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マネジメント業務における権力と権威

4月が近づいてきて、最近新たにマネージャー任用される方や、マネージャーよりさらに上の役職に就く方からの相談がありました。
そこで、自分がマネージャーをやる時に気を付けていたことや、マネージャーを部下に持ったり人事などのマネージャーを支援する業務を行なっていた時に気を付けていたことを言語化しておきます。尚、今回の内容は大学時代に政治学科で学んだことがベースとなっておりますが、古い記憶で間違いまくっていると思うので、戯言の前提で読んでいただければ。


独裁者の権力と医者の権威

「権力」と「権威」という言葉があるかと思います。似た言葉として使われがちなこの二つの違い、ご存知でしょうか?
「権力」は上から下に行使されるもの。「権威」は下から上に付与されるもの。らしいです。

権力と権威


権力の方はイメージしやすいかもしれません。独裁者が自分の気に入らなかった人間を処刑したり、当事者に拘留などの不利益を与えるなど、上から下に自分の持つ権限を行使しながら、自分の持っていきたい方向に対して人を導きます。
一方で権威は医者をイメージしていただくとよいでしょう。医者は別に患者に対して権力は持っていません。医者の言うことを聞かないと罰金が課されたり逮捕されることもありません。しかし、人は医者の言うことをすすんで聞いて、言うとおりに薬を飲んだり検査を受けたりします。これは、医者が何かの権力を行使しているのではなく、「患者が」医者に対して「権威」を感じていることで、自主的に医者の言うとおりに動いているのです。

権力での統治はコスパが悪い

このように、人を統治する上で、権力で動かす方法と、権威で動かす方法があります。しかし重要なのは、歴史的にも人を統治するには「権力で動かし続ける方が圧倒的にコスパが悪い」のです。先ほどの医者の例で考えて見ましょう。例えば権力で薬を飲ませようとすると、医者が指示した薬を飲まなかった場合に刑罰を設定し、飲まなかったらその証拠を集めて警察に届け出て、警察はそこから捜査を行なって、患者が認めなかったら裁判を行い、判決まで出てようやく患者に不利益が生じます。めちゃくちゃめんどくさいですよね。一方で権威で薬を飲ませるためには、医者という存在自体が権威で医者の言うことは聞いておいた方が良いというシグナルを患者側が受け取っていれば基本的に言ったとおりに動いてくれます。圧倒的にコスパが良いですね。
だから、権力を握ったものはその権力を権威に変換しようとするのが歴史の常です。イデオロギーはそのために使われ、プロパガンダをすることもあれば、独裁者の国なのに形式上だけ投票を行ったりするのも、少しでも自分の権力を権威に変えようとする動きだと考えられます。おそらく独裁者も、権力だけで国を運営するのは非常にコスパが悪く、権力を行使しすぎるとクーデターなどにもつながりやすいから権威化をがんばっているかと思います。

マネージャーの問題の大部分はメンバーからの権威を集められれば解決する

実はビジネスの現場でも近いことは起きていないでしょうか。マネージャーに就任するという権力を持ったタイミングで、人事権を一定持ったからと言って、部下が言うことを聞かない時に査定をちらつかせたり、早いタイミングで異動に出したり、そういったことをあまりにしていると、逆に本人の権威が落ちていきます。そのせいで圧倒的にコスパが良い「権威でのマネジメント」が実行できなくなるのです。だから、新しい役職に就いた最初こそ権力でのマネジメントとは距離を置き、いかに権威を集められるかに苦心することが大事です。
自分が部長以上の役職をやっていたり、人事を担当していた時に感じたのは、「マネージャーの問題の大部分はメンバーからの権威を集められれば解決する」ことでした。「権力を濫用して部下が疲弊する」「部下がマネージャーについていけないと異動希望や退職希望を出し始める」「本来達成したいゴールに向けてみんながついてこない」など、権威が集められていないことが起因していろいろな問題を引き起こしやすいのがマネジメントの難しいところだと感じました。

創業経営者は権威のチート状態

では、どうすれば権力を権威化できるのか?マックスウェーバーは権威の三類系という3つの方法を提示されていました。以下の3つです。
1.伝統的支配:古くからのしきたりや血筋や家柄に対して感じる権威で、最近できた宗教よりも昔からある宗教に権威を感じたり、天皇家に対して感じる権威はこういったことが根拠になっている可能性が高いでしょう。
2.カリスマ的支配:個人に備わった指導者的資質に対して感じる権威で、大谷翔平の考え方を学ぼうとしたり、孫正義が次に何を行おうとしているか学ぼうとしたりする権威はここが根拠になっているのではないでしょうか。
3.合法的支配:法などの規則が根拠になった支配関係。公務員が総理大臣の言うことに対して従おうとするのもここ。独裁者があえて選挙をやったりするのも、こうした法の規則にも則っているという根拠を増やす狙いがあると思われます。
言うのは簡単ですが、これをそのまま実行することはなかなか難しいなというのが過去の経験からの実感です。ただ、認識しておいた方が良いのは、スタートアップの創業経営者などは、この3つを最初から持っているために権威化が非常に楽なボーナスを与えられているのです。まず、創業時点からいるためにその会社における1番の古株であることが確実です。(伝統的支配)また、多くの場合大株主でもあり、その株を背景に会社法で定められた方法にのっとって社長に就任することができています。(合法的支配)しかも、社内外で取材を受けることも多く、社内でも特別な扱いを受けることが多くそう見られるように仕向けやすい立場にあります。(カリスマ的支配)つまり、チートレベルで最初から権威を持っているのです。創業経営者でなく高位のマネージャーに就いている方は、創業経営者に対して引け目を感じる必要はありません。あなたはそのチートが与えられていない中でよくやっているのです。逆に創業経営者からマネージャー陣をみると「なんでうちのマネージャーは全然統率をとれてないんだろう」と不満を感じることが多くありますが、それは当然、このチートは他の人には及ばないのです。逆にこの3つが無い(少ない)状態のマネージャーには、どうすればそれを付与することができるのか?を考えることが有効です。では具体的にはどうやったら権威獲得の支援ができるでしょうか?

