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音楽小説集データベース

「WEB漫画と小説の投稿サイト」新都社内「文芸新都」にて2019年3月から週一ペースで連載中「音楽小説集」https://neetsha.jp/inside/comic.php?id=21721

のデータベースです。2023年8月現在、まだ途中ですが切りがないので公開します。今後も随時追加していきます。


 好きな曲の歌詞からインスパイアされた小説や、生活の中で関わる音楽、創作論やら読書感想文やら。途中から、子どもたちとの生活記録的なエッセイが多くなります。

作品番号「題名」アーティスト名
作品の分類
URL
簡単なあらすじ紹介
一部引用

のテンプレートになっています。
何かのきっかけでここから飛んで読んでくださった方は、各作品下部にあるコメント欄に何か書き残していただけると幸いです。



001「twist」KORN 

分類:曲からインスパイア
https://neetsha.jp/inside/comic.php?id=21721&story=2

毎朝KORNの「twist」で目覚める女子高生の元に現れた、ハムスターサイズのダイムバック・ダレルの話。

枕の横ではハムスターサイズのダイムバック・ダレルが嬉しそうにはしゃいでいる。留亜の肘が当たり、ダレルが笑いながらころころと転がっていく。何が可笑しいのだろうと思いつつ留亜が「ごめんよ、ダレル」と謝ると、ダレルはまた喜んでぴょんぴょんと跳ねた。


002「Snow(Hey Oh)」Red Hot Chili Peppers
https://neetsha.jp/inside/comic.php?id=21721&story=3

分類:時代小説

援軍要請を受けた上杉謙信が、レッドブルを飲みながらレッチリを聞いている話。

 最新の史料により、当時のレッドブル社と上杉謙信の関係が明らかになっている。戦国時代最強の名高い謙信の強さの秘密は、レッドブル社からの無償提供によるレッドブルの常飲及び兵士への支給によるものが大きかったのである。兵士達には戦時に一日一本支給されたが、謙信個人は毎日ロング缶を五本飲んでいたというから、レッドブル社の提供力及びそれを受け止めきれる謙信の肉体も尋常なものではない。

003「ぐでんぐでん」萩原健一 
https://neetsha.jp/inside/comic.php?id=21721&story=4

分類:自作スピンオフ(「悪童イエス」内の登場人物、メロスのその後)

酔っ払ったメロスの横にいつの間にかショーケンがいた話。二人ともお金を持っていないことに気が付き、食い逃げしかないと居直る。ショーケンの叫ぶ「走れ、メロス!」が涙を誘う。誘わない。

「俺は何度もしくじったからよう」
 席に帰るとショーケンがくだを巻いていた。
「警察に何度も厄介になってよう、面倒事山ほど起こしてなあ、兄さん、そうなっちゃいけねえよ。なりそうだけどよ、もうなってんじゃねえかなって見えるけどよ、ほどほどの所で済ませろよ。取り返しのつかない所まで行っちゃうと」
 ショーケンは少し間を置いた。
「取り返しのつかない事になっちゃうからよう」
 溜めて溜めて同じ事の繰り返しかよ、とメロスは思う。酔っぱらいみたいだ、いや酔っぱらいだった。俺もだ、俺も酔っぱらいで、きっとその内取り返しのつかない所まで、とメロスは思う。

004「深夜高速」フラワーカンパニーズ
https://neetsha.jp/inside/comic.php?id=21721&story=5

分類:自作スピンオフ(「殺されたヒョウのいる檻の中で」続編)


昔犯した殺人と、動物と後輩を巻き込んだ自殺未遂の記憶に蝕まれた男が、現在付き合っている女を殺したと思い込んで深夜の高速を走る話。

 倉浜はかつて愛する女を埋めた山に辿り着いた、はずだった。しかし山は跡形もなく削られ、消えてなくなっていた。埋めたはずの女の死体ごと。倉浜の罪と一緒に。
 では今後部座席に転がしている死体はどこに埋めればいい? かつての俺の罪の証拠はなくなってしまったが、今殺した女は確実に転がっている! 

005「ゴッホ」ドレスコーズ
https://neetsha.jp/inside/comic.php?id=21721&story=6


分類:歌詞からインスパイア

売れもしない小説を書き続けながら、死後評価されるよりは生きている間に評価を、金を! ともがく男の話。

 高浦は小説を書いた。金にはならなかった。どこにも送れていなかった。ネットに発表して反応をもらってそれで終わっていた。一銭も稼げてはいなかった。毎日書き続けてはいるのだから膨大な量にはなっているのだが、金に変えられる類いのものではなかった。


006「MOTHER」PUFFY
https://neetsha.jp/inside/comic.php?id=21721&story=7

分類:歌詞からインスパイア

PUFFY「MOTHER」を歌いながら、今はもういない母への手紙を書こうとしている話。

 川沿いに走り続ければ海まで行けるかな。同じPUFFYの「海へと」も大好きな曲だが、俊夫はまだ「MOTHER」に留まっていたかった。曲の中には一言も母という言葉は出てこないのに、どうしてこの曲名なのか不思議だった。けれど俊夫はこの曲を思い出しながら、もういない母に向けての手紙を綴る。実際紙に書いている訳ではないから始まってはいないが、だからこそ終わりもない。


007「Lonely Boy」The Black Keys
https://neetsha.jp/inside/comic.php?id=21721&story=8

分類:MVからインスパイア

おっさんが延々と踊るだけの「Lonely Boy」のMVを見ながらラインでやり取りする、女子高生の親友二人組、織田咲実と坂口安子の話。

 おっさんが踊っている。
 黒人のおっさんが、ノリノリで踊っている。
 曲に合わせて、「初めて聴くけどいい曲だね、踊るよ、踊っちゃうよ、俺」みたいな顔をして、おっさんがひたすら踊っている。
 どこかで違う展開になるんだろう、と織田作実は思っていた。ステージで演奏するバンドの映像に切り替わって、おっさんが歌ってるわけじゃないんだよ、って安心させてくれるのだと。だが結局、最後まで黒人のおっさんは一人で躍り続けた。ノリノリで。


008「Lightning」ストレイテナー
https://neetsha.jp/inside/comic.php?id=21721&story=9

分類:自作スピンオフ(「鳥男」続編)

昔書いた「鳥男」という掌編の続編として書いた。荒廃した世界に住む人ならざる者たちが、文明の遺産である音楽プレイヤーから、ストレイテナー「Lightning」を聴き、歌を知る話。

 かつて誰かが愛用していた、半永久電池式の音楽プレイヤーに男の足が当たる。奇跡的に壊れず生き延びてきたそれは、ストレイテナーの「Lightning」を再生する。男に取っては生まれて初めて聴く音楽というもの、生まれて初めて触れる人の言葉、歌声であった。男はその場から動く事が出来なくなり、延々とリピート再生されるその曲を聴き続ける。周辺からその音を聞き付けて異形の兄弟達が集まってくる。人の姿から遠ざかっている者も多い。虫寄りの者、土寄りの者、死体寄りの者もいる。


009「ちえのわ」東京スカパラダイスオーケストラ、峯田和伸
https://neetsha.jp/inside/comic.php?id=21721&story=10


分類:歌詞からインスパイア+峯田和伸エピソード

古い喫茶店に住み着いている化け猫が見た、常連客峯田和伸の話。

 店内にはうるさいロックがよくかかっている。百年前にはなかったものだが、百年後も誰かに歌われていそうだ。ある時、流れている曲を歌っている当人が客として来た。
「俺この間のライブでこの曲歌ってる時にちんちん出したら、後で警察にめちゃめちゃ怒られたよ」
 それはそうだろう。そしてその事を猫に愚痴るな。一人で来てるのに喋り続けるその男は、私に触れたり話しかけたり、店の隅にある知恵の輪を外したりまた元に戻したりしていた。


010「ゲルニカ」中村一義
https://neetsha.jp/inside/comic.php?id=21721&story=11

分類:歌詞からインスパイア

ピカソの「ゲルニカ」の模写を延々と続けている男の話。ついに模写から離れて、目の前の景色を描こうと決意した瞬間、景色がゲルニカに似てしまう。

「麻薬と同じなのだ」まだ四十歳にならないのに八十代みたいに老け込んだ肉体は、確かにアル中や薬中の末路に酷似していた。絵も、小説も、音楽も、抜け出せないくらいにのめり込んでしまえば、それは中毒と呼べる代物になってしまう。エバンスの続けるゲルニカの模写は全く金にはならず、彼の命だけを削っていく。


011「夜の盗賊団」THE BLUE HEARTS
https://neetsha.jp/inside/comic.php?id=21721&story=12

分類:歌詞からインスパイア

古い友人とドライブしながら昔話と馬鹿話。共通の初恋の相手の結婚話。

「今から花嫁盗みに行くか?」もう夜の十時だけれど。
「式はしてないし、子供も生まれたよ」
 故郷を離れてたった一年で、世界はこうも激変するのか。俺が東京に出てしまったから…と東出は悔やむが、落合さんの結婚事情に東出は一切関係がない。就職先の社長さんで、落合さんの方から惚れたのだとか。聞きたくない情報ばかりが稲尾の口から飛び出してくる。


012「Dog Days」MAN WITH A MISSION
https://neetsha.jp/inside/comic.php?id=21721&story=13


分類:曲名からインスパイア、昔話二次創作。

鬼退治を終えた桃太郎一行のその後の話。

 犬はバンドを組みたい。
 鬼退治以後の三年間、犬は音楽漬けの日々を過ごした。桃太郎は賭博と風俗にどっぷり浸かり、猿は本の海で溺れ、キジは漫画オタクになって火の鳥になりたがっている。
 俺達は英雄なんかじゃない、と桃太郎はぶつくさ言う。退治というよりは虐殺であった。小さな鬼も殺した。年老いた鬼も殺した。命乞いしてくる鬼も、ただ泣きながら抵抗もしない鬼も殺した。悪いことをした鬼もいた。だから依頼を受けたのだ。しかしそんな奴等はごく一部だったのに、桃太郎一行は大義名分とドーピング(きびだんご)に背中を押されて、鬼達を根絶やしにした。


013「Island In The Sun」Weezer
https://neetsha.jp/inside/comic.php?id=21721&story=14


分類:子育てエッセイ、時代小説

息子の1歳8ヶ月検診についてのエッセイ、からの、秀吉に招集されて小田原の北条攻めに赴く伊達政宗の話。

 秀吉に誘われての小田原征伐に向かう途中である。この時代にはまだ東北新幹線など開通していないので、寝台列車に分乗しての行軍となった。慣れぬ布団と枕で眠れない政宗は、好きなバンドの動画などを見て暇を潰していたが、Weezerの「Island In The Sun」を久し振りに聴いた所で、幾つかのバージョン違いの同じ曲を聴き続けた。バンドのメンバーが動物達と戯れている動画では、「猿や子グマや、子ライオン? まではまあいいとしよう。このクロヒョウとかって本物なの? 危なくね?」と景綱に見せてみた。
「それ以上喋ると、見えてる方の目玉を抉り取りますよ」



014「ハンバーガーヒル」ザ50回転ズ
https://neetsha.jp/inside/comic.php?id=21721&story=15


分類:歌詞からインスパイア

いつの頃から続いているか分からないハンバーガー・ヒルでの戦闘の話。

「この戦争が終わったら俺、歯医者に行くんだ」と言っていたヘミングは虫歯も健康な歯も吹き飛ばされて歯医者に行く必要がなくなった。
「故郷に残してきた妻が二人目の子供を産んだよ。この写真見てくれ、猿みたいだけど可愛いだろ? 不思議だよな、妻とは二年会ってないのに子供が出来た」と言っていたフォークナーは、顎を外して手榴弾を頬張って爆散した。

015「3✖3✖3」ゆらゆら帝国
https://neetsha.jp/inside/comic.php?id=21721&story=16

分類:バンドからインスパイア、エッセイ

ゆらゆら帝国のギター&ボーカル、坂本慎太郎の愛機SGの話と、当時の職場での私の扱いの話。

 皆さんご存知の通りギターは平均5、6回脱皮する生きものであるが、坂本慎太郎(バンド「ゆらゆら帝国」のギター&ボーカル)の持つギブソン社のSGスタンダードモデルに関しては実に83回もの脱皮を繰り返し、坂本の手に、体に、魂に合うように緩やかに変質を遂げていった。故に坂本とSGとは一心同体と言ってもいい。SGに向かって「坂本さん」と話しかけてしまったインタビュアーもいたという。SGも振り向いてしまったのだとか。


016「Boulevard of Broken Dreams」Green Day
https://neetsha.jp/inside/comic.php?id=21721&story=17


分類:歌詞からインスパイア

夢の破れた人と、破れた夢の途中で放り出された物語の登場人物たちとの話。

 けれども何処かで。心や頭の片隅で。眠っている時に見る夢と起きている間に見る夢の中で、いつまでも俺は一人だという気がする。誰と関わっていても、いなくても。学生の頃にノートに殴り書きしていた頃、夜中にパソコンに向かっていた頃、スマホで今こうして打っている間、俺の指に寄り添っているのは、俺の指だけだ。



017「なぜか今日は」The Birthday
https://neetsha.jp/inside/comic.php?id=21721&story=18


分類:歌詞、アーティストからインスパイア

 背の高すぎる人がギターを背負って歩いている。片方だけの子供靴が寝転んでいる。お祭り会場に向かう浴衣姿の少女が友人に絡みすぎて煙たがられている。鳥の振りをしたドローンが入道雲に向かって飛び込んでいく。なぜか今日は殺人なんて起こらない気がする。路面で干からびたミミズに群がる蟻の群れを陽光が焼き始める。蟻の数だけ小さな炎があがり、すぐに燃え尽きていく。


018「浮舟」GO!GO!7188
https://neetsha.jp/inside/comic.php?id=21721&story=19


分類:歌詞からインスパイア、エッセイ

「浮舟」の歌詞から浮かんだ、もう来ない男を待つ女性の話、と、川端康成文学館に行ったエッセイが並行して書いてある。

 それもこれもあなたが来ればの話。いつ来るのだろう。もう来ているのだろうか。玄関の前にやって来ているのはガスの検針ではなくあなたではないのだろうか。パッキンがゆるくなって洗面所の水道がぽたぽたと漏れている。その水はあなただろうか。台風も、地震も、巡り来る毎日の全ても、あなたではないだろうか。
 部屋の物全てにあなたの名前を付けてみた。わたしはあなたたちに囲まれて暮らしている。ちっとも幸せではない。



019「Breed」NIRVANA
https://neetsha.jp/inside/comic.php?id=21721&story=20

分類:SF

約2億5100万年前のペルム紀大絶滅の原因の真相の話。超聴覚の発達した生物たちが未来の音楽を聴いて楽しんでいたのが、ネット遮断による音楽枯渇により絶望して死んでいった、という最新の研究結果を紹介している。

 現在地球上で最も繁栄している事になっている我々人類であるが、生物的機能について人類よりも優れた種はいくらでもいる。チーターの方が足が速い、犬の方が嗅覚が鋭い。鳥は空を飛べる。かつて栄えた生物種の中には、聴覚について現状のどの生物種より優れていたものたちが居た。彼らは周囲の物音だけでなく、過去にそこで響いた足音も、遥か未来に作られる美しいメロディまでも聞き分ける事が出来た。
 最新の耳の研究では、内耳の形状はそれまで聴いてきた音によって変化している、というのが常識になっている。木の年輪のように、内耳の形を読み解けば、「若い頃はヘビメタしか聴いていなかったが、歳と共に歌謡曲に目覚め、何故かある時からアイドルの曲しか聴かなくなった」と音楽遍歴が分かるようになっている。


020「Lucky」SUPERCAR (これまで書いた分の振り返り回)
https://neetsha.jp/inside/comic.php?id=21721&story=21

20編突破を機に、これまで書いたものを振り返った回。簡単な紹介と、曲にまつわるあれこれのエピソードなど。

 昔好きだった人達の周辺の曲を聴いてみると、自分の中の「好き」がどんどん広がっていく。増えていく。
 解散してしまっていても、亡くなってしまっていても、時代を越えて響く歌がある。それを聴けるのはとても幸運な事だ。私の弾くギターはもう適当過ぎて。私の歌声は遠くには届かなくて。だから人を感動させるような音楽は作れない。
 だからせめて自分に出来る形で、好きな曲を、様々な人達が残した人類の宝を、広めていこう。



