学校を抜け出した日
みー助は、ねこの男の子です。
ねこはふつう、自分の力でつめを出したり、入れたりすることができます。
だけどみー助は、まだ、それができません。
だから、みー助のつめは、ずっと出たままです。
「いっしょにあそぼ」
やすみ時間、みー助とかえるくんは校庭に出ました。
かえるくんは、クラスの人気者。
みー助も、かえるくんが大好きです。
雨がやんで、地面がしっとりぬれていました。2人の上に葉っぱがひらひら落ちてきて、かえるくんの背中にぴたっとくっつきます。
「や、や」
かえるくんはくすぐったくて、みー助の目の前でぴょんぴょん跳ねました。
でも、かえるくんの背中はベトベトしていて、ぬれた葉っぱははがれません。
「どうしよう」
みー助は、その葉っぱを取ってあげたいと思いました。
それで、かえるくんの背中に、手を伸ばしました。
みー助が葉っぱを取ろうとした時です。
ガリッ
みー助のつめがかえるくんのぶよぶよした背中に深く入り、かえるくんを引っかいてしまいました。
「うおおおおおおお!」
かえるくんが、さけびます。
「どうしたの!」
みんなが集まってきました。
かえるくんの背中には、みー助が引っかいたあとが一本の線になり、血がにじんでいます。
かえるくんは横になって、ぐったりしてしまいました。いたくて話すことができないようです。
みんなはかえるくんの背中のきずを見て、それからみー助をじろじろ見ました。
「かわいそう」
「ひどい」
「なんてことするの」
みんなが口々に言います。
みー助は、だまって下を向いてしまいました。
かえるくんはそのまま、びょういんにはこばれて行きました。
−
みんなは教室にもどりましたが、誰も、みー助とは話をしてくれません。
授業中、となりの席のうさぎちゃんが消しゴムを落としたので、みー助が拾おうとしたら、
「さわらないで!お気に入りの消しゴムなの」
と、言われてしまいました。
うさぎちゃんは、みー助のつめで大事な消しゴムに傷をつけられてはこまると思ったようです。
みー助は一人でとぼとぼ歩いています。
自分の手をじっと見つめて、つめを出し入れしようとしますが、やっぱり
うまく行きません。
気がつくと、みー助は人の家の倉庫にまよいこんでいました。
倉庫にはもう使われなくなった机が置いてあります。
みー助は立ち上がって、目の前にある机のあしに、つめを立ててみました。
つめが引っかかる不思議な感じがします。
いつのまにか、みー助は夢中で机のあしを引っかいていました。
そうだ、このまま引っかき続けたら、ぼくのつめもいつか剥がれて落ちるかもしれない。
そう思って、みー助は、目の前にある木を、いっしょうけんめい引っかき続けました。
「この!このつめさえなければ!」
みー助のつめは、空を切り裂き、彫刻刀のように、するどく木を刻み続けます。
シャアー!
