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てのひらサイズの物語

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リアルの中に一瞬のファンタジー 短編ならぬ掌編小説と詩集
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2024年5月の記事一覧

【詩】横顔の恋愛学 

【詩】横顔の恋愛学 

君に見つめられると

つい目を逸らしてしまう

遠くで見守るなら

まともに見ても平気なのに

長い髪 薫る景色

とても素敵な後ろ姿

合うことのない視線は

ただ風に溶けて游ぐ

【詩】花想い

【詩】花想い

あなたの柔らかな手

そっと私の頬に触れる

髪を撫でる指さえも

とても 愛しい

梅が咲いた 桜が咲いた

薄紅の恋模様

水仙咲いた 菜の花咲いた

黄金色の恋心

【詩】蝉

【詩】蝉

深緑の葉に

雄々しい枝に

雄大な幹に

抜け殻を認め始まりを知る

凛とした根元に

その亡き骸を見つけ終わりを知る

悲々々… 哀々々…

【詩】去ってゆく季節

【詩】去ってゆく季節

自分を偽ること

あとどれくらい続けるの

部屋のドアも舞う埃も

もう君がいないと知ってるのに

僕だけが理解できないでいる

気がつけば

いつの間にか

色なき風に吹かれている

*色なき風=秋の季語

【詩】五月

【詩】五月

桜の散った路地に

今は新緑の木漏れ日が咲く

まだ色づきはじめたばかりの

若い紫陽花が

待ち焦がれる卯の花くたし

【詩】雨礫 (あめつぶて)

【詩】雨礫 (あめつぶて)

雨が胸の奥を叩く

忘れかけたあの時代が痛みだす

濡れるのを嫌がる僕の手を

引いてはしゃぐ君の笑顔

雨に濡れて霞んでゆく

また心が風邪をひく

【詩】風はなんて

【詩】風はなんて

風に聞いてごらんよ

どの道を進んだらいいのか

世界を駆け巡る風だもの

きっと答えを知ってるはずさ

星に聞いてごらんよ

何をすればいいのか

僕らを見下ろす星だもの

きっと明日を照らしてくれるはずさ

【掌編小説】狐琴回廊 (こきんかいろう)

【掌編小説】狐琴回廊 (こきんかいろう)

 御座敷にあがるまでには半刻ほどあった。
ほんの少しと、うたた寝に浸った。
目を覚ますと、一匹の子狐が立っていた。
身の丈は三寸五分位だろうか。
身体は白く、目は開いているのかどうかわからないほどで、赤いちゃんちゃんこが、やけに目にとまった。
「道に迷ったのかい?」
子狐はそれには答えず、ただ微笑んでいた。
御座敷の時間なので、子狐に帰るよう伝えて部屋を出た。

 御座敷から戻ると、子狐はいな

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【詩】リップスティック

【詩】リップスティック

小さなくちびるに

はじめて紅を差したのは

大人への憧れでした

二度目はそんな大人への反抗

三度目は子供からの逃走

そして今夜は

貴方のために紅を差します

【詩】もぎたての朝

【詩】もぎたての朝

限りなく静かな蒼い空に

ひときわ聡明な時を刻む

それは閑かにざわめき始め

やがて大地から挿す白は

次第にやわらかな熱を帯び

そこにある全てが翻弄されてゆく

風が通る

窓辺のレースを揺らし

隣で眠る君の頬をくすぐる

少し身をよじって目を覚ました君に

もぎたての朝を贈る

【詩】千の祈り

【詩】千の祈り

ひとつあなたを想うたび
一羽の鶴を折りましょう

ひとつ空に祈るたび
一羽の鶴を飛ばしましょう

幾度も想いが募るたび
幾度も幾度も続けましょう

千日 想いが募るとて

千年 想いが募るとて

祈りがあなたに届くまで
幾度も幾度も折りましょう

【掌編小説】雪景色

【掌編小説】雪景色

 夕方、彼から電話があった。
「たまには外食にしようか」
「どうしたの?」
「何がだよ?」
「珍しいなぁって」
「この近くに美味しいラーメン屋があるんだよ」 「なんだぁ、ラーメンかぁ」
「嫌か?」
「ううん。何時に何処?」
「五時に迎えにいくよ。支度しといて」
「うん。待ってる」 そう言って電話を切った。

あれから二時間。
彼からは何の連絡もないまま五時を回った。
ケイタ

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