021「The Passenger」Iggy Pop
https://neetsha.jp/inside/comic.php?id=21721&story=22


分類:青春思い出しエッセイ風

作中に出てくる和之は実在する人物だが、私と二人で海までドライブするなんて事実はなかった。

 カーナビなんてあるはずもないがラジオは付いていた。亡くなって間もない忌野清志郎が歌っていた。清志郎に限らずたくさんのミュージシャンは解散したり死んでしまったりで、二度と新譜が聴けなくなるなんて事はよくある事だ。当時の私が清志郎とアベフトシ(thee michille gun elephantのギタリスト)の死に落ち込んでいた本当の理由は、どれほど嘆こうと悲しもうと、彼らと私とには実際には繋がりはなかったわけだし、亡くなってしまった彼らに私の気持ちが伝わるはずもなかった事だった。彼らの残した楽曲は死後も残り、これまで好きだった人達やこれから好きになる人達と関わり続ける。翻ってみるに自分はどうだ? 何か人に残せただろうか。別に曲だとか絵とか物語だとかそんな大それたものでなくても、思い出すだけで楽しくなるような思い出だとか。「あなたはもう覚えていないかもしれないけれど、あの時の一言、嬉しかったよ」みたいな何気ない言葉だとか。

022「スロウ」GRAPEVINE ※
https://neetsha.jp/inside/comic.php?id=21721&story=23

分類:同僚からのお題と、歌詞からインスパイア

当時の職場の同僚たちが「懐かしい物トーク」をしていた折に、ある若者が発した「ロケット鉛筆って何ですか?」という発言を、無理やりお題にされて文章を書け、と言われたもの。歌詞から浮かんだ内容とくっつけてみた。

昼間なのに暗くなった頭上には、こちらに向かって墜ちて来るロケットが、静止したようにいつまでも同じ高度で留まっている。一定の高度から上では時が止まって、地上では子供達が遊び回り、私はものを書き続けている。ずっと前からそうだったように、生まれてから今まで全てが走馬灯だったかのように。きっとこの世界の終わりの風景の至る所で同じ現象が起こり、人々は誰も死なず永遠の走馬灯の中で今まで通り暮らしているのだろう。


023「リッケンバッカー」リーガルリリー
https://neetsha.jp/inside/comic.php?id=21721&story=24


分類:歌詞からインスパイア、オジー・オズボーン

バンドマン殺人事件の重要参考人として裁判所に呼び出された一機のリッケンバッカー(ギター)を弁護するオジー・オズボーンの話。お気に入り。

「多くのバンドマンは死にます。今回の被害者のような死に方もあれば、ドラッグに溺れてしまったり、世間から忘れられたり、生活に追われ自らがバンドマンである事を忘れてしまったり。それらは何もバンドマンに限った事ではありません。小説家であれ、役者であれ、絵描きであれ、表現活動に携わる者全てに共通の事であります。私は今年で72歳になります。幸いにもこの歳まで現役でミュージシャンとして活動を続けておりますが、長い年月の間に、壊れてしまった人、別の道へと進んだ人、もう忘れられてしまった人など、たくさん見てきました。彼らは全て死人ではありません。違う道で生きている人達です」
 傍聴席に並ぶ歴代のオジー・オズボーンバンドのギタリスト達にオジーは微笑みかける。その中には亡くなったランディ・ローズも混ざっている。


024「Faith」Limp Bizkit
https://neetsha.jp/inside/comic.php?id=21721&story=25

分類:私小説風ファンタジー

当時小学一年生の娘の集団登校の見送りの際に形成されるモッシュピットの話。リンプを歌う息子は当時一歳。

 そういうわけで、今週の課題曲である、Limp Bizkit「Faith」のイントロのギターを人パ(人体パーカッション)で奏で始める。元はジョージ・マイケルのポップチューンであるが、リンプの手により途中からミクスチャーアレンジにモッシュノリの嵐になっていく。ここは日本でも大阪でもなくニューヨークであり、近所に住んでるKORNのメンバーも呼んで来よう、みたいなノリになっていく。器用に英語を歌いこなす一歳児に、所々に「パプリカ」の振りが見え隠れするダンスを踊る小学一年生の娘、釣られて他の児童も踊り始め、合唱する。野太い声で「Oi! Oi! Oi! Oi!」と合いの手を入れているのは教頭先生である。

025「WALK!」The Mad Capusule Markets
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分類:私小説風ファンタジー

娘の通う小学校の運動会の話。いろいろモリモリで好きな話。

※今回、話の構成上仕方なく娘の通う小学校の実名が出ています。個人特定などしないようお願い致します。

 今年小学一年生になった娘の通う、市立マッドカプセルマーケッツ小学校の運動会に行ってきた。おそらく全国の小学校でも最も選ばれているであろう、「パプリカ」のダンスを、娘は家でも練習していた。もう一曲はテンポの速い曲が生徒のアンケートで選ばれた。マッドカプセルマーケッツの「WALK!」である。「パプリカ」ほどではなくても、全国の運動会で使われている人気曲であろう。
 マッドカプセルマーケッツ小学校では、教科名が「国語」「算数」などではなく、マッドカプセルマーケッツの曲名となっている。

「プロレタリア」(国語)
「ノーマルライフ」「GAGA LIFE」(生活)
「SYSTEMATIC」(算数)
「消毒 S・H・O・D・O・K・U」(読書)
「神歌」(KAMI-UTA)「ラ・ラ・ラ(僕がウソつきになった日)」(音楽)
「HUMANITY」(道徳)
「生まれたばかりの絵画を燃やせ」(図画工作)
「CH(A)OS STEP」(体育)
「ASPHALT-BEACH」(プール)
「公園へあと少し」(終わりの会)

026「the sound of secret minds」Hi-STANDARD
https://neetsha.jp/inside/comic.php?id=21721&story=27


分類:私小説風ファンタジー代筆版

当時一歳十ヶ月の息子に代筆してもらった話。

 私は泥辺五郎の息子である。名前は健三郎という。一歳と十ヶ月になる。この度は父の代筆をいたす。夜中に目が覚めたのである。父がスマホで小説を書きかけたまま寝ていたのである。時々やるのである。この間も母に「まだ起きてたの?」と注意され、「今オジー・オズボーンが法廷で弁護人として出てくる話を書いてたから」「何訳の分からない事言ってるの」というやりとりがあった。


027「JACK NICOLSON」bloodthirsty butchers
https://neetsha.jp/inside/comic.php?id=21721&story=28

分類:歌詞、バンドからインスパイア

ブラッドサースティ・ブッチャーズの故・吉村氏を語り手とした話。

 歌は始まらない。
 違う。
 これはアウトロだ。歌が終わった後の演奏が、リズムを速めて繰り返されている。終わり続けている。新たな始まりを待つように、アウトロだけがリピートされている。


028「夜明けのBEAT」フジファブリック
https://neetsha.jp/inside/comic.php?id=21721&story=29


分類:バンド、歌詞、MVからインスパイア

故・志村氏を追悼するように作られた、走り続けるMVを観て書き上げた作品。追悼続き。

 見た事のない品種の猫が、這うようにして猫の集会に向かっている。シャッターの壊れた倉庫の入り口にスキンヘッドの男達が入っていく。今夜は月面のでこぼこが肉眼でもよく見える。背中の開いたドレスを着た髪の綺麗な女が地面にゲロを吐いている。顔を上げたら老婆だった。1から9までのプッシュボタンが取れた、公衆電話の受話器にすがり付いて誰かに話しかけている男が昔の友達に似ている。
 だからどうした。
 走る。


029「New Born」Muse
https://neetsha.jp/inside/comic.php?id=21721&story=30


分類:歌詞からインスパイア、自作スピンオフ

自作「悪童イエス」に登場する人物たちが踊り歌うハロウィンの夜の話。書いている途中に漫画家、吾妻ひでお氏の訃報が届き、話に反映されている。

(もうどこも痛くない)
(手も震えない)
(酒買って飲もうか)
(いやせっかく調子良く漫画描けてるんだし)
(俺病院で寝てなかったっけ)
 手持ちのスケッチブックが埋まってしまうが、通りすがりのコスプレイヤー達が彼に漫画道具を渡していく。
(あ、ななこだ)
(俺と同じ格好の奴等もいる)
 自作のキャラクターの姿をした者を見つけ、彼は照れる。
(ああ、この展開はつまりあれだ)
(俺死んじゃったんだ)
 悟った後も彼は描き続ける。改めてタイトルをつけている。「病没後」吾妻ひでお、と。

030「ニムロッド」People In The Box(これまでの振り返り回)
https://neetsha.jp/inside/comic.php?id=21721&story=31

分類:振り返り、エッセイ

これ以前の10回分の振り返りと、前の職場でのいじられ話をいろいろ書いている。同僚たちに不満があって辞めたわけではないので、残してきた彼らが今も元気かと心配する時もある。

 同僚の一人が突然こんな事を言い出した。
「泥さん、何か楽しい事ないっすかね」
 最近彼女(巨乳)が出来たやつが何言ってる、と思う。
「趣味だとか生き甲斐だとかそういうもの?」
「わかんねっす」
「子供作ったら」
「まだ結婚する気はないっす」
「何か好きな事は?」
「歌うのは好きっすね」
 私はCoccoの「強く儚い者たち」を口ずさむ。
「泥さん、やめて下さい」
 それじゃあ、と「青春アミーゴ」に切り替える。
「俺の青春ソングを歌のはやめろ!」
 殴りますよ、と言うのでもう一度歌ったら、やっぱり殴られた。


031「光の射す方へ」Mr.Children
https://neetsha.jp/inside/comic.php?id=21721&story=32

分類:外部依頼、歌詞からインスパイア

同僚からの依頼による。弟さんの一周忌あたりだったと思う。
外部からの依頼だと、普段の自分の中にないものが出てくる例。


 航空写真の最小ドットにすら写り込めない僕ら人間は、時には使用機会を望まれないヘリポートよりも、気が狂いそうな孤独の中で生きている。と思い込んでいる。誰もが「ここではない何処か」へ行きたがり、「今の自分ではない自分」になりたがり、触れ合う機会のある人々全てをないがしろにして顧みる事なく過ごしている、そんな流れに疲れて僕は一人の世界に沈み込んでヘリポートに想いを馳せている。



032「90'S TOKYO BOYS」OKAMOTO'S
https://neetsha.jp/inside/comic.php?id=21721&story=33


分類:歌詞からインスパイア

酔っ払った状態を再現するように書いていった。実際は酒は飲まない。

 何度目か、何千回目か、彼女に呼び出されてレッチリの話などしながらキスをして彼女の部屋に着地する。部屋に着いてからキスだっけ。それとも最初から最後までレッチリの話しかしていない僕の妄想だっけ。「違うよ」と彼女がキスをしてくれる。やっぱり酒臭い。彼女はブルーチーズに手を伸ばし、僕は彼女の乳房に触れる。まどろみの中でまたセックスしたかどうかあやふやな朝を迎える。
「曲は書けたの?」
「いつだって書き続けてる。でも終わってくれない」


033「今日もどこかでデビルマン」十田敬三
https://neetsha.jp/inside/comic.php?id=21721&story=34

分類:歌詞からインスパイア、二次創作

漫画版「デビルマン」の二次創作。ヒロインの美樹視点。

「美樹、さっきの話聞いてた?」
「うん、明はデビルマンなんでしょ」
 だから俺は、と明が言いかかるのを私は止める。「カラオケ行くよ」私が少し残したフライドポテトを明が頬張る。耳は元に戻っている。
 カラオケBOXに入って「そのいのち」を選曲してみるが上手く歌えない。明はいつも通り銀杏BOYS「BABY BABY」を全力で歌い出す。
「ハロー、絶望」と私は明には聞こえないように呟いて、マカロニえんぴつ「ヤングアダルト」を予約する。明にはまだ聴かせていなかった曲だ。始まった途端明はモニタに映る歌詞に釘付けになっている。「夢を失った若者達は 希望を求めて文学を…」私の感性を明は受け止めてくれる。私の好きな曲をいつだって好きになってくれる。どうして明と融合したのが私じゃなくてデーモンだったのだろう。明と常に一つになっている、地獄の勇者アモンに私は嫉妬している。何もかもを見通してしまっている私だってきっとまともな人間では、もうないのだ。



034「球根」THE YELLOW MONKEY
https://neetsha.jp/inside/comic.php?id=21721&story=35


分類:歌詞からインスパイア

あまり内容を覚えていなかったが、久しぶりに読み返すと、とても良かった。

「植物となるのです」と高名な科学者が言ったのだ。
「我々人類が生き残る道はそれしかありません。地下に眠り、根を伸ばし、地表で茎を伸ばし、花を咲かせ、種子をばら蒔き、多数の自分を殖やすのです」
 狂っていたのだ。科学者も世界も。あるいは元より、そうなるようにシナリオが書かれていた。資源を食い潰し、宇宙への進出も不可能と証明され、遠からず我々は絶滅する予定だった。それを形を変えて生き長らえさせる手段としての植物化。ミサイルによってばら蒔かれた植物化ウィルスにより、人々は選択の余地なく人類ではなくなった。ハリガネムシに寄生されたカマキリが水辺を目指すように、人々は自分が潜り込めるだけの穴を地面に掘り、そこに埋まった。都会にある小さな公園など、隙間なく人で埋まった。埋もれる人で、埋め尽くされた。

035「青い車」スピッツ
https://neetsha.jp/inside/comic.php?id=21721&story=36


分類:子育てエッセイ、小説書き小説

前回「球根」で一区切りがついたのか、実生活が話の中に登場してくるようになる。その走りとなる作。

 息子・健三郎が2歳になった。女の子である上の子とはやはり好みが違う。車が大好きな健三郎は、特にゴミ収集車がお気に入りで、町中で見つけると私に「あっちに向かえ」という風に指で指し示す。巨大な鉄の爪が大量のゴミ袋を飲み込んでいく。稀に袋から飛び散るゴミもあるので、少し離れてゴミ収集作業を見学する。作業が終わり、健三郎がおじさん達にバイバイをすると、彼らは笑顔で手を振り返してくれる。しかし彼らはまたすぐ近くのゴミ捨て場に向かう為、息子は「しゅうしゅうしゃ!」と間髪入れず叫び出す事になる。

036「Arabesuqe」COLDPLAY
https://neetsha.jp/inside/comic.php?id=21721&story=37


分類:歌詞からインスパイア、自作スピンオフ

「悪童イエス」に出てくるギタリスト、ユダの二千年後の話。

 麻薬と呼ばれるような薬物が脳に不可逆なダメージを与える話を知ってるか? 何も薬物に限った事じゃない。全ての事に取り返しは付かない。一度起こった事を起こらなかった事には出来ない。時間は戻らない。全ては不可逆なんだ。分かるか。今俺の話が分からなくても構わない。ただし、俺の話を聞かなかった事には、もう出来ない。耳を塞ぐなら今のうちだ。ある曲を聞いたなら、もう聞かなかった自分には戻れない。中毒性の強弱はあるにしろ、自分の中でその曲は響き続ける事になる。気分が高揚する事もあるだろう。絶望が加速する事もあるだろう。どうしようもないくらいに救われることもあるだろう。


037「KURT」SALU
https://neetsha.jp/inside/comic.php?id=21721&story=38

分類:エッセイ、自分語り

ネットで文章を発表し始めた1999年の頃から語り始めている。

 ネット上で初めて文章を発表したのは、ラップ風に書いた物だった。「ドラゴンアッシュ風に話そうぜ」というスレッドを立てた。1999年、2ちゃんねる黎明期の「ロビー」という雑談系の板での事だ。各種専門板の閉鎖的雰囲気に嫌気が差していた私は、どうでもいい事で真夜中だべっているようなそこが好きだった。やがて「名無しさ」という名で即興小説を書くようになった。自作のまとめサイトが作られると逆に名前を隠して書いたり、断片的な物を発表したり、自サイトを作るも長くは続かなかったりした。
 やがてその場所も荒れ始めた為に離れていった。そんな中、2006年、ふと思い出したように連載形式で書いた童話「首がもげたキリン」が今風に言うとバズった。一番大手のまとめサイトはもう消えてしまっているため、当時の反響は今では分かりにくくなっているが、怖いくらいに検索結果が増えていった。