ガリッ
ガリッ
どのくらいの時間、引っかき続けていたのでしょう、あたりはすっかり暗くなり、机にはたくさんの引っかき傷ができました。
「こら!そこのネコ!何してくれてんだ!」
夜になって、倉庫を閉めにきた家の人が、みー助を見つけて怒鳴りました。
「ほら、あっちに行け!!!」
家の人は、下に落ちていた小石を、みー助に投げるまねをしました。
みー助はびっくりして、逃げ出しました。
−
倉庫を出て、お花やさんの角をまがり、お肉やさんの前をとおり、いつもは立ち止まるお魚やさんの前も走りぬけて、みー助はやっと、いつもの寝床に帰ってきました。
ずっと引っかいていた前足がジンジンします。もうくたくたで、歩くこともできません。
みー助はあお向けになって、自分のつめを見てみました。
「このつめがはがれて、なくなりますように」
そう思ったつめは、皮肉なことにたくさん研がれて、さらにピカピカになっていました。
まんまるお月さんが、空を明るく照らしています。
みー助はがっかりしました。
「ぼくは…。このつめとサヨナラすることもできないのか」
みー助はやわらかい自分のおなかに、そっとつめを当ててみます。
「ひゃっ!」
するどくなったつめがおなかに食い込み、冷たく、でも焼けるような痛みが走りました。
「そりゃ、痛いよなあ…」
どうしようもない悲しみが、胸にうずきます。
その夜、みー助はしくしく泣きながら、1人で丸くなって眠りました。
−
次の日、みー助は校長室によばれました。
「きっと、ぼくがかえるくんをきずつけたから、校長先生はたいそう怒っているにちがいない。学校をやめさせられるのかもしれないな」
みー助の胸に、不安がよぎります。
でも、もういいや。
ぼくはこのつめのせいで、どこにいっても邪魔者あつかいされるんだから。
校長先生は、ヤギのおじいさんでした。
先生は、長いおひげを触りながら、静かにこう言いました。
「みー助、何をしたか先生に話してごらん」
「ぼくは、かえるくんを傷つけました」
「どうして?」
「かえるくんといっしょに、校庭に出たんです。その日は雨が降っていて…。
ぬれた葉っぱが、かえるくんの背中にくっついて、かえるくんはくすぐったそうでした。
だから、ぼくが取ってあげようとしたんです」
「ほほう、それで」
「かえるくんの背中にぼくのつめが食い込んで、かえるくんは大けがをしてしまいました」
「みー助、そのつめを見せてごらん」
校長先生は、いすを降りて、みー助のとなりにやってきました。
みー助はだまって、前足を差し出します。
校長先生はしげしげとみー助のつめを見て、言いました。
「こりゃ、りっぱなつめだね」
「…」
「みー助、君のつめは本当にりっぱだ。
でも、りっぱなつめがあるからって、むやみにおともだちを傷つけてはいけないよ」
わかっているよ。
みー助は、悲しさとくやしさが胸にこみあげてきて、泣き出してしまいました。
「わかっています。ぼくは、ぼくは、ほんとうに、だれかを傷つけようとしたことなんて、一度もないんです。かえるくんだって、傷つけるつもりなんてすこしもなかった。だのに、ぼくは、つめが引っ込められないから、いつも、つめが出ているから、ぼくが少しさわると、みんなが傷ついてしまう。そして、みんながあっちいけって、さわらないでって、いうんだ。ぼくだって、こんなつめ、いらない」
ぽろっぽろっと大粒の涙が、雨のように床の上にこぼれ落ちました。
「そうか」
校長先生は、みー助がいきなり泣き出したのでちょっとびっくりしているようでした。
そして、みー助をしばらくじっと見つめてから、こう言いました。
「みー助、このまま散歩に出ようか」
−
校長先生は、さっきまで座っていたりっぱな机に「外出中」というふだを置きました。
「さあ、行こう」
学校を出ると、校長先生は
「ぼくの背中に乗るかい?」と言いました。
「そうだ、ぼくの首輪につかまったらいい。そうしたら、落ちないから」
そこでみー助は、校長先生の上にぴょん、と乗っかって、首輪につかまりました。
校長先生は赤いおしゃれな首輪をしていて、その先にカランコロンときれいな音の鳴る金色のベルがついています。
しばらく歩くと、はとのお母さんに出会いました。
はとさんはオロオロとして、あたりを飛び回っています。
「どうしたんですか?」
校長先生が声をかけました。
