見出し画像

自然と共にあるヴィクトリア時代の住宅

イギリスの建築は時代ごとに特徴があり、街を散歩するだけでも飽きることがありません。
私が定宿としてイギリスに行く度にホームステイさせてもらっているロンドン郊外の街にはたくさんのヴィクトリア時代の建物があリます。何を隠そう、泊めていただいているお家もヴィクトリアンハウスと呼ばれるヴィクトリア時代の様式の住宅です。
その家主の80歳を超えるおじいさんとお買い物に一緒に行きました。
おじいさんとお話ししながら歩いていると、いつもの風景が一気に様変わりし、まるでオープンエアミュージアム!

交差点でおじいさんはふと立ち止まり、「マドカ、あれを見て!ヴィクトリアン(ビクトリア時代の人たち)がどんなにデザインを愛していたかがわかるだろう」と指をさした先にはヴィクトリア時代の風景がありました。

車や伝統がなければ映画のセットのように見えるに違いありません!

ただ屋根の上にのっかた筒だと思う煙突ですが、よく見ると一つ一つレンガが傾きをつけて重ねられていて、それぞれ様子が異なります。
屋根の下や1階と2階の境目にもレンガの色を変えたり、レンガが凸凹に配置され、美しいデザインが見られます。

細部に工夫を凝らしたヴィクトリア時代の家々

今ではどの家もまっすぐにレンガを積み上げただけの、手間も技術もデザイン性も遊び心もない建物になってしまっていますが、きっと昔の職人さんやデザイナーは同じ素材で独自性をどこまでアピールできるか楽しんでいたのだと思います。
時間の使い方やコストのかけ方は、安くて早くという現代の価値観とは大きく異なっていたのでしょう。

地元の素材を使うからこそ統一される色合いの街ができる

その先に進むと、おじいさんが「玄関(ポーチ)を見てごらん。なんと美しい!」と見上げたのは、何件も同じ形をして並んでいる住宅の玄関の上の装飾。

この葉は多分オークだと思いますが、アカンサスかも?
アカンサスをデザインした壁紙でウイリアムモリスが活躍したのも同じ時期。

何歩か進んで気にしながら見ていると、あらま、一軒一軒異なる植物のレリーフが装飾されています。

こちらはフルーツ
これはなんの植物かしら?と想像しながら歩くのも楽しい。
違う通りにはこんなポーチもありました。
セミディタッチトハウス(2軒の家がつながっている家)ではこんなのも!

私はイギリスの古い建物専門の建築会社でデザインや図面を引く仕事をしていたことがあるのですが、古い建物を扱っていると、植物や果物をモチーフにしたデザインや装飾が本当にたくさんあります。
それだけイギリス人は自然からインスピレーションを得たり、自然と近くにいることを喜びにしていたのではないかと思います。

店の前を通り過ぎる時、「ここは昔、前庭(フロントガーデン)があったんだけど、ヴィクトリアンは人口が増えるのに合わせて店が必要になり、前庭を潰してそこに店を増築したんだよ」と教えてくれました。
奥を見上げると、「本当だ!ヴィクトリア様式の住宅そのものですね!
いつも通っている道だけど、ここはニュースエイジェント(コンビニのような新聞・雑誌、お菓子や簡単な食料品を売る店)と中華のテイクアウェイ(テイクアウト)のお店しか目に入ってなくて言われるまで全く気がつきませんでした。」と私は応えました。

上に、前へと増築されたヴィクトリアんハウス

このおじいさんは小さい時はここから少し離れた街に住んでいて、結婚した50年くらい前に引っ越してきて、今住んでいる通りは一戸建てのヴィクトリアンハウスがずらりと並んでいたそうです。
ずらりといっても、フロントガーデンもバックガーデンも広いので、お隣がいることも忘れてしまいそうな緑豊かでかなりスペースがある環境の住宅街です。
この家のある通りは、とにかく緑が多くロンドン郊外とは思えない環境です。

