読書記録:もしも明日、この世界が終わるとしたら (角川スニーカー文庫) 著 漆原 雪人
【世界と少女、どちらかを選ぶ中で、委ねられた決意】
終末の世界で選択を委ねられる物語。
一年後に巨大隕石の衝突によって終わりを迎える事が約束された世界で。
もし、明日全てが終わるとしたら、何をするだろうか?
終わる世界の最期の一瞬を、何の為に使うのだろうか?
終焉を迎える世界と大切な少女。
どちらかを選ばなければならない究極の選択の中で。
どちらかを救い、どちらかを切り捨てる。
そんな選択を迫られた時にどちらを選ぶのか?
二者択一を迫られ英雄の生まれ変わり、空と彼を召喚したユーリ。
世界の寿命とユーリの祈り。
彼女を蝕む世界が見出した「希望」。
過去からの呼び声に耳を貸して、最後に下した決意。
もしも、世界が終わるとしても。
大切な者と共に願いを共有して、最期を迎えられるなら。
一秒先の未来が、ランダムに視える。
そんな力を持つ以外は平凡な少年、空。
彼はある日、目覚めた時。
目の前に広がっていたのは見た事もない風景。
そして眼の前にいたのは、見た事のない筈なのにどこか既視感のある謎の少女、ユーリ。
彼女は叙述する。
この世界は約一年後、空から落ちてくる巨大隕石により崩壊する。
確実に終わる未来を確約されたこの世界を。
かつて「獣の王」と呼ばれた魔物を退けた「英雄」の生まれ変わりである空に救って欲しいと。
しかし、ユーリが属していた「学園」の主、クロースは否定する。
その為にはユーリを殺し、彼女が秘めている「希望」を用いるしかないと。
彼女を殺す、そんな決断は今まで一般人であった空には簡単に出来る物ではなくて。
戸惑いながらも、ユーリが放送に使ってるラジオを修理するためにクロースに助力を仰ぐ。
しかし、その場で彼女から問われた事に答えた事で敵として認定される。
一日以内に奪って見せろ、という彼女に対抗する為ユーリに意見を仰いで。
英雄の生まれ変わりとして、放つべき言葉を届ける事で和解に成功する。
日々、隕石の欠片が降ってくる学園で、ユーリやクロースと三人家族としての時間を過ごす。
物資補充の為に探索に出た先で、迷い込んできた異世界人のルカと、元奴隷のワーウルフの少女、ギンを見つけて、仲間の契を結ぶ。
しかし、そんな暖かい日常は長く続く筈もなく。
浮かんでくるのは英雄としての前世の記憶。
そこに秘められし憎悪の感情。
ユーリを保護して、家族となる。
しかし、その裏で世界をこれでもかと憎み、滅亡への引金を手をかける。
前世の自分の想いが分からずに、人知れず苦悩する。
ユーリを殺す為、かつての英雄の仲間が襲来して、空達を逃がす為に、クロースが犠牲となってしまう。
ユーリを助けようとするも、「希望」の防衛機構に攻撃を受け、ユーリに関する記憶を喪失してしまう。
記憶を無くして、この世界を救う必要もなくなった。
ルカにより告げられたのは、元の世界に戻れる可能性がある事。
ただ、それではいけないと心の中のもう一人の自分が言う。
大切なのは過去の自分の想いではなく、今の自分の想いの発露だから。
だからこそ、後悔がないように生き抜きたい。
しかし、世界を救う条件が大切な少女を殺す事であり、彼女の死によって築かれる安寧など価値はない。
秩序の崩壊した虚無と哀しみに満ちた世界を救う必要があるのか。
ならば、世界が終焉に至るのを黙って見守るしかないのか?
英雄の事を理解するクロースのモノローグと空の異能を使って、世界の事を少しずつ知っていく空に起こるユーリへの心境の変化。
己と前世とユーリとの関係に臍を噛むような、ままならぬ悔しさを抱いて。
たとえ、世界が余命幾ばくかでも、ユーリと共に過ごした暖かい日常は、哀愁が漂う中でも。
確かに尊くて、価値のある物だった筈で。
そんな切実な想いや届きようがない言葉を交えて、後悔と眼を逸し続けた先で、藻掻いて掴み取った答え。
それは、終わりゆく世界で見つけ出す、全てを救う選択肢。
自らの因縁を越えて、世界も少女もどちらとも救い出す決意。
世界が終わってしまう切なさを抱えながら、出逢って育んできた絆を紐解き、ささやかな恋と願いの為に行動を起こす。
委ねられた決意が、終わりゆく後悔だらけの世界で一度きりの奇跡を起こすのだ。
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