「わたしの子どもが落ちてしまったんです!どうしよう、どうしよう、クルッポー」
見ると、大きな木の下に、産毛の生えた小さなはとの赤ちゃんが落ちています。
赤ちゃんは、時々バサバサと羽を動かしながら、ちょこちょこ歩いていました。
近くには大きな道路があって、たくさんの車が走っています。
「あの子が、あのまま車にひかれたら…。どうしよう、クルッポー」
「木の上の巣に戻してあげたらいいんじゃない?」
みー助が言いました。
「わたしみたいな小さな鳥はね、赤ちゃんを運ぶことができないの。力がなくて。このまま見ているしかないのかしら。あぁ…」
みー助はひらめきました。
「ぼく、やってみる」
そこで、みー助ははとの赤ちゃんを口にくわえて、木のぼりをはじめました。
はとの赤ちゃんはちょっと重かったけれど、みー助のつめはしっかり木の幹をつかんでいたので、落ちませんでした。
「昨日、つめをたくさん研いでおいてよかったな」
ゆっくり登りながら、みー助は思いました。
しばらくして、はとの赤ちゃんは、ぶじに巣にもどることができました。
赤ちゃんはさっそく大きな口をあけて、お母さんにえさをねだっています。
「よかった。ありがとう、ありがとう。
あなたって、木のぼりが、ほんとうに上手なのね」
「どういたしまして。ぼく、木のぼりは得意なんだ」
「いや、あなたのつめは、すばらしい。すばらしい。クルッポー」
はとさんは喜んで、大空をぐるぐると飛び回りました。
校長先生は静かに木の下の草を食べていましたが、戻ってきたみー助を見て、こう言いました。
「みー助、君のつめが役に立ってよかったね」
「うん、ぼくはつめが出ているから、小さい頃からいつも、木に登って遊んでいたんだ」
「先生、」
「なんだい?」
「何が役に立つか、わからないものだね」
−
「あ、マサルくん」
校長先生とみー助が話していると、くまのマサルくんがやってきました。
みー助がはとの赤ちゃんを助けている間に、下校時間になってしまったようです。
「帰り道?」
「うん」
マサルくんは、かえるくんのことが気になっているのか、みー助と目を合わせようとしません。
みー助はさみしくなりました。
「君の木のぼり、見てた。すごいね」
マサルくんはくまなのに、とてもおくびょうです。ゆっくりとしか動けないし、あまり話しません。でもくまだから、みんなマサルくんのことをこわいと思っていました。
くまは木のぼりが得意なのに、なぜそんなことを言うんだろうと、みー助は不思議に思いました。
マサルくんはどうやら、みー助を責めているわけではなさそうです。みー助は、マサルくんと木のぼりをしたら楽しそうだと思いました。
「マサルくん、いっしょに木のぼりして遊ばない?」
校長先生も、そりゃあいい、とうなずいています。
だけど、マサルくんはそのまま動かなくなってしまいました。
「どうしたの?」
「いや、やめとく」
「どうして。くまは木のぼりが得意でしょ。ぼくよりもずっとずっと早く登れること、知ってるんだから」
校長先生も言います。
「そうだ。マサルくん、一つ、かっこいいところを見せてくれんかね。君はいつも遠慮して、人にいいところをゆずってばかりいる。たまには、自分の力を自慢してもいいんだよ」
それでも、マサルくんは、動きません。
「ぼくは…」
「ぼくは…。木に、登れない」
「ええっ?」
「どうして」
「だって、ぼくは…、本当は、人間だから」
「え?」
マサルくんはキョロキョロして、だれもいないことを確認してから、くまの着ぐるみを脱ぎました。中から、汗びっしょりの男の子が現れました。
「マサルくん?! 人間だったの?」
「ごめんよ…。だますつもりは、なかったんだ…」
「どうして、こんなこと…」
「ぼくは、何をしても遅くて、何をしても下手で、度胸だってない。
だから、みんなからばかにされてばかりいたんだ。ぼくはみんなといっしょに楽しいことをしたいだけなのに、みんな、ぼくといっしょの班になったら、いやそうな顔をする。
それで、ぼくは考えたんだ。だれもが怖がるくまになったら、もうばかにされないんじゃないかって」
「そうか…」
みー助も、校長先生もびっくりして、声が出ません。
その時、道の向こうに同じクラスのおともだちが見えました。
マサルくんは、あわてて、くまの着ぐるみを着ました。
「このことは、だれにも話さないで。お願いだよ」
