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歌えないオッサンのバラッド-序章-

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メンバーシップ用に立ち上げたシリーズものの序章部分です。 読みやすく目次と後鍵を含めてまとめてありますので、同じ様なシリーズを読んでっみたいヒトはぜひともご購入を!
今回は、個別では無料で全部読めるようにして世界観を感じてもらえるようにしています。 なので、個別に…
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#自作小説

[小説][バラッド]-序章-②

[小説][バラッド]-序章-②

歌えないオッサンのバラッド
-序章-②ドアの戸口に立っていたその女性は、きっとベースは美人の類なんだろうけれど、どこか疲れて、なんというか存在感が薄れている感じを受けた。
文字通り透き通ってるんじゃないか?ってくらいに。

パッと見の存在感の薄さに気を取られて最初は気が付かなかったが、結構若いヒトみたいだ。

いやぁ、最近は若いヒトがスナックを利用するなんてのが普通にあることだとは聞いていたけれど

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[小説][バラッド]-序章-④

[小説][バラッド]-序章-④

歌えないオッサンのバラッド
-序章-④
「わたしは、必要とされていないんです」

振り絞るような震える声で若い女性はそう言った。
か細いけれど、彼女なりに考えに考えてその言葉にたどり着いたんだろう。
明らかに絶望の色がその顔色に出ていた。

「学生時代は眼の前にある課題を淡々とこなしていれば、それで良かった。
でも、卒業論文とか学生時代の成果物を今読んでみると、何を当たり前のことをつらつら書いてい

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[小説][バラッド]-序章-⑤

[小説][バラッド]-序章-⑤

歌えないオッサンのバラッド
-序章-⑤
「歪……ですか」

思うに、リサは自分の能力不足が全ての原因で、そこをなんとかしない限りこの事態は改善することは出来ないと頭から爪先まで思い込んでいたんだろう。

でも世の中で起きている事象ってのはたった一人の影響だけで起きることはそうそう起きるもんじゃない。

どんな独裁者でも「そうであることを仕方ない」と思うヒトが行動を起こさないことによって成立するもん

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[小説][バラッド]-序章-⑥

[小説][バラッド]-序章-⑥

歌えないオッサンのバラッド
-序章-⑥
「で、実際の所。どうするよ大将」
リサが出ていった後、タカがコの字型のソファーの斜向かいに座って俺に話しかけてくる。

「どうもこうもあるかよ。お互いに肚を割って話す。それしかねぇじゃねぇか」

「まあ、割った肚の中に大蛇がいるか、はたまた運命なんつーもんが収まっとるかもしれん」
トムがさっき頼んだテキーラのショットを一気に流し込見ながらそう言った。

「い

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[小説][バラッド]-序章-⑦

[小説][バラッド]-序章-⑦

歌えないオッサンのバラッド
-序章-⑦
オフィスを出るとリサを先頭に風間、橘と続いて歩き始めた。
行き先をリサしか知らないんだから仕方ない。

「なんて店に行くんだい?小泉。
まさか、大の大人が雁首揃えて夜の公園ってわけでもあるまい?」
橘がわざと気の抜けたような声で問いかけた。
この尋常ならざる空気をちょっとでも変えていきたいと言う思いが見え隠れする。

「えっと、私もさっき初めて入ったお店なん

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[小説][バラッド]-序章-⑧

[小説][バラッド]-序章-⑧

歌えないオッサンのバラッド
-序章-⑧
リサのその尋常じゃない様子を見て、場の空気が一気に変わった。

「けが人か?」
短くトムが問いかける。

「すぐそこで、私をかばって、私の代わりに怪我をして、それで、それで……」

明らかに狼狽しているリサを見てママがリサの方に手をやって優しく問いかける。

「その人は今どこ?」
「もうすぐここに来ます。
そうだ、氷のう。氷のうって作れますか?
橘さん捻挫し

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[小説][バラッド]-序章-⑨

[小説][バラッド]-序章-⑨

歌えないオッサンのバラッド
-序章-⑨
風間はチビリとロックのバーボンを口にした。
何となく飲み慣れた雰囲気を感じる。
かといって、仲間とつるんで飲み歩くタイプにも見えない。

橘はというと、一口で半分ほどゴクリと飲みやがった。
こいつは別の意味で飲み慣れているな。
良いように言えば人とのコミュニケーションを大切にするタイプに見える。
悪く言えば、唯我独尊になりがちなタイプってことかも知れない。

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[小説][バラッド]-序章-⑫

[小説][バラッド]-序章-⑫

歌えないオッサンのバラッド
-序章-⑫
「わ、私がですか?」
「そうだ。タイゾー、問題ないよな」
「へっ、精神と時の部屋へご案内ってわけだ」

ここでドラゴンボールを出してくるあたりは、なんというかタイゾーらしいと思った。
この短い会話の中で、俺は徐々にこのトールとタイゾー、そしてリサについて共感出来るところがいくつもあるような気がしてきている。

三人とも今の仕事が大好きで、でもトールはその大好

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歌えないオッサンのバラッド-序章-あとがき

歌えないオッサンのバラッド-序章-あとがき

あんたはなにかの作品を作りきった感覚ってやつについて味わい直すことなんてあるかい?

「歌えないオッサンのバラッド」は学生だったとき以降だからだいたい四半世紀ぶりのまとまった小説になったんだよな。

その間にいろんな出来事があったし、それに伴う経験や意見が作り上げられてきたってのはあると思う。

いまでも小説に限らずに「やべぇ。気を抜くと普段使わないような漢字交じりの表現になっちまっている」なんて

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