患者さんはえらい、なぜできるのだ
≪尿検査≫
患者さんはえらいと思う。「じゃ、尿を取ってきてください」と言うと、たちどころに提出してくれる。
私の場合、「取れって言われてもなぁ」と、便座にすわり採尿のコップを握りしめて待つが、尿道括約筋は凛として引きしまる。人感センサーのついたトイレではライトが消えてしまうので、便座で手を振ったりしている。誰も見ていないからいいが。
心電図では看護師さんに何回も「力を抜いてください」と言われても、力を抜こうとする力が入り、心電波形に筋電図が小刻みに重なり、3回も取り直しをした。
血圧は自宅で120程度でも、検査室では160代となる。血圧180の患者さんが、「自宅では130程度です」と言うと、心の中で「信じません、心臓だって大きくなっているじゃないですか」と思うが、私も「自宅では」と同じ言い訳をしている。
尿検査では、いつも長谷川町子の『いじわるばあさん』を思い出す。
意地悪ばあさんが、診察室で一升瓶を先生にうやうやしく差し出す。先生は「いやぁ、これは受けとれませんなぁ」と嬉しそうに遠慮している。意地悪ばあさん「お小水です」。
≪それは何歳の時ですか?≫
初診のときには、既往を聞く。
「治療中の病気はありませんか?」「ありません」
「では飲んでる薬もないですね」「血圧の薬は飲んでいます」
高血圧、脂質異常症は病気と思っていない患者さんは結構いる。
「いままで大きな病気をしたことはないですか?」「ありません」
聴診をすると胸に乳がんの手術の痕がある。
「何歳の時に手術したのですか?」「孫が入学した時です」
「孫が入学した時は何年前ですか?」「孫が生まれたのが…、今中学生だから…」
ようやく、こんな会話を楽しめるようになった。自分の年齢よりも孫の成長のほうが大切だったということだろう。
通院中の患者さんでも同じようなことがある。
「お変わりないですか?」「おかげさまで元気にしております」
「それはよかったです」「でも先日、夫が亡くなりまして、私も転んで骨を折り手術しました」
「おかげさまで元気にしております」は挨拶であり、質問の回答と思ってはいけない。
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