中村文則「カード師」

 読み終えて随分間が空いた。
 今頃受けたコロナワクチンの副反応での高熱が続き、寝込んだ後では寝すぎたせいでの腰痛が来た。ようやく戻った体調で優先させた創作活動は、小説>俳句物語>本の感想、となった。寝込んでいる間、少し前に急逝した西村賢太氏のことがずっと頭にあった。

 手品師を志しながらも、人前では演技が出来ず、紆余曲折を経て占い師や裏カジノのディーラーになった男が主人公。途中、テキサス・ホールデムルールのポーカー勝負があるが、人の生き死にも関わり、漫画「嘘喰い」のような迫力あるギャンブル勝負の描写が楽しめる。

 タロットカードやトランプを使用した、主人公が考案したオリジナルの占いも出てくる。私は昔からこの手のオリジナルゲームを考える人の出てくる話が好きで、色川武大「ひとり博打」、長嶋有「ねたあとに」などがそれにあたる。独身時代は自分でもその手のゲームを数多く考えた。ルールを微調整していき、一人遊びや占いとして使えるのはごく僅かしか残らなかった。アイデアをどんどん浮かべるのは楽しいが、ゲームとして成立するか、楽しめるか、を考慮して完成させていくには膨大な試行回数が必要となる。当時はメモ的にしか使わなかったEXCELも、今ならもっと有効活用出来るかもしれない。

 完成したゲーム/占いのうち、今でも覚えているのは、「ドッグラン」「スリーカード」だが、敢えてここで書いて面白いと思えるほどのクオリティではない。だが今でも、事あるごとに頭の体操としてや、完成度の高いゲーム作りへの未練やらで、頭の中でトランプやサイコロや麻雀牌や各確率を遊ばせてみることはある。

 作品の話に戻る。
 阪神大震災、オウム真理教によるテロ事件、東北地方太平洋沖地震などの震災や事件、歴史上の魔女狩りや錬金術、占星術などが絡んでくる。そして、全てこの物語の終盤の為に用意されていたようなタイミングで関わってくる、連載中に発生した新型コロナウイルス。歴史を追っているうちに、歴史が関わってくる。

 大江健三郎の小説の新作が長らく発表されていない。ひょっとしたらもう二度と新作は届かないのかもしれない。私の中で、大江健三郎の後継のような位置に中村文則の小説が置かれ始めている。



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