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働き方の変革に投資する“国内初・女性の独立系VC” Yazawa Ventures矢澤麻里子|VCの素顔 #08

イークラウド株式会社

1990年代以降、日本型雇用システムの限界が指摘され変革が模索されてきたが変革は遂げておらず、2022年5月に経済産業省が発表した『未来人材ビジョン』には、経済の停滞が続いていることが指摘されている。

個人の生活や価値観、働き方が感染症の影響もあり大きく変化している今、日本において雇用・労働の変革は急務である。

第八回目となる「VCの素顔シリーズ」は、自身の出産後に一人でYazawa Venturesを立ち上げ、“働くよろこび”を追求している矢澤氏に話を伺う。

2021年Forbes JAPAN「今年の100人」に選ばれるなど、一見華々しい生活を送っているように見える彼女だが、ひとりの人として、母として、悩みながら家庭と仕事を両立しているという。

“女性が働くべきではない”という価値観のもと幼少期を過ごしたにも拘らず、なぜVCとして独立することになったのか、なぜ“働くよろこび”をテーマにしているのか、等身大の母でありキャピタリストである彼女の素顔を探ってきた。

ニューヨーク州立大学を卒業後、BI・ERPソフトウェアのベンダにてコンサルタント及びエンジニアとして従事。国内外企業の信用調査・リスクマネジメント・及び個人与信管理モデルの構築などに従事。その後、サムライインキュベートにて、スタートアップ70社以上の出資、バリューアップ・イグジットを経験した後、米国Plug and Playの日本支社立ち上げ及びCOOに就任し、150社以上のグローバルレベルのスタートアップを採択・支援。出産を経て、2020年Yazawa Venturesとして独立。

“女性は働くべきではない”親の価値観と真逆、ファーストキャリアはアメリカで事業立ち上げ

波多江:
まずはこれまでのご経歴についてですが、ニューヨークの大学を出てそのまま現地で社会人としてのキャリアをスタートしていらっしゃいますね。

矢澤:
私の両親は、女性が働くべきではないというような価値観を持っていて、その中で幼少期を過ごしました。一方で、学生時代のアルバイトや留学を通して、新しいスキルを身につけたり、知らない世界を知ることの喜びを感じたことで私の価値観は大きく変わっていきました。

高校時代から、家庭教師、引越センター、警備員、コールセンターなど、数十のアルバイトを経験してきました。一時期で数件の掛け持ちが普通でしたね。

そのおかげもあって貯金ができ、大学生で生まれて初めて海外留学をしました。そこでの経験は大きかったです。自分の知らない、こんな世界があったんだと、興奮しました。

その後、一度は日本に戻りましたが、どうしてもまだ海外で色々な経験をしたいと思い、編入という形で2年生からニューヨーク州立大学に進みました。実際大学に行ってみて、思った以上に英語についていけなかったというのが記憶に残っています。とにかく語学力の差を埋めないことにはという感じだったので、現地の保育施設でのボランティアなどにも積極的に参加していました。

波多江:
社会人のキャリアはそのままアメリカでスタートしてますよね?

矢澤:
まずはニューヨークで、事業の立ち上げを経験しました。自分の中で、このまま日本に帰ってただ就職するということにワクワクしなくて、まだ何かチャレンジしてみたいという気持ちがありました。幼い頃から父親が事業をやっている姿を見てきたことから、ずっと起業に対して興味があったのでサービスの立ち上げにチャレンジすることにしました。

留学生の場合、1年くらいOPT(Optional Practical Training:学生ビザ(F-1)で就学している学生が専攻した分野と関連のある職種で、企業研修を行うもの)の期間があります。その間に就職先を探して、H-1Bビザ(建築、エンジニアリング、会計、財務等“専門技術者”として米国で一時的に就労する場合のビザ)を取るという流れが一般的でしたが、私はその期間中に事業を作ってみたという感じでした。

サービスを立ち上げて半年くらいで、ある程度事業を回す経験ができた実感を持てましたが、そのタイミングでちょうどビザ更新も迫っていたこともあり日本に帰国しました。そこからソフトウェアベンダーでのコンサルタントやERP(Enterprise Resource Planning:統合基幹業務システム。経営資源の一元管理と活用最適化)関連のサービスを扱う企業でコンサルタント・エンジニア、そして与信管理のモデリングなどの仕事をしていました。

一番尊敬する人、スタートアップの世界とキャピタリストという仕事を教えてくれた村口和孝氏との出会い

波多江:
その後、ベンチャーキャピタル(以下、VC)でのキャリアがスタートするわけですが、どういった経緯ですか?