038「Let Me In」R.E.M.
https://neetsha.jp/inside/comic.php?id=21721&story=39


分類:エッセイ、似非科学

前回に引き続きカート・コバーンの話。「音楽も栄養である」という説を唱えだした頃。

 お腹回りの運動を始めたが三日で終わった。
 カロリー制限をしようと、昼飯の量を減らした。すぐに食べ終わる為、休憩時間が余るようになった。元々昼間のバタバタする時間に現場に居られるよう、一人早めに休憩を取っていた。そこで、これまではしていなかったが、休憩中にイヤホンを付けて音楽を聴くようにした。聴きながらうとうとすることで、熟睡しない分、眠りの底から自身を引っ張りあげる労力を使わなくて済むようになった。曲によってはトリップするような感覚もあった。
 ここから新説である。
「音楽はエネルギー源である」
 昼の摂取カロリーを減らした私だが、それでフラフラしたり、頭の中が「腹へった」で埋め尽くされる事もなかった。むしろ以前よりも集中力が増し、ミスも減った(決してゼロにはなる事はない)。

039「Into the Unknown」中元みずき
https://neetsha.jp/inside/comic.php?id=21721&story=40


分類:子育てエッセイ、紅

娘と一緒に「アナと雪の女王2」を見に行った後の話。どうしてX JAPAN「紅」に繋がってしまうのだろう。

 映画を観てご飯を食べた後、ココと私は家に帰ってきた。健三郎は妻の勤め先と提携している保育園に通い始めた。二人が帰るまでまだ時間があったので、久しぶりに娘と二人でたっぷり遊んだ。思えば健三郎が生まれてからは、我慢させ続けだったと思う。おもちゃは取られ、宿題は邪魔され、夜泣きに起こされ。
 学校は冬休みに入り、友達と会う機会も減った。家の前に大きな公園があるので誰かしらとは会えるだろうが、寒いし外で遊ぶ機会も減るだろう。そうだ、家の中でも運動出来るような曲を教えておこう。最初はゆったりとしてストレッチでもしながら、アップテンポになれば曲に合わせてダンスを踊って、みたいな曲。そうだ。
 というわけで、X JAPAN「紅」を聴かせてみた。最近TOSHIって歌番組の特番でよく見るよな、なんて思って。
 そう、軽い気持ちだった。
 それがあんな事になるなんて、思っていなかった。


040「HELLO」ユニコーン(これまでの振り返り回)
https://neetsha.jp/inside/comic.php?id=21721&story=41


分類:振り返り、エッセイ

31~40曲目までの振り返り回。誰かへの追悼回が多くなっていた。

 亡くなった誰かの為の曲、という点で「HELLO」は「KURT」「Let Me In」と共通している。私もこの作品集の中で、いくつか故人を想って書いた話がある。
「ぐでんぐでん」は萩原健一に。
「なぜか今日は」アベフトシに。
「リッケンバッカー」ランディ・ローズに。
「JACK NICOLSON」は吉村秀樹に。
「夜明けのBEAT」は志村正彦に。
「New Born」は吾妻ひでおに。
「光の射す方へ」は同僚の自殺した弟に。
「KURT」「Let Me In」は曲と同様カート・コバーンに。
 それぞれ追悼の意を捧げ、書いた。
 人は死んでしまう。残された者は死者を想って生きていく。スピーカーやイヤホンから故人の歌声や演奏が響く度に、泣き崩れていては身が持たない。悲しすぎて聴けなくなっても、いずれ魂は故人の遺した物を求め出す。この世に生きた証を何らかの作品として遺せた人達は、ある意味永遠に近い生を生きているとも言える。


041「東京」GEZAN
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分類:歌詞からインスパイア、散文詩

曲を聴いてから書き出すまでに一番早かったんじゃないか。You Tubeで踊ってばかりの国のMVを観ていたら、関連動画に出てきた「東京」に一発でやられ、衝動的に書いたもの。

 朝はまた別の朝に続き、昼が遠のく。
 咆哮がまた繰り返す。歌声が増えていく。雨に歌が混じる。虹にメロディが乗る。
 虹を食べる為に口を開ける赤ん坊がいる。
 そこには虹は落ちてこない。


042「Bob Dylan」Fall Out Boy
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分類:時代小説

小早川秀秋(秀俊)の幼少時代から関ケ原での裏切りの真相までを書いた。お気に入り。

 秀俊は齢七歳にして酒の味を覚えた。秀俊の叔父は国で一番の権力者であったが、彼には子がなく、秀俊が後継者の有力候補と目されていた。叔父に取り入る連中が秀俊に何もかもを貢いだ。その中で秀俊は酒に溺れた。世の中の事もろくに知らない七歳の少年が、「酔っ払う」という言葉を覚える前に酔っ払った。酔っ払い続けた。何が正気かなんて知らないまま正気を失い、それがいつしか常体となった。




043「パラノイドパレード」きのこ帝国
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分類:歌詞からインスパイア

「休憩行ってくる」「まだいいじゃないですか」「きのこ帝国聴きたいから」「何でいまきのこ帝国なんですか」といったやり取りを、アルバイトの大学生とした思い出。

 真夜中の交差点に行列が出来ている。皆迷子である。生ぬるい風が吹けば夏が始まるというのに私は凍えている。固まるのを防ぐために体を動かす。自然とリズムを取る。やがてダンスと呼ばれている物に私はなる。私が踊り、私が「踊り」。黄色いサンダルが脱げかける。私のお気に入りの青い花柄のワンピースが揺れる。私が揺れる。飲み過ぎた連中が私を貶しながらも見とれている。右のサンダルが脱げる。左のサンダルが脱げる。左のサンダルから履く。履いてすぐに脱げかける。右のサンダルを履く。脱げかける。そのまま踊る。青い花柄のワンピースが脱げかけるが、脱がないでいる。真夜中の交差点に出来ている行列が私に見とれている。私の部屋には水風呂が張ったままである。


044「リビングデッド」amazarashi
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分類:子育てエッセイ

子どもらとのごっこ遊びの様子。私が殺され続けている。

 もうすぐ二歳と三ヶ月になる息子の健三郎がおもちゃの銃を撃つ事を覚えた。まだ正規の握り方は出来ないので銃口は横に向いているが、嬉しそうに「バンバン!」と言いながら私を撃ち殺す。殺される度に私は蘇る。おお、リビングデッド。
 もうすぐ七歳と三ヶ月になる娘のココが斬鉄剣を使いこなしている。当然私に斬りかかってくる。そこはさすが石川五ェ衛門好きの小学一年生、ただ殺されればいいという訳ではないらしい。
「いい? 切られてすぐに倒れないで。私が『またつまらぬ物を切ってしまった』って言って刀をパチンと鞘に納めてから倒れて」
 言われた通りに私は死ぬ。「もう一回!」私は蘇る。おお、リビングデッド。


045「ミウ」BUCK-TICK
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分類:曲名、歌詞からインスパイア

生まれつき羽根を持って生まれた男の話。羽根を持たない人の気持ちが分からないから、自分に向く愛も信じられないでいる。

 昔絵本で読んだカラスの王の話を彼女にした。強くなり過ぎ、大きくなり過ぎたカラスの王は、同族を全て食い尽くしてしまった。しかしカラスの王の腹の中でカラス達は生きて暮らしていた。お腹の中の広大な空の中を飛び回り、生態系を作っていた。その間外の世界では、強くなり過ぎたカラスの王だけが耐えられるような厳しい環境になっており、ほとんどの生き物は死に絶えてしまった。数千年が経ち、外の世界が安全になった頃にようやくカラスの王は息を引き取る。同時に彼の腹の中から無数のカラス達が飛び出し、世界中の空を覆う。王の体内で進化した彼らは最早黒一色ではなく、色とりどりの羽根を持っている。絵本の最後のページはカラフルなカラス達で埋められていた。
「ずっと一人だったの?」
「一羽、だろ」
「あなたの話」
「じゃあ、一人、かな」


046「Hungry Spider」槇原敬之
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分類:曲名、歌詞からインスパイア

獲物であるはずの蝶に惚れてしまった蜘蛛の話。

 彼ではない蝶を捕らえて食す。腹が減ってしまうのだから。巣に獲物がかかってしまうのだから。食わねば生きてはいけないのだから。
「何をつらそうな顔をしているんだい」彼ではない蝶が私に問う。
「早く食べてくれないか。この美しい鱗粉が全て落ちてしまう前に」
「お前は助かりたくはないのか」
「どうせもって後数日程度の命だ。交尾も終えた。思い残す事など何もない」
 私は愛してしまった彼の特徴を、この捕らえた蝶に説明してみた。
「そいつは俺よりずっと長く生きる種だ。どうしたんだ。恋でもしたか? 蜘蛛が? 蝶に?」私は会話を打ち切り、食事を始めた。口数の多い蝶の体液を吸い尽くした。鱗粉は風に溶けた。


047「ネイティブダンサー」サカナクション
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分類:歌詞からインスパイア、未来の息子による代筆

大きく育った未来の息子に書いてもらった話。子どもから見た父親の話でもある。

 父が言っていた。
「うちにはお金があまりない。車もないし、行きたい所にも行かせてあげられない。でも好きな曲を聴かせるくらいなら出来る。たくさん好きな曲を増やして、好きに歌って、楽しい気持ちになって欲しい」
 父の育った家庭も決して裕福ではなかったという。金のかからない生活に自分を合わせた。本は図書館で借り、CDは買わず、新しい知り合いが出来れば、その人の持っているCDを全て借りたという。「好き」の幅を広げる為に。なるべく安価に、大量に物語や音楽を自身に取り込む為に。


048「Enter Sandman(Live in Moscow 1991)」METALLICA
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分類:私小説風ファンタジー

当時小学一年生の娘の授業参観の様子。メタリカのモスクワでのライブ映像を見た感想と、メタリカの曲の合奏からなる。

「それでは皆さん教科書を開いて下さい」BUCK-TICKの今井寿似の先生(女性)の一声で授業が始まった。
「前回の授業で何を習ったか言える人はいますか?」モヒカン姿の男子生徒が手を挙げる。
「スラッシュ・メタル四天王の話です! メタリカ! メガデス! アンスラックス! スレイヤー!」
「よく出来ました。今日は保護者の方も一緒に、今名前の出たメタリカのライブ映像を見ていただき、感想を言い合っていこうと思います」
 教室のカーテンが引かれ、電気が消える。モニタに写し出されたのは、1991年当時まだソビエト連邦共和国と呼ばれていた国(現ロシア)で行われた狂熱の記録だった。



049「Hurt」Johnny Cash
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分類:MVからインスパイア、子育てエッセイ

死への恐怖、大人になることへの恐怖を語る娘と、ジョニー・キャッシュの生涯を絡めた話。

 死を怖いと感じるのは良い事だと私は思う。
 永遠に生きていられる状態になってしまったら、何もする気になれないのではないか。限りある命だからこそ、何かを求める気持ちが湧いてくる。
「人は誰もがいつか死んでしまうんだよ」と私はココに言って聞かせる。どこまで話すか探りながら。
「例えば、健ちゃんがよく歌ってる『ドンドンタン、ドンドンタン、ウィー、ウィー、ウィー、ウィー、ヤッコ! シギン!』の曲だけど、あれを歌ってた人はもう亡くなってる。でもたくさんの名曲を残して、今でも聴かれ続けている。いろんな人が歌い続けてる。
 『ドラえもん』や『クレヨンしんちゃん』の作者だってそうだ。彼らは亡くなってしまったけれど、他の人が書き継いでいる。死んでしまったからといって、曲が消えるわけじゃない。生きている時に成し遂げた事は、死後も残るんだ」
 私の言ってる事が理解出来てるかどうかはともかく、ココは少しの間泣き止む。しかしまた思い出したように泣き始める。


050「淋しさに火をくべ」10-FEET(これまでの振り返り回)
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分類:振り返り、エッセイ

41~50までの振り返りとともに、これまでに見たライブの振り返りや、当時の職場の状況などが綴られている。

 現実に立ち戻る。私にちょっかいをかけてくるラップ好きの従業員(あなたの毎日のような遅刻、ミスによる尻拭い、何でも屋として助けてくれた日々、忘れません。陶芸の道を頑張って歩んで下さい。前回のような就職-給料未払い-借金-元のバイト先に返り咲き、といった事にならないよう祈ってます)含め、若手五人が職場から抜ける。同僚の部署異動もある。四月以降、私が生き残る事は出来るのか。



051「パレード」平沢進
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分類:本の思い出、夢

筒井康隆「夢の木坂分岐点」「パプリカ」などを思い出しながら、映画「パプリカ」の主題歌であったこの曲と夢について。

進化する前のバクテリアが見る長い長い夢の続きに私達がいて、夢だけが過剰進化してしまったのだという説を立てたとして、否定出来るだけの根拠を私達は持ち得るだろうか。全てが消え去る朝が来るまでに。

052「けもののなまえ」ROTH BART BARON,HANA
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分類:歌詞からインスパイア、自作スピンオフ

自作童話「首がもげたキリン」の登場人物二人のその後の話。

 僕らがけものでなくなってしまって随分経った。脱ぎ捨てた毛皮は虫にまみれたので捨ててしまった。けものの頃のように僕らは互いを求めて体をくっつけた。お互い自由にまだ動かせる体の部分が限られているので、うまく交わる事は出来なかったけれど、その昂りで幾らか命を延ばした。

053「Children Of The Grave」BLACK SABBATH
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分類:コロナ禍の生活、オジー・オズボーン

近所の公園にいたオジー・オズボーンと話したり、子どもたちとオジーが遊んだりする話。

 本当なら新学期が始まり、二年生になっていたはずの娘のココが近付いてきて、巨漢の外国人を不審げに見詰めて、ぶしつけに訊ねた。
「アメリカの方ですか」
「ジョン・レノンといいます」
「オジー、嘘は良くない」

054「WORLD'S END SUPERNOVA」くるり
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分類:コロナ禍、通勤、幻想

前職の同僚(元ヤン)との会話が中心。

「ところで娘が二年生になってな」
「毎日先輩の子供の話を聞くのは義務ですか」
「そうだよ」
「殴っていいすか」
「毎年クラス替えがあるんだよな。俺の時は二年に一度だった」
「地域にもよるでしょ」
「で、一番の仲良しの子とは離れちゃったんだ。えーと」
「ひかりちゃんですね」
「何で俺より詳しいんだ」
「毎日聞かされてますから」
「でも幼稚園の頃の友達何人かと同じクラスになれたって」
「なつめちゃん達ですね」
「だから何で俺より」


055「Living In The Ghost Town」The Rolling Stones
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分類:コロナ禍、幻想

ローリング・ストーンズ当時の新曲。普段あまりストーンズは聴かなかったが、聴いた途端に深く突き刺さったので、その日のうちに書き上げた記憶。

 ゴーストタウンに強い風が吹き荒れ、何処かの店頭から這い出して来たマネキン人形が転がっていく。削られた顔に表情が生まれ、笑っているように見える。新顔のゴーストが不思議そうにそれを眺めている。まだ自分は生きていると勘違いしているゴーストが増えてきた。毎日毎日。ゴーストタウンにゴーストが溢れる。何の不思議もないけれど。生きている者はいないのか、と問いかけても答えはない。



056「Instant Crush」Daft Punk,Julian Casablancas
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分類:コロナ禍、電車、恋愛、ギャグ

コロナ禍でまばらだった電車内を逆手に利用した恋愛コメディ。インスタントクラッシュ=一目惚れ

 全て僕の独り言のようだ。長く家に籠って、おかしくなった人の呟くうわ言のようだ。比喩は苦手だ。嘘っぽくなるから。すべて僕の独り言だ。僕はおかしくなっている。僕はうわ言を呟いている。
 ロッシュ限界距離の外でしか交わせない視線でも、僕は君の考えている事が分かる。想いは同じだ。君も僕にインスタントクラッシュしている。


057「Human」The Killers
https://neetsha.jp/inside/comic.php?id=21721&story=60


分類:コロナ禍での日常、エッセイ、吸血鬼

当時大流行し始めた「鬼滅の刃」のコミックスを買いに行こうとする吸血鬼の話。英語の歌詞と和訳を読み込んだ影響か、洋楽では一番この曲を口ずさんでいる。

 The Killers「Human」を聴きながら街を歩いているのに、私は人間ではない。吸血鬼呼ばわりされてる一族の末裔ではあるが、大した事は出来ない。太陽に弱く、人よりあまり眠らなくてもよく、普通の人より多少タフではある。その程度の存在である。ディオとかアーカードとか鬼舞辻無惨とかキスショット・アセロラオリオン・ハートアンダーブレードだとかの高名な方々の足元にも及ばない。血を飲まなくても生きていける。鉄分は多目に採っている。

058「Holiday In The Sun」Sex Pistols
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分類:コロナ禍、ロックダウン

