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–北欧画家ハマスホイの絵を観て− 暮らしの彩度を下げると見えてくるものがある。

最近、自分のファッションの嗜好がどんどん無彩色に寄って来ている。

平日のオフィスカジュアルでも休日の本気のカジュアルでも、無彩色系の洋服に金属系のアクセサリーを合わせるのがマイブーム。
オフの日は膝下まであるグレーのニットのワンピースに黒のショートブーツを合わせ、金のイヤリングと指輪をつけるのがスタンダードになっている。
ここ何週間と休日はこの格好しかしていない。

ズボラなんだ。
でも、楽で落ち着いて、なおかつ可愛いと思える服に飽きは来ない。

そんな絶賛無彩色ブーム到来中の私の「好き」がひたすら詰まった素敵な展覧会に行って来た。

ハマスホイとデンマーク絵画 @東京都美術館

ヴィルヘルム・ハマスホイ(1864ー1916)は19世紀末から20世紀初頭にかけてデンマークで活躍した「室内画の画家」である。

ヴィルヘルム・ハマスホイが活動したのは1900年前後の十数年間でした。印象派に続いてポスト印象派が登場し、象徴主義、キュビズム、表現主義など新しい芸術が次々と誕生した時代です。そうしたメインストリームの“喧騒”から離れて、ハマスホイは独自の絵画を追求し、古いアパートや、古い街並み、古い家具など、時代が降り積もった場所やモチーフを静かに描き続けました。その美しく調和した色彩と、繊細な光の描写、ミニマルな構図は、画家の慎み深さと、洗練されたモダンな感性を示しています。(展覧会パンフレットより)

ハマスホイの洗練された感性は、今でいうところのミニマリストのそれに似ている。
色も装飾も人物の感情さえも、無駄を省く。
そうするととんでもなく無機質なものが仕上がりそうだけれど、ハマスホイの絵画は暖かく優しい空気で満ち溢れている。
徹底して無駄を省いているからこそ、生活の中にある僅かな美的モチーフの存在が際立つからだ。

・窓から差し込む光の柔らかさ
・薄い金メッキの僅かな煌めき
・経年劣化した家具の味わい
・女性のうなじの白い輝き

無駄を省き切った中に僅かな無駄を仕掛けてその世界を支配する手法を、私は引き算の美学と呼んでいる。
ハマスホイの魅力はこの大胆な引き算とほんの僅かな足し算の塩梅の巧さにあると思う。

デンマーク語には「ピュゲ(hygge)」という、デンマークの精髄とも言える社会的価値を表す言葉があるそうだ。
ぴったりと意味の合う日本語を見つけるのは難しいけれど、近い言葉で言えば「くつろいだ、心地よい雰囲気」「安心できる、快適な状態」という意味らしい。

世紀末、産業革命の脊髄反射のように次々と起こる社会の座組みの変動や、それに伴う美術的ムーブメントの喧騒に世界はちょっと疲れていたんじゃないかと思う。
少なくともデンマーク人は疲れていた。
だから、デンマーク画壇では独特の「室内画」というジャンルが生まれて、それを洗練したハマスホイのピュゲに人々は魅了された。

それと同じことが、現代でも起こっているんじゃないかと思う。
総務省が言うには、人間が受け取る情報量は平成8年から18年までの10年の間に530倍に膨れ上がったらしい。
常に膨大な情報の喧騒に晒される私たちはちょっと、というか、かなり疲れている。
だから、喧騒の中では見逃してしまう日常の小さな幸せを味わえるような写真やエッセイが求められる。
「エモい」という概念の中でも特に「ピュゲ」が求められているんじゃないかと思う。

グレーのニットワンピ、黒のショートブーツ、金のアクセサリーは私のピュゲだ。

ハマスホイ展、至るところに工夫が見られ、学芸員の方がすごくあたたかな愛を持ってこの展覧会を作ったんだろうな、ということを美術館にいる間ずっと感じていた。

ハマスホイが何度も描いた窓をモチーフにしたパーテーションが展示室の中に作られていた。
めっちゃ可愛い。

あと、展覧会グッズがもう本当に抜群にセンスがいい!

私は図録と絵葉書、ハンカチを購入。
大判絵葉書はこの春から住む新居に飾ろうと思う。

お金が足りなくて買えなかったけれど、他のいろんなグッズもほんとうに「好き」で溢れていた。

グッズに特化した記事を見つけたので貼っておきます。



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