矢澤:
当時は、仕事自体も楽しくて、やりがいを感じていました。しかし、自分の父親が事業をやっている背中を見てきたことで、世の中をもっとこうしていきたいというようなビジョンを持って自分で切り開いていく働き方をしたいという思いが強かったことから、改めて今後のキャリアを考えるようになりました。2010年頃の話です。

当時の会社に勤めながらいろんな会社の話を聞く中で、ベンチャーキャピタルの存在に気付き、村口さん(日本テクノロジーベンチャーパートナーズ創設者)にお会いしたことで、VCが天職ではないかと強く思いました。

私の中で、村口さんは尊敬するVCの方の一人です。スタートアップとはどういうものか、世界観を教えてもらいました。村口さんは、元々はジャフコに新卒入社されていますが、イスラエル視察後に当時日本初となる単独でのVCを立ち上げていて、そういう生き様みたいなものにも刺激をいただきました。この出会いをきっかけに、VCに入りたいと思うようになりました。

「できるできないでなく、やるかやらないで世界を変える」その理念が自分の生き方そのものだった

2013年にサムライインキュベートに入社し、キャピタリストのキャリアがスタートしました。

当時のスタートアップへの投資は規模感が今と全然違って、バリュエーション3,000万円で500万円出資みたいな感じでしたね。そのような感じで、シード期のスタートアップに70社程度関わらせていただきました。

当時私が担当して、かつイグジットしている企業だと、例えばエアークローゼット(ファッションレンタルサービス、2022年7月上場)やレモネード(写真素材クラウドソーシング、UUUMに売却)があります。

サムライインキュベートで、キャピタリストとしてのファーストキャリアを約4年半過ごしましたが、一番伴走してくださったのが榊原さん(サムライインキュベート代表取締役)です。理念でもある「できるできないでなく、やるかやらないで世界を変える」という考え方から、キャピタリストとして多くの学びを得ました。

この考え方は、自分の人生そのものだと思っています。私自身、高校生の頃に自分が海外の大学に行くなんて思ってなかったし、そもそも大学に行くか、ちゃんと働いているかどうかすらイメージできていない状態でした。

卒業して結婚するというのが自分の中で元々あった価値観なので、何で一生懸命勉強して大学に行くのか、一生懸命働くのか価値が分かってなかったんです。その中で、いざ海外の大学に興味を持って行動してみたら、一つ一つ壁をクリアできるようになって、一歩踏み出すことの重要性を実感したこともあって、これまでの自分の生き方そのものだなと、その理念が自分とリンクしました。

Plug and Play日本支社立ち上げにCOOとして参画、ゼロイチから組織を作る

波多江:
その後、Plug and Play Japan(以下、プラグアンドプレイ)に移られた背景などを教えてください。

矢澤:
サムライインキュベートで沢山のスタートアップをご支援させていただく中で、スタートアップと大企業が上手く連携することでシナジーが生まれ、世の中ももっと速いスピードで変わっていく感覚を持ったことが大きいです。併せて、マネジメントサイドとしての経験も積みたいと思っていたところで、プラグアンドプレイからCOOのポジションで声がかかったという感じです。

最初は3人でスタートしていて、COOとして営業以外のほぼ全てを担いました。当時、アメリカのプラグアンドプレイでも、スタートアップ創出のためのプログラムにおいて、コンテンツと言えるものはあまりなく、基本的にエコシステムを構築するためのマッチングの場をつくることがメインという感じでした。日本でも、すでにアクセラレーターという言葉が認知されてきていて、「マッチング以外の価値の提供」をしないと難しいと感じたため、メンタリングセッション等複数コンテンツを新たに用意したりしました。そのために必要な戦略策定、コンテンツ企画、広報・マーケティング・採用・バックオフィス・スタートアップソーシングなど色々とやってきた感じですね。プラグアンドプレイは、1度のプログラムで大体60社程度採択をします。私はそれを4回ほどやってきたので、200社以上のスタートアップに関わることができました。

