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夜に星を放つ (文藝春秋) 著 窪美澄  

【かけがえのない物を失ったからこそ、取り戻す為の人生】
 


かけがえのない人間関係を失い傷ついた者たちが、再び誰かと心を通わせることができるのかを問いかける短編集。

コロナ禍のさなか、婚活アプリで出会った恋人との関係、30歳を前に早世した双子の妹の彼氏との交流を通して、人が人と別れることの哀しみを描く「真夜中のアボカド」。学校でいじめを受けている女子中学生と亡くなった母親の幽霊との奇妙な同居生活を描く「真珠星スピカ」、父の再婚相手との微妙な溝を埋められない小学生の寄る辺なさを描く「星の随に」など、人の心の揺らぎが輝きを放つ五編。

コロナ禍で様々な不自由を迫られても、心を通わせる事を諦めない人々の物語。



コロナが蔓延していつしか人々の日常になった。

マスク生活も自粛生活も未だに終焉の目処は立たない。
しかし、コロナが流行っても、季節は巡るし、人は恋もする。
そんな諸行無常の中、この物語では大切な人を失った人々のその後を描く。
失った物にいつまでも囚われている訳にいかない。人は忘れる事で強く生きれる生き物だ。

この先の未来で己の手で大切な物を取り戻す。

この物語は星座になぞらえて、真夜中のアボカド(双子座)、銀紙色のアンタレス(蠍座)、真珠星スピカ(乙女座)、湿りの海(月)、星の随に(夏の大三角)といったモチーフを活かしながら、人々の悲喜こもごもを鮮烈に映し出す。
一貫して言えるのは、大切な物を失ってからの再生だ。
失ったからといって悲嘆に暮れるのではなく、自らの未来を諦める事なく、先に散っていた個人に誇れるような人生を歩む事を命題とする。
コロナが蔓延して様々な我慢を強いられてきたが、ちゃんと時代のルールに合わせて正しく生きようとする人々の積み重ねによって、徐々に収束に向かっている。
不自由な世界の中でも心だけは何ものにも縛られない自由な領域だから。
いつか、何の憂いもなく、きらびやかな星空を眺めて、笑い合える人を見つける為に。


その輝きを故人は星の上で喜んでくれる筈だ。






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