生きて老齢になっているシド&ナンシー。ドラッグは抜けたがうまくベースは弾けないでいるシド。

 シド・ヴィシャス六十三歳。ナンシー・スパンゲン六十二歳。生きていたシド&ナンシーの身体からドラッグが抜け切るまで、四十年以上の歳月を要した。体型も髪型も変わり果て、シドにはもうツンツン頭に出来る程の髪の毛もなく、ナンシーも昔よりずっと穏やかな性格になっていた。実年齢よりも二十ほど老けて見える彼らは、端から見れば、仲睦まじい晩年の老夫婦のようであった。

059「Like a Stone」Audioslave
https://neetsha.jp/inside/comic.php?id=21721&story=62


分類:「ドラえもん」二次創作

孤島での十年間の記憶を抱えたままののび太が、石ころ帽子を被って周囲の日常を眺めている話。

 クリス・コーネルは再結成後のSoundgardenによるアメリカツアー中に自ら死を選んだ。少年期からの薬物中毒も影響していただろう。のび太は薬物に手を出しているわけではないが、未来から来た猫型ロボットである、ドラえもんの出す秘密道具に耽溺していると言えるかもしれない。薬物よりずっとたちの悪い、「未来」という言葉と概念。のび太の子孫をより良い方向に向ける為に送られてきた猫型ロボットは、「変えるべき未来」として、のび太がそのまま歩めば生きる未来像を見せた。いじめっこの妹との結婚、貧乏生活、立ち上げた会社の倒産、遠い子孫にまで残る借金…。
 まだ経験していない将来を、のび太は一方的に否定された。それは確かに悲惨な未来像ではあったが、そこに生まれた子供達はどうなる。結局未来は収束して、生まれるはずだった命は何処かで生を受けるとしても、だ。のび太が貧乏生活の中でも味わえたはずであろう、小さな幸せの記憶はどうなる。

060「Sky Is Over」Serg Tankian
https://neetsha.jp/inside/comic.php?id=21721&story=63


分類:MVからインスパイア、詩

たまたま見たMVに衝撃を受け、衝動的に書き上げた。サージ・タンキアンはシステム・オブ・ア・ダウンのボーカル。

 空が。
 空が終わる。
 空が終わっていく。
 遥か彼方にあるはずだった空が。
 容易く手の届く所まで落ちてくる。
 瓦礫で傷付けて絵が描けるくらいに。
 鳥達は人の背丈の範囲内しか飛び回れず。
 車にぶつかり命を落とす。
 ダイレクトに猫にかじられる。

061「What I've Done」Linkin Park
https://neetsha.jp/inside/comic.php?id=21721&story=64


分類:救い主が踏み潰されるまで

小さな救い主が、各地で起こるクライシスを小さな体からの小さな歌声で救おうおとしていく話。

 世界中で同時多発的に小さな救い主は現れる。それぞれ危機的状況に陥っている所へ。戦地、被災地、疫病蔓延の地、もうどうしようもなくやり直せない所まで辿り着いてしまった恋人達の所などへ。
 しかし救い主達はまだ育ち切っておらず、想い、願いだけが先走り、それぞれの解決には至らず、小さいままの命を落とす。何度でも甦り、何度でもクライシスに対峙しては、クライストとしての役割を果たし仰せぬままに、燃やされあるいはかき消されあるいは踏み潰される。

062「Jolene」The White Stripes
https://neetsha.jp/inside/comic.php?id=21721&story=65


分類:歌詞からインスパイア、「ジョジョの奇妙な冒険」二次創作。

曲名が「ジョリーン」だから、ジョジョ第六部「ストーンオーシャン」主人公ジョリーンの幼い日の出来事と、その父親承太郎とのやりとりを書いた。作中のジョリーンを七歳としたのは、当時の私の娘の年齢でもある。

「長い仕事の合間に帰ってきて父親面するあんたを認めてはいない。父親としては」
 だけど、と言って徐倫は承太郎の胸元から顔を上げて承太郎を見詰める。それは親に甘える顔ではない。泣き言を言う子供の顔ではない。探偵に仕事を依頼する、一クライアントの顔になっていた。
「よく分からないがすごい力を持っているあんたの能力は評価する。だから」
 本当ならば自分でやりたかったことなのに、という風に徐倫は唇を噛んだ。
「これから殺されるかもしれない猫の命を、助けて」
「承知した」
 承太郎は自分の名前に「承」が入っていたのはこの時の為だったのだな、と思う。

063「虎」ハンバート ハンバート
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分類:歌詞からインスパイア、中島敦「山月記」について

2020年最も聴いた曲。この頃と今も(2023年)もさほど変わってはいない気がする。

 中島敦「山月記」に出てくる李徴という男は役所勤めをしていたが、内心は詩人になる事を夢見ていた。けれども詩では食えず、虎になる。酔っ払いという意味の「虎」ではなく、肉食の獣の、虎である。かつての友人の前に虎の姿で現れた李徴は、友人に自作の詩を託す。その後で、故郷に残してきた妻子への伝言を頼むのだ。「詩なんかより、こっちの方を先に言うべきだった」という自虐と共に。
 私は李徴ではない。しかし自分の死を想った時にまず浮かんだのが、「これから書くつもりだったたくさんの小説が失われてしまうな」だった。妻子の事よりも先に。

064「祝日」カネコアヤノ
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分類:歌詞からインスパイア、職場エッセイ

当時便秘気味だった健三郎を見て「祝日」の歌詞を思い出した、という話を職場の後輩にする。自然な流れでそこからセパルトゥラ(ブラジルのヘヴィメタルバンド)に繋げていく話。

「セパルトゥラとは」
「泥さん、ちょっと待って下さい」
「1984年にカヴゥレラ兄弟を中心にブラジルで結成され、南米出身で大成功を納めた稀有なヘヴィメタルバンドとして」
「待てって言ってんですよ」
「心配しなくても、セパルトゥラについて語れる事なんてあまりないから」
「ちょっと状況を整理させて下さい」
「当時のメタル界隈の?」

065「The Kids Aren't Alright 」 The Offspring 
https://neetsha.jp/inside/comic.php?id=21721&story=68


分類:歌詞からインスパイア、

「キッズ・アー・オールライト」だとThe WHOの曲になるが、それをもじったこちらは否定形。子どもたちは大丈夫じゃない。そんな幼少時代を送った人が昔を思い起こす話。

 俺が夢破れて戻った故郷は、俺の心より遥かに荒み切っていた。知った顔に合うと金をたかられた。知らない顔に話しかけられたと思ったら、かつての親友の変わり果てた姿だった。老人の姿が減っていた。大抵亡くなっていたから。子供の姿が減っていた。長くはもたないから。かつて子供らだった中途半端な年齢のズタボロの中年達で町はぐだぐだと回っていた。パンクしたタイヤを修理しないままの自転車を走らせているように。

066「荒野」アナログフィッシュ
https://neetsha.jp/inside/comic.php?id=21721&story=69


分類:歌詞からインスパイア、職場エッセイ

職場の後輩との会話から、自分のやりたいことやら長編小説のことやら考えている。結局後輩を置いて私の方が辞めてしまった。辞めた理由は同僚とは関係がないので、悪かったな、とは思っている。

「とにかく俺が抜けたら後はよろしく頼みますね」
「俺の方が先に抜けるか倒れるかもしれんよ」
「泥さんは抜けないし死にませんよ」
「毎日お前らにいじめられるのを苦にして、とか」
「じゃあなんでわざわざ人を煽るんすか。じゃあなんでいじられると嬉しそうにするんですか」
「してないよ」
「マスク外して下さい。
 ほら、笑ってる」

067「路上」THE BLUE HERB
https://neetsha.jp/inside/comic.php?id=21721&story=70


分類:歌詞からインスパイア、「路上」二次創作

曲に出てきた登場人物の一人のその後を想像して書いた。

 兄貴の死から八年が経った。俺は兄貴と同じ路上に立ち、兄貴と同じようにクスリを売っている。兄貴のボスだったスキーはもういない。兄貴の相棒だったラムももういない。路上のボス達の寿命は短い。その使い走りの寿命はもっと短い。警察の定期的な気紛れで悪人は裁かれるし殺される。タイミングを見計らう事が重要だ。足を洗うか遠くへ行くか、死刑にならない程度の刑罰を貰うか。俺は見計らってる。この道に入り込んだ瞬間から逃げ出す事ばかり考えている。路上の上の空には月が今日も光っている。兄貴の見たのと同じ月が。八年なんて天体に取っては瞬きほどですらない。その八年間で死んだ父と母と叔父と、俺に初めて出来た恋人の事なんて月は知るはずがない。知る術がない。でこぼこの月面は記録装置ではない。月がもう一度瞬きを終える前に俺の寿命も尽きるだろう。八歳からガンジャを取り込んだ俺の身体は年齢の三倍は歳を食っている。

068「ミルク」Chara
https://neetsha.jp/inside/comic.php?id=21721&story=71


分類:子育てエッセイ

健三郎の成長具合を見て、同じ時期のココのことを思い出している。ココの発達障害について初めて書いた文章となる。

 年長に上がる際の懇談で、「ココちゃんの支援計画はこれこれこういう形で考えています」といった話を聞いた際の私の思いは忘れられない。聞きたかった言葉は、「ココちゃんは皆さんと同じように問題なく過ごせていますよ。支援の必要はもうないでしょう」だった。

069「Neighborhood」米津玄師
https://neetsha.jp/inside/comic.php?id=21721&story=72


分類:エッセイ、過去回想

米津玄師のサブスク解禁と同時に「Neighborhood」を延々と聴く。楢山孝介時代に書いた「人の歌声」を思い出して掘り起こしてみる。今に繋がっていた。

 半焼したアパートは実際にあったものだ。住人が亡くなったとも聞いた。取り壊しもされずしばらくそのアパートは内蔵をさらけ出していた。改築されたアパートはビンク外壁をまとっていた。
「人の歌声」は佳作だった。景品の千円分の図書カードで本は買わなかった。金券ショップで九百と何十円かになった。

070「アジアの海賊」坂本冬美
https://neetsha.jp/inside/comic.php?id=21721&story=73


分類:歌詞からインスパイア、「ワンピース」二次創作

漫画「ワンピース」登場人物の一人、ブルックが主人公。海賊も人も滅んだ時代に、一人海の上で歌い、幽霊船たちと宴を繰り返している。

 大海賊時代はとうに終わり、世界には人の姿すら無くなっている。幽霊船の大船団が、いつまでも伝説のお宝を求めてさ迷っている。漂っている。すれ違う幽霊船に向けてブルックは手を振る。馴染みの顔が手を振り返す。バギーやドフラミンゴが派手に笑い、ハンコックが歌を返してくる。

071「白い夏と緑の自転車 赤い髪と黒いギター」the pillows
https://neetsha.jp/inside/comic.php?id=21721&story=74


分類:歌詞からインスパイア、エッセイ

昔のことを思い出している。ドラクエ4のレベル上げ、Hi-STANDARDのコピーバンドをしていた頃、ピロウズの歌を自室で歌い続けていたこと、など。

 今でも私は実家の部屋で一人「ハイブリッドレインボウ」で声を裏返し、「ストレンジカメレオン」の歌詞を暗記しようとしているのではないか。私小説やエッセイ風に書いている私自身とその周辺の事は全て妄想で作り上げた、百パーセントのファンタジー小説なのではないか。読んでくれる人が認めてくれるのならそれでいいのではないか。本当の私など文章上のどこにも必要ないのではないか。

072「かつて天才だった俺たちへ」Creepy Nuts
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分類:歌詞からインスパイア、子育てエッセイ

この時期の子どもたちとの遊び、自分のこれまでの人生の振り返り、何をしても何かに繋がっている、といった話。

 サッカーやって、ピアノやって、バスケ部入って、ギター買ってもらって、バンド組んで、文学にはまり込んで、小説書いて、ここに書けないような事や、書くほどの事でない事や、書いても仕方のない事などやって、何やかんやあって今になって、振り返れば何もかもがそれなりに今の自分を形作ってる事に気付く。同調圧力という奴を気にしない性格を、早い内から手に入れていた事が一番の幸運かもしれない。

073「魔法のバスに乗って」曽我部恵一BAND,曽我部恵一
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分類:漫画「チェンソーマン」二次創作。

「チェンソーマン」に出てくる、デンジとリゼの恋愛と殺し合いと、あり得たかもしれないその後と。
当時新都社に「チェンソーマンアンソロジー」が作られ、一人で三編参加していた。しかし主催者が雲隠れし、アンソロジーそのものも消えてしまった。当時スマホの機種交換をしたばかりで、執筆アプリを決めきれていなかったり、間違えて文章を削除してしまったりした。そのため「チェンソーマン」二次創作掌編合計四編のうち、この一編しか残っていない。アップしたからといって安心せず、常にバックアップはとっておかないといけない、という教訓にもなる。消失した三編には思い入れもあるが、消えたままにしておき、自分にとって幻の名作のままにしておきたくもある。

「ぶっちゃけ俺はどうでもいいんだ。何が正しいとか誰が悪いとかさあ。大体俺だってもうたくさん悪魔を殺してるぜ。それは誰かに裁かれなくてもいいのか?」
「逃げたって追いつかれる。すぐに足がつく」
「電車や飛行機が無理ならバスに乗ろうや。トトロ知ってるかトトロ。あれに出てきたハトバスみたいなのに乗って」
「ネコバスだよ」
「魔法がかかってるから普通の人には見えないし、ビルとかも通り抜けていけるはず。子供達には見えるのかな。子供は追いかけて来ないか」
「夢だよ。おとぎ話」
「悪魔や魔人だっておとぎ話なんじゃねえの? てかおとぎ話って何?」


074特別編「メタリカン・ワールド」
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分類:エッセイ、小ネタ

当時「メタリカン・ワールド」というハッシュタグをつけてTwitterで散発的に呟いていた小ネタまとめという感じ。

 銃撃戦の音とヘリの爆音でいつものように朝が始まる。目覚まし代わりの「One」のイントロに促され、黒冊(ブラック・アルバム)家の主、五郎は目を覚ます。同時に、車のガソリンとバッテリーが同時に切れていた事を思い出した。
「Sad but True……(悲しいけど、これ真実なのよね)」と、呟きながら、寝癖を直さずに愛車の元へ赴き、古いMP3プレイヤーをスピーカーに繋げた。「Battery」と「Fuel」をリピート再生させておく。これで一日分は走れる。といった事を何日も続けている。給料日までこれで騙し騙し行こう。給料日までまだ二十日あるけれど。

075「New World」カサリンチュ
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分類:歌詞からインスパイア、子育てエッセイ

娘のココと遊ぶ「マインクラフト」について。2023年現在、5歳の息子健三郎も一緒にマインクラフトにはまっている。姉と同じように私のスティーブを痛めつけている。

 という風にセッティングして娘のココにタブレットを引き渡す。You Tubeでマインクラフト動画を参考にして、いつの間にか家やら作り出す。馬に鎧や鞍を付けて騎乗して走り回り、「楽しいー」とはしゃいでいる。翌日ログインした時に馬は行方不明になっており、しばらく泣いていた。一緒に遊んだ友達が消えてしまった事で泣ける娘を見て少しほっとした。魚の卵を地上で使ってしまい、ピチピチ弾けるタラがしばらくして死んでしまった事には「仕方ないね」と冷淡だったが。

076「It's My Life」BON JOVI
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分類:歌詞からインスパイア、子育てエッセイ、自分振り返り

娘の小学二年生時の運動会の話。演目の合間合間に流れるボンジョヴィの曲から、これまでの人生を振り返っている。

 プログラムは進む。三年生と四年生の合同演技はAnthrax「Indians」に乗せて行われ、今年は組体操は無くなった五、六年生達は人間椅子「無情のスキャット」に合わせて暗黒舞踏を舞い踊る。手足の先にクロアゲハが鱗粉を落とす。息子の健三郎は運動場の砂場いじりに夢中で演技を見ていない。

077「ポテトサラダ」ZAZEN BOYS
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分類:歌詞からインスパイア、ギャグ

死にたい男と作家志望者とポテトサラダ屋が、それぞれのポテトサラダに対する想いをぶちまけ続ける話。なんだこの話。

まだ読んでなかった読みたかった本とか読みてえ。別に読む気もなかった大長編小説とか読んで、「長かった」って一言感想を言いてえ。大菩薩峠とか細雪とか読みてえ。ほんとはそんなに読みたくねえ。ポテサラを肴にポテサラを食いてえ。ポテサラについて小説を書きてえ。味とか正直よく分かんねえ。マヨネーズの多い少ないしか感じねえ。ポテサラについて長い長い話を書きてえ。ポテサラを食いたがってるだけの男の話を書きてえ。食えばいいじゃねえかって言われてえ。

