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423/1000 【究極の分業舞台だからこその鍔迫り合い】 文楽公演:伽羅先代萩(めいぼくせんだいはぎ)

来月も面白そうな演目だから行きませんか?

こんなお誘いをメンターに受けたら、断るわけにはいきますまい。

今年の生舞台始めは、文楽となりました。この日の演目は

賑々しい「五条橋」と、1670年ごろ、仙台藩は伊達家で起きた伊達騒動を下敷きにした、「伽羅先代萩」

先代萩の方のあらすじは、

あるお家の幼君を亡き者にしようとする派閥と、その奸計から何とかして若君を守ろうとする乳母。陰謀渦巻くお家内で、正義は存在するのか。謀は成立するのか。忠義とは何か。武士の心得とは。

短く説明するとこんな感じ。

んで、実際はと言えば...

シェークスピアmeets 侍チャンバラ殿中でござる陰謀ドロドロ一大人情スペクタクル

でございました!

人情とスペクタクルがどう一緒になるねん、って思った人。

正解です!

「御殿の段」の前半は、毒殺が懸念される若君が子供らしくお腹が空いたと駄々を捏ねたりするものの、途中でハッと自分の立場に気づき、乳母と幼なじみが食べるまでは自分も食べない、と健気にも我慢したりする場面があるのです。

それを聞き、乳母はつい涙を流してしまうのですが、その心情が静かに静かに伝わってくるのです。

若君が健気であればあるほど尚更です。

前半は雀が出てきたり朕が出てきたりと少しホッコリするシーンも多いのですが、その中で、茶懐石のような釜で、ちゃんと福沙を捌きつつ飯を炊く乳母、政岡がとっても綺麗。

この段の目玉は、人間国宝の鶴澤清治さんのお三味線

表情を全く変えず、身体もとても凪いでいる。

奏でる音も、音の水面は凪いでいるのに、水底に乱流を孕んでる漣の一つも立っていないのに、何故かその下の渦が感じられる。

そんな、すんとして凛とした、燻銀の「静」の演奏が続きます

子供の微笑ましさを引き立てつつ、これから起こる騒動の予感も感じさせるのです。

そして太夫とお三味が交代する後半になると、一気に若君の暗殺計画が露見していきます。

ドラマチックな陰謀が明かされる中、ひたすら煽って煽って煽りまくるお三味。掛け声は、時に断末魔の様に、時に恨みや怨念を吐く呪詛の様にも聞こえます。

太夫は、子供、若い女性、年上の女性らの駆け引きと、そこから迸る感情をこれでもかとばかりに演じ分けていく。

人形と太夫とお三味が別々だからこその鍔迫り合いが展開します。

これ、同じ人がやっていたら普通の陰謀劇なのですが、1人の役を3人別々の役割を持つ人がやることで、葛藤や衝突の層が増すのです。

太夫と人形遣いとお三味の間で、鍔迫り合いがある。お互いを信頼しつつ、相手におもねず、慮らず、ギリギリのところまで全てを賭ける。

その外では、人物と人物の駆け引きがある。

人形遣い(体)と太夫(五感)とお三味(感情)を、なぜにわざわざ分けてやるのさ?と思われるかも知れないけれど、だからこそ生まれる重厚感があるのです。

人間やっていても、心と頭と耳と目がなんだかチグハグになってしまうことがある。それを物理的にもやっているように思います。

文楽すげえ。

そうそう。本作について、ひとつネタバレいいですか。

若君を守るため、毒入りお菓子をさっと口にした乳母のお子様が、なんと陰謀側の年増女性に

なぶり殺しにされるのです!!!

良い子は絶対真似しちゃダメ!約束だよ!

いえ、お人形ですよ?でもだからこそ、可愛い大人人形が、愛らしい子供人形を無表情のままにグサグサ刺し殺していく様は身の毛もよだつ光景になるのです。

それを心を鬼にしてみている乳母。

陰謀は二転三転し、敵の味方だと思っていた人が実は復讐の機会を別途狙っていた人だったり、敵が勘違いしたことを事実だと思わせようとして謀反の謀反返しみたいなことが展開されたり、

え?え?えええ?????

みたいなどんでん返しがゴンゴン続きます。アガサ・クリスティーの殺人事件のダイジェストみたい。

集中しないと振り落とされてしまうので、瞬きする暇すら惜しい。今回の様な一大スペクタクル時代ものになってくると全くもって、目が足りない!

お人形の動きも見たいんだけど、太夫の顔の表情も見たい!人間国宝の様な、仏像の様なお顔で悲しみを語る三味線を爪弾く表情もみたい。怒涛の様にホトぼしる感情をひたすらに弾きまくるその指だってみたい。

なのに、私の目は2つしかないし、その2つすらも、カメレオンの様には動かせない!

困る!困るんです!

謎解きも、伏線が複雑なお話な為、話の筋だけでも事前に頭に入れておかないと、斜め上に出てくる字幕まで見なきゃいけない羽目になる。

いやもう、目を追加で3対くらい育てなきゃ無理になっちゃうから!

そんな歴史物文楽の舞台。

文楽?心中ものやらドロドロものやらばかりなんじゃないの?なんて先入観を持っているあなた!

違うのよ!

ぜひ一度、先入観なしでご覧ください。

他とは違う体験ができると思うのです。

明日も良い日に。


#伽羅先代萩  #文楽 #五条橋 #鶴澤清治





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