沢山のスタートアップ起業家に会う中で、ゼロから何かを作っていく、リスクを取ってチャレンジしていく姿を見て、すごく尊いし格好良いと感じました。私がキャピタリストになりたかったのは、こういう人を応援したかったからだと改めて感じました。同時に、私もどこかに雇ってもらうのではなく、起業家と同じように自分でゼロから作ってみようと思い独立を決意し、出産後にYazawa Venturesを立ち上げた、という感じです。

Yazawa Venturesの考える“働くよろこび”。女性の活躍が日本経済を底上げする

波多江:
Yazawa Venturesでは、『この国にもっと働くよろこびを』、というビジョンを掲げていますが、“働くよろこび”というのがコアなテーマになるのでしょうか?

矢澤:
“働く”ことについて、私の場合の一番の原体験は父親の働き方です。小さな紙屋を経営していたのですが、父親が目の前で働いている姿を見て、幼少期から働くということがとても身近な存在でした。

父親が楽しそうに働く姿を見て、働くってとても楽しいことなんだろうなという感覚がずっとありました。父親は喜ばせることに生きがいを感じていて、お得意様へのサービスを惜しみませんでした。私は、そこで喜んでいるお得意様を見て、人を喜ばせることが事業の本来の姿なんだと思って育ちました。

その一方で、事業をやる目的は人を喜ばせることにあるはずなのに、女性には誰かを喜ばせるために働く権利そのものが制限されている気がして、ずっと違和感を持っていました。

数字で見ても、日本のGDPはずっと横ばいで、特に1人当たりGDPが低いことから、日本人の生産性の低さに大きな課題を感じています。中でも、女性1人当たりのGDPが圧倒的に低いことにも危機感を感じています。

無駄なことが多い日本社会で、生産性をしっかり上げていく必要性はもちろん女性のGDPを上げるために、もっと女性が活躍していく環境を整える必要性があると思っています。それが結果的に、今後の日本の経済力に大きな影響を与えると思っています。

波多江:
Yazawa Venturesの投資テーマについて教えてください。

矢澤:
企業や組織の変革、個人の働き方の変革を目指すような日本の「働く」を改革するスタートアップに投資をしています。企業や組織の変革、個人の働き方の変革と、軸を分けてもいますが、結局は相互に影響し合うものなので、企業の生産性が上がることで個人の働き方が改善されるし逆もまたそうだと思っています。それから、女性起業家への支援にも力を入れています。

例えば、企業や組織の変革を目指すスタートアップだと、TAIAN(ブライダルDX、お祝い特化のCRM「Oiwaii(オイワイー)」など)に投資しています。ブライダル業界は従業員に占める女性の割合が高いというのも一つ理由にはなりますが、アナログ業務が多く生産性が低い構造になってしまっています。まさに弊社で投資すべき領域だなと思っています。

もう一つは、Josan she's(助産師マッチングシステム)です。助産師は、看護師資格を取得した人しか受検資格が与えられない国家資格なのですが、それだけ限られた人しか資格を持ってないにも拘らずそれほど給与水準も高くない現状があります。助産師さんがもっと活躍できる世界に共感して投資しました。

“人”への投資を怠った結果が、今の日本ではないか

波多江:
5月に経済産業省から未来人材ビジョンが出されたり、日本の低い労働生産性など課題が多くありそうですね。

矢澤:
要は日本がどれだけ人に対して投資をしてこなかったか、その結果だろうなと強く感じています。

日本では、まだまだ終身雇用の名残もあり、そう簡単には首を切れない状況があると思います。その結果、本当に優秀な人材に投資することができず、全体の生産性が下がり、競争力が落ちる結果に繋がっています。もっと労働の流動性を上げることで、企業は優秀な人材にしっかり投資し生産性を上げる仕組みが作られますし、個人もより自分の能力を発揮できる場所で成長するきっかけにもなると思っています。

少し話がずれますが、日本における派遣業種の扱いにも課題を感じています。アメリカだとテンポラリージョブという雇用形態がありますが、これは日本のように安価に労働力を確保するための位置付けではなく、専門性や緊急性の高いポジションに対しての雇用だったりします。

