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【不条理とは】 ナイロン100°C 「江戸時代の思い出」

https://www.cubeinc.co.jp/archives/theater/nylon49th

伏線回収しないなんて!

1部終わりに登場するこの一言が最高だった。

ケラリーノ・サンドロビッチさんの最新作は、ケラさん作品の中では個人的大好物なプロジェクションマッピングを(ほぼ)封印していたけれど、オモシロはこれでも喰らえ!ってくらいに盛り込みまくられていた。

上記の一言の演出も最高だった。

1部の終わりの暗転後、客席のあちこちにランダムにピンスポがあたり、彼ら彼女らの心の声が駄々漏らされる。困惑する声、オモシロがる声。その中に「伏線回収しないなんて」という心の声も登場する。4人目の人は、心の声をダダ漏らした後「もう帰る!」と言い出す。それを同伴者が必死になって止める。「これから面白くなるかも知れないから!」と。

だが頑なに男性は帰ろうとする。「途中で帰るのはウェストエンドの客ばかりではない、我々には面白くない芝居の途中で帰る権利がある!」とばかりに。

だがそんな男性を、今度は弁慶の如く矢が体中に刺さったままの落武者が登場し、劇場通路の真ん中で止めに入る。曰く、彼は「本多劇場」だと。

… そう、4人目前のピンスポ対象は一般客だったのだが、最後の人は役者陣だったのだ。最高の演出だった。

この舞台の途中で出て行こうとした2人は、やいのやいのと通路で言い争いをした後、芝居を続けるべく舞台に上がる。客席降りではなく、客席登り

この2人、いつから客席にいたんだろう。1部全部、お客さんとして見ていたのかな。そうだろうな。それってすごく贅沢なことだ。何しろ、自分が出演する舞台の前半をお客さんとして見られるのだから!隣に座っていた人も、さぞ度肝抜かれたことだろう。隣に座ってたお客さんが、いきなり当事者になっていくのだから。男性を引き止める女性が、本公演のパンフを持っていた辺りは、思い出すだけでニヤニヤしてしまう。

このピンスポ演出は、2幕でも登場した。2幕はさらにステップアップして、客電が「うっかり」点灯し、あろうことか「終演のアナウンス」まで流れることになる!最高かよ!

登場人物も、やれ顔が尻の尻侍だの、やれお客を食べちゃうおにくちゃんだの、やれ武士の武士助だの、善玉菌左衛門だのだし、「救済組織九歳」だの、「ケンタッキーフライド飢饉」だの、セリフも言葉遊びが満載で、ただただ笑って終わろうとしていたら、最後に「地下都市(シティ)」が登場した。小池さんが掲げている3つの「シティ」の揶揄だろう。ここにぶっこんできたか!と戦慄した。かっこいいい…

途中、先週の疲れから一瞬記憶が飛んだんだけど、全く問題なかった。何しろ全てがスラップスティックだったから。

やれ伏線回収だ、メッセージだ、プロットが進む進まないと色々と言われるけれど、こういう純粋な「笑いのための笑い」の作品だってあっていいのだ。大好きだ。それが少なくなっているのが悲しい。笑いとは寛容に繋がるけれど、今日本は寛容さが薄れているのかも知れない。

意味のあることや、或いは真逆にタイパ、コスパばかりが重視されるようになって久しいけれど、何も意味がないものだって価値があるのだ。

ナンセンスをちゃんと面白くするって難しいよね、と帰りに役者友人としみじみしながら帰路についた。

何しろ楽しかった。

ケラリーノさんの作品感想は以下に。

明日も良い日に。


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