絵：May Morris by Dante Gabriel Rossetti
はじめに
今回紹介するのは、下の写真の絵である。
私が英国のオックスフォード大学に研究出張に行っていた際、唯一遊びに行ったコッツウォルズ（Cotswolds）のストゥ・オン・ザ・ウォルド（Stow on the Wold）のアンティークショップで購入した。
日本でこういった商品を購入すると、輸送代のせいで非常に高い。何かの用事で海外に行くときは、自分が普段マーケットなどで買うようなものを現地調達することをお勧めしたい。
こちらの絵、おそらく2,000円未満だったと思う。額縁も美しいし、購入できた時は無自覚に興奮してたのかスマートフォンを置き忘れてしまった。あの時の定員さんには感謝しきれない。
絵の正体を探る
突然告白させていただくが、私は絵が好きだ。しかし、全然詳しくはない。蘊蓄を垂れることなど到底できまい。
そんなわけで、この絵の正体について、必死に調べる様子を皆さまにご覧に入れたいと思う。
女性が肘をつく机のプレート
まずは、下の拡大写真にあるプレートの情報を探るしかない。額縁の裏にはとくに記述がなかったし、古いものであるため中の絵を取り出すのも勇気がいるのだ。
「MM ætat.X Rael. 1872」みたいな文字が書かれている。「æ」はアッシュと読むそうだ。
しかし、これをGoogle先生に入力してもなかなか出てこない。色々と試行錯誤するうち、以下のテキストを画像検索したら、ようやく見つかった。
「mm aetat.x 1872 picture」
作者はDante Gabriel Rossetti（ダンテ・ゲイブリエル・ロセッティ）
ということが判明した。この画家については、ウィキペディアに詳しく書かれている。
この絵との関わりについてのみ、整理しよう。
まず、ウィリアム・モリス（William Morris）というデザイナーはご存じだろうか。以下のHP「Morris & Co.」をご覧になると、彼が有名であることはすぐにご理解いただけると思う。
ウィリアムはダンテの弟子である。この2人の妻について整理すると以下のようになる。
ダンテの妻：エリザベス・エレノア・シダル（Elizabeth Eleanor Siddal）
ウィリアムの妻：ジェーン・バーデン（Jane Burden）
そして、ダンテはエリザベスではなく弟子の妻であるジェーンを想っていて、頻繁にモデルに起用していたということだ。また、ダンテとジェーンは相思相愛で、ウィリアムはそれを理解し結婚後もダンテとジェーンが過ごせる屋敷を賃借していたとのこと。昼ドラを軽く凌駕する展開である。ウィリアムにとってはダンテもジェーンもかけがえのない存在だったのだろう。他方、エリザベスはこのことで気を病み、辛く孤独な死を遂げたようだ。
不倫関係の話は苦手であるので、何とも言えない気分である。上を読むと、エリザベスだけ蚊帳の外であまりに不憫ではなかろうか。しかし、彼らの制作活動の素晴らしさは、このような背景と区別すべきだろう。
そして、モリス家の娘が、今回ご紹介するダンテ作の絵のモデルである。
女性はMay Morris（メイ・モリス、正式にはメアリー）
ウィリアムとジェーンの間に生まれた次女が、メアリー・モリス（Mary Morris、愛称はメイ）である。
メイは、父ウィリアムの活動を支えるとともに、刺繍職人・デザイナー・宝石細工人・社会主義者・編集者などの肩書を持つ活動的な女性だった。
以下のサイトに、メイが編集した書籍のうち、最も有名な『Collected Works of William Morris vol. 1ー24』（父ウィリアム著）における序文集がまとまっている。このような資料を見ることができるのはありがたい。
最後に
モリス家とダンテの関係は友好だったことを考えると、今回の作品を描くにあたってはモリス家から依頼があった可能性もあるだろう。この作品自体に曰く付きのストーリーがあるとは考えにくい。
それに、メイ自身もわりと自由奔放な恋愛をしていたという記述も見かけた。私はこの手の話に強い関心を抱けないので、興味のある方は調べてみていただきたい。
それにしても、背景も何も分からないまま英国で購入した古い絵が、かの有名なウィリアム・モリスの次女であったとは正直驚いた。今後も、このような出会いが待っていることを願う…が次はもう少しポジティブなストーリーが待っていますように。
Dr. モンブラン
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https://note.com/dr_montblanc/n/n5fa8a3d1563d
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