078「Go Go Round This World!」フィッシュマンズ
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分類:歌詞からインスパイア、エッセイ、自分語り

フィッシュマンズとの出会いから、パソコンを始めた十代の頃、「名無しさ」名義で即興小説を書いていた頃の話と、自分の誕生日に買ったディスティニーガンダムの話など。

 結局「六年間」なんて枷はなかった事になり、私はそこで真夜中に即興小説を書き始める。デフォルトネーム「名無しさん」と区別する為に「名無しさ」と名乗り、タイトルと書き出し数行を書いてスレッドを立て、後の展開は書きながら考える。一時間程度で仕上げていったと思う。今パッと思い出せるのは、家族の朝の目覚めから始まる一家殺し合いのラストに、ナイキのCMだったと明かされる「ザ・朝飯」。島本和彦「燃えよペン」から着想を得た、小説を書く速度に機器が追い付かず火の手が上がる「炎上キーボード」など。手段を講じれば今でも拾い上げられるかもしれない。

079「POWER」HALLOWEEN
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分類:バンド名からインスパイア、時候エッセイ、職場エッセイ

ジャーマン・メタルバンドの曲が流れるハロウィンの時節に、様々な「力」について語り、ベストセラーを狙ったもの。主にメンタル面。

「スルー力」
 するーりょく、と読んで欲しい。上司やらうるさ方の説教をスルー出来る力の事である。怒られている最中に、怒られている事自体をスルー出来るようになれば一人前である。叱責の最中に「そんな事より」といった態度で別の話をすると、何故かより一層怒られるので気を付けるように。会議中に「やる気がないなら出て行け」と言われたのでその通りに出て行くと、残された人達からの苦情がすごいが、あまり気にしないように。

080「Cosmic Dancer」T-REX
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分類:息子の代筆、家族エッセイ

以前三歳の息子に代筆してもらったのを、別の角度、全年齢で書いてもらった。音楽を聴いて踊る話。

 人は成長するにつれて踊らなくなる。幼い頃に、何を聴いても踊り出し、音楽がなければ自前で歌いながら踊っていた少年少女達はどんどん行方不明になる。自分達が生まれながらのダンサーだった事など忘れて、机にしがみつき椅子に座り込み、踊ってはいけません、と常に誰かに怒られてでもいるかのように、大人しくなる。つまらなくなる。
 公園のあちこち、通学路のあらゆる道端、家の中の全ての空間において、かつてのダンサー達の残影が揺れ踊る。何千世代も受け継がれてきた、リトル・ダンサー、ネイティブ・ダンサー、コズミック・ダンサー達の影が消える事なく残り続ける。新たなダンサー達は、先人の見本に新たな振り付けを加えて、踊りは日々進化していく。

081「Soldier of Fortune」LOUDNESS
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分類:ギターソロからのインスパイア、家族エッセイ、ギャグ

ギター教室の講師が「ピックを投げ捨ててください」と教え始める話。昔、ギターは全てタッピングで演奏されていた。

「今観て頂いた動画のギターソロで使われているテクニックが『タッピング』と言います。指で弦を叩く演奏法です。あまり知られていませんが、ギターとは元々指やピックで弦を弾いて演奏するものではありませんでした。ギターが発明されて間もない初期のギタリスト達は、みんなタッピングだけで演奏していました。ビートルズ『HELP』のデモ版のギターが全てタッピングだったのは有名な話ですね」

082「I Fought the Law」THE CLASH
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分類:読書感想文、エッセイ

石川宏千花「拝啓パンクスノットデッドさま」を読んでの感想、作中に出てくる楽曲についてなど。当時の読書事情も読み取れる。結局ギターは弾いてない。

 作中で多く取り上げられるのが初期パンクロック。特にザ・クラッシュの楽曲だ。そこで今回は晴己達がライブ演奏するうちの一曲「I Fought the Law」を聴き込んでみた。一昔前にCMでも使われていたのでご存知の方も多いと思う。カヴァー曲だというのは今回初めて知って驚いた。「俺は法律と戦った。法律が、勝った」という歌詞があまりにもザ・クラッシュにマッチしていたので。

083「Zombie」The Cranberrys
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分類:歌詞からインスパイア、曲の成り立ち、職場エッセイ

会社の従業員で亡くなった人たちの思い出話や、死についての考察とか。ここに書いた、偶然私が最後に顔を合わせることになった従業員のことは、今でもはっきりと思い出せる。思い出せない生者たちも多いのに。

「明日から復帰予定でしたけど、まだ具合が良くならなくて、お医者さんからも止められまして」
 電話を受けた私は「お大事に。無理はしないで」と言って電話を切った。数ヶ月前に尋常ではない赤黒い顔色で体調不良を訴えながら現場入りしようとし、半ば強制的に帰らせた従業員の男性からの連絡だった。会社で彼の姿を最後に見たのも、声を聞いたのも、私となった。あっという間に進行したガンで彼は亡くなった。彼のロッカーに置きっぱなしだった私物は、遺族から引き取りを拒否され処分された。我々が愛した、抜けた所の多数あるものの、扱い切れない巨体で不器用に狭い工場内を「ごめんよ、ごめんよ」と申し訳なさそうに言いながら歩く彼は、家族からは愛されてはいなかったようだ。
 夜勤が廃止されて誰もいない夜の工場内に、今はいない誰彼が働いている気配が時々する。

084「System Of A Downの流れる日常」
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分類:身辺雑記、読書法、エッセイ

音楽を聴きながら読書、という会社での休憩中のスタイルが定着し始めていた頃に書いた。その流れで家でも作業中にシステム・オブ・ア・ダウンを流していたところ、家族が帰ってきても止められることなく流れ続けた話。

「メタリカ+ヘミングウェイの短編集」を堪能しながら分かってきたこの読書法のコツ。
・日本語の歌詞は文章の内容とぶつかり合うので向かない。仮に英語が堪能であったなら洋楽でも向かないのかもしれない。
・初めて聴く曲は向かない。脳が新規情報取得の為に多めに働き、読書の邪魔をする為。
・どことなく内容とリンクしている曲だとより楽しめる。ヘミングウェイの短編で少年兵が見せしめの為にあっけなく銃殺される場面で、イヤホンからはメタリカがオーケストラと共演したバージョンの「One」が流れていて、映画を観ているような臨場感があった。
・アーティストはバラバラではなく統一しておいた方が良い。この曲とこの曲だけが好き、というアーティストではなく、全体的に好きなアーティストが適している。
 というわけで、ザ・クラッシュ→メタリカ→システムオブアダウン、という自然な流れが出来上がり、読書と音楽の相乗効果により、両方共にこれまでより楽しめるようになった。

085「No Shelter」Rage Against The Machine
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分類:職場エッセイ、人生振り返り

引き続き音楽聴きながらの読書の話と、当時新規アルバイトの面接をよくやってたので、かつて選ばれる側が選ぶ側に回っている不思議、などのことについて。

 退職した上役の持っていた業務のいくつかを何となく引き継いでいる。担当が変わったためか、今は利用していない派遣会社の一つが挨拶に来る。
「年末年始にかけてお忙しくなる頃合いかと思いまして」
「今うちは日雇い派遣を使う予定はありません」
 うちは日雇いだけではなく定番派遣もやっております。他の派遣会社と比べて単価を下げたら食い込ませてくれますか? といった話を聞き流しながら時間を気にする振りをする。
 見送った後で思い出した。十年前の自分は、たった今話をしていた派遣会社の日雇い労働者の一員だったではないか。様々な職場で働き、多くの物を見てきた。追い返すような仕打ちをする前に、感謝の一言くらいかけても良さそうな関係だったのに。
 そんな事すら忘れてしまっていた。

086「Whisky In The Jar」Thin Lizzy/METALLICA
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分類:幻想、同窓会、思い出

高校時代のバンド仲間が集まって、二十年ぶりにライブハウスを貸し切って同窓会、という話。ステージに参加するつもりのなかった私が巻き込まれていく話。現実と幻想とが混じり合う、お気に入りの一編。

 うちの高校では当時、ライブイベントの機会が年に三回あった。一学期末と三学期末に行われる「若人の集い」というイベントと、秋の文化祭と。軽音部などがあるわけでもないのに、開催時には学校と懇意の楽器屋が音響設備のセッティングに来てくれた。文化祭以外は半ドン授業の土曜日に開催されていたので、完全週休二日制になってからは、「若人の集い」は廃止されたという。学校新聞に「ディープ・パープルのライブを見ている最中に熟睡してしまった」という話を連載していた、イベント顧問みたいだった国語教師も、私達の卒業と時を同じくして転勤してしまった。

087振り返り(「パレード」以降)
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分類:振り返り回

定期的な振り返りにより、「この手の話が多かったな」「こういう表現を多様してしまっているな」といった気付きが発生する。それを活かしきれているかはともかくとして。

088「Do you remember」宮本浩次
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分類:職場エッセイ

かつての職場の従業員目線から私の非人間性を書いた話。

 一郎のアルバイト先で働く泥辺という社員は一郎の昔話を聞きたがる。うっかり臭気の話をしたせいかもしれない。「本や映像からでは臭いは体験出来ないですから」人の貧乏話を嬉しそうに聞いていやがる。同じ歳だという。人のいない正月三が日、各部署のトラブルの最終的な尻拭いを押し付けられながら、どこか楽しそうにしていやがる。ドMを通り越して人間ではない、と周囲に言われて笑っていやがる。
「アパートの大家さんの話なんですけど」
 下水が詰まって溢れ出した時の話を聞かせる。大家は業者を呼ぶのは金がかかるからと、汚水に手を突っ込んで詰まりを解消しようとした。運悪く、その直前に軽い切り傷を腕につけてしまっていた。傷口からばい菌が入り、腕を切断しなければいけない大惨事となった。
「そういう話を聞きたかった」

089「異邦人」久保田早紀
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分類:歌詞からインスパイア、語り

訪ねてきた異邦人の財布を盗もうとしたスラムの少年が語る、どうしようもない現実の話。

 助けるなら、まだ助かる奴を助けてくれ。
 出来る事なら、死ぬ前の妹を助けてくれ。
 俺以外の全ての子供達を助けてくれ。
 この国からみんなを連れて行ってくれ。
 余所者よ、旅人よ、異邦人よ。
 こんな所にいると死んでしまう、殺されてしまう。
 他人よりまず自分を助けてやれ。

090「Gypsy」Lady Gaga
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分類:歌詞からインスパイア、昔話、レディー・ガガ

レディー・ガガと昔話の融合、というのは子どもたちともやった。それをきっかけにnoteを始めた。

 昔昔ある所に、おじいさんと、おばあさんと、レディー・ガガが住んでいました。
 おじいさんは山へ芝刈りに。
 おばあさんは川へ洗濯に。
 すると川上から大きなレディー・ガガがどんぶらこどんぶらこと流れてきました。
 おばあさんは驚いて腰を抜かしてしまい、川上から流れてきたレディー・ガガがおばあさんを背負って家まで連れ帰りました。
 先に家に帰っていたおじいさんと、ご飯の用意をしていたレディー・ガガは、おばあさんを背負って来てくれたレディー・ガガの大きさに大変驚きましたが、その後仲良く四人で暮らしました。

091「Supersonic Generation」布袋寅泰
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分類:時代小説、身長からインスパイア

安土桃山時代、美濃の大名斎藤道三とその子龍興の仲の悪かった理由の話。お気に入り。

 戦国時代に生きた美濃の武将、斎藤義龍と斎藤道三の不仲の理由は諸説あるが、最新の資料から判明した事実では、義龍は「布袋寅泰派」、道三は「氷室京介派」だったという事である。その説に則りこれを記す。
 斎藤道三といえば司馬遼太郎「国盗り物語」で書かれたように、一介の浪人から油商人、取り入った武家での下剋上の繰り返しからついには一国の大名まで成り上がった人物として有名である。しかし近年の研究では道三一代での成り上がりではなく、道三の父、松波庄五郎の代からの出世物語が、一つの人物に統合されたというのが定説となりつつある。かように真実はいともたやすく書き換えられる。
 ちなみに日本人の平均身長が157cmだったこの時代に、義龍は195cmの長身だったという。布袋寅泰が187cmの長身なので、それもまた義龍が布袋寅泰派だった一因でもあるだろう。

092「HOWEVER」GLAY
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分類:職場エッセイ、地の文と会話の入り混じり実験

当時の職場の雰囲気が窺える。生意気な大学生アルバイトとのやり取りが中心。ほぼノンフィクションである。

 明るく軽口を叩きまくるナツキの表情に、憂いが混じるようになったのはその頃からだった。
「そんな表情してませんけど」
 仕事は早いがその代わりに生意気な事ばかり言う。私の事を全然敬っていない。そもそも年長者に対する敬意というものがない。
「泥辺さん以外にはきちんとした口効いてますって」
 こんな性格のナツキの傍に俊太郎が親友として長年付き添っていたのには深い事情がある。幼い頃に重い病に冒された俊太郎は、奇跡的に適合者であったナツキからの生体肝移植により、一命を取りとめた。以来ナツキのどんな酷い言動にも行動にも、俊太郎だけは優しく接して来た。周囲に敵しか作らないナツキに取っての、唯一の味方であり続けた。
「それ、俺の紹介で俊太郎がこの会社に入った頃に、泥辺さんが捏造した噓エピソードですよね。まだ言ってたんですか。俺内蔵全部ありますよ」
 そんなナツキが仕事の最中にも関わらず、涙が止まらなくなり手を止めてしまう事を、誰が責められるだろう。
「手止めてませんって。泣いてませんって。第一俺が俊太郎辞める事を泥辺さんから初めて聞かされた時、驚く俺を見て爆笑してたじゃないですか」
 だってナツキの凹む顔を見ると面白くて。あと地の文と会話しないでくれるか。ルール違反だ。
「そっちにとっては小説でも、俺にとっては現実なんですよ!」

093「Kill The King」Rainbow
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分類:「長靴を履いた猫」二次創作

息子の寝かしつけの際に「長靴を履いた猫」のパロディを語っていたらどんどん暴走していった話。子どもたちの寝顔を眺めながらスマホで書き切った。

「俺を殺してどうなる。お前が新たな王となろうが、いずれお前も殺される」
「私は王にはなりませぬ」ペルは父をつまみ上げ、靴底の泥で汚れたネズミの体を、しっぽの方からむさぼり食っていく。
「いつでも王を倒す側に、私はなりましょう」
「きりがないぞ」口先だけになってもネズミは語った。
「ならばこちらもきりなく生き続けるまで」
 ペルの腹の中で、かつての王は笑いながら胃酸に溶けた。

094「Not Up To You 」Stereophonics
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分類:日常エッセイ、私小説風ファンタジー、ドラム

練習スタジオにドラムの個人練習に通っていた日々を書いたもの。ぎっくり腰になって中断したまま。

 その日から私は日程の都合がつく日は必ずスタジオに入るようになった。週一が週二になり、一回一時間が二時間に延びた。叩き続ける体力もついて余分な肉も落ちた。本も読まなくなり、小説も書かなくなった。仕事も辞めて食事も摂らず、起きている間全てドラム叩きに費やした。寝ている間も夢の中でビートを刻んだ。生きている限り鼓動が止むことはないのだ。

 そんな中でいろいろな人がスタジオを訪れるのを見た。レベルの高いメタリカのコピーバンドがいるなと思ったら、メタリカ本人だった。店員に聞くと「近所に住んでるメタリカが時々メタリカをやりにくる」との事だ。年老いた外国人夫婦がピアノとボーカルをしっとりと歌い上げていると思ったら、オジー・オズボーンとシャロン・オズボーン夫妻だった。アベフトシのギターに合わせて忌野清志郎が「イエスタディを歌って」を歌っていた。各部屋の小窓から見えるそれらの風景を横目に、私は一人でドラムを叩き続けた。

095「Mouth for War」PANTERA
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分類:私小説風ファンタジー、ドラム

前回のドラム練習回からの続き。骨子だけ活かして別の話にリメイクする予定。

 前回、リハーサル・スタジオに個人練習でドラムを叩きに行った話を書いた。実録だと思って読んで頂いた読者には申し訳ないが、実は途中からフィクションになっていた。
 なので今回は混じりっけなしのノンフィクションで書こうと思う。
 初めてのスタジオでの個人練習から間も無い頃、タイミング悪く、コロナの影響と騒音問題により、ドラミングは法律で禁止された。ドラマーの個人練習で保たれていたスタジオ経営は破綻し、全国のスタジオは地下に潜った。バンド演奏のドラムパートは全て打ち込みに取って代わられた。ゴリラが絶滅した。