先ほども話したように、日本はまだ終身雇用の考えが残っているため、有期雇用で低賃金である派遣社員の需要があります。派遣社員側は、給与が上がらないまま働き続けなければならず、成長機会も与えられないというのが現実です。

最後に、日本の収入と未婚率の関係性にも注目しています。未婚の方は低収入である傾向が高く、低収入と未婚率の相関性が他国より高い傾向にあります。そうなると、今度は少子化とか子育て・教育などにも絡んできていて、連鎖的に大きな社会問題となっていきます。

このようなことも踏まえて、私としては、労働生産性を上げる、個人の働き方を改善する、社会の構造を変えるといったような視点で投資先を見ています。

ひとりの人として、母として、家庭と仕事の両立に悩む等身大ひとりVC

波多江:
2021年にはForbes JAPAN「今年の100人」に選出されたり、かなり華やかなイメージを持っていらっしゃる方もいると思いますが、実際はどうですか?苦戦したことや挑戦していることはありますか。

矢澤:
正直、悩みだらけです。一番はやはり家庭と仕事の両立です。働きながら、母親業を両立していくのは本当に難しいなと思いますね。

とにかく時間が足りないです。日中は全力で仕事して6時には子供を迎えに行き、そこから寝かしつけるまで一通りの子育てをしなければいけません。そこまでやるともう、ヘトヘトになってしまって寝落ちしてしまうという感じです。そういった状況なので、毎日仕事をやり残した気持ちがどこかにあって、その分精神面でも結構ストレスが溜まりやすくなったりします。

表向きにどう見えていても、実際は私自身が普通に一人の働くママとして常に悩みながらやっているというのが実態ですね。ただ、私の場合はVCの仕事が天職だと思っていますし、毎日本当に楽しんでいるというのも事実です。ひとりの人間として、母として両立に悩みながらも、その分毎日が刺激に溢れています。

イークラウドのM&A事例のように、イグジットの成功事例がこれからもっと出てくることに期待!

波多江:
株式投資型クラウドファンディング(以下、株式型CF)について率直な意見をお願いします。

矢澤:
これまでスタートアップ側として、使いづらいという印象があったのではと思います。よくある話で言うと、株主の数が増えすぎて大変そうとか、漠然としたネガティブな印象ってありましたよね。

そういった印象を払拭できるのは、やはり成功事例がどれだけ存在するかということに尽きるのかなと思っていたりもします。とりわけ、資金調達自体の成功でなくイグジットの成功事例ですね。

そういったイグジットも含めた事例が必要だなと思っている中で、イークラウドさんが、最近その壁をぶち破ってくださいましたよね。あれは(イークラウドでのM&A事例)素晴らしいことですし、意義も大きいと思います。

具体的にあのような事例が増えることで、私たちとしても追加の調達で株式型CFをより前向きに投資先に進めやすくなると思っています。

株式型CF自体、人がサービスや企業に興味を持って応援したいというニーズに対して、少額から応援することができて、それがただの寄付ではなく、結果的に自分のリターンにも繋がる可能性があるというのは、ファン作りが必要なC向けサービスには特に、良いスキームだと思っています。

なので、ぜひこれからも良いサービスが株式型CFを通して生まれていってほしいなと思いますし、私もVCとしてご一緒できる事例があったら嬉しいなと思います。

女性起業家必見『EntreGenerator』

波多江:
最後に、直近の活動で伝えておきたいことはありますか?

矢澤:
『EntreGenerator』という、女性CEOを対象に出資がついたアクセラレーションプログラムの第2期が始まります。今回の募集は既に終了していますが、2022年9月から開講予定です。EY Japanとの共催で1社につき数名のメンター陣が起業家に伴走する予定です。これ以外にも、引き続き起業家向けの支援をしていきたいと思っています。

もう一つお伝えしたいのは、基本的には世の中を変えたいと思ってチャレンジする全ての起業家を格好良いなと思っていますので、男女問わずぜひ気軽に相談してほしいと思っています。

波多江:
起業にチャレンジしたいと考えている女性起業家の方は、アクセラレーションプログラムへの参加も検討してもらいたいですし、日本の働き方を変えたい!と思う起業家はぜひ矢澤さんに相談してほしいですね!

矢澤さん、ありがとうございました!

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