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【30】本当の価値観と、作り上げた価値観

さて、過去数回にわたり、インプット・プロセス・アウトプット(知覚行為循環)のプロセスを見直すとはどういうことか、お伝えしてきました。

ここまでのポイントを簡単におさらいします:

◉あなたの感情や状態は、あなたからインプットとプロセスという過程を経て出てくるアウトプットである(関連記事【22】

◉一度出てきたアプトプットは変えられないが、インプットとプロセスを見直すことで、新たに出てくるアウトプットは変えられる(関連記事【27】

◉インプットを見直すとは、インプットの質と量を見直すことである(関連記事【23】【24】

◉プロセスを見直すとは、プロセスを歪ませているフィルターの存在を知ることである(関連記事【28】【29】

プロセスを歪ませるフィルターは、大きく三つの種類があって、そのうちの二つ「常識」と「ネガティブな前提」はすでに解説しました。

今回は三つのフィルターの最後の一つ、「過去の経験から作り上げた価値観」というフィルターについてお話しします。

作り上げた価値観とは何か

「過去の経験から作り上げた価値観」というのは、その言葉通り、過去に起きた出来事をきっかけに、自分で作り上げた価値観、ということです。

動作学では、あなたの価値観に従って生きることが何より大事だ、とお伝えしていますが、この場合の価値観は「自分で作り上げた価値観」で、あなたの生命(いのち)のシステムが出してきた本来の価値観とは異なるため、プロセスを阻害するフィルターになってしまうのですね。

では、どういう時に人は自ら価値観を作り上げるのかというと、どんな出来事もきっかけになりえますが、とりわけ多いのは、つらい出来事に付随するものです。

虐待を受けた、性的暴行を受けた、いじめの被害にあった、など、誰にとってもつらい経験はもちろんのこと、幼い頃に親が何気なく言った一言で傷ついた、自分にとっては真剣だった思いを打ち明けたら友達に笑われて悲しかった、というような、他人から見たら些細に思える出来事も自ら価値観を作り上げるきっかけになりえます。

どういうことかというと、自分にとってつらい出来事は、そのまま受け止めることが苦痛なので、その出来事を正当化したり、整合性をつけたりするために、自分なりの価値観を作り出すのですね。

少し具体的にイメージできるように、幼い頃、体罰を受けたと仮定してみましょう。

体罰を受けた時、肉体的につらかったし、精神的にも悲しく傷ついた、そして何よりなぜこんな仕打ちを受けなければいけないのかという混乱もあった…けれど、その出来事をそのままにしておくとそういった嫌な思いを何度も反芻することになってしまいます。

だから、嫌な思いの反芻を避けるために、「体罰によって精神が鍛えたれたし、チームの連帯感も生まれた。だから体罰にも意味があった」「自分は人間としてダメだから、体罰を受けても仕方なかったのだ」というような価値観を自分で作り上げるのです。

要は、「体罰も役に立つことがある」「自分はダメな人間だ」といった価値観を作り上げることでその出来事を正当化し、正当化することで受け入れやすくする、という心理ですね。

この心理は、つらくて傷ついた自分を守るために自然に起こることなのですが、最終的にはそれがフィルターとなって、その後のさまざまなシーンで好ましくない影響を及ぼすようになってしまいます。

なぜか好ましくない影響を及ぼすかというと、先に述べたように、そもそもはあなたの生命(いのち)のシステムが出してきた本当の価値観、本当の望みとは異なるからです。

体罰の例で言うと、つらかった、悲しかった、傷ついた、混乱した、というその時のあなたの感情こそがあなたの本当の価値観なのに、「体罰には意味がある」という作り上げた価値観があるから体罰を擁護する、というようなことが起こるんですね。

本当の価値観と違うことをすることは、生命(いのち)のシステムの自然な流れを阻害することですから、いろんなことがうまくいきにくくなります。

ですから、自分の本当の価値観はつらかった、悲しかった、傷ついた、混乱した、という感情の方だということに気づいてあげること、そしてその本当の価値観を大切にしてあげることこそが重要なんです。

では、どうやったら「作り上げた価値観」に気づけるかというと、それを教えてくれるのが何らかの違和感やイライラ、苛立ち、不安といった、あなたから出てくる不愉快なアウトプットです。

もっというと、前の回でお伝えした「常識」というフィルター、「ネガティブな前提」というフィルターもまた、不快な感情、不愉快な状態を引き起こす一因になります。

つまり、イライラや怒りや不安、落ち込みといった心地悪い状態が出てきたとしたら、それはあなたの中の何らかのフィルターがあるというサインである可能性が高いということです。

ちなみに、自分がされて不快、不愉快になる出来事はもちろんですが、自分には直接被害はないはずなのに他人がしているのを見るだけで不快、不愉快という出来事の後ろにも、まずほとんどのケースであなたの持っているフィルターが関わっています。

そのことを理解しておくと、不愉快な感情、不快な状態への対処法が自ずと変わってくるのではないでしょうか。