096特別編「パンテライン・レディオ」
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分類:パンテラ、ラジオ、ギャグ

ラジオ風にリスナーのリクエストに応えていく企画風小説。どんなお便りにも全てパンテラの曲で押し通したために打ち切りになった。

「俺は撃ち殺された。ライブ中にギターを弾いていたら、オーディエンスの一人に撃たれたんだ。こんな死に方ってあるか? 自分のゲロで溺死したジミヘンよりひどいぜ。おかげで俺は地獄でもあの時のライブの続きを演り続けている。亡者どもは首が取れてもヘッド・バンギングを繰り返す。もううんざりだ。ステージから降りてゆっくりしてえ。一人部屋にこもって、好きなバンドのビデオでも見ながら、ギター弾いてノリに乗ってヘドバンしてえ」
 アメリカはオハイオ州のダイムバッグ・ダレルさん、失礼、ラジオネーム「DDの一族」さんより。結局は自分でもヘドバンしていたいんですね。でもヘドバンは首を痛めるのでほどほどにして下さい。

097「Carousel」Blink182
https://neetsha.jp/inside/comic.php?id=21721&story=102


分類:読書感想文

津村記久子「ミュージック・ブレス・ユー」の中で取り上げられていたこの曲を中心に、本の感想やら津村記久子を真似た早起き執筆の失敗の話やら。

 津村記久子の作品は私のフリーター時代に出会っている。睡眠時間を分け、会社に行く前に朝四時半から執筆をしていたという逸話を読んで真似しようとしたが、私が早起きした時間は大体ダラダラ過ごすだけだった。
 いくらでも本を読め、執筆にあてられる膨大な時間があったはずのあの頃、私は思い出したようにしか筆を取らなかった。仕事が忙しくなり、二人の子供達の相手もしながらも、今では二、三日に一冊のペースで本を読み、週一ペースを保って短編小説を書き、時々スタジオにドラムを叩きにも行っている。

 098「First of the Gang to Die」Morrissey
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分類:読書感想文、後藤明生

Kindle Unlimitedを利用し始めた頃の話。モリッシーを聴きながら後藤明生の話をのらりくらり書き続けている。

 日本文学史上「内向の世代」と呼ばれる作家群を私は一頃熱中して読んだ。古井由吉、日野啓三、阿部昭、そして後藤明生。昨年亡くなった古井由吉の小説を読むたび、自分の書くものが古井由吉の文体の猿真似になった。日野啓三の短編「天窓のあるガレージ」は、フィル・コリンズ「In the Air Tonight」が流れ続ける音楽小説なので、いつかその事について書きたいと思っている。私の耳には最初のギャングが死んだ、とモリッシーが歌い続けている。なんだかのらりくらりとだらだらと書き続けているだけのようだが、それは私がやや過剰にだらりと、ぐらぐらと書いているからに過ぎない。本家でも急に子供達が見ていたアニメの話に飛んだりもするが、そこはそれ、あれである。要するにそういう事である。

099「笑えれば」ウルフルズ
https://neetsha.jp/inside/comic.php?id=21721&story=104


分類:子育てエッセイ、生活の中に音楽

娘の通っていた運動教室が終了することになり、保護者見学が許された最後の回の様子を書いたもの。最近のアップテンポな曲に混ざる「笑えれば」への違和感が、講師の最後の演説と重なった。

「コロナ禍による休止期間もありましたが、約3年間、子供達に様々な身体を使った遊びを指導出来た事を嬉しく思います。
 今日という日を迎えるのが本当は不安でした。悲しい別れの日になるんじゃないか。僕自身が泣き出してしまうんじゃないか、と。でも今日も子供達は楽しく笑いながら遊んでくれました。それを見てとても安心しました。これからみんな大変な時もあるでしょう。でも一日のどこかで少しでも、楽しく笑える瞬間があれば、僕は大丈夫だと思います。今日ここでみんなが見せてくれた笑顔を、これからも持ち続けて下さい」
 といったような内容の話だった。なるほど、だから「笑えれば」か、と合点がいった。その後T先生は「個人的な話ですが」と前置きして、結婚のご報告もされた。ココは「だれだれだれだれ」と結婚相手の事を知りたがっていたが、T先生は答えなかった。

100「さらばシベリア鉄道」大滝詠一
https://neetsha.jp/inside/comic.php?id=21721&story=105


分類:子育てエッセイ、読書感想文、本との関係

京都鉄道博物館に行った際に思い出した古井由吉の本からのエピソード、自身の幼少時代の「おでかけ」に対する苦手意識、そして後藤明生との関係。

 というわけで京都鉄道博物館に行った折に思い浮かんだのが、冒頭に書いた坂の数の話だった。どう繋がるかというと、往路があれば復路がある。楽しい瞬間にも終わりが来る。出先ではしゃぎ過ぎれば怒られて、楽しい/楽しくないの割合がプラスマイナスゼロになる。悪ければその針はマイナスの方に大きく触れる。どれほど楽しい一日を過ごせても、最終的には眠って一日を終わらせなければならない。

 だから私の中にある幼少時代のお出かけに対するマイナスイメージも、大半は楽しい時間を永遠に続けられない事への不満のせいだったかもしれない。子供達を安全に移動させるだけでも親は気を遣う。疲れ切った両親と、今日は特別な日だからある程度ハメを外しても大丈夫だろう、という子供達とで折り合いが付かず、ぶつかってしまう。大方はそんな所だったのだろう。

101「Thunderstruck」AC/DC 
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分類:子育てエッセイ、アンガス・ヤング

認定こども園「レッド・ツェッペリン」への入学式の様子を忠実に再現した。現在は上の子の通っていたのと同じ市立幼稚園「レッド・ホット・チリ・ペッパーズ」に転園している。

続いて先生と年長組で歌と踊りが始まるという。しっかりマスクをして距離を取って並ぶ年長組の園児達と、保育士さん三名と、アンガス・ヤング(オーストラリアのハードロック・バンド「AC/DC」のギタリスト)が現れた。園の制服のデザインに似たファッションに身を包んだアンガス・ヤングは、世界一制服を愛しているギタリストかもしれなかった。彼はもちろんギブソンのSGを引っさげている。それを見て私も紙袋からSG仕様のアンパンマンギターを取り出して健三郎に手渡した。「入園式当日の持ち物」に書いてあったので何の事だと思っていたが、アンガス・ヤングの姿を見て納得した。アンガスは早速馴染みのあるギターイントロを弾き始めた。「Thunderstruck」である。園児達が足踏みを始める。先生達が「サンダー!」と叫び、子供らはコーラス部分「アアアアーアアアーアー」を担当する。アンガスはダックウォーク(アヒルが歩くようなステップ)しながらギターをかき鳴らしている。健三郎もつられて「アアアー、ア!」と叫んでいるがそれはレッド・ツェッペリン「移民の歌」のアアアーである。健三郎は結局叫んだりリズムを刻んで踊ってばかりなので、SG仕様のアンパンマンギターは私が弾いてみた。しかし入園式にアンガス・ヤングが来日してAC/DCの曲を演るなんて聞いていなかったものだから、当然弾けない。

102「More Than Words」EXTREME 
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分類:時代小説、鴨長明

「方丈記」の作者である鴨長明の隠棲生活と、そこに至った経緯を書いた時代小説。大体史実通り。

 その頃音楽はまだ不自由なものであった。師が許可した曲しか、人前での演奏は許されなかった。長明にはそれが納得出来なかった。師が亡くなり、たがの外れた長明は禁忌を犯した。秘曲と呼ばれる、師からの許しを得ていない曲目ばかりを選んでライブステージで披露した。モトリー・クルー「キックスタート・マイ・ハート」、ジューダス・プリースト「ペインキラー」、そしてマキシマムザホルモン「恋のメガラバ」。結果、長明の演奏に熱狂したオーディエンスにより、ステージは崩壊し、多数の負傷者も出た。長明は全ての歌会から追放され、全国のライブハウスを出入り禁止となった。

「秘曲づくし」と呼ばれるこの事件は、長明ゆかりの神社の禰宜(神職の一つ)に内定しかかっていたのが他の人にかっさらわれたからとか、歌の師匠が亡くなったのをきっかけに、全ての人に自由に音楽を楽しんでもらいたかったとか、ただハードロックではっちゃけたかったとか諸説ある。今に続くモッシュピット文化は長明のステージが発祥と言われている。

103「タンゴ」じゃがたら
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分類:職場エッセイ、ぎっくり腰奮闘記

思えばぎっくり腰の原因は、当時少し通ったスタジオでの無茶なドラム個人練習だったのではと今では思う。当時の仕事の大変な時期と、自身のぎっくり腰、一番働く従業員の家族のコロナ陽性による穴、など当時の状況がよく分かる。つまりドラムを叩かなければいつまでも前職のままだった可能性がある。

 本当に大変な日は、まとまった休憩を取りにくいので、トイレのついでに軽く何かを食べる。どこかで20分ほどはゆっくりする。その際にイヤホンで聴いていたのが、じゃがたらの「タンゴ」だった。「君と踊りあかそう日の出を見るまで」収録のライブバージョン。13分近くある。既にその頃精神に変調を来たし、数年後浴槽で溺死する江戸アケミの声と、繰り返されるリズムでトリップする。ここがどこだか分からなくなる。誰が誰だか分からなくなる。どうしてここに。いつまでこうしてこんなざまで。

104「Pellicule」不可思議wonderboy、神門
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分類:職場エッセイ、死と別れ

定年退職する先達を中心に、いなくなった人、いるけれども昔より老いた人、自分だってそう、という話。

 人はいなくなる。
 定年で。病気で。行方くらませて。引っ越して。亡くなって。
 同僚が一人職場を定年退職した。その独特な散らかり方をした後頭部の髪の毛を、今の職場で働く前から知っていた。移転前の工場と、私が二十歳過ぎから働いていたゲームセンターは近くにあり、帰りの電車で一緒だった事があったのだ。そんな話を、最後の日にした。
「俺そんなに目立つ頭やったかなあ」自身の後頭部を見る事はあまりないのだろう。

105「Ulysses」Franz Ferdinand
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分類:時代小説、備中高松城攻め、サブスク論

最新の説で固めた、秀吉による備中高松城攻めの話。

 織田軍の中国方面先遣隊隊長である羽柴秀吉は焦り始めていた。攻め手の足を阻む沼城として名高い備中高松城に籠もるのは、毛利家の武将清水宗治率いる五千の軍勢である。対する秀吉軍は三万。大軍に包囲されている状況であるというのに、兵達は混乱も脱出もしていない。城内に潜ませた間者からの報告によれば、城主負担で全兵士の望むサブスクリプションサービスを提供させており、音楽や動画や電子書籍を兵達は大いに楽しんでいるという。籠城戦(ステイホーム)を考慮した戦略といえよう。最新の研究結果、
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から明らかなように、好きな作品に触れると人々はストレスが軽減され、心だけでなく身体の栄養をも摂れる。少ない食料でも働ける。サブスク作戦で限られた食料の節約と士気向上に成功している相手と違い、秀吉軍は数が多いだけに維持費も膨大となる。無理やり攻め込んでも城からの射撃で味方は削られた。間者の幾人かは既に連絡が途絶えていた。きっと城内で楽しく過ごしているのだろう。

106「What It This」Jonathan Davis
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分類:子育てエッセイ

バタバタする休日の一日、こども園への送り迎え、隙間執筆、といった当時の状況。

 開いていたドアの向こう側にドレッドヘアーのジョナサン・デイヴィスが居た。ばつが悪そうに立っていた。道に迷ってついうっかり入り込んでしまったようだった。居間の壁に貼った子供達の写真を指差してジョナサンは「これは何だ?」と聞いてきた。「私の子供達です」他にもありとあらゆるものを指してジョナサンは問い続けた。
「これは?」「書きかけの小説です」
「これは?」「弾けなくなったギターです」
「これは?」「生まれてこれなかった子供達への想いです」
「これは?」「目の前にいる不審者に対する素直な気持ちです」
「これは?」「今から食べようと思っていたサーモンフライです」
「これは?」「あなたが勝手に食べたサーモンフライの残りの尻尾です」

 飲み物をあげなかったらジョナサン・デイヴィスは勝手に出て行った。

107「お経」お坊さん
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分類:親類エッセイ、お通夜、読経

伯父が亡くなり、お通夜に出た際のこと。お坊さんのお経が圧巻のライブパフォーマンスで、普段私が書く小説よりずっとドラマティックな展開だった。

 久し振りに会った親類は皆老けていた。
 伯母は目を泣き腫らしている。伯母の姉はやや痴呆が入り、私が誰か最初分からなかった。職場で喪服に着替えて来た私のネクタイは歪んでいた。参列者は十二名までと限られているから当然私の子供達は連れて来られない。長年会っていない私の兄は今回も姿を見せなかった。
「今年の正月に万博までバイクでゴルフに出かけた帰りにうちに来てな。年取ったなあとは思ったけど、まさかこんな急に」
 今年で七十三歳になる父の言葉だ。伯父はきっと高齢の親類の中で一番頑健だったのではないか。


108「Shakin' My Cage」Joe Perry
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分類:子育てエッセイ、辞職の契機

娘のココが小学校三年生の夏休み前から、不登校を始めた。様々な事情も重なり、前職辞職の契機ともなった。不登校のきっかけとなった男児とは今では和解し、四年生時からは彼も支援学級に入っている。

 コロナ禍の現在、学校の窮屈さは私達の頃よりずっとひどいものだろう。特に外遊びが好きな活発な子、休日のたびにどこかにおでかけするのが楽しみだった子、たくさんの友達とわいわいやるのが大好きだった子。そんな子供らの鬱屈の向かう先は、時には同じクラスの弱い子らであるだろう。か弱い子だったり、個性際立つ子だったり、授業によっては自分達と違う教室へ受けにいく支援学級の子だったり。スキあれば自由自在に歌ったり踊ったりする子だったり。
 私は学校という檻の中でぼんやりと過ごしたが、娘は檻を自らの手で揺り動かし始めた。
「どうしてこんな所にいなければいけないの?」
「どうして苦しまなければいけないの?」

109「Little Fish」Dope
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分類:歌詞からインスパイア、童話

ハードな音楽から生まれた童話。娘の不登校がモチーフになっている。

 でもみんなと寄り添うことのできない、一尾のメスの小魚がおりました。
「どうしてみんなと一緒に泳がなければいけないの?」
「どうしてみんなと同じことをしなければいけないの?」
「どうしてみんなと一緒にいるのが楽しい振りをしなければいけないの?」
 そんなことを考えてしまうのでした。
 うまく群れになって泳ぐことが出来ず、時には自分だけ群れから躍り出てしまうのでした。
 それで怒られてしまっても。
 それで笑われてしまっても。
 それで他の魚にヒレでぶたれてしまっても。
 踊り出すことは止められませんでした。
 どうしてもはみ出してしまうのでした。

110「Don't Look Back In Anger」Oasis
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分類:エッセイ、漫画「ルックバック」感想

実にさらっと退職を決めたことを書いている。藤本タツキ「ルックバック」を読みながらオアシスを聴いていた。

 藤本タツキの短編漫画「ルックバック」を読んだ。
 OASIS「Don't Look Back In Anger」を聴いた。
 数日前に会社に辞意を告げた。
 二週間前にRSウィルス(幼児に流行する風邪の一種)による症状の悪化で入院していた、息子の健三郎は現在部屋の中で風船を蹴り飛ばしサッカー的な遊びをしている。尻で風船を踏んで転んでしまっても泣きもせず、また風船を蹴り飛ばしている。
「Don't Look Back In Anger」のリード・ボーカルはリアムではなくノエル・ギャラガーが担当している。だから声があまり眠そうではない。

111「Aerials」Brass Against
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分類:エッセイ

当時の職場での同僚とは問題なくうまくやれていた。私が歌いながら現場事務所に入っても「いつものことか」ですまされるし、「このバンド、レイジやパンテラのカヴァーしてるんだよ」と話しても「はいはいそうですか」ととても熱心に聴いてくれた。ブラスアゲインストのボーカルがライブで大不祥事を行い大騒ぎになるしばらく前の話。

 小説的な文章を書いてない。
 The Birthdayのニューアルバム「サンバースト」ばかり三日間聴き続けた。
「ラドロックのキャデラックさ」と繰り返し歌いながら仕事をしていても、いつもの事かとスルーされた。
 そろそろ他のを聴こうと思ったら、動画のサムネイルのSophia Uristaの顔が浮かんだ。
 昼出勤の出かけ際、会社は休みだと勘違いしていた息子が号泣した。一日中遊べると思っていたらしい。そんな事もあったんだよ、と十年後にでも話せるだろうか。
 退社時期を決定した会社の中で働いていると、過去の風景の中で動いているような錯覚に陥る。ノートパソコンも買ったし朝五時に起きて何かしら執筆するんだ、と目覚ましをかける。毎朝二度寝して六時半になっている。

