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リトルマーメイドの「パート・オブ・ユア・ワールド」をイタリア語で読んでみる

好きだから英語の曲を聴くように、好きだからイタリア語の曲を聴く同士を募らんと、こつこつ翻訳ブログを更新しております。出会いと別れの季節が到来していますが、それもまぁ人それぞれ。私の場合、この春はとくに出会いや別れや新天地とは縁がなかった様子。
 一抹の寂しさを覚えたので、新しい場所へ行きたい人魚姫アリエルの歌を翻訳してみました。

イタリア語版「パートオブユアワールド」
「La sirenetta」を和訳してみる

 まずはタイトルから。
 英語版が「Part of Your World」で、日本語版もそのままカタカナにした「パートオブユアワールド」になっているのですが、イタリア語版は「La sirenetta(ラ シレネッタ)」となっています。英語版と日本語版が「あなたの世界の一部」というタイトルなのに対して、イタリア語版の「La sirenetta」は「小さな人魚」、つまり「リトルマーメイド」になっているわけです。
 ただし、検索すれば「Parte del tuo mondo」とパートオブユアワールドの直訳でもヒットはします。

 ちなみに映画のタイトルも「The Little Mermaid」を直訳したLa piccora sirena ではないところが、イタリア語好きとしてはにこにこしちゃうポイントですね。語尾に-etto/-etta(-エット/-エッタ)という音を加えると「小さくてかわいい」というニュアンスが出ます。
 イタリア語で人魚Sirena(シレーナ)といって、これはギリシャ神話などに登場するセイレーンというやつです。歌声で船乗りを呼ぶ海の妖怪ですね。ちなみに大きな音を出す機械のサイレンのネーミングは、この妖怪に由来しているのだそうですが、イタリア語でサイレンは直球でSirenaのままです

 それでは歌詞をチェックしていきます。

Guardate un po’ quello che ho
È una raccolta preziosa, lo so
Vi sembrerà che io sia
Una che ha tutto ormai

ちょっと見て、私の持ってるものを
貴重なコレクションよね、わかってるわ
あなた達は思うでしょ、私は
とにかくすべてを持ってる女の子だって

英語版だとcompleteが入っているので、完全さというか、なんでもあるっていう完璧さのニュアンスがあって、日本語版も「これでもっと完璧」とそのイメージを引き継いでいるのですが、イタリア語版では〈completo/完全な、すべて揃った、欠けたもののない〉という英語のcompleteにあたる単語ではなく、敢えて〈prezioso/貴重な、尊い、大切な〉という語が選ばれています。
 英語版や日本語版だと、逆説的に「完璧なはずのコレクションに欠けているもの」を求めるハングリーさが出ていていいなぁって思うし、イタリア語版では「完璧」を後半の「すべて持ってる」に託してしまって、かわりに「大切なコレクション」という表現を入れたことで、海のなかでは無価値とされているものに価値を見出す、アリエルの広い視野や喜びに満ちた眼差しが活きてる感じがして、どちらもいいな~と思います。

Che tesoro, che ricchezze
Chi mai al mondo ne ha quanto me?
Se guardi intorno dirai:
"Oh, che meraviglie!"

なんて宝物、なんて豊かさ
世界で私ほど持ってる人なんているかしら?
もし見回したらあなたこう言うわ
「なんて素晴らしい」

 イタリア人がよくやる感嘆の表現〈Che+○○!/なんて○○だ!〉が多用されているので、ここで「こんなのがあるんだなぁ」と覚えていくといいと思います。
 たとえば、イタリア人がすごくステキなカバンを持っていたら、息を呑んでため息まじりに、万感の思いを込めて「Che borsa!/なんてカバン!」と言えば、めちゃくちゃ褒めていることが伝わります。
 逆に、じとっとした目で見て、嫌な顔で「Che borsa...」と吐き捨てると批判的なニュアンスになり、相手がTPOを守らないカバンを持ってきたこと糾弾するかたちになります。
 言い方ひとつで伝わりかたが真逆になるので、表現力と演技力を磨いてから使いたいところですね。

 ちなみに〈Che pizza!/なんてピッツァだ!〉と言うと「つまんねーな」という意味になるので、気を付けてください。そういう言い回しなんです。
 ピッツァが美味しいときには、ピッツァではなく美味しさに注目してChe buona!と言えばみんな幸せになれます。

Ho le cose più strane e curiose
Non ho nulla da desiderar
Vuoi un comesichiama?
Io ne ho venti!
Ma lassù, cosa mai ci sarà?

