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医者の後悔

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医者は後悔しても口に出すことは少ない。でも後悔の連続だ。
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#医者

遅すぎるのは承知だが謝りたい

遅すぎるのは承知だが謝りたい

≪看護師さん、ごめんなさい≫

その看護師さんは、研修医時代からの知り合いで、若いころの写真はアイドルのようにポーズをとって笑っていた。機知に富み仕事もできた。同世代であり話も合った。40代で彼女は主任となり、ゆくゆくは師長となるはずだった。
自然気胸の患者さんに胸腔ドレーンを挿入することになり、彼女が介助についた。患者さんの脇にメスを入れるが、介助が一向にすすまない。彼女はうろうろ、おどおどする

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会社を辞めて医者になった

会社を辞めて医者になった

≪会社を辞めて医者になった≫

29歳までは出版社で学術雑誌の編集していた。執筆者は学者ばかりであったが、高名な研究者ほど純粋であり話が楽しかった。
学者バカという言葉があるが、バカになれなかったから私たちは凡人なのである。
仕事に不満はなかったが、30歳を前に突然道を変えたくなった。変えたくなったとしか言えない。旅先で先の見えない細い小路が現れると、本来の目的地を忘れ誘導されてしまうという感じだ

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患者さんはえらい、なぜできるのだ

患者さんはえらい、なぜできるのだ

≪尿検査≫

患者さんはえらいと思う。「じゃ、尿を取ってきてください」と言うと、たちどころに提出してくれる。
私の場合、「取れって言われてもなぁ」と、便座にすわり採尿のコップを握りしめて待つが、尿道括約筋は凛として引きしまる。人感センサーのついたトイレではライトが消えてしまうので、便座で手を振ったりしている。誰も見ていないからいいが。
心電図では看護師さんに何回も「力を抜いてください」と言われても

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お医者様はいらっしゃいますか?

お医者様はいらっしゃいますか?

≪いますけど…≫

航空機内でドクターコールを聞いたことはあるだろうか。さっそうと登場し、かっこよく処置をしたいが簡単ではない。よかれと思ってやった処置でも結果が悪ければ訴訟のリスクがある。病院内でも結果が悪ければ問題となる場合があり、まして機内では道具なし、情報なし、専門外の領域で戦わなければならない。航空会社や国によって責任の表現が微妙である。重大な過失でなければ問われないのが原則だが、重大な

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数学者に引き算をさせた医者

数学者に引き算をさせた医者

医学部の学生時代、医者は自分の専門とする病気で死ぬというジンクスを聞いた。循環器科は心筋梗塞、脳外科は脳卒中、消化器内科は腸の病気でという具合に。法医学の教授は「俺は殺されるということか」と憂鬱そうであった。
認知症の診断のための長谷川式認知症スケールを考案した長谷川医師は、晩年、自らも認知症となり、2021年冬に亡くなった。
認知症スケールの中に、「100から7を引いていく」という設問がある。1

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