校長先生が言いました。
「うむ、わかった。このことはマサルくんとみー助とぼくだけの秘密にしよう。
みー助。わかったな」
「うん」
マサルくんは「ありがとう」と言って、走って行きました。
−
「どうして、マサルくんがくまじゃないって、みんなに言っちゃいけないの?」
校長先生の背中の上でゆらゆら揺られながら、みー助は聞きました。
「そうさな」
カランコロン
「だれにだって、知られたくない秘密があるだろう」
カランコロン
「うん」
カランコロン
「マサルくんは、くまの着ぐるみが、身を守るすべなんだ。そうでないと、自分を守れないんだよ」
「そうか」
みー助は考えたこともありませんでした。
「みー助は、ほんとうに追い詰められたとき、どうするの」
「ぼく? ぼくは、こわいこわい顔をして、こわいこわい声を出して、それでこの、するどいつめでひっかくよ」
「ハハ、それは痛そうだな」
みー助は思いました。
ぼくにはつめがあって、それはいま、ぼくにとってはいらないものだけれど、必要なときはかならずやってくる。自分をまもらなきゃいけないときがあるんだ。それに、つめがなかったら木に登れないし、はとの赤ちゃんも助けられない。
「マサルくんには、つめがないんでしょ」
「そうさな。マサルくんには、みー助のようなつめはないよ。だから、自分を守る何かが必要なのかもしれない」
カランコロン、カランコロン。
「マサルくんの着ぐるみは、ぼくのつめみたいなものかな」
カランコロン、カランコロン。
「マサルくんにとって、くまの着ぐるみはなくてはならないものなんだね」
カランコロン、カランコロン
カランコロン、カランコロン
校長先生はそれには答えず、かわりにこう言いました。
「みー助、空がすっかりみかん色になったよ。
もう少し、夕日に向かって歩こう」
−
校長先生はみー助を乗せて、牧場に帰ってきました。
ここが、校長先生のおうちです。
「さあ、ついた」
みー助は、校長先生の背中から、ぴょんと飛び降りました。
「やあ、お前、今日はずいぶん遅かったじゃないか。探したんだぞ」
牧場主のハシマさんが、建物から出てきて言いました。ハシマさんは、この牧場で、ヤギや牛やニワトリなどを、たくさんし育しています。
「どこに行ってたんだ…。あれ、こんなところに傷が」
みー助が時々首輪をギュッと握ったので、校長先生の首は赤くなって、血が滲んでいました。
「まったく、お前は…。またどこでけがしてきたんだ」
校長先生は、ハシマさんに顔をすりつけ、メエ〜と鳴いています。
みー助は校長先生の傷を見て、申し訳ない気持ちになりました。
「校長先生、ごめんなさい。ぼくのつめが出ているせいで、傷がついてしまった」
校長先生は言いました。
「そうさな。確かに、ちょっと痛かったけれど。
でも、君ができるだけ、そうっとそうっとにぎっていたのを、わかっていたさ。
それに、ぼくは大人だから、傷がついたとき、どうしたらいいのか知っている」
「今のぼくの場合は、ハシマさんにくすりを塗ってもらうことかな。ハハ」
みー助は涙が出そうになりました。
ぼくのために、そんなにがまんしないでって言いたかったけれど、言えませんでした。
校長先生は、みー助の気持ちをわかっているかのように言いました。
「少しぐらい痛くても、みー助といっしょに散歩できたことが、うれしかったんだ。
みんながちょっとずつできることをして、たくさんいいことが起こるなら、それってしあわせなことなんじゃないかな」
ハシマさんが薬を持って出てきました。
「さあ、こっちにおいで。くすりを塗ってあげるから。なあに、一晩寝れば治るさ」
校長先生は、メェ〜と高らかにひと鳴きして、柵の中に戻っていきました。
「ありがとう。楽しかったよ」
−
「おや、友達を連れてきたね」
ハシマさんが残ったみー助を見て言いました。
「なんだか、ハラが減ってるみたいだ。
ちょうど牛の乳があるから、飲んでいけ」
牛がたくさんいるそばで、ハシマさんは小さななべにミルクをたくさん入れて、みー助の前にぽん、と置きました。
おなかがすいていたみー助は、ペチャペチャ音を立てながら、夢中で飲みます。
それはとても甘くて、おいしいミルクでした。
「うまいだろう。俺の牛乳は、大事に大事に育てた牛からできた、世界一おいしい牛乳なんだぞ」