112「夏の日の少年」横道坊主
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分類:歌詞からインスパイア、ヤングアダルト風

歌詞に出てくる少年の物語。当時石川宏千花氏のヤングアダルト作品を立て続けに読んでいた。

 美しい時間は短い。
 いくら話しても話し足りないのに、うまく言葉が出てこずに、言いたい事の十分の一も言えないまま、父のいる夜は過ぎていく。土産物を開けるよりもその時間を父親の近くで過ごしたいのに、父はもう母と何やら話し込んでいる。仔犬には、犬でも食べれそうなものを選んだ残飯を祖母が与えてくれている。昔飼ってたというので慣れた手付きで。泥が床を汚している。仔犬が公園から体につけて運んできたものだ。父の靴下が汚れるのを見て、早く脱げばいいのに、と少年は思う。
 いつの間にか眠っていた少年に、父親のいない朝が来る。父親の靴下は洗濯機にもない。仔犬はよだれを垂らして少年の足元で眠っている。
「首輪、買わなきゃね」と、眠った気配のない母親が言う。少年はまだ仔犬を飼う実感がないのでその意味を計りかねている。

113「終わりなき旅」美空ひばり
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分類:エッセイ、異世界転生もの、昭和

美空ひばりをイヤホンで聴いていると魂を持っていかれそうになるので、今でも控えている。異世界転生の使い方を間違っている気がする。

 なんだこれは。
 こんなすごい歌声の持ち主だったのか。
 そりゃ国民的歌手と呼ばれるわけだ。
 少女時代に才能を発見されるわけだ。
 そして冒頭の「人に与えられる限度を超えた歌声」と感じたのだ。
 このように過剰な能力を持ってしまった人が、幸せに生きていけるはずがない。人の器に収まりきれるはずがない。
 同時代に生きた、歌手を夢見る人たちのどれほどの命を奪ったのだろうか。
 どう足掻いてもかなわない歌声の持ち主と自分を比較して、どれだけ打ちのめされたのだろうか。
 一度の人生で手に入れられる歌唱力ではない。
 そんなことを思い始めた頃、「終りなき旅」という歌に出会った。

114「お祭り」上田現
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分類:エッセイ、幻想

近隣の小学校で毎週開かれる地域のお祭りに行くのが夏の風物詩だった。コロナ禍以降中止になったり、開かれても結局行かなかったり。もしも行ったなら、という話。

 子どもたちを連れて祭りに出かける。ここ数年は出来なかったことだ。何もかもが中止になり、すっかり夏も変わってしまった。今宵ばかりは全てなかったかのように、昔通りの賑わいを見せている。密集して密着して抱き合って。誰かれ構わずキスを迫るフラフラした男が袋叩きにあっている。まだ明るいうちから花火が上がり、昼の光に溶けて消える。
 校門で配布されたパンフレットを見ると、大トリの美空ひばりの前に忌野清志郎や萩原健一が名前を連ねている。夕焼けが沈み切る前に上田現のステージが始まり、現況を表すように「お祭り」が歌われる。

115「Faded」Alan Walker
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分類:家族エッセイ

娘のココの初恋の話。相手は転校してしまってもう会えそうにないのが切ない。彼の不在も不登校のきっかけの一つとなっていたのだろう。

「トキト君はしばらくお休みです、って先生言ってた」
 彼とは一年生の頃、近所の公園で会ったことがある。少し乱暴な子で、植え込みを木の枝で打ち払っていた。娘とは授業中にしょっちゅう喧嘩していたらしい。「もう口をきかない」と娘が言っていたこともある。息子の誕生日に彼がくれたバースデーカードはまだ食器棚に貼り付いている。
 三年生のクラス発表の際、トキト君の名前はどのクラスにもなかった。
 どのようなことも起こり得る昨今であるから、事情があって急な引っ越しだったかもしれない。事件や事故に巻き込まれたという話は聞いていない。
 低学年から中学年への進級、難しくなる授業内容、変わる担任、乱暴なクラスメイト、そして失われた、いつも隣にいた存在。
 最近娘がポロッとこぼした。
「トキトとキスしたことあったよ」
 あれまあ。まあ支援学級ではずっと隣同士だったわけだから、喧嘩もすれば、仲良くもなるか。父親にぽろっとこぼせるくらいの関係だろうけれど。

116「Knockin' On Heavens Door」Guns N' Roses
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分類:エッセイ、怪談

前職最後の方の日々。業務日報で怪談を書いたり、連絡事項をラップ風に書いてはいけません。

 備品庫の電気消し忘れをきっかけにした、「会社に夜一人でいる時に起こりがちな怪談」を翌日業務日報にまとめた。
「夜中、自分以外誰もいない会社で、電気が点けっぱなしの備品庫のドアをノックすると、返事が返ってくる事がある」
「誰もいないのに構内放送が響き渡る。何を言っているかは分からない」
「手洗いの水が流れ続ける音がする。センサーの故障だろうと思いながら一応見に行ってみると、見知らぬ顔の人がセンサーに手をかざし続けている」
「終電に間に合うギリギリの時間にセキュリティロックをかけた後で、やり残した仕事を思い出す」
「今日は人員揃っているし余裕だな、と思って出社したら、大量の当日欠勤で大変な状況になっている」
「用事で早く来なければいけない日なのに目覚まし時計をかけ忘れる」

 途中から怪談でなくなってる。
 当然「こんな事書いてないで働け!」と怒られる。

117「GOD」忌野清志郎
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分類:エッセイ、読書感想文

前職最終出勤日の前日に、それまでのことを振り返ったり、遠藤周作の作品について書いたりしている。

 最終出勤日前日にこの文章を書いている。
 足掛け十一年働いた勤め先を退く。
 あまりにも多くの事情があり、たくさんのことがいっぺんに今年降り掛かってきたせいもある。
 だがほんとはずっと前からそうするとは決めていた。
 娘の発達障害が発覚した頃から?
 自分の勤めている会社に初めて絶望した日から?
 あるいはもっと昔、十六歳の頃、引っ越しの際に出てきた父親の蔵書の筒井康隆を読みふけった頃から?

118「リフレインが叫んでる」松任谷由実
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分類:歌詞からインスパイア、エッセイ

最終出勤日は終わったが、籍はまだ会社にある頃の話。早朝執筆を開始しているが、直に行き詰まる頃。

 数日は早朝執筆がうまくいった。ある程度書いた後の仮眠でたびたび悪夢を見た。ほとんどの場合、会社勤めがまだ続いている夢だった。辞めたとはいっても現在は有休消化期間中で会社にまだ籍はある。コロナ禍でもあり、緊急事態が起これば、無給でも出勤する準備は出来ている。だから無意識化ではまだ今日も明日も出勤、というつもりなのだろう。
 辞める前に思い悩み考えていたあれこれを、辞めた後もまだ引きずって考える。もう終わってしまったことなのに、まだ渦中であるかのように。同じ思いがぐるぐると回る。リフレインが叫んでる。

119「Space Truckin'」Deep Purple
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分類:昔語り、子育てエッセイ

中学時代に聴いたディープ・パープルの曲のリフを、自分の子どもが口ずさむことになるなんては思いもしなかった。何もかもが今に繋がっている、という話。

 ごちゃ混ぜの記憶を掘り起こしながら書いているが、確実にこの曲と中学時代に絡んでいるという証拠の記憶もある。中学三年生の時、当時バスケ部のキャプテンだった私が、遠くの中学へと練習試合へ行く際に、先頭で自転車を走らせながら、道に迷った事に気付いた。焦りつつも私は「スペース・トラッキン」を口ずさんでいた。後輩には気が狂ったのかと思われた。そう口にも出された。
 あんまり今と変わってないか。
 あるある洋楽エピソードを挟みながら、時を飛ばした今、我が家の三歳児も「Space Truckin'」のイントロのギターリフを口ずさんでいる。幼稚園で習っているらしいABCソングの次くらいの頻度で「デデ、デ、デ、デー。デー、デー、デデ!」とやっている。

120「Atone」Jerry Cantrell
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分類:「トムとジェリー」二次創作

トムとジェリーの話がいつの間にかトム・モレロとジェリー・カントレルの話になっている。

 死によって終わらない二人の戦いは延々と続き、姿かたちを変えて他の国や他の時代へも伝播した。あるところではルパン三世と銭形警部になり、ある宇宙世紀ではアムロ・レイとシャア・アズナブルになった。孔子と老子になったり天使と悪魔になったりもした。喧嘩しつつも仲間でもあるような関係は意外とあるものだった。

「世界の果てに来ちまったな」と変態ギターソロを弾きながらトム・モレロは言った。
「反対側の果てに行けばいいさ」と、カントリー風おじいさんになったジェリー・カントレルは言った。もはや猫と鼠ではなく、ギタリストだったりボーカリストだったりする二人にとって、距離は問題ではなかった。

121「空はまるで」Monkey Magic
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分類:子育てエッセイ

2021年最も聴いた曲。ココが登校再開するも、時間が不安定。二人の子どもの送り迎えと買い物と家事とでバタバタし続ける日々、私の精神も不安定だった中、この曲や子どもたちの言葉で救われていた。

 健三郎を真ん中にして三人で手を繋いで歩く。小学校と家の間にある団地に付属している小さな公園の前まで来ると、強い風が吹いてきた。
「今日は自転車に乗れなかったけど、こうやって三人で手を繋いで歩けて、涼しい風も吹いて気持ちいいね」とココがいった。
雑草が伸び放題になっている公園で、すべり台が西日を受けて輝いていた。
「この景色、すごく好き」
 好きなんだ、か、好きだったんだ、だったか、私の記憶が曖昧だ。
「けんちゃんもー」と健三郎が言った。
 小学校入学間もない頃、何度かこの公園で遊んだことを思い出す。団地に帰っていく同じ登校班の子と仲良くしていた。もう名前を忘れてしまった。
 手を繋いで歩く歌、あったよな、と思って帰った。

122「Lose Yourself」Eminem
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分類:時代小説、今川氏真、織田信長、桶狭間の戦い

織田信長vs今川義元の戦いである桶狭間の戦いの裏側で暗躍した、義元の息子氏真を主役に据えた話。文人であり凡人であることで戦を避け、文化を残そうとした氏真の叫び。

 戦のたびに焼き払われる田畑のようなものであっても、作れば歌となる。書けば残せる。会に出せば人に伝わる。そのような催しを続けることで、公家気取りだのもやしっこだのと蔑み笑われた。
 天才という名の災厄が私及び私に似た者たちの作品を薙ぎ払うだろう。
 だが彼らの登場するまで、私は作品の発表される「場」を維持し続ける。消えてしまった文化に飛び込んでくる者はいない。続けていれば人は集まる。集まった百人が凡才なら、千人集めるまで続けよう。千人が凡人なら万でも億でも。一人の天才が現れて全てをぶち壊してしまうまで、「場」を保ち続けるのが、我々凡人の使命と私は考えている。


123「Fire」G-FREAK FACTORY
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分類:歌詞からインスパイア、家族エッセイ、追悼

妻の父が亡くなった頃のこと。遠方であり、息子の健三郎の咳がひどかったために、葬儀には妻と娘だけが参列して、私と息子は家に残っていた。

 妻の父が亡くなった。九十歳だった。
 東京で行われる葬儀に一家で出る予定だったが、健三郎に咳の症状があり、前日の夜には左足の甲が痛むと言い出し、大事を取って、私と大阪に残った。
 娘のココとは、今の健三郎ぐらいの歳に会ったことがある。あまり覚えていないようだったが、写真では知っている。妻の母の顔は知らない。ココだけではなく、健三郎も、私も、妻も。
 妻の母は、妻が物心つく前に、夫と三人の子どもを残して家を出て戻らなかった。晩年はアルコール依存症と痴呆を発症していた。妻の姉夫婦が庇護していたが、昨年、施設の中で息を引き取った。もうすぐ亡くなるかも、という状況の時に、会いに行きたいかと妻に訊ねた。妻は首を横に振った。義父は、かつての妻が生きていたということを知らないまま逝った。
 義父の場合、会いに行きたくてもコロナ禍で会えない状況が続く中、コロナ禍が落ち着く前までに命が保たなかった。

124「CALL ME」吉井和哉
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分類:日常エッセイ、読書感想文

バタバタした日々で順番に家族が体調を崩した。コロナではなかった。この頃に読んだ本の感想でnoteから賞をいただいたりもした。会社から私に用事があるようなことは結局一度もなかった。

「コロナで急に人員が抜ける緊急事態になれば、会社に籍がある十月いっぱいまでなら、呼んでくれたら出勤するから」
 出社最終日、そう言い残して会社を去ったのが九月半ば。引き継ぎが完全に出来た自信もないので、十月の終わりまでは、いつ会社から電話がかかってくるかと思いながら過ごした。
 結果、一度も連絡はなく。
 むしろ十一月の頭、会社から届き始めた書類について、こちらから電話をかけたくらいだった。
 困った時にはいつでも呼んでくれ、と言ったものの、全く呼ばれず、気恥ずかしいものが残った。
 十月三十一日、足掛け十一年いた会社の在籍最終日、とは言っても有給消化してるだけなので出社する必要もなかった一日は、義父の葬儀へと旅立つ妻と娘を見送ってバタバタと過ぎた。その後も、息子の咳から始まった一家全滅の体調不良状態(コロナではない)で、感傷に浸るどころか、やるべきこともまだ半分ほどしか出来ていないような状態である。

125「ルパン三世主題歌Ⅰ」チャーリー・コーセイ
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分類:子育てエッセイ、銭形警部考察

当時You Tubeでいろいろな時期のルパン三世のアニメが開放されていたので、家族でよく見ていた。作品内における銭形警部の存在意義に対する考察から、自分がこの世界に本当に存在しているのか、というところまで。

 極論を言えば次元と五右衛門がいなくても「ルパン三世」は成立する。しかしルパン、不二子、銭形の三者がいなければ、「ルパン三世」は成立しない。
 ルパンと銭形はグルである、という陰謀論を組み込んだ話も放映されたことがある。しかし銭形の潔白は証明され、ルパンを追い続けている。
 
 私たちは存在している。
 それは何故か。
 親が私たちを生んだからである。
 経緯はどうあれ父と母がコンプライアンスした結果である。
 銭形はどうか。
 銭形の両親がコンプライアンスした結果生まれたのか?
 否、ルパンに不二子が物語作成を促し、その結果生み出されたのだ。
 そのようにしても人は生まれるのだ。
 少し戻って書き直す。
 私たちは存在しているのか?
 誰かによる物語上の都合により登場した人物に過ぎないのではないか?

