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~ある女の子の被爆体験記36/50~ 現代の医師として広島駅で被爆した伯母の記録を。”医療解剖データ、亡くなられた方の声”

26歳 男性 外傷なし 被爆時に頭部打撲 下痢 脱毛 紫斑 


被爆時、頭をコンクリートで30分間押さえつけられた。その後回復したが、京都へ行く予定だったが、途中で気分が悪くなった。

16日目、西条療養所へ担ぎ込まれた。やけどや外傷は見られない。その時の白血球数は1500と低く、赤血球は297万と貧血を認めた。

17日目、下痢、18日目に著明な脱毛、19日目に全身に紫斑(内出血)を認めた。朝8時30分に患者の発言が理解不能となり、体温は39度、17時50分に他界された。


病理解剖学的所見

発言が理解不能になったため、脳の所見を知りたいところではあるが、残念ながら、脳の所見の記録が欠落している。

一方で、高度の壊死性大腸炎(潰瘍を伴う大腸炎)、喉頭咽頭炎、壊死性扁桃腺炎、出血所見(咽頭、心外膜、胸膜、腎盂)を認めた。


解説:

病理解剖所見で見られる出血傾向は、放射線の影響が全身に及んでいたことが推察される。

死因の1つとしては、白血球減少による感染症、細菌などの病原菌が全身に廻る敗血症による、多臓器不全や感染性ショックによるものが考えられる。

死因の他の理由として、最期に近づき、言葉の内容が理解できない状態になっていたことから、脳への影響があったことが考えられる。骨髄への影響により、血小板が少なくなり、血液が凝固する作用が低下した状態で、19日目に頭蓋内出血を起こした可能性もある。被爆時の外傷との関連は分からないが、打撲で傷を負った血管が、放射線障害によって起きた出血傾向によって、再出血の原因となった可能性はある。

あるいは、脳に病原菌が感染し、脳炎、脳膿瘍を起こした可能性も否定できない。

出血を起こした部分に、膿瘍を作る例

なお、類似症例として、アメリカの調査団の報告の中に、脳出血の部分に感染をおこし、脳膿瘍をきたしたために亡くなられた解剖所見例がのっている。

脳出血を起こした被爆者においては、放射線による免疫低下から、血流にのって病原菌が運ばれ、出血などを起こした部分に、膿瘍を作ることが示唆される。


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