ハシマさんは喉を鳴らしながらミルクを飲むみー助を見て、満足そうに笑いました。
みー助は、もう一人ではない気がしました。やぎの校長先生。はとのお母さんと赤ちゃん。熊だけど人間のマサルくん。牧場主のハシマさん。
今日は、いろいろあったな。
そういえば、マサルくんはなぜ、くまの着ぐるみを選んだんだろう。自分を守るためなら、ぶきでも持ったほうがずっと強そうなのに。
明日はもう少し、マサルくんと話してみようかな。
みー助はそのまま、牛舎のわらの中でぐっすり眠りました。
牛のおかあさんが、みー助の寝顔を見ています。月に照らされたみー助の寝顔はとても穏やかで、潮が満ちるように、牛のおかあさんも優しい気持ちで満たされていきました。
「なんてかわいい子」
−
次の日、みー助は学校に行こうとしましたが、途中でこわくなってきてしまいました。また、みんなにいやな顔をされるのかと思ったからです。
そこで、昨日と同じ木に登って、上からしばらく様子を見ることにしました。
大きな木のなかばまで登った、その時です。
「みー助!みー助!」
下から声がしました。見ると、すっかり具合が良くなったかえるくんが、ぴょんぴょんはねているではありませんか。
「あ、かえるくーん、もう大丈夫なの?」
「うん。みー助、そこで何してるの?」
「ちょっと…。君を傷つけてから、学校行きづらくなっちゃってさ、木の上から見てみようかなって」
「どうして?」
「みんなが、ぼくがかえるくんをわざと傷つけたって思ってるみたいで」
「そんなこと。ぼくは君が、背中の葉っぱを取ってくれようとしたことを知っているよ」
「でも、ごめんね。ぼくのつめが出ているせいでさ…」
「そうだね。ぼくもうっかりしてた。ぼくは身体がぶよぶよしてて、どこにもとがったところがないでしょ。だから、あんなに痛いなんて思わなかったんだ」
「これからは、気をつけるね」
「ぼくも、気をつけるよ。これからも仲良くしてくれるかい?」
「もちろん」
みー助とかえるくんは、いっしょに学校に行きました。みんながかえるくんを取り囲みます。
「みー助は、ぼくの背中にはりついた葉っぱを、取ってくれようとしたんだ。だからさ」
「みー助は悪いやつじゃないよ」
みー助をさけていたクラスのみんなは、ちょっと気まずいきもちになりました。
みんな、シーンとしています。
「あの」
みー助が思い切って、口を開きました。
「ぼくね、つめが、どうしても引っ込められないの。だから、できないことがたくさんあるんだ。
たとえば、ものを傷つけずに取ること。
みんなを傷つけないように触ること。
だから、できるだけ触らないようにするね」
みんながうなずきます。
「でも」
向こうから声がしました。マサルくんです。
めったにしゃべらないマサルくんが、ゆっくり口を開きました。
「みー助は、りっぱなつめがあるから、木のぼりがとても得意だ。木の上にひっかったボールはみー助にたのんだら、すぐに取れるよ。
それに、とっても友だち思いだ」
マサルくんはきんちょうして、ちょっとしゃべりづらそうだったけれど、みんなは「くまがしゃべっている」と思っているので、気にしませんでした。
みー助はマサルくんが、みんなの前で自分をほめてくれたことがうれしくて、あく手をしました。マサルくんは着ぐるみを着ているので、みー助が手をにぎっても、痛くないのです。みんなは「くまだから、ねこのつめなんていたくないんだな」と思って、別段ふしぎに思いませんでした。
マサルくんはそれ以上話しませんでしたが、くまの奥の目が「ありがとう」と言っているように、みー助には思えました。
−
あれから大きくなって、みー助は、自分でつめを出し入れできるようになりました。
もう、みんなを知らないうちに傷つけたりなんてしません。
ものを取るのも、お手のものです。
たまにはうんとこわい思いをしたりして、つめを出すことはあるけれど、実際に使うことはほとんどありません。
でも、時々、つめを出し入れしながら、あの時の散歩を思い出すのです。
やぎの校長先生の背中に乗って学校を抜け出した、あの日のことを。
「みんながちょっとずつできることをして、たくさんいいことが起こるなら、それってしあわせなことなんじゃないかな」
(おしまい)
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