シェア
財前ぜんざい@オリジナル小説
2016年12月30日 16:51
準備体操を終え、道場の隅で防具を付け始めた私は、既に顔から血の気が引いていた。少し身体を動かしただけで、動悸と冷や汗が止まらない。道場の床に座っているというのに、地面が揺れ動いているように感じた。こんな状態で、本当にできるのか。不安が大きく私の心を支配していく。「そうだ! 雅臣が言ってた『剣道の防具じゃ足りない』って、一体何が足りないんだよ!」 道場の真ん中にいた圭は、私にではなく向かい
2016年12月26日 18:06
稽古着に着替えて戻ってくると、圭が道場の中を裸足で意味もなく走り回って遊んでいた。その様子は、到底同い年とは思えないものだった。「お! 紅羽が戻って来た!」 圭が走り回っているスピードのまま、私のところへ駆け寄って来た。「それが薙刀の道着かぁ! 袖、剣道の道着に比べて短いんだな!」 指摘され、私は自分の腕に目をやる。半袖の道着にはゴムが入っており、二の腕で自由に調節できる。「
2016年12月21日 01:44
「ここは区営体育館だ。武道場は地下一階。第一武道場は畳だから、俺たちは板張りの第二武道場を一般公開で使う」 雅臣と私が訪れたのは、彼らのマンションからほど近いところにある区営体育館だった。とても新しいとは言えず、外壁は所々剥がれていたが、温水プールもあり、設備は充分整えられているようだった。「い、一般公開ってなんですか?」「要するに団体貸し切りじゃないってことだ。この券売機で券を買えば
2016年12月12日 21:44
手に持っていた書類を机に置き、立ち上がった雅臣は清水を見下ろして言った。「清水。疲れてるところ悪いが、圭と一緒に組織まで行って、薙刀と防具を持って来てくれないか?」 頼まれた清水は口を開けたまま「う、うん」と頷いた。しかし、返事はしたものの首を傾げ、雅臣が何を考えているのか理解しきれていないようだった。 私も何が起きているのか分からなかった。突然で脈絡もなく、察することもできない。す
2016年12月6日 20:20
「ただいま。紅羽連れてきたぞ!」 結局私は彼らのマンションへと来てしまった。 圭は履いていたスニーカーを乱暴に脱ぎ捨て、部屋の中へと入って行った。私も続いて靴を脱ぐ。屈んで自分の靴を揃えると、脱ぎ捨てた圭のスニーカーが目に入った。靴が玄関に散らばっているのを知っていて、このまま部屋の中へ入っては、私の品格が問われるような気がした。仕方なく奴の靴に手を伸ばす。触ると生温かかった。 気持ち