見出し画像

瀬尾まいこ『そしてバトンは渡された』

この記事は、日本俳句教育研究会のJUGEMブログ(2022.07.23 Saturday)に掲載された内容を転載しています。by 事務局長・八塚秀美
参照元:http://info.e-nhkk.net/

2019年本屋大賞受賞作で、2021年文庫本年間ベストセラー第1位、そして、永野芽郁✖田中圭✖石原さとみ✖前田哲監督でも映画化された話題の作品です。(映画は結末を含め、かなりアレンジが入っていました)

このところ読んでいた、早見和真さんの『八月の母』『イノセント・デイズ』とは真逆の家族関係で、ある意味とても新鮮でした。文庫の裏表紙には、

幼い頃に母親を亡くし、父とも海外赴任を機に別れ、継母を選んだ優子。その後も大人の都合に振り回され、高校生の今は二十歳しか離れていない“父”と暮らす。血の繋がらない親の間をリレーされながらも出逢う家族皆に愛情をいっぱい注がれてきた彼女

とあるように、主人公は、3人の父と2人の母を持ち、水戸優子・田中優子・泉ヶ原優子・森宮優子と名前を変えることになります。継父継母がころころ変わり、血の繋がらない人と暮らしながらも、「親との関係に悩むこともグレることもなく、どこでも幸せ」という設定の中で物語は進んでいきます。

優子の親であるために、最善を尽くそうとする全ての親たち。血の繋がりを越えたところにある、家族としての愛に満ちた作品でした。もちろんそこには、優子が名前を変えなくてはならなくなった真実なども織り込まれていくのですが、その事情も含めた全てが、“優子が伴侶を迎えて自分の家族を作ることになるクライマックス”に集約されていく構成で、どんどんボルテージがあがっていきます。優子の為だけに生きようする親たちに育てられることで、彼女の幸せが、親の数だけ倍増されていくので、読者までが一緒に幸福感を抱きつつ温かい涙を流すことができるラストでした。

ここでの生活が続いていくんだと、いつしか当たり前に思っていた。血のつながりも、共にいた時間の長さも関係ない。家族がどれだけ必要なものなのかを、家族がどれだけ私を支えてくれるものなのかを、私はこの家で知った。

また、冒頭と末尾が、優子の現在の父である森宮の視点で書かれている趣向も好ましく、読者である私自身までが、森宮と一緒に、優子に渡される“大切な人のために生きるバトンリレー”を見届けたような気になりました。