おじいさん夫婦の住む住宅街の風景
それぞれの家が前庭を作り道路から離れて建てられています。家の後ろにはバックガーデンがある。
その家もお庭を綺麗に手入れし、とても大切にしています。

私がここに来るようになって20年以上が経ちますが、駅から家にたどり着くまでの
風景が全く違ったものになってきています。
ロンドンが郊外に向かって広がるにつれ、古い家が壊され、新しいフラット(集合住宅)に変わっていっています。
駅にほど近いハイストリート(商店街)はお洒落なカフェが増え、ロンドンに通勤する若い世代がたくさん移り住んで位いるのだろうと想像できます。

集合住宅が増えてきた街並み

ホームステイしている家は、ヴィクトリア時代に流行ったチューダーリバイバル(中世チューダー時代のデザインの再来)でモックチューダーと呼ばれる、ハーフティンバー(黒い梁をむき出しにして壁が白く塗られた)の住宅です。
長年の間に築200年近い家はリフォームを重ね、モダンに生活ができるようになっていますが、昔のメイドさんを呼ぶベルのボタンや暖炉など昔ながらの要素を残しています。私も以前バスルームのリフォームなどの際、デザインなどお手伝いさせてもらいました。
この家で温故知新を大切に暮らしているご夫婦は「自分たちがこの家を出たら、この歴史的なものはちゃんと残って次の世代の人達が見ることはできるのだろうか?」と危惧しています。
確かに、お金持ちや偉い人の館は後世に残り公開されることが多いですし、歴史的な希少価値などといった評価を得て重要建造物に指定されないと保存はなかなか難しい。となると、一般市民の住宅は、よっぽど気持ちのある人が住み続けない限りは壊されてしまう可能性も高く、なかなか見ることが難しくなるのかもしれません。

イギリスで建物の修復の仕事をしていた時にいくつものカルチャーショックがありました。
その中で印象に残っているのは、建物の増築や修復の際にレンガや瓦を建築資材のアンティーク業者に発注することでした。
「この地域の、何年製造の瓦をお願いします」と業者に連絡をするのです。
当時は地元で採れた土や地元の釜で職人さんがそれらを焼いていたため、地域や時代によって使われる素材が変わるため、色合いを調整したりする必要があるのと、リステッドビルディングという重要文化財のような位置付けの建物はその当時の再現が必要となるためです。

私たちがサセックスの田舎で住んでいた家は築300年くらいだったのですが、お百姓さんが住んでいた家だったようで、畑にゴロゴロしている地元の石を積み上げて造られたような家でした。
建築を見ていると自然とともに暮らしていた当時の姿が垣間見られます。

日本も昔は地元の石、木・植物、紙、土、などで建物を作っていて、廃棄物のような自然に還らないものは一切なかったはず。それが今はどこにも捨てられず、作るときも捨てるときも環境汚染・破壊につながるものでいっぱいです。
これは建物だけでなく、食べるもの、着るもの、みんな一緒。
何を選ぶか、どう暮らすか、私たち一人一人がもう一度立ち止まって考えてみ流だけで世界は変わっていくかもしれませんね。
Be the change that you wish to see in the world!

私はこの日の夜、夏至の日の出を見るためにストーンヘンジに向かいました。

1年で一番1日が長い日が始まりました。
陽が昇ってからもしばらく石の周りで音楽やダンスをしたり、お昼寝ならぬお朝寝を
始める人たちがいました。

徹夜で帰ってきた翌日は5時起きでヒースロー空港に向かいました。
飛行機に乗る前にすでに時差がボケがスタート。
ロンドンヴィクトリア駅に向かう電車の中から、最後のイギリスの太陽を拝みました。この日から陽がだんだんと
短くなるという日に日本に帰るのは何か不思議な気がしました。
次回の記事で、旅がいよいよ終わります。

永遠に景色が変わらないと思っていたロンドンも、近年急速に工事や開発が進み、高層ビルも増えてきています。