チョコレートのカロリーを減らせ

宇宙の神々が集う場だ。人類は預かり知らぬが、惑星・地球からは人魚らが代表として送り出された。
海ならどこでも泳げる彼女らには、星の海たる宇宙も、惑星の海の延長線にあたる。人類がロケットだ衛生探索機だやっているずっと前から、宇宙分野は人魚らの専門だ。人類という新参者は、まだ彼女らにとって、気にするに値しない存在である。

しかしながら。
人類が産み出したもの、それは別だ。

此度の集会にて、人魚らは、神々なる神の頂点におわす創造主に、陳情を申し立てた。尾びれを畳んで座し、こうべを垂らし、礼儀正しく創造主をまえに整列した。

宇宙の次元は8次元に到達しており、人魚らにももはや正確なる把握は不可能。人魚らでなければ1分間で発狂して死んでもおかしくない。また、人魚らでなければ、彼女らのような、不可思議な性格揃いでなければ、神々の8次元に生きて形を保って自意識をしゃべるなんて、不可能だった。

人魚らは、この日、人類のいうバレンタインデーを間近にして、真剣なまなざし、真摯な顔つき、戦士の勇猛さでもって、またもや、彼女らの特性を証明した。

神よ。我らが父よ。
人魚らが歌いあげ、陳情ーー

「創造主よ。どうか御霊に響かせるこの声を、お聴きたもれ。創造主よ、われら、創造主に願う」

「「「地球のチョコレートから、カロリーを無くしてくれたもう!!」」」

『……、…………』

第8次元に鎮座する創造主は、絶句している。

人魚らは美しい声と歌でつぎつぎに唱和した。おお、チョコ、チョコレート。あれほど美味なるもの、しかし食うと肥えるのです。太るのです。見てたもれ、この人魚を。チョコレートの病にやられてこんな姿!
私のしたばらを見てたもれ。ぽっこりお腹を見てたもれ。

おお、創造主よ、偉大なる父よ、どうかチョコレートの病に薬を与えたもれ!

それにチョコレートのカロリーをなくしたもれ!

『……………………』

歌は、うつくしかった。
第8次元にふさわしい。

そして、人魚らは、やはり、この次元においてなお生きられる、平然としていられる、特殊奇っ怪どうかしている連中なのだった。

沈黙のすえ、創造主は、告げた。
それは声ですらない、ただ女子高生の集団が虫でも見つけたみたいに、人魚らは飛び上がって悲鳴をあげた。ああ、そんな、そんな!! いやー!!

チョコレートのカロリーは、人類の預かり知らぬところで変わる……なんて奇跡は起きない。

ハッピーバレンタイン!


END.

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