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感情の中に潜む怪物

誰もが善人とは限らない。
正義があり、悪があるから物語は成立する。

これは皮肉など一切関係なく、どちらにも英雄が存在する。
従ってどちらが正しいのか一概には語れない。
単純に言える事は、社会に属する限り法に従うしかない。

ニュースなどで残忍とも思える事件を耳にすると、他人事の様に可哀想だとか、妙に被害者に対し同情したりする。
しかし、些細で身近なところでも、例えば自身が周囲とトラブルを起こしたりする。
そうなると、こちらに落ち度がない場合でも、相手からそちらが加害者だと言われると感情的になったり、罵り攻撃的になる事も珍しくない。
そういった時にふと思うのは、特に冷静になると相手を罵った自分を恥ずかしく思う。
そして、どうして怒りが込み上げてきたのだろうか?などと混乱しつつも、すぐに整理するには難しいと感じる経験もよくある。

学生の時にラジオで聴いていた内容なのだが、ある俳優が感情的になると頭の中で平然と人を殺すと言っていた。
だが、実際に法を犯し殺さないのは正しくないと判っているからであると説明する。
俳優の言葉を整理するかの様に、専門家(確か心理学だったと記憶している)がその説明に対して、人によって異なるが一日で頭の中で他人を1,000人ほど殺しているそうだ。
専門家曰く、無意識だから理解していないだけだと言う。
当時は一理頷ける点もあった。
確かに人を傷つけようと思っても、実際は感情を理性で抑えている。
しかし空想の中では平然と傷つけたりする。
これらを狂気と称しても良いものなのかは判らないが、普段は大人しそうに見える人も、実際はこういった感情を抑えているかも知れない。
決して解決できな問題なのは百も承知だが、そういった時にこの映画を思い出した。

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邦題「モンスター」
ご存知の方は多いだろう。
この作品は実話を基に描かれている。
そして主演はシャーリーズ・セロンだ。
普段のシャーリーズ・セロンは美しくて定評のある女優だが、この作品のために体重を増量し、実在する人物アイリーン・ウォーノスになりきった。

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実在のアイリーン・ウォーノスと瓜二つと思える姿と、体当たりの演技は圧巻としか例えようがない。

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アイリーン自身の生い立ちを追うと、映画で語られている様に決して恵まれた環境で育っていなかった。
アイリーンの両親は若い頃に結婚し、早い時期から子供二人を授る。
だが、アイリーンが生まれる前に両親は離婚し、その後アイリーンと兄は両親から見放されてしまう。
父親は精神病を患い児童虐待や児童を強姦した罪で服役していたのだが、服役中に自殺を図り悲惨な末路となる。

その後、二人の兄弟は母方の祖父母に育てられるが、祖父から性的虐待を受けたり、ライターのオイルをかけられ火をつけられたりもした。
劇中では細かくは説明されていないが、後に恋人となるティリアとの会話で語られる。

映画では語られていないが、兄は21歳という若さで喉頭癌で死去する。
その頃アイリーンは荒れた生活を繰り返し、ミシガンで暴力行為で逮捕される。
兄の保険金を受け取ったアイリーンは罰金を払った残りを浪費したそうだ。

映画でも語られた通り、アイリーンは売春婦としてヒッチハイクをしていた。
劇中ではなかった事実は、69歳の裕福な男性と結婚歴がある点だ。
しかしながらアイリーンの暴力が重なり、相手から一ヶ月後に結婚無効を申し立てられた。

その後アイリーンは数件の事件を犯し刑務所にも送られる。
それから映画で語られた様にゲイバーでティリアと出会い恋に落ちる。
二人はすぐ一緒に暮らすが、現実問題として金は必要だと知るとアイリーンは売春を繰り返す。
だが、アイリーンも若くはなかったので、売春婦としては長続きできなかった。

それから無免許運転や暴行で何度か留置される。
そこからアイリーンは一段と荒れた生活を繰り返すのだ。
相手に対してより挑発的となり、実弾を入れた拳銃を所持する様になる。
後は映画の内容の通り、7人の男性を殺害し有罪となり死刑が宣告される。

再審を求めようとアイリーンは最初に殺害した被害者からレイプをされたから自己防衛だったと説明する。
確かにその男性は暴力的なレイプ行為で10年服役されているが、残念ながら再審は認められなかった。

アイリーンが唯一許せなかった事は、映画でも語れた様に恋人のティリアが検察側の証人として出廷し、取引をした点だ。

それまでアイリーンは全く罪を認めなかったが、ティリアの裏切りが引き金となり罪を認める様になる。

2002年10月9日に死刑が執行された。

話を振り返ると、アイリーンはこの悲惨な物語の主人公を自ら選んだ訳ではない。
かといってアイリーンに肩入れするのではなく、ある分岐点で悲惨な状況から打破できたのではないだろうかと考えてしまう。
例えば周囲から手を差し伸べるとか、虐待を察した警察や児童施設などが対応していたら…
そう考えると言葉を失うほどやるせない気持ちで一杯になる。

仮に自身がこの様な環境に置かれていたらと考えると、断言はできないが自殺を選ぶか、アイリーンの様に狂気に任せ怪物になる道を選んだと思う。
改めてこの映画に潜む人間の根底にある怪物を思い知った気がする。

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