126「Nine Lives」Aerosmith
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分類:曲名からインスパイア、子育てエッセイ、エアロスミス、ナランチャ

娘のココ九歳の誕生日に見た虹、近所の馴染みの猫と、「猫は九回生き返る」といった迷信の話など。

 私の人生は決して順風満々とは言えない。世間一般的な、進学-就職-結婚-出産といったコースは辿っていない。「あそこであっちの道に進んでいれば」「皆と同じように進路を真面目に考えていれば」「あの無駄な時間を有意義に過ごしていれば」といった思いはいくらでもある。各転機となる場面に立ち戻って、今とは別の選択をしていれば、もっと違った人生を送れていただろう、と何度も思った。
 しかしそうして人生をやり直せたとして、今と同じ子どもたちを授かることは無理だろう。今とは違う誰かと出会って、全く別の子どもを育てて。もちろんその子どもらも愛するのだろうけれど。その子たちはココでも健三郎でもないのだ。やはり今の子どもたちを失いたくはない。九回生まれ変われば、九回とも同じ子どもを育てたい。

127「だから僕は音楽を辞めた」ヨルシカ
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分類:エッセイ、祝辞

新都社での創作仲間である坂先生が「ある魔女が死ぬまで」で商業デビューを果たした時の話。「音楽は弾くもんやない、聴くもんや」というフレーズ(結局出典を発見出来なかったが)が、今も鳴り続けている。

 何作でも、何年でも、創作を続けてきたから、今がある。
 最初からいいものが作れる人など、一握りの天才しかいない。
 作り続けられる人も、それほど多くはない。
 人に認められずに挫けてやめる。
 生活に追われているうちに、創作することを忘れる。
 継続出来た一握りの人間のうち、商業的に認められて、デビュー出来るのもまたごく一部の者となる。今の時代、電子書籍などで自ら作家デビューするのは難しくはないが、それは別の話である。




128「夜明け前」DOES
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分類:執筆関連エッセイ

早朝執筆はいつも続いたり続かなかったり。書けば書くだけ何かしらにはなるのだから、何も書かないという選択肢はないはず。

 誰もが思わず何かを書きたくなるような景色がある。
 あるいは、何でもない所でありながら、ある人にとっては特別な思い出のある場所がある。
 全ての場所に物語が刻まれている。
 それをただ拾い上げるだけでいいのではないか。
 彫刻は刻んでいくのではなく、始めから中にある物を掘り出すのだ、というどこかの彫刻家の言葉もある。仏師だったか。
 自分の言葉で、とか、受けるものを、とか、今の時代に即したものを、とか、いやいや自分にしか書けない物語を、とか。
 そんなの別に何でもいいから、ただそこにある物語を書き記していけばいいじゃないか。
 黙々とタイピングしていけば何かになるのだから、一つ一つ形にしていけばいいじゃないか。
 書けなかったこれまでのことは忘れて、これから書くことだけを考えればいいじゃないか。
 いや、考える前に書けばいい。
 曇天の夜明け前に修羅になればいい。

129「あいうえおんがく」GReeeeN
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分類:子育てエッセイ、執筆言語について

日本語で文章を書き、発表する、という意義について。ノルウェーではノルウェー語で書いて発表しても読者数が限られているため、始めから英語で発表することを念頭において書く人がいる、というような話と、不登校時代の娘の情緒不安定な様子。

 日本語で書く限り、読者はほぼ日本国内でしか獲得を望めない。
 言葉のない、または言葉がその作品全体において主ではない映像作品は、You Tubeでの視聴者獲得数を世界規模で広げられる。ロシアの前衛的というか不気味なアニメーションに、子どもが見入っているのに驚いたことがあるが、視聴回数は八桁台というのに目を見張った。仮に私がそのアニメーションと同じ内容の話を日本語の文章で書いたところで、数十PVで終わり、コメントもスキもいいねももらえず素通りされるだろう。

130「四季」クリープハイプ(2021年まとめ)
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分類:振り返り

2021年に書いた作品を振り返った回。小説ではなくエッセイ風味の作品が多かったという反省をしている。しかし時間が経って読み返してみれば、当時の状況がよく分かる、記録文学となっていたりもする。前職退社時期にあたり、生活激動期。

131「Immigrant Song」Led Zeppelin
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分類:子育てエッセイ、ムジカ・ピッコリーノ、移民論

元々この作品を書くきっかけは、Eテレ「ムジカ・ピッコリーノ」であった。自分も毎週一曲紹介するような形で書きたくなり、始めたものである。

 元を辿れば我々はどこかからの移民である。実は私自身、かつてアフリカの小国で生まれ、幼い頃から奴隷同然の労働者として過ごした。兄弟は次々と倒れていった。クーデターなどがあり、故郷と呼べる国はもう無くなってしまった。どうにか生きて国を脱出した私は、その後数々の犯罪に手を染め、名前を変え顔を変え、日本でどうにか正体を隠して生き延びている。一歩間違えばとっくの昔に、私は広大な農園の土になっていたのかもしれない。
 といった内容は、かつて同僚に頼まれて書いた「ブラックサンダーと私」という話の粗筋だ。新入社員が入る度に、色の浅黒い私のルーツを紹介する為の資料として配られていた。一応注記しておくと、フィクションである。

132「言葉の果てに雨が降る」Hermann H.&The Pacemakers
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分類:俳句物語原案、詩的、幻想

当時毎日詠んでいた自由律俳句、からの物語、からの小説化、であるものの、この手の作品は後で読み返すと自分ではあまり好きになれなかったりする。

133「Scatterbrain」Jeff Beck
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分類:創作論、子育てエッセイ

これを書いている数日前、ジェフ・ベックの訃報を聴く。音楽の道を諦めるきっかけになった曲だった。「原稿用紙を一枚ずつ破って燃やす話」の創作秘話も書いている。

 聴き続けているのに、弾きたいと思ったことがない曲がこれだ。
「Scatterbrain」を初めて聴いた時に、私は音楽の道を諦めた。
 それまでは、好きな曲であれば、難しそうでも挑戦しようという気概が、多少はあったのだ。だがこの曲は、思春期真っ盛りの私の心を砕いた。
「この曲を弾く努力をするくらいなら、他の道へ進もう」
 当時はそんな言葉で考えたわけではないが、結果そうなった。昔はギターばかりに注目していたかもしれないが、今聴くと他のパートも尋常ではない。

134「ASHURA CLOCK」P-MODEL
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分類:歌詞からインスパイア、阿修羅譚、エッセイ

この曲に関わっていた方の訃報を聴き、俳句と組み合わせ、戦闘的な阿修羅の物語とした。阿修羅琴という魅力的な琴の話でもある。

 阿修羅は咳いた。三面それぞれ血を吐いた。触れてもいないのに阿修羅琴が鳴り、六つの耳に異なる音色を響かせた。「眠れ」「休め」「止まれ」「諦めろ」「倒れな」「戦え」阿修羅は自らの血に幾度か足を滑らせながらも立ち上がり、戦いへと赴いた。

135「忘れてしまおう」サニーデイ・サービス
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分類:歌詞からインスパイア、西村賢太

「読書会」という秘密組織が、急逝した作家の魂を自動書記装置に降ろして新作を書かせよう、という話。

「読書会」というありふれた名前を持つ秘密組織の所有するビルの一室で、男はタイピングを続けている。世界中にメンバーのいるこの会の活動資金は膨大である。創設当初はその名の通り、グループで読書を楽しむだけの会であったのが、メンバーの一人であった天才科学者の提供した技術により、現在のように秘密組織化した。
 その技術とは、意図的な「記憶消去」である。
「何度も読み返した本を、初めて読む時の気持ちで触れてみたい」という、死に近い老人の望みから、その技術は完成された。老人が金を持ち過ぎていたことと、研究者の才能があり過ぎたことが、科学者の暴走の一因でもあった。
 記憶を司る脳の一部分を自由に操れるようになった組織は、当初の目的以外にもその技術を使用し始めた。

136「The Sky Is A Neighborhood」Foo Fighters
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分類:闘病エッセイ、西村賢太、

コロナワクチンの副反応による高熱で苦しんだ数十年間(注:一日です)の記録。

 この曲と「Walk」。フー・ファイターズの二曲を延々とリピートさせて出社していた時期があった。「空は近所」「ぜってー死にたくねー」対になるようなならないような二曲に縋らなければ、うまく歩けない一時期があった。高熱に何ヶ月も(注:約一日です)うなされて死の淵を漂いながら、あの頃の事を頻繁に思い出していた。西村賢太氏と伊良部秀輝氏と叔父と、亡くなった従業員や、夕方の五分ニュースで流された殺人事件の報道がフラッシュバックした

137「Under Age's Song」Dragon Ash
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分類:バンド名からインスパイア、芥川龍之介、子育てエッセイ

ドラゴンアッシュを聴きながら芥川龍之介を思う。芥川龍之介に関する本を読み、自分内禁書の「歯車」に触れた結晶。2022年中のお気に入り。

 芥川の「歯車」を読んだのは、十六歳頃のことだ。当時ただ何となく彼の作品をいくつか読んでいた私は、「歯車」を読んで怒りを覚えた。作品や作者にではない。このような作品を書かせた文壇や世間、彼を救えなかった世界全体に向けての怒りだった。明らかに死に向かっている文章を書いておきながら、周囲は止めることも出来ずに彼を死なせてしまった。どうにか救いようがあったはずだ。彼を死なせずに済んだはずだ。結果としては自死だが、当時の世界そのものが彼を殺したようにも思えてならなかった。だから長らくその怒りと共に「歯車」の再読を自らに禁じていた。他にそのように扱う書物はない。

138「こんなもんじゃない」真島昌利
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分類:時代小説、天野純希「もろびとの空」二次創作、歌詞からインスパイア

天野純希「もろびとの空」を読んだ直後に書いたもの。

「ここまで三木城が持ち堪えておるのは、我らの踏ん張りが効いているからではない。荒木村重の謀反、羽柴軍の軍師竹中半兵衛の病死、ただただ幾つかの幸運に恵まれているからに他ならない。
 これまで信長の命により、撫で斬り(城内皆殺し)にあった城は数多くある。このままだと我らもそれに連なり、城内の者全て殺されるは必定。我らに抵抗出来る力は最早残ってはおらぬ。それに、織田軍の本気とはこんなものではない。多方面に派兵せざるを得ないために、三木城攻めに割かれる兵力が少ないだけだ。他にやるべきことが多すぎて、この城は後回しにされておるのだ。本気を出して兵を集結させれば、立ち所に我らは壊滅させられる。こんなものではないのだ。苦しみは、地獄は、これからが本当の始まりなのだ」





139「Junk Story」hide
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分類:曲からインスパイア、当時の状況、エッセイ

高校三年生の時に引っ越しをした。引っ越し当日に、業者の兄ちゃんたちが「hide死んだって」と話していたのが聞こえた。当時一番聴き込んでいたhideの訃報を見知らぬ人の話から知るという、非現実感。それは今もまだ現実化していないように感じる。執筆当時、noteにいろいろ書いていた短めの小説を「ジャンク・ストーリー」と一括している。

 私の書くものはガラクタで、私自身も「ジャンク品です」という注意書きを常に貼り付けていなければ、外を歩いてはいけないような存在だ。
 ジャンクがジャンクを生み出していく。積み上がったジャンクに腰掛けてしまうと、脆いものだから粉々に砕け散ってしまう。細かくなりすぎて埃として舞い上がってしまう。窓を開ければ空まで飛んでいく。細かな粒子となった私のジャンクが、雲に混ざって見えなくなる。
 小ジャンクの空に。




140「最後の星」ACIDMAN
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分類:曲名からインスパイア、SF、詩的

ACIDMANで書くなら「赤燈」「造花が笑う」「酸化空」のどれかと考えていたのに、当時初めて聞いた「最後の星」に感動して一気に書き上げた話。「世界の終わりに自分一人」というパターンの話が多い気がする。

 酸化した赤橙の空から、ゆっくりと降る雨で、濡れた造花が笑っている。  
 月から来たんだ、と君には言っていたけど、あれは嘘だ。
 辿りきれないくらい遥かな昔から、無数の星々を僕は旅してきた。
 この星の皆とは違った生命の在り方で、太古から僕は存在してきた。
 その長い旅もこの星で終わることに気付いた僕は、伴侶を求めてしまった。
 次の星に飛び立つ力はもう残されてはいなかったけれど、この星の生命よりかは、ずっと長い寿命になってしまうのに。
 君が死んで千年後、最後のラジオの音が途切れた。
 ラストチューンはQUEENの「RADIO GA GA」だったよ。





141「RADIO GA GA」QUEEN
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分類:曲名からインスパイア、続編、SF

前回「最後の星」に出てきた、壊れた世界でラジオを流す男の話。お気に入り。何故かこの曲をあまりこれまで聴く機会がなく、映画「ボヘミアン・ラプソディ」で初めて知った。当時聴きまくっていた。レディー・ガガの名前の元ネタでもある。

 ハロー、ハロー。
 ラジオ放送開始日に、「彼」の口癖を模して挨拶をした。
 ハロー、ハロー、ハロー、ハウロウ?
 それからグランジ・スターの曲の一節を、長い遺言の開始のように付け加えた。
 曲紹介が無意味に思え、僕は「RADIO GA GA」を再生した。巨大ラジオと化した消防署からフレディ・マーキュリーの歌声が流れ出す。遺物が異物と化して街いっぱいに雑音混じりのロックが響き渡る。レディオガガ、レディオググ、レディオガガ、レディオググ。




142「いとしのエリー」サザンオールスターズ
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分類:当時の状況、エッセイ、藤本タツキ「さよなら絵梨」ネタバレ

認定こども園から、昔ココの通っていた幼稚園に転園した当初の健三郎の様子。サザンの膨大な曲数から、場面の編集次第でどのような映像作品も作れるという「さよなら絵梨」の話。切り取り方次第で変えられるイメージの話。

 子どもたちは笑う。
 子どもたちは泣く。
 楽しかったこと、嬉しかったこと、微笑ましい場面、成長を感じた言葉。そんなことばかりを選んで書いていけば、ほのぼの家族小説だって書くことが出来る。
 苦しみ抜いたこと、怒り過ぎたこと、絶望の顔を浮かべている息子から逃げるように園に置いていったこと、そろそろ死のうかなと思っている夜中に、ふと横を見てぬいぐるみに抱き着いていた息子の寝顔を見て思いとどまったりすること。自殺では生命保険が払われそうにないことを今さら知ったこと。そんなことばかりを選んで書いていけば、お涙頂戴悲しい家族の物語だって書くことが出来るかもしれない。




143「芋虫」人間椅子
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分類:就職活動、人間椅子小説、ブチャラティ効果

当時読んだ特殊清掃系の本に影響を受けて書いたもの。本来なら死んでいる状況なのに動き続ける「ブチャラティ効果」の話の発端はここにあった。「指先だけになっても書き続ける」というモチーフは後に「『指の綾子』考」に受け継がれる。

 不用意に押入れを開けてしまった私の背後に、隊長の「あ、そこはいいから」という声が飛んできたが、既に遅かった。私は押入れの中にあるものを見てしまった。それは一台のノートパソコンであり、そのキーを叩く、芋虫のように蠢く十本の指であった。よく見ると指の付け根からは、根付のように小さく萎んだ人の身体がぶら下がっていた。大声を上げるか腰砕けるか迷うような反応を私の身体がしている間、目だけはしっかりと、画面に映る書きかけの小説を読んでいた。それはほのぼのとした家族の話の一場面であった。




144「COLORS」FLOW
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145「Book Of Days」Enya
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146「Set It All Free」Scarlett Johansson
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147「ギラギラ」Ado
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148「Roots Bloody Roots」Sepultura
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149「万物流転」頭脳警察
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150「Raining」Cocco
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151「1984」andymori
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152「光の中に」踊ってばかりの国
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153「Roundabout」YES
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154「電車かもしれない」たま
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155「夏の日の午後」eastern youth
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156「東京」KANA-BOON
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157「日が暮れても彼女と歩いてた」The ピーズ
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158「夕暮れ」T字路s
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159「The Best Day Ever」SpongeBob SquarePants
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160「ビューティフル」毛皮のマリーズ
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161「STILL LOVE HER」(失われた風景)」TM NETWORK
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162「OVER THE MOUNTAIN」OZZY OSBOURNE
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163「Dreams」VAN HALEN
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164「Painkiller」Judas Priest
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165「ヤングアダルト」マカロニえんぴつ
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166「人間だった」羊文学
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167「僕の歌を総て君にやる」筋肉少女帯
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168「POPCORN」電気グルーヴ
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169「黒い週末」ももいろクローバーZ
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170「SUN」星野源
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171「十代の衝動」THE STREET BEATS
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172「チョコレート粉砕工場」ゴンチチ
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173「夜が明けたら」浅川マキ
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174「荒野より」中島みゆき
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175「KICK IT OUT」BOOM BOOM SATELLITES
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176「Ari Ari」Bloodywood
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177「春夏秋冬」泉谷しげる(2022年まとめ)
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178「otherside」Lena Raine
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179「タクシードライバー・ブラインドネス」syrup16g
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180「Suckerpunch」THE WiLDHEARTS
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181「Ash Like Snow」the brilliant green
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182「初恋」村下孝蔵
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183「玉ネギ畑」THE STALIN
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184「SIDE」Travis
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185「コンピューターおばあちゃん」酒井司優子
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186「Glory」DIZZY MIZZ LIZZY
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187「mabataki」Vaundy
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188「Stand by me」GOING STEADY
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189「On The Road Again」The Street Sliders
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190「TECHNOPOLIS」YELLOW MAGIC ORCHESTRA
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191「骨」銀杏BOYZ
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192「伝えたいこと」SPARKS GO GO
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193「さらば愛しき危険たちよ」JUN SKY WALKER(S)
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194「Sahara」Joe Satriani
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195「オトナブルー」新しい学校のリーダーズ
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196「棒人間」RADWIMPS
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197「マリオネット」BOØWY
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198「夏の日の1993」class
https://neetsha.jp/inside/comic.php?id=21721&story=211

199「ごめんね」ふくろうず
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200「The People」The Music
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201「ミス・パラレルワールド」相対性理論
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202「Future is Yours」サンボマスター
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泥辺五郎
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