》にあたります。この女性名詞単数で人の集まりがガヤガヤしてるのをイメージしてください。複数形にならない不可算名詞なのも要チェックです。

 以後はくり返しになっている歌詞が多いのですが、その中にちょろっとした変更も見られます。たとえば Parla non sa di che cazzo parla にちょろっと忍ばせた《cazzo/陰茎》は、否定語といっしょに使うと「なんにも」というニュアンスが出て「アイツら自分がなに話してんのかクソほども分かってねーのに話すんだよ」と、もとの表現よりキツい言い方になっています。ちなみにカッツォは汚い言葉なので使わないようにしましょう

 あと最後のフレーズは Noi siamo diversi da loro となっていますが、イタリア語って動詞の活用などで主語が分かるようになっているので、主語になる代名詞(英語でいう I, You, He, Sheなど)って、あんまり使わないんですよね。
 あんまり使わないということは、使うと強調になるということなので、ここで Noi/オレら という主語をわざと入れてきたというのは、アイツらに対してのオレらという存在を際立たせる意図を感じさせます。若いロックスターが自己主張してる~って思うとかわいいです。

Måneskin(マネスキン)をもっと聞きたい

 えぇやん……と共感してくださった方もいらっしゃると祈っているので、ここで他の楽曲もご紹介しておきます。

 まず入門編にオススメなのが Chosen(チョーズン)。
 これは歌詞が英語です。私はイタリア語の方が得意なので、ちょっと苦労したのですが、キャッチ―でノリがいいのでよく分からないまま聞いても十分に楽しい曲です。あと映像がかっこいい。

 これはちょっとイタリアっぽい感じ。ギターがかっこいいんですわ。
 タイトルは L'altra dimensione/次の次元へ です。ざっくりした歌詞の内容は、人生のダンスホールにオレを連れ出してくれって感じですかね。絶妙に切ない感じがするんですが、たぶんライブでやったら盛り上がる。そういえば、マネスキンのツアーのタイトルもこの曲の Il Ballo della Vita/人生の舞踏会 から採られていました。

 それと、以前にブログで紹介した Ghali(ガリ) というラッパーも、マネスキンが好きならお好きなんじゃないかな~。どちらも反抗心と愛に溢れる感じがするので、私は近いものを感じて好きになりました。

 マンドリンの伴奏を従えたオーソレミオや、華々しい珠玉のオペラもステキですが、こんなイタリアもおもしろいですよね。
 そこで頷いたあなたは、すでに私の同好の士です。
 握手しましょう。
 気が向いたら、またnoteに遊びにいらしてくださいね!

おもしろそうな本があったので、
ついでにご紹介しておきます

 ところで、今回ご紹介したMåneskin(マネスキン)の楽曲「Zitti e Buoni」のタイトルにも出てくる《zitto/黙っている・おとなしい・口を利かない・抗議しない・意見を述べない》という形容詞について、おもしろそうな本が出版されたので、ついでにご紹介しておこうと思います。
 タイトルは「Stai zitta e altre nove frasi che non vogliamo sentire piú/ 黙れ女 と、ほか私たちがもう聞きたくないあと9つのフレーズ」です。著者はMichela Murgia/ミケーラ・ムルジャさん。
 イタリアもねぇ……なにかとあるからねぇ……。
 女は黙ってろって言うようなヤツにギョッとしたことがある人は、きっと洋の東西を問わずおもしろく読めるんだろうな。未邦訳です。

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