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私たちは、ひとりじゃない。

「#私の勝負曲」というハッシュタグを見たとき、ある1曲が頭に思い浮かんだ。



それは、高校生最後の大会の日。控室で順番を待つ私は、ウォークマンに保存されたその曲を繰り返し聴きながら、友人からLINEで送られた応援メッセージを読んでいた。

「お前のことだから、きっと今日まで努力してきたんだよな」

一言一句覚えているわけではないし、もはやトーク履歴も残っていないのだが、たしかにこんな内容のメッセージだった。少なくとも「頑張れよ」みたいな薄っぺらい言葉ではなかった。友人が、私の気持ちを推し量り、丁寧に紡いでくれた言葉だった。とても、嬉しかった。だから、何度も何度も読み返した。



弓道とは、孤独な競技だ。質素な袴を身に纏い、左手に長い弓を、右手に4本の矢を携えて入場し、一連の動作を行い、すべての矢を射ち終えたら退場する。一言も発することなく、一人で始まり、一人で終わる。

道場の脇では、部員たちが見守ってくれている。だが、彼ら彼女らに許される発声は、仲間の矢が的中したときの「よし」という掛け声のみ。たとえ的を外したとしても、「ドンマイ!」と叫んだりしてはいけない。一人で戦う仲間のことを、ただじっと、見守ることしかできない。


弓道とは、まことに、孤独な競技である。



的前に入場してから退場するまでに要する時間は、わずかに10分程度。大会に出場している選手は何百人もいるので、次の順番が回ってくるまで控室で何時間も待たなければならない。そのため、いかに待ち時間でコンディションを整え、集中力を高められるかが極めて重要になってくる。

友人からのメッセージは、控室で出番を待つ私のこわばった心を、じんわりとほぐしてくれた。

そして、この曲は、不安になりそうな私の気持ちを、アップテンポな曲調と力強い歌詞でもって高めてくれた。


信じる心があればきっと強くなれる
迷わずに そう前に前に
立ち向かう勇気を
一人に感じても
君だけじゃないから Don't cry
立ち上がって ここから
そうどこまでも行こう



あれから5年以上経った今でも、この曲を聴くたびに、当時のことをはっきりと思い出す。あの日、私の仲間たちは部活を引退した。私たちは皆、号泣した。後輩が、大粒の涙を流しながら、私たち先輩にティッシュを配ってくれていた。辛く、そして楽しかった日々を思い出しながら、私たちは無邪気な赤ん坊のように泣いた。


私は決して、一人ではなかった。
私たちは、誰一人として、孤独ではなかった。



この曲は、私の大切な思い出の1ピースだ。これからも、そしていつまでも、「#私の勝負曲」でいてね。西野カナ『We Don't Stop』。​


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