いちばん奇妙なでおもしろいものを持ってるの
欲しいものなんてないわ
なんていうかわからないものは欲しい?
私、20個も持ってるの
でも上には、どんなものがあるのかしら?

 ここ、英語版でも「は?」ってなる〈thingamabobs/(なんて名前か思い出せないんだけど)ほら、あれよあれ!〉が登場するパートですが、イタリア語版では〈un comesichiama/なまえなんだっけ〉となっております。
 英語に明るくないので、thingamabobsはthing以下をどうバラせばいいのかよく分からないのですが、イタリア語版のun comesichiama(ウン コメシキアーマ)は、一般的なフレーズ〈Come si chiama?/これはどう呼ぶのですか?〉をギュッと詰めて、名詞みたいに扱っているという語です。

 このchiamarisiという再帰動詞は、便利なのでぜひ覚えておきたいですね。三人称で使うと〈Come si chiama questo?/これはなんと呼ばれるものですか?- Si chiama l'apribottiglie./栓抜きといいます〉と、モノやヒトの名前を訪ねることが出来ますし、二人称と一人称の活用を覚えれば〈Come ti chiami?/きみの名前は?- Mi chiamo Paolo./僕の名前はパオロだよ〉と自己紹介し合うことができます。

Imparerei tutto, già lo so
Vorrei provar anche a ballare
E camminar su quei…
Come si chiamano?
Ah, piedi!

ぜんぶ習うわ、もう知ってることを
ダンスだって踊ってみたい
そしてあれの上を歩きたいの…
なんて名前だっけ?
あぁ、足!

 ここにも上記のchiamarsiが再登場してますね!
 どんな名前なのか尋ねたいモノがひとつで、主語が英語でいうところのitに当たるなら、chiamarsiの活用はsi chiamaになりますが、ここでは主語が2つある「足」なので、英語でいうところのtheyですよね。なので活用も複数形になってsi chiamanoになっています。

 ついでなので、chiamarsiの三人称(私とあなた以外のモノやヒトが主語になるとき)の例文を、主語が単数と複数の両パターンで作っておきますね。
単数:Lui si chiama Paolo./彼はパオロといいます。
複数:Loro si chiamano Paolo e Maria./彼らはパオロとマリアといいます。

Con le mie pinne non si può far
Vorrei le gambe per saltare
Ed andare a spasso per la…
Come si dice?
Strada!

私のヒレじゃできないわ
跳ぶための脚が欲しいのよ
それからあれを行ったり来たり…
なんていうの?
道!

 モノの名前を訪ねる表現にもいろいろあって、さっきの〈Come si chiama?(コメシキアーマ)〉と同じく、ここにある〈Come si dice?(コメシディーチェ)〉もよく使うので、覚えておくといいかと思います。
 意味的にはほぼ同じなんですが、文法的な違いの説明はややこしいので、この場では触れないでおきますね。

Vedrei anch’io la gente che
Al sole sempre sta come vorrei
Essere lì, senza un perché
In libertà

私も見られたらいいのにな
いつも太陽のしたにいる人たちを、私がやりたいみたいに
そこにいるの、理由もなく
自由のなかに

 ここの〈senza un perché〉っていうところ、お気に入りです。
 イタリア語をやっていて最初にであうperché(ペルケ)は、たぶん「なんで?」と質問をするための疑問詞になるかと思います。英語のwhyですね。
 ここでは冠詞がついているので疑問詞ではなく、理由、動機、目的、疑問や疑いというった意味の名詞のperchéです。

 よその国に憧れたことのある方には共感していただけると思うんですが、ほら……ビザの問題とかさ……。自分の所属していない場所に、理由もなくゴロゴロしていられるのって、ものすごく贅沢なことですよね。

Come vorrei poter uscir fuori dall’acqua
Che pagherei per stare un po’ sdraiata al sole

どうしたら水の中から出られるのかしら
ちょっと陽だまりに寝そべるためになにを支払えるかしら

 ここは英語版イタリア語版も同じく、支払うという意味のpay・pagareを使っていますね。日本語版だと「なんでもあげるわ」となっているので、対価を払って対等に取引しようという意志より、じぶんには投げ打つものがあるという、ある種ちょっと「持てる者」風の高飛車さを感じて、お姫さまじゃん……とドキドキしちゃいます。※個人的な感想です。

Scommetto che sulla terra
Le figlie non le sgridano mai
Nella vita fanno in fretta
Ad imparar

間違いないわ、地上では
娘たちを怒鳴ることなんてない
人生、彼らは焦ってるの
学ぶことに

 あらあらまぁまぁ、お若くていらっしゃるのねぇ……という感じの、楽園を求める青い希望が感じられて、すごくかわいいと思います。

Ti sanno incantare e conoscono
Ogni risposta a ciò che chiedi
Cos’è il fuoco e sai perché...
Come si dice? Brucia?

彼らはあなたを魔法にかけられるし、知ってるの
あなたが尋ねることすべてへの答えを
火ってなんなのか、それになんで
なんて言うんだっけ? 燃える?

 ここのperchéは「どうしてなのか」のperchéですね。
 本当は〈Perché il fuoco brucia?/どうして火は燃えるの?〉と訊きたかったのに、肝心の「燃える」が思い出せなかったので、上にも出てきた〈come si dice?/どう言うのかしら?〉で自問自答しているわけです。

Ma un giorno anch’io, se mai potrò
Esplorerò la riva lassù

でもいつかはわたしも、できるなら
あの上の海岸を探検するわ

 これも英語と同じだと思うのですが、イタリア語で〈un giorno〉というと、直訳すれば「一日」なのですが、文脈によって「ある日」だとか「いつの日か」だとか、どんな「一日」なのかのニュアンスが変わってきます。
 ここでは未来の話をしているので、時間の区切りとして「一日だけ地上を探検したい」のではなく、時間のまだ到来していないある一点を切り取って「いつの日か地上を探検したい」としていると考えるのが自然です。

Fuori dal mar
Come vorrei
Vivere là

海から出て
望むように
あそこで生きるの

 イタリア語で「」はmareですが、ここでは最後のeを落としてmarとしています。これは誤字ではなくて、トロンカメント(語尾音切断)という音を整える手法です。
 今回ご紹介したイタリア語版「パートオブユアワールド」のなかにも、じつはちらほら使われていますし、よくオペラなんかで〈cuore/こころ〉がトロンカメントされてcuorになってるますよね。あんまりオペラよく知らないんですが。
 なんでもかんでもトロンカメントできるわけではないので、自分でやるのは控えた方がいいと思いますが、知ってると出会った時に戸惑わなくていいので、とりあえずご紹介まで。


第二外国語にイタリア語はいかがですか?

 春からスタートする新世界といえば、やっぱり進学。
 閲覧者様のなかには、春から大学生という方もいらっしゃるのではないでしょうか。履修登録、面倒くさいし緊張するけどがんばってね!
 そして、もしも第二外国語を選択するチャンスをお持ちならば、ぜひイタリア語の世界に足を踏み入れちゃってください

 日本人にとって、イタリア語は比較的カンタンなのでオススメですよ。だって皆さま、小学生の頃からローマ字をお使いでしょ? ほら、ローマってイタリア語の首都ですよ。ローマ字読みで発音できちゃうなんて楽ちんでしょ。単語テストで「ゾウ」を書けといわれて「なんで〈elephant〉なんだ、そのphどっから現れたんだよ」と苛立ったことはありますでしょうか。イタリア語なら素直に〈elefante〉と書いてエレファンテと読めます!!!

 とりあえず第二外国語を決めるまえに、ナショナルジオグラフィックさん制作の水の都ヴェネツィアの動画を眺めみてください!!!
 よその街出身のイタリア人でも絶対に迷うこの美しい迷宮都市を、気ままに散策してみたいと思うなら、現地語の右左くらいは聞き取れるようになっておきたいですよね!!! よし、決まりです!!! ようこそイタリア語界隈へ!!!

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