ハイダーのバランス理論を使ってみた

自分は人事や経営の現場で、なんとかこのマネージャーの権威化を後押ししたいと考えている際、社会心理学のハイダーのバランス理論というのを参考にしてみていました。自分なりの解釈ですが、バランス理論とは、AさんBさんとYという事物(Yはコトでもヒトでもモノでも良い)という3つがあった際に、その3つの関係性が+(好意的)が奇数であれば安定し、偶数か0だった場合には不安定になるというものです。

バランス理論

上司と部下の現場に当てはめて例示すると、Aさんが上司、Bさんが部下だった際に、例えば他部署のカリスマZさんがいたとします。部下がZさんをすごく好き(+)で、上司がZさんととても仲良し(+)だった場合には、部下が上司に対して好意的(+)だと+が奇数でバランスがとれるのですが、部下が上司を大嫌い(-)だった場合不安定になるのです。そのため、+-が定まっていない場合に+になりやすい、と解釈しています。(部下はZさん大好きでZさんと上司が超仲良しなのに自分は上司が嫌い。となると、自分の上司に対する評価が間違っているのか、自分のZさんに対する評価が間違ってるのかを疑う。結構ありそうですよね。もちろん上司が嫌いすぎるとZさんの評価が-になる場合もあります)

上司部下とZさん

逆に部下がZさんをすごく好きで、上司がZさんと仲がすごく悪いと、部下は上司と仲が悪くなる方が安定してしまいます。
このYには人以外に事物が入ることもあります。例えば「資格」。部下が資格好きで、上司がいっぱい資格を持っている人だと、部下は上司を好む確率は上がるでしょう。特定の業務知識や趣味など、たくさんの事物が業務の現場にもありえるかと思います。昨今のスタートアップだとValueを重視することがあったりするので、Valueに親近感を覚えている部下が、上司がValueを体現していると評価されていると好意的に思う、なんてこともあったりします。
ただし、バランス理論においてこの+は1個の場合にも安定するので、Bさんが会社のValueをうさんくさいなと元々マイナスに思っている場合には、新たにきた上司がValueの体現者過ぎると必然上司に対してもマイナスに思う可能性が高いでしょう。こうした部下に対してはValueを体現していることを見せすぎないのが大事になることもあります。

+が1個で安定しにいくパターン


なかなか本人が特定の部下からの権威を獲得できていない時に、この考えを応用することで少しでも権威獲得のサポートをできることがあるのです。

マネージャーの権威化を支援する3ステップ

そもそもこうしたことを考えたのは、自分が部長や人事などマネージャーの支援をする立場をやっていた際に、マネージャーの支援はなんて大変なんだと思ったことがきっかけでした。というか、マネージャーの支援ってどうしたら良いのか具体的なことが書いている例が滅多になかったんですよね。
そこで今回のようなことを考えて、マネージャーに対して支援することはシンプルにしました。まずは不安要素があるマネージャーに対しては、「そのマネージャーの部下の誰から権威を獲得できていないかを調査」します。噂話やメンバーとの1on1などから見えてくることもありますし、サーベイから把握することもありました。特に新任マネージャーは自分が誰から権威を獲得できていないかを把握することすらできていないことが多いので、それを伝えるだけでも効果があります。次に、「マネージャーがその部下からの権威を獲得するために有効そうな要素Z」は何があるかを探ります。そしてそれが見つかれば、その「要素Zきっかけで権威が獲得できる機会」を作ります。例えばその部下が社長に心酔している場合は、社長自らが上司を部下の見ている前で褒める機会を作るとか、部下が特定の知識を重視している場合には、上司がそこに詳しいことを折につけ触れていくことなどをしていました。地道ですが、大抵マネジメントに苦労するメンバーは限られがちなのと、権威化してしまうと一気にマネジメント難易度が下がるので、非常にやる価値はあったと思います。マネージャーの言うことを聞かない部下にマネージャーがいくら何かを言っても、基本的にめちゃむずいので、僕はこういう方法の方が相当楽でした。
個人的には最近技術系で実績ある人が業務委託などでやっているのをよく見る技術顧問も、マネジメントが難しい技術職において、ある種の権威獲得を目的としていることもありそうだなと端から見て思っていました。

まとめ

・権力を持った人はそれを安易に行使することはオススメしません
・むしろさっさと権威を集めにいきましょう
・マネージャーの支援には「そのマネージャーの部下の誰から権威を獲得できていないかを調査」「マネージャーがその部下からの権威を獲得するために有効そうな要素Zを探す」「要素Zきっかけで権威が獲得できる機会の提供」などを実行するのがおすすめです。
マネージャーの支援は色んなやり方があるかと思いますが、ちょうど4月から新しい期が始まる会社も多いかと思います。一度試してみてはいかがでしょうか。

余談:最近自分はデータやAIを駆使しながら、大企業の人事業務の支援を行なってたりもしています。しかし、大企業の人事は会社ごとに考え方から課題への解決策も恐ろしく違うなーと実感しています。今回の記事も過去の経験からの学びをまとめたものなのですが、今自分も大企業の人事業務全般を学んでいる最中なので、もし大企業で人事を行なっている方などで、情報交換にご興味ある方いらっしゃれば、zoomで30分くらい話してみませんか。
ご興味ある方は(forfuture●d-mgt.com ●を@に変えてください)までご連